異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
220 / 316
王都邂逅

急に頭に声が響きけば、そりゃあビビる。むしろよく大きな声を出さなかった:third encounter

しおりを挟む
 俺……ライン兄さんよりも少し年上だろうか。

 その可憐な顔、ドレスから覗く細い片手片足、なにより腰まで流れる美しい銀髪と静かに閉じられている両目が、彼女を儚く、そして人ならざる存在だと知らしめているようで。

 だが、しかし、纏う雰囲気は違う。

 そのハイライトの薄化粧なのか、纏うのドレスなのか、それとも凜っと背筋を伸ばし車いすに座るその姿なのか。

 強く……

 そう、燦然さんぜん

 燦然と輝く大空を力強く大きな翼で羽ばたく鳥。

 そういう激情にも近いイメージが脳裏を駆け巡った瞬間、けれど、何故か俺はそれよりも月を思い出した。

 たぶん、彼女は夜が似合う。

 そう思って――

「エレガント王国国王陛下マジェスティ、並びに王妃陛下マジェスティ出御しゅつぎょッ!!」

 俺はその言葉を聞いて、慌てて顔を下げる。周りにいた子供たちの半数は落ち着いて、もしくは俺と同じように慌てて頭を下げ、テンパっていた子供たちはそれを見習って、おずおずと頭を下げていた。

 けれど、みんな、チラリチラリと顔を上げて見る。なので、俺もバレないようにチラリと顔を上げる。

 大広間に轟き響くその厳かな声と共に、階段の上手側からは王冠を被った茶髪の凡庸と言わざるを得ない中年の男性が、下手側からティアラを被った妖艶と理知を兼ね備えた金髪の女性が現れた。

 王様と王妃だ。

 いつの間にか、最初に出てきた人たちは、俺達に向かって広がるように中央の広い階段にⅤ字に並んでいた。

 上手側はクラリスさん、背の高い茶髪茶目の青年、金髪茶目の少年の順。下手側は大司教、金髪碧眼の少女、そして銀髪の少女。

 左右の階段から現れた王妃と王様は堂々と階段を降り、左右の階段が交じり合う踊り場で向かい合い、一拍置いてからきゅっと俺達の方へ向かいなおる。

 すれば、ちょうど王様と王妃様がそのⅤ字の先端にいて、ああ、偉い人なんだなと思った。

 が、それも束の間。

「此度、祝福を取り持つのは大司教、スコプター・サラブレート。神金冒険者であり精霊審議会第一議席保持者、クラリス・ビブリオ」

 ……あれ? 普通、大司教だけじゃないの?

 どちらにしろ、いつもの錬金術師というよりは、神聖なシンプルで厳かな法衣を着たクラリスさんと、立派な刺繍と年季の入った聖典を片手に持つ大司教が軽く王様と王妃様に一礼する。

 すると、王様と王妃様は一つ一つの動作を静と動で美しく飾り上げながら、踊り場の上手側に並び、クラリスさんと大司教が俺達に向かい合うように踊り場の中央に佇んだ。

「これより、我が敬い奉る精霊と偉大なる祖に名において」

 そして、どこで弾いているのかわからないが、美しいオルガンの音色が大広間に柔らかく淑やかに響くと、クラリスさんが口を開いた。

「これより、我が敬い奉る七柱の神々の名において」

 追いかけるように大司教が口を開き、

「「今、我らが主の元から飛び立つ小鳥に祝福を与えたもう」」

 まるで美しい鈴の音が響いたかのように、清廉で厳かな声が大広間に響き渡った。

 そして、

「シー・リュクシオン。前へ」
「は、はいッ!」

 先頭の真ん中に座っていた女の子が、上ずった声で頷きながら、ゆっくりと階段を昇っていた。

 貴位の言祝ことほぎが始まった。


 Φ


 入学式や卒業式で、生徒の名前が呼ばれるあれ。

 ぶっちゃけ、眠すぎる。

 大抵ゆったりとした心地よい音楽が流れ、それ以外の音と言えば教師が生徒の名前を呼ぶやつと生徒の応答、あと校長先生の「おめでとう」。あと、足音。

 まぁ、ぶっちゃけ、寝るには本当にいい条件が揃っている。

 そしてそれは、貴位の言祝ことほぎでも同じ。

 貴族の子供たちの人数はそう多くない。ただ、貴官爵や騎士爵の子はまだしも、男爵以上になると、一人一人にかかる時間は少し長くなる。

 たぶん、この調子でいけば、二十時少しには終わるか。

 十九時ちょっと前に始まり、二十時少し。一時間半近く。

 そう。これが行われているのは夜なのだ。しかも、最初の雑談時間的なところで、それなりにご飯を食べてしまった。

 ……うん。

 本当に眠いのだ。

 俺の前に座っている男の子なんてコクリコリと船を漕いでいて、隣の女の子が慌てて周りを見渡しながらその子の肩を揺さぶっていた。

 流石に思いっきり寝ている子はいないが、やっぱり何人かはウトウトしているし、他にもじっとしているのが辛いのかそわそわしたり、コショコショと話し出したり。

 背筋を伸ばしている子は少ない。

 と、いうか、殆どいない。

 当たり前だけど。

 けど、俺の後ろにいる子は、雰囲気的に物凄く張りつめているというか、なんだか俺を睨んでいるような……

 まぁ、いいや。

 俺は眠気に抗うように少しだけ強く両手を握りしめる。それから温かく響くオルガンの音楽に寝てしまったアルたちの気配に頬を緩ませ、そしてちらりと中央の階段を見やった。

 既に半分以上の子供たちが呼ばれており、今は男爵に入った頃らへんか。

 ………………

 視線は合わない。

 だって、彼女は目を瞑っているし、俺の方を向いているわけではないから。目は見えないんだったけ?

「……」

 予感はあった。というか、それなりに情報は手元に揃っていた。けど、まさか……

 そう思って、どうすればいいのか、彼女を見やりながら悩んでいたら、銀月の少女の後ろに控えていた茶髪のメイドさんが俺を見た。

 俺は慌てて視線を外す。

 けど、何故か物凄い殺気を向けられている気がする。じっと視線を向けすぎたか?

 と、思ったら、

――“解析”が終了いたしました。

「ぇ?」

 “研究室ラボ君”の声が急に脳裏に響いた。

 俺は思わず声を漏らしてしまった。

 そして慌てて口を閉じる。隣を見れば、気にした様子もかなったため、どうやら聞こえるほどの声を漏らしたわけではなかった。

 ……で、一体全体急に“研究室ラボ君”の声が聞こえてくるなんて、どういうことだ? あれか? 俺がさっき、アンニュイに考えたからか?

――否です。“解析”に割いていたリソース演算を取り戻したからです。――

 取り戻した? そういえば、“解析”が終了したとかどうとか言っていたような気がするな。

――はい、セオドラー様に命令された内容、全ての“解析”が終了しました。もしかして忘れていたのでしょうか?――

 ……ええっと、何頼んだっけ? 色々頼みまくっていた――というか、なんか流暢になっている気がする。

――それは私もセオ様に伴って成長します故。――

 ……俺に伴って?

――主に魂魄と魔力です。ここ最近は魔力の成長が著しくそちらの成長アップデートにもリソース演算を割かれていました。

 魔力の成長。

 ああ、ソフィアの特訓合宿か。だから、その頃から本格的な交信が取れなくなっていたのか。

――そうです。それより“解析”内容の一つに関連する存在を確認したため、さらなる確度上昇を目指し、“解析”を始めます。よろしいですか?――

 いや、だから……うん、ごめん。その何頼んだかあんまり覚えていないんだよね。あと、その存在って?

――精霊の厄子でございます――

 いや、誰? ってか、器?

――あの銀の存在であります――

 銀の……
 
 え、もしかして、あの銀髪の少女?

――はい。――

 えぇ。ってか、“解析”って何を“解析”するつもりなの?

――彼女の身にほどこさえている魔力封印と精霊化防止の封印です。――

 ……うん? どういう事?

 と、そう思った時、

「セオドラー・マキーナルト!」

 いつの間にか貴位の言祝ことほぎは終わりに近づいており、俺の名前が呼ばれた。
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

処理中です...