異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
221 / 316
王都邂逅

それを創意工夫と呼んだりもする:third encounter

しおりを挟む
 マキーナルト家は子爵家ではあるが、ロイス父さんたちの功績やその名声、またマキーナルト領地の独立性と特別性などもあり、式典の場では辺境伯程度に扱われる事が多い。

 そして、辺境伯と言えば侯爵の一つ前の位だ。ただ、辺境伯は領地によって力関係の差が激しく、特に仮想敵国接している領地をを持つ辺境伯は侯爵以上として扱われる。

 マキーナルト領は国が滅ぶ厄災と接しているため、その価値自体の上がり具合が半端ではないため、辺境伯だと普通に公爵以上として扱わなければならない可能性がでてくる。

 だから、ロイス父さんが子爵の位を授かったのにはそういう理由もあるらしい。

 そんな取り留めないことを考えながら、俺は一挙一動に細心の注意と自信をはらいながら、中央の大きな階段へと歩く。

 そして階段の前で立ち止まり、見上げる。

 まず、踊り場の正面にはクラリスさんと大司教スコプターさんに軽く礼をする。次に右手側には王子様二人、左手側には王女様二人の順に上から二番目の礼をする。

 そして、踊り場の右手側に王様と王妃様にしっかりと目線を送り、最上級の礼をする。向こうは俺に視線すら向けないが、それでもなんとなく目の端で俺を捉えている事が分かる。

 最後にもう一度踊り場の正面にはクラリスさんと大司教スコプターさんに、仲介者への敬意を表す礼をする。

 ここで一拍、呼吸を入れた後、俺はゆっくりと階段を昇る。

 ああ、緊張で死にそう。背中には滅茶苦茶多くの人の視線が突き刺さるし、それはまるでちょっとしたミスがあれば、即座に殺そうとしてくるほど、強く恐ろしい感じがする。

 ちゃんと階段昇れてるのか? なんか、平衡感覚が滅茶苦茶になってきた。足元がぐらぐらしてきた。

 冷や汗がぶわっと溢れた感覚が体中に走り、それから軽く握りしめている両手が物凄く冷たくなってきた。緊張してる。

 階段の段数はそこまで多くないのに、無限に続いているように思えてしまう。

 いや、ホント、緊張するな……

 そう思った時、今まで感じなかった強い視線が左から感じられた。

 流石に顔を向けることはなかったが、それでもチラリとそちらを見て、

「……」

 綺麗だ。ただただ、そう思った。

 銀髪の少女が閉じていた目を開いていた。その瞳は、白銀に、ともすれば透明にすら見え、とても澄んでいた。

 その瞬間、緊張がほぐれていく。心がフッと軽くなり、ぐらついていた視界や感覚が元通りになる。光が多く目に入ってくる。広がる。

 前を見上げる。

 既に踊り場の一歩手前まで昇っていた。

 踊り場に昇る前に、立ち止まる。

 目の前のクラリスさんとスコプターさんに軽く一礼、王様と王妃様に深々と一礼してから、踊り場へ上がる。

 踊り場に上がったら、クラリスさんとスコプターさんの少し手前までゆっくりと歩き、それから王様と王妃様に身体を向ける。

 そして、三歩後ろに下がりながら、片足を引き、王様と王妃様に向かって片膝立ちでひざまづく。こうべと垂れる。

「顔を上げよ」
「はっ」

 王様の、オリバー王の声が厳かに響き、俺はスッと顔を上げる。オリバー王とカティア王妃を見上げる。

「セオドラー・マキーナルト。神々の揺りかごからづる未来にないし貴殿に問う」

 ここからは決まった儀式。決められた答えを返すだけ。

「翼なき竜は如何様いかようにして、翼を得て空を羽ばたく事が許されるであるか?」

 ……おっと?

 あれ、俺の聞き間違えか? それともロイス父さんたちのミスか?

 その問いは知らないんだが。

 事前に聞いていた話だと、「翼なき竜と共に貴殿は在れるか?」と聞かれるはずだった。

 翼なき竜は、七星教会の聖典……聖書の話の一つで、竜の誇りである翼を生まれたときから奪われた竜が、あらゆる理不尽や苦悩に立ち向かいながら地上を守る守護獣として祀られる話であり、つまるところ、貴族として生きる覚悟はあるか? という問いだ。

 しかし、「翼なき竜は如何様いかようにして、翼を得て空を羽ばたく事が許されるであるか?」という問いは知らん。

 ……さてはて、どう返すべきか。

 実直にそのままの言葉の意味で返すか? それともオリバー王の言葉の裏を……いや、子供相手に言葉の裏など要求するか?

 ……面倒な。なんで、こんな面倒な質問をするんだよ。

 下の方で、貴族の人たちが結構ざわめいているんだぞ。形式通りの質問をしてくれよ。

 ……仕方ない。

「発言をよろしいでしょうか?」
「うむ」
「翼なき竜がどのようにして、空を羽ばたけるか。はっきりと申せば、翼なき竜は空を羽ばたくことは不可能でございます」

 後ろで少し息を飲む音が聞こえた。

 俺は気にせず続ける。

「どんなに手を尽くそうとも翼なき竜は、翼なき竜として生きるしかないのでございます。翼を得るなど、愚かな考えだと私は愚考いたします」

 オリバー王の表情は変わらないが、しかしそれでも鋭くなったように感じる。

 そして、下の貴族たちのざわめきも大きくなった。俺の発言は、つまるところオリバー王の質問を否定していることになるからな。お前の質問なんてあほらしいわ、馬鹿ッ! って感じだな。

 たぶん、一般的には適当に魔法やら神の奇跡とやらを聖書に則って、述べればいいのだろう。この手の質問は。

 けれど、現実的に考えて、無理は無理なものだ。

 人間がどんなに願っても、自前・・の翼が生えてくることなどない。あり得ない。ばたく。羽を持って生まれなかったのなら、それは絶対に不可能だ。

 だが、

「しかしながら、翼なき竜は必ずや空に行けるでしょう!」

 俺は自信と希望を瞳に宿し、続けた。

「それこそ、普通の竜ではたどり着くこともできない今宵の夜空に輝くあの月さえも!」

 下では大きなざわめきが起こる。それこそ、俺の言葉を鼻で笑っている感じだ。まぁ、確かに月に行けるなど与太話でしかないからな。普通。

 オリバー王もそう思ったのか、憮然とした表情で問い返してきた。

「おかしなことを言う。先ほど、貴殿は翼なき竜が空を飛べない・・・・と言ったばかりではないか?」
「はい、申しました。しかしながら、それは翼なき竜が空へ行けない・・・・事と同義ではありません」

 前世。

 人間は飛行機で空へ、ロケットで宇宙へと到達した。

 しかしながら、人間・・が空を飛んだことは一度だってない。断言できる。

 だって、飛んでいるのは飛行機であって、ロケットであって、人間ではないのだから。人間は飛んでいる道具にタダ乗りしているだけだ。

 それを人間はさも自分たちが飛んでいるかのように屁理屈をこねているだけである。

 思えばとても当たり前の話なのだ。

 だからこそ、俺は続ける。前世の人類が積み重ねてきた屁理屈創意工夫を。物を創るということを。

「創ればいい。翼がないのであれば、翼の代わりになる道具を創り、それに乗って空へ行けばいい。自らが『もった存在』でないのであれば、代わりに『もっている存在』を見つける、もしくは創ればいい。ただ、それだけでございます」
「……」

 そう言いながら、俺はチラリと銀髪の少女の方を、その車いすを見た。

 彼女だって片足がない。けれど、あの車いすがあれば、好きな所に行ける。

 オリバー王は少し黙った後、大きく息を吸い、覇気のある声で言う。

「では、セオドラー・マキーナルトよ。マキーナルトの名に誇りを抱き、翼の代わりとなる物を創りたまえ」

 オリバー王はそれからクラリスさんとスコプターさんに視線を向けた。

「偉大なる精霊の祖の名のもとに」
「偉大なる神々の名のもとに」

 クラリスさんは一瞬だけ苦虫を噛みつぶしたような表情をしていたが、その視線を受け止めて朗々と謳いだす。スコプターさんがそれに続く。

「「セオドラー・マキーナルトが此度、この小鳥に我が主の加護を授け、栄えあるエレガント王国の貴族の誇りの誓いを認める」」

 同時に温かい魔力が俺を包み、

『大きくなったの』

 頭の中でクロノス爺の声が響いた。たぶん、本当に神の祝福だったのだろう。

 俺は数秒間の間をとってからスッと立ち上がり、クラリスさんとスコプターさんに一礼、オリバー王とカティア王妃に深々一礼、もう一度クラリスさんとスコプターさんに一礼した後、背を向けて、階段を降りた。

 ……ロイス父さんが少しだけやられたって表情をしていたが、まぁ、うまくいったのだろう。

 アテナ母さんが凄く嬉しそうに微笑んでいるし、きっといい晴れ舞台にできたのではないのだろうか。

 そして貴位の言祝ことほぎが終わった。
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...