異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
218 / 316
王都邂逅

体裁的に考えると、双方にとってものすごいまずい状況です:third encounter

しおりを挟む
 大広間は王城の一階だ。つまり、隣に庭がある。庭園と言った方がいいか。草木は丁寧に剪定せんていされており、花も美しい。良い匂いがする。

 そんな庭園の草陰に移動し、俺はオルドナンツの手を離す。オルドナンツは少しだけ不機嫌そうな表情をする。

「何だよ。こんな所に連れてきて」
「何だよじゃないよ。はぁ」

 溜息が出るのも仕方がない。

「あんなに騒いだらバレるじゃん」
「何がだ?」
「俺が隠れていたことだよ」
「隠れていた? 何でだ?」

 マジか。こいつ、俺が隠形していたことに気が付いていなかった? ありえないだろ、そんな――

 あ、こいつが持ってる能力スキルの解析が終わった。

 “追跡”に“隠密看破”にその他諸々。うん、追跡系の能力スキルが多いな。しかも、なんとまぁ珍しい能力スキル、“完全捕捉”まで持ってるのか。

 “完全捕捉”は超人たちがひしめき合うマキーナルト領でも持っている人が一人しかいない珍しい能力スキルで、登録した存在はどんなに離れたり隠れたりしても確実に居場所がわかるという凄まじい能力スキルだ。

 が、登録数は熟練度によるし、そもそも相当な月日を掛けて修練しないとそこまで到達できないんだよな。

 マキーナルト領で“完全捕捉”を持っている人曰く、最初の頃は数メートルくらいしか分からなかったらしく、距離無制限にまで達するのに半世紀近く掛かったと言っていたしな。

 そこまで使い勝手がいいわけじゃないのだ。

 ぶっちゃけ、成長具合を考えたら他の方が優れていたりする。

 それ以外にも“脚力強化”や“踏破”、“空踏み”などの移動系能力スキルも持ってるな。

 っというか、持っている能力スキルが年齢の割に多い。多すぎる。

 もしかしてこいつ、結構やばい奴なん――

「なぁ、おい。おいっ!」

 オルドナンツが俺の肩を掴んで揺らす。俺はイラッとして、その手を振り払う。

「揺らすなよ!」
「なら、返事しろよ! で、お前の名前は何なんだ! それと、隠れてるって何でだ!」
「……はぁ」

 疲れる。子供って疲れる。

 ……まぁ、いいか。ここは大人としての威厳を見せるとするか。

 襟を正し、首から下げているゴーグルを整え、にこやかに笑う。

「初めまして。私はセオドラー・マキーナルト。以後お見知りおきを」
「……うん? いごおみしり……なんだ?」
「…………」
 
 俺は微妙な表情になる。そして自分が悪いと思った。

 そうだよ。普通、五歳児相手にこんな挨拶しても分からないんだよ。分かる方がおかしいんだよ。

 なので、俺は溜息を吐いて肩の力を抜く。ゴーグルをおでこらへんに上げて、ドサリと庭園の座り胡坐を掻く。

 オルドナンツは、む? と首を傾げながらも、俺に倣うように地べたに座る。

「セオ。セオドラー・マキーナルトだよ。よろしく」
「そうか! セオっていうのか! 俺はオルドナンツ! オルって呼んでくれ!」
「もう聞いたよ、それ……」

 結局の所、使い勝手が悪かろうが“完全補足”を持っているこいつからは逃げることができない。年齢から見れて修練状況はまずほぼないと考えていいので、距離は無制限ではないだろう。

 だから遠くに離れれば大丈夫だろうが、こいつは一昨日俺とライン兄さんの足の速さにもついてきたのだ。

 ついてこれた理由は移動系の能力スキルを多く持っていたためだと分かったが、分かったところで今はあまり意味がない。

 仕方ないので、こいつが飽きるまで付き合うしかないのだ。

 面倒なのにからまれた。

「それでセオは何で隠れてたんだ!」
「……面倒だからだよ」
「面倒?」
「ほら、あそこ」

 俺は指さす。そっちにはガラスの扉越しに大広間があり、凄く大きな人だかりがあった。

「何だ、あれ?」
「ロイス父さんとアテナ母さん目当ての貴族たちだよ」
「ろいす……」

 オルドナンツは不審そうに首を傾げる。それからうんうんと唸る。

 そして、

「あ!!!」
「ッ、五月蠅いよ」

 鼓膜が割れるかと思うほど大きな声を上げて、オルドナンツは立ち上がる。俺は耳を抑えながら抗議の声を上げるが、

「お前、英雄様の息子なのか!?!? なら、最初からそう言えよ!」
「言っただろ! マキーナルトって自己紹介しただろうが!」
「はぁっ!? なんだ、そのマキーナルトって!」
「ロイス父さんたちの家名だよ!」

 俺も立ち上がり、怒鳴る。地団太を踏む。

 ………………

 はぁ、はぁ、はぁ。

 マジでなんなんだよ、こいつ。ホント、マジで何なんだよ……

 疲れる。どっと疲労が押し寄せてくる。

 いや、さ。俺の名前がそこまで広まっているとかうぬぼれてないよ。けど、ロイス父さんたちの名前は別じゃん。マキーナルト家でだって知られてると思うじゃん。

 ……いや、まぁ、子供だしな。うん、家名の方は覚えてなくて当たり前だろ。

「ってか、そんな事よりもお前、本当にあの英雄様の息子なのか!? 全然英雄様の息子に見えないんだが!」
「うっさい! 正真正銘ロイス父さんたちの子供だ!」

 なんせ、神様お墨付きだし。自分が生まれた時の事も覚えてるし。それに仮にそうでなくても、俺はロイス父さんとアテナ母さんを親だと思ってる。

「じゃあ証拠だせよ! 証拠! 出せないだろ、嘘つきが!」
「嘘ついてねぇわ! つか、今すぐ見に行け! 俺の分身体がロイス父さんたちと一緒にいるからさ!」
「そういって、逃げるんだろ!」
「逃げねぇわ!」

 これだから子供は! 何が証拠だ! 嘘つきだ! クソガキが!

 っつうか、思い出した! 俺が小学生の頃のことを思い出した! そうだよ。ライン兄さんみたいなのが、珍しいんだよ! 地球の子供だろうが、貴族の子供だろうが、大抵こんな感じなんだよ!

「はぁ、疲れる。帰りたい。帰りたいよ……」

 ……ああ、家が恋しい。

 そう思って、疲れたように再び地べたに座れば、

「……アルル?」
「……リュネ?」
「……ケン?」

 アルたちが心配そうに俺の首元から顔を覗かせた。

 様子を見るに、今、この場で顔を出してはいけないと理解しているが、それでも心配だったから出てきたって感じだ。

 ……情けない。アルたちにそんな心配を掛けるとは……

「大丈夫だよ。だから、安心して」
「アル」
「リュネ」
「ケン」

 安心させるように、魔力を柔らかく注ぎながら人差し指の腹でアルたちの葉っぱを撫でる。

 そうすれば、三匹とも目を細めて、再び俺の首元に引っ込んだ。

「……それだ! それ! そいつら、何なんだ!」
「なにって、俺の家族だよ」

 少しだけ茫然としていたオルドナンツは、アルたちが引っ込んだのを見て、我に返ったらしい。

 俺に掴みかかろうとしてくる。

 なので、俺は少しだけ雰囲気を変えて威圧するように言う。

「それ以上は教えないよ。あと、追及しようものなら俺はお前と戦争する」
「ついきゅ……わ、分かったよ」

 言葉の意味は分からなかったようだが、俺が嫌がっているのは理解できたのだろう。引き際は弁えているらしく、オルドナンツは驚きつつ渋々と頷いた。

「ありがと」

 なので、俺は礼を言った。

 と、その時、

「オルドナンツ」
「げっ!」

 少し遠くから酷く冷たく綺麗な声が響いた。オルドナンツが嫌そうに顔を歪め、俺も同じ感じになる。

 っというか、面倒なので“隠者”と魔力偽装と隠ぺいを全力で行使して、姿を隠しフェードアウトする。

 オルドナンツがその声の主に意識を割いている間に、遠くへ逃げようとする。どうせ、俺を追いかけることもできなくなるだろうし。

 それにあと数分で貴位の言祝ことほぎも始まる。もうそろそろ戻らないといけない。というか、分身体越しに見るロイス父さんとアテナ母さんがとても恐ろしい感じなので、マジで戻らないと。

 そう思いながらスススと闇夜に消えようとした瞬間、

「あ、こら! お前、逃げるな!」
「ぐえっ! ちょ、掴むなよ! やめろや、離せ!」
「おわっ! ちょ、お前、なにすんだよ! 酷いぞ!」
「それはこっちのセリフだ!」

 目ざとくオルドナンツがそれを見つけ、俺の首根っこを掴む。

 思わず俺はよろけ、しかし稽古でロイス父さんにしごかれ鍛え抜かれた体幹により、逆にオルドナンツの手を掴み、そのまま引っ張ってしまった。

 オルドナンツは大きくよろけ、そのままコケる。そして、直ぐに立ち上がり俺に掴みかかってくる。

 応戦するのはアレなので、俺はよける。

 と、

「オルドナンツ。一人で何を――」
「うぎゃっ!?」
「うげっ」

 パキパキと地面が氷、オルドナンツの両足が氷で拘束された。ついでに俺も拘束されてしまった。

 そして、それをした紫髪紫目の少女は、

「ッッ!!??」

 今、俺に気が付いたらしい。

 驚愕の表情になり、それから真っ青に染まっていった。

 やっぱり、オルドナンツが異常なだけで、あれだけ騒いでも俺の全力の隠形を看破できるやつは少ないんだよな。

 ……マジでこの状況、どうしよう。
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

処理中です...