異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
233 / 316
収穫祭と訪問客

想定した一口で済むわけがあるわけないよね:a funeral

しおりを挟む
「お、やっと起きてきたな」
「ヘオ!!」

 リビングに降りれば、ブラウを膝の上で抱っこしてソファーに座っているエドガー兄さんがいた。既にエドガーに遺産も葬式用の黒の貴族服に着替えていた。

 一歳を過ぎたブラウは家族の名前は多少言えるようになった。とはいえ、滑舌いいわけではないが。

 因みに、エドガー兄さんの名前が最初だった。丁度俺たちが生誕祭に王都に行っている時だったらしい。

 その時、エドガー兄さんとユリシア姉さんはブラウにずっと付きっ切りだったらしい。特に、もうすぐ中等学園に通うためにここを出るエドガー兄さんは。

 それでユリシア姉さんがブラウの前でエドガー兄さんを『エド』と呼びまくったせいか、ブラウはエドガー兄さんを『エトォ』と呼ぶようになったのだ。

 アテナ母さんとロイス父さんは自分たちが最初出なかったことに凄い落ち込んでいた。

 そんな事を思いながら、俺はブラウに「セオだよ。セ、オ」と言い聞かせる。ブラウが「エオ?」と首を傾げる。

 可愛い。

 デレデレしながら、ブラウの前でしゃがみ、頬をつつく。

「う~!」
「おい、セオ。嫌がってんだろ」

 ぷっくりと頬を膨らませるブラウが可愛くて更に頬を突こうとするが、エドガー兄さんに止められる。

 俺は軽く息を吐いて、ブラウに「ごめんね」といって立ち上がる。

 それから、そういえば……とエドガー兄さんに首を傾げる。

「出発って今日じゃなかったの?」
「明後日だ。っつか、もし今日出発だとしても、予定変更するわ」
「まぁ、そうだよね」
「そうだわ」

 なるほど。エドガー兄さんは明後日ラート町から出ていくのか。なんか、寂しくなるな……

 そう思ったら、エドガー兄さんが思い出したようにリビングの奥を指さす。

「厨房室にサンドウィッチがあるから、それ食えって」
「分かった」

 俺は頷き、リビングを出てその奥に隣接している厨房室に行く。扉を開け、中に入る。

 中央に置いてある机にサンドウィッチが置いてあった。

「ええっと、飲み物飲み物」

 氷の魔道具が組み込んである冷蔵魔道具、まぁ冷蔵庫を開け、飲み物をあさる。いつもならお茶なのだが、今日はアランたちは忙しそうにしており、どうせ注意されることもない。

 なので、果実水か――

「お、これ、雪牛の乳じゃん」

 果実水でも飲もうかと思ったのだが、とてもいいものを見つけた。

 雪牛という魔物の乳である。

 その肉がまるで雪のように淡く溶ける食感と味わいからその名前が付いたのだが、それとは別に冬でも、それこそ雪が降る日でさえ乳を出すため、雪牛と呼ばれている。

 魔物であるが比較的温厚な性質を持ち、角を根元から切り落とした存在に永遠に従う事から、一部、家畜として飼われていたりもする。
 
 とはいえ、そもそも雪牛の生息地域はそこまで広くなく、また温厚とはいえそれでも魔物。一般人が飼いならすには相当骨が折れるため、高級牛となっているのだ。

 とくに、その乳は栄養価が高く絶品なこともさることながら、鮮度が落ちやすいため、雪の日でも乳を出すとはいえ流通量はそこまで多くない。

 なので、マキーナルト領で育てているとはえ、俺もあまり飲めたことがない。

「ラベルは……よし、何も書いてないな。たぶん、普通に貰ったんだろ」

 今日の時用だったら困るため、冷蔵魔道具の扉や雪牛の乳が入っている瓶をよく見るが、説明書きはない。厨房室を管理するアランは絶対に飲食されたら困るものには説明書きやら何やらを書いて張るのだ。

 安心した俺は雪牛の乳の瓶を手に取り、もう片方の手でサンドウィッチが載ったお皿を持つ。あと、小指にティーカップの取っ手を引っかける。

 〝念動〟で扉を開け、リビングに戻る。

 隣接しているダイニングのテーブルにそれらを置き、椅子に座る。

「頂きます」

 そう言って、俺は手始めに瓶を傾け、雪牛の乳をティーカップに入れる。並々に注いだら、瓶を置き、溢さぬようにティーカップを持ち上げる。

 あ、やべ、こぼれるッ!

 俺は慌ててティーカップに口をつけ、雪牛の乳を飲む。

 ……飲む。
 
 ゴクゴクと音が響くほど、飲み干す。

「ぷふぁっ! ……美味い。美味しい!」

 コクのある味わ……いや、やめよう。なんか、あまり言葉にできない。

 けど、うん、やっぱり美味しい。晩夏の暑さがアクセントになる感じ。とても美味しい。雪みたいに冷たいし。

 ほぅ、と俺は満足する。

 と、

「おい、乳程度でどうしたん――」
「う?」

 美味しすぎて騒ぎ過ぎたせいか、エドガー兄さんがブラウを肩車してこっちに来た。

「って、おい、これ、雪牛の乳じゃねぇか!」
「えぇあ!」

 エドガー兄さんが瓶を見て大声を上げる。ブラウが両手をパチパチとさせながら、まねる。

「ん」

 サンドウィッチを食べながら、俺は頷く。もきゅもきゅと口を動かして、サンドウィッチを飲み込む。

 うん、美味しい。

「飲んじゃダメって書いてなかったし」
「マジか……おい、セオ。俺にも一口くれ」
「うれ!」

 俺は顔を顰める。ブラウが楽しそうに言葉をまねようとする。

「ええ……」
「ええじゃねぇだろ。俺、明後日ここ出るんだからな。飲ませてくれよ」
「……しょうがないな」
「あいあ!」

 ブラウの真似っこに癒されながら、俺は瓶をエドガー兄さんに渡す。

「一口だけだからね。俺が先に見つけたんだし」
「分かってる、分かってる」

 そう言いながら、片手でブラウを抱えたエドガー兄さんは雪牛の乳が入った瓶を大きくあおる。

「あ、ちょッ!」
「ぷふぁッ! ああ、美味いッ!」
「まい!」

 ……飲まれた。殆ど、飲まれてしまった。

 俺はエドガー兄さんを睨む。エドガー兄さんから、残りわずかしか入っていない瓶を奪い取る。

「一口って言ったよねッ!」
「ほら、一口だろ? 俺とお前だと一口の大きさが違うんだよ」
「ッ、分かっていってるでしょ!」
「さぁ、何のことやら」

 俺の睨みにエドガー兄さんは飄々ひょうひょうとしながら肩をすくめる。

 と、

「あ~う!」
「お、ブラウ、飲みたいのか?」
「あい!」

 ブラウが俺が奪われないように大事に抱きしめた瓶を指さす。エドガー兄さんの問いに満面の笑みで頷く。

 まぁ、その問いの意味をちゃんと理解しているわけではないのだろうが……

「セオ、残り少しだし、ブラウに上げたらどうだ?」
「うっ」
「ほら。こんなに目を輝かせてんだぞ?」
「みゅ?」

 ブラウが俺を見つめる。

 優しい青の瞳。透き通っていて柔らかく輝いている。

 ………………

「はぁ。分かったよ」

 しょうがない。

 まぁ、美味しいものを独り占めして楽しいわけではないし、ここは心の余裕を見せつけるところだろう。

 そう思いながら、俺は瓶をテーブルの上に置き、席を立つ。

「コップを持ってくるよ」
「いや、このままでいいだろ。ってか、そこにあるし」
「え、だって口付けたじゃん」
「いいんじゃね?」

 エドガー兄さんが適当にいう。俺は首を横に振る。

「駄目だって。ブラウはまだ赤ちゃんだよ。俺たちには問題ない病原菌とかに耐性がないんだから」
「病原……? なんだ、それ」
「病気の元みたいなもの。ほら、病魔」
「ああ、病魔か」

 病気は色々な原因で起こる。まぁ、大抵はウイルスだったり、細菌だったり、そういう小さな存在が原因だが。

 どっちにしろ、こっちではそれらは病魔として扱われている。

「まぁ、そこまで気にすることでもないかもしれないけど、気にせる時なら気にした方がいいでしょ? 万が一があってもあれだし」
「万が一……」

 エドガー兄さんは俺や自分が着ている服の色を見て、ああ、と頷く。

「まぁ、そうだな」
「でしょ?」

 そうして、俺はコップを厨房室に取りに行った。
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

処理中です...