異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
232 / 316
収穫祭と訪問客

ままならぬのが常。上手くいってそうでも結局つまづくところがある:a funeral

しおりを挟む
 朝から……いや、昨夜からずっとドタバタしていた。

 ロイス父さんやアテナ母さんはもちろん、使用人のバトラ爺やマリーさん、レモンやユナ、アランなどなど、大人たちは部屋中を駆けまわり、忙しそうにしていた。

 特にロイス父さんとアランは酷く忙しそうだった。

 夏も既に終わりに差し掛かり、数週間も経たずに米と同じような時期に熟する異世界麦を収穫する事になるだろう。また、他の農産物もその頃には大抵収穫が終わる。

 そしたらラート町全体――つまり、マキーナルト領全体で収穫物を精査し、仕分けして処理し、洗い、出荷準備をする。

 それだけでなく、貯蔵のために氷魔法の行使、もしくは魔力供給をしてもらったり、冬の豪雪に備えて干し肉やら漬物などといったものの準備、あとは一ヵ月後くらいにある収穫祭の準備など。

 色々とやるべきことが詰まっている。ここ数ヵ月はとても忙しいのだ。

 ただ、今日の忙しさは違う。

 そう思いながら、俺はベッドから起きた。

 天窓から注ぐ朝日は既に高いところにあった。忙しさゆえに朝稽古がなかったから久しぶりにゆっくり寝れたのだ。

「ふぁ~。どうせ、昼までは暇だし……もう一度寝ようかな。俺を起こす暇だってないだろうし」

 欠伸をしながら、ベッドの上に立ち周りを見渡す。どうやらアルたちはいないようだ。たぶん、ブラウの所にでも行っているのだろう。最近、ブラウの遊び相手はアルたちやミズチ、ユキになっているし。

 ……ライン兄さんみたいに動物が友達とか言わないよな、ブラウ。

 そんな事を不安に思いながら、俺はなんとなしに天窓の扉を開ける。

「う」

 開けた天窓から降りてきた空気に俺は思わず顔を歪める。じめじめとして暑い空気が降りてきたからだ。

 俺は風魔術で入ってきた心地悪い空気を外に追い出し、天窓を閉める。

「日本と違って、マキーナルト領ってそこまでじめじめしてなかったんだと思うんだけど。アダド森林かバラサリア山脈の向こうから風がふいてきているのか……」

 アダド森林やバラサリア山脈の向こう側は海があるそうだ。

「あ、でも、それが理由にはならないか。水分を多く含んでる空気はどうせバラサリア山脈を昇れずに向こうで雨となってるだろうし、アダド森林も似たようなものだと思うしな……」

 前世で見てた天気予報の豆知識を思い出していたところ、ふと思った。

「ってか、こっちの世界の海ってどんな感じなんだろ」

 そもそも、俺、地図上ではアダド森林やバラサリア山脈の向こうに海があるとは知っているが、行ったことないんだよな。

 だって、凶悪な魔物が跋扈ばっこしているのがアダド森林とバラサリア山脈だから。行けないもん。

 分身体と“隠者”を使って一度、見に行こうとしたのだが、どちらも途中で滅茶苦茶強そうな、っというか絶対に強い魔物に見つかって無理だったしな。

 それを考えると、地図を書いた人はどうやって向こうまで行ったんだろ。ロイス父さんやアテナ母さんが生まれるより前にあったようだし……

「そういえば、まだこっちに来てから海を見てないよな……。一度、見に行きたいな。っというか、旅行がしたい」

 引きこもりたい願望はあるが、それとは別に旅行願望もある。前世だと働きづめで全くできなかったし、色々な景色を見てみたいなとは思うのだ。

「でも、ドルック商会とか収穫祭の準備とかで忙しい……あれ、何で俺忙しくしてるんだ? 前世が仕事ばっかだからゆったりしたいと思ってたのに」

 ベッドの上で胡坐を俺はボサボサの髪を更にボサボサにするかの如く、かきむしる。やるせない。

 王都に行ったときに、三十人近く人員を増やしたがそれでも手が足りない。何より、俺とライン兄さんが考えている事をそのまま実行できる人がいない。

 皆、優秀で真面目なのだが、こう、頭の柔らかさがないというか。いや、柔らかい人もいるにはいる。

 だけど、そう、破天荒なやつがいない。皆、優秀で真面目なのはいいのだが、一人か二人くらいは、行動力がめっちゃある優秀でおかしな奴がいた方がいいのだ。

 そういう人が一人でもいてくれれば、組織のブラッシュアップなどができるんだけど…… 

 現状、俺やライン兄さんが具体的な指示をしないと、事業が進められないんだよな。

 確かに庶民専用の郵便やタイプライター、出版関係は未知なものだ。出版は一応、昔からあるから掴みやすいかもしれないが、俺やライン兄さんが起こそうとしている出版は高級品として本を出すのではなく、ある程度安い本が流通するようにすること。

 王都の庶民が、数冊でもいいから本を持っているような状況にまで持っていきたいのだ。

 それに関しては、未知数だから手探りだ。

 大胆でより効果的な方法が欲しいの……

「口で言うのは簡単だよな……。結局、俺もライン兄さんも経営に詳しいわけではないし、そこまでセンスがあるわけでもないんだよな。どちらかというと、物を作る側だし」

 そこまで考えて、俺は溜息を吐く。

 俺の前世の経験や知識も多少役には立つが、それでも多少。だから、上手く経営戦略が練れているかといえば、ノーとなってしまう。

 だかといって経営センス抜群で、たった十数年で巨大な紹介へと成りあがったアカサやサリアスに頼りっきりもよくない。他商会だし。自分たちの経営は自分たちで行わないと、いずれしっぺ返しがくる。

「だからこそ、バインが来てほしかったんだよな」

 結局、バインは俺たちが王都を去る日まで俺やアカサ・サリアス商会に顔を出さなかった。

 一応、王都にいたサリアスに頼んで居場所の把握はしてもらってはいたが、こちらから会いに行くのはまだ時期尚早と考え、会いには行かなかった。

 今も定期的にサリアスからバインの動向を手紙で教えてもらっているが、未だにバインは斑魔市で物売りをしているらしい。
 
 以前のような方法のままで。

「ただ、あれ、違法ではないんだよな……」

 サリアスに調べてもらったところ、やはりというべきか、バインには錬金術師の協力者がいた。

 そしてバインは俺が設計図を書いた魔道具をアカサ・サリアス商会から買い、その錬金術師に渡し、分解を頼む。

 それから二人でその分解内容を見ながら、別の使い道を話し合い、その別の使い道に沿って改造、もしくは模造品を創り上げる。

 今、自由ギルドにある商標登録や技術登録、設計図の登録などといったものは、その登録した物全体を守る仕組みである。

 つまるところ、一部を抜き取ったり、また同じような、けれど細部が違うものを作り売ったりするのは違法ではないのだ。

 簡単に言えば、俺がドライヤーの魔道具を作ったとして、ドライヤーの魔道具に組み込まれている温風の魔道具機構を理解し、その魔道具機構と同じような能力を発する別の魔道具機構を作り、別用途で売るのは全くもって問題にならないのだ。

 あまりいい顔をされないが。

 けど、それは現代日本で考えると、いや資本主義社会としての視点で考えると正しいことなのだ。

 一応、現代ではその技術だけでなく理論においても特許という形があるため、真似は難しいのだが、それでも多くの企業は模倣する。

 ある会社がある商品を創り上げた。

 それが売れたのなら、より良い性能を持ち、より安いコストで創り上げられるように他の企業が頑張り、作る。元祖の企業が負けじと頑張る。

 正しい企業競争だ。

 バインは、俺の魔道具を買って、分解し、回路機構や材料などをブラッシュアップし、新たな用途で売り出していた。

 そういう賢さが欲しい。

 未知なる市場を開拓するためには、そういう売り出しができる奴が欲しいのだ。ちょうど、アイデアとか物自体は俺たちが出すんだし。

「はぁ。でも来なかったんだよな……サリアスから受け取ったバインの近況を見れば、脈がないわけではなさそうだけど……はぁ、冬になるまでにはこっちに来てもらいたいんだよな……あ~あ~あ~あ~あ~」

 ベッドに大の字になり、俺は手足をバタバタさせる。

 忙しすぎて、最近、趣味に割く時間が得られないのだ。やりたいことや作りたい物だって多いのに。

 それに、数年前から魔物による攻撃などで四肢を欠損し、引退した冒険者たちと共同で研究していた義肢についても、ようやくいいところまでいきそうなのだ。

 つい最近まではずっと行き詰っていたし、前世の筋電義手にすら届かない性能だったけど、どうにか同等にまで持っていけそうなんだよな。

 まぁ、それでもまだまだあともう二つか三つくらい、革新的な技術とアイデアが必要なんだけど……

 ってか、あれって元はメイドゴーレムを作ろうとして始まったんだよな。義肢の研究って。遅々として進まないから忘れていたが。それに、他の計画もうまく進んでいないし……

「あ~! もう! 上手くいかない!」

 と、色々と悩む事が多すぎて、ジタバタとしていたら部屋の扉が開いた。

「……セオ。起きているなら、さっさと降りなさいよ。ってか、わめいてどうしたのよ。頭でも打ったの?」

 ユリシア姉さんだった。

「……いや。どうしようもない現実にうなだれていただけ」
「なにを分からないことを……はぁ」

 ユリシア姉さんは訳が分からないと顔を顰めながらこっちに近付き、それからベッドに大の字になる俺の頭を掴む。

「それよりさっさと着替えなさい。二時間後には始まるわよ。ほら、昨日、母さんが慌てて仕立てたんだから」
「……分かった」

 俺は昨日、アテナ母さんが今日のために慌てて仕立てた服を受け取った。

 それは黒い服だった。

「着替えるから出てって」
「いいじゃない。私が着せて――」
「いやだ」
「……もうッ!」

 ユリシア姉さんは頬を膨らませて、俺の部屋を出ていった。

 そして俺はベッドから起き上がり、パジャマを脱いで黒い服に袖を通す。

 今日は葬式だ。
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転移したよ!

八田若忠
ファンタジー
日々鉄工所で働く中年男が地球の神様が企てた事故であっけなく死亡する。 主人公の死の真相は「軟弱者が嫌いだから」と神様が明かすが、地球の神様はパンチパーマで恐ろしい顔つきだったので、あっさりと了承する主人公。 「軟弱者」と罵られた原因である魔法を自由に行使する事が出来る世界にリストラされた主人公が、ここぞとばかりに魔法を使いまくるかと思えば、そこそこ平和でお人好しばかりが住むエンガルの町に流れ着いたばかりに、温泉を掘る程度でしか活躍出来ないばかりか、腕力に物を言わせる事に長けたドワーフの三姉妹が押しかけ女房になってしまったので、益々活躍の場が無くなりさあ大変。 基本三人の奥さんが荒事を片付けている間、後ろから主人公が応援する御近所大冒険物語。 この度アルファポリス様主催の第8回ファンタジー小説大賞にて特別賞を頂き、アルファポリス様から書籍化しました。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...