異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

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王都邂逅

で、気づかれた:third encounter

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「あ、これ。うちの野菜じゃん。やっぱ、王宮にも卸してるんだな……」

 むっしゃむっしゃと前世で言うパプリカの肉詰めを食べながら、俺は次々に料理を小皿によそっていく。

 生誕祭の会場である大広間にはの空調は優れており、夏の夜だが快適だ。まぁ、ソフィアお手製の礼服のお陰でもあるのだが。

 それにしても、美味しい料理が多いな。

 うちで出てくるのって、家庭的な料理が多かったしな。こう、高級料理とか珍味とかを食べるのは新鮮だ。

 前世のフレンチにも似ている部分はあるが、それでも少し違う。

 あと、この世界の料理技術を前世で換算すれば、貴族料理って手間暇掛かっているわりに微妙なイメージがあったが、この国の料理は美味しい。

 調味料も珍しいものを使われていたり、多少量は多いが、それでもしつこさはない。普通に上品だ。

 同じような料理をとっても様々な調理法を使われている事が伺える。

 アランに料理について教わっていたためか、それともこの体の素質がいいのか、味でそれなりに調理法が分かったりするんだよな。

 あ、“研究室ラボ君”のおかげもあるか。常に“解析”を自動発動しているようなものだし。

「でも、最近応答してくれないんだよな……」

 少し酸味があって、夏にピッタリな清涼感のある果実水をコクコクと飲みながら、俺はぼやく。

 誰も俺を見ない。結構な数の人が先ほどから俺の前を過ぎていくが、誰も大広間の壁に寄りかかって座っている俺に気が付かない。

 “隠者”と魔力偽装で気配を物凄く消しているため、俺がいることすら分からないからな。

 まぁ、兎も角、だからこそ、独りが強調される。俺のうちに意識がいく。

「ソフィアの特訓合宿の時はまだ交信で来たんだよな……とは言っても、会話らしい会話はあまりできてなかったけど。いつから、はっきりと会話できなくなったんだっけ……」

 “研究室ラボ君”は結構不思議な存在だ。能力スキルだから、自意識はないのだが、AIみたいなものなのか、それなりに会話ができるし、俺の意志を汲み取ったりもしてくれる。

 ロイス父さんに聞いたところによれば、俺が魔術を復刻させた日に獲得した“解析者”の一部能力スキルらしいのだが、どうにも逆の気がするんだよな。

 あと、あんまり覚えていないが、あの日クロノス爺とロイス父さんが話していた魂がどうたらもな……

 俺は元々、アテナ母さんのお腹の中にいた子を助けるために転生したんだよな。転生というか、融合だけど。

 まぁ経験は圧倒的に俺が上だったので、人格は前世が主軸となっているが、それでも性格とか好みは結構変わってるしな。

 それにいつだったか、エウが俺の魂には違う魂核が混じっているとも言っていたし。

 だからか、より一層“研究室ラボ君”が気になるんだよな……

 と、そんな風に思っていたら、

「アルル?」
「リュネ?」
「ケン?」

 襟元からアルたちが顔を覗かせ、首を傾げた。

 元々ソフィアにはアルたちと一緒に行動すると伝えていたため、俺が着ている礼服にはアルたち専用スペースポケットが首元の裏側に存在する。そのポケットには魔力遮断など、色々な効果も組み込まれているのだが。

 兎も角、どうにも俺の様子がおかしくそこから顔だけ出したらしい。

 まぁ、らしくないことを考えてしまったのはある。少しだけ雰囲気が変わっていて、心配だったのだろう。

 なので俺は切り替えて、手に持っていた小皿とフォークを足元に置き、アルたちを安心させるように微笑む。人差し指の腹で優しく頭を撫でる。

「大丈夫だよ」
「アル?」
「リュ~ネ?」
「ケケン?」
「ほんとだって。そうだ。アルたち的にこの花はどうなの?」

 疑わしそうな様子のアルたちに俺は苦笑いし、話を変えるためにすぐ隣の大きな花瓶にけられている美しい花をアルたちに見せる。

 色艶、美しさ、育てにくさ等々を考慮すると、俺的にはいい花だと思うんだよな。まぁ、どんな花だっていい花だとは思うが。

「ア~ル」
「リュネネ、ネッ!」
「ケン、ケンケン!」

 アルはやれやれと言わんばかりに頭の一枚緑葉っぱを横に振り、リュネはアルに抗議するようにいいところを頭の二枚黄色葉っぱで示し、ケンは珍しく三枚赤色葉っぱを揺らし、興奮していた。

 どうやら、リュネとケンはその美しい花を気に入ったらしい。アルはそうではなかったらしいけど。

「まぁ、落ち着いて。アル的には――」

 なので、わちゃわちゃする三匹をなだめながら、俺はアルに気に入らなかった部分を尋ねようとして、

「なぁ? こいつら、何なんだ?」

 話しかけられた。

「ッ!?」
「のわっ!!??」

 一応その気配は察知していたが、どうせ俺に気が付かないで通り過ぎるだろうと思っていたせいで、俺は驚き、反射的に足元に置いていた小皿の上のフォークを掴み、その存在に突きつけた。

 同時にアルたちを服の奥に押し込める。アルたちが少し痛がる声が聞こえたが、緊急事態だ。辛抱してもらう。

「……何?」

 俺はフォークを眼前に突きつけられて驚いた目の前の存在を睨む。

 その存在とは、

「なんだよ。俺、何かしたか?」

 赤紫髪の少年。

 一昨日、俺とライン兄さんの斑魔市観光を邪魔したやつだ。

 やっぱり貴族だった。こいつ。

 正直、関わりたくない。こいつに関わるということは自動的にあの紫髪紫目の少女と関わることになるだろう。

 そしてライン兄さんの反応からすれば、紫髪紫目の少女は相当の家柄の娘。厄介事の種でしかないのだ。

 っつうか、どうやって俺に気が付いたんだ、こいつ? 一昨日のもそうだが、そう簡単に見破られるような隠形ではないんだがな……

 と、思いながら流石に危ないから、突きつけていたフォークを下げると、その赤紫髪の少年はグイッと俺に距離を詰める。

「間抜け顔も貴族だったんだな! 俺と同じだな! あのちっこいのは何だ!? 見たことないぞ!? あ、名前はなんだっ? 俺はオル! オルドナンツ・オーバックだ! よろしくな!」
「うっ!」

 俺と同年代だけあって、やはり距離の詰め方が子供だ。

 思いつくことの全てをまくしたてるし、話の流れが速い。というか、熱量が凄い。まさに子供だ。

 っというか、オーバック家で、俺に近い背丈だとすれば、

「俺と同じか」

 目の前のコイツも俺と同じく、今年で五歳になったということだ。ロイス父さんたちにそれなりに貴族の、特に今年貴位の言祝ことほぎを授かるやつの情報は叩き込まれたからな。

 オーバック家はマキーナルト家と同じく子爵位の家であり、バールク公爵家の分家とかそんな話だったか。

 つまり、あの紫目紫髪の少女は公爵令嬢の可能性が高いわけか。

 ……より一層厄介事の種になった。

「両親はどこにいるんだ?」

 俺はチラリと周りを見渡しながら、尋ねる。直ぐにこいつから離れる事も考えたが、どうやらこいつには俺の隠形を見破る力があるらしいしな。

 “解析者”でその力を“解析”しているが、まだ詳細は分からない。

 詳細が分かるまでは逃げられないから、俺は時間稼ぎをする。あと、両親がいれば引き渡して首輪を繋いで貰いたい。俺の所に来ないようにしたい。

 オルドナンツは俺の問いに首を傾げ、きょろきょろと辺りを見渡し、そしてまた俺を見て首を傾げる。

「……どこにいるんだ、親父オヤジたち?」
「俺が聞いてるんだけど……」

 じとっと俺は目を細める。

 オルドナンツはあっけらんと笑う。

「分からんが、まぁ大丈夫だろ! それよりも、お前の名前はなんだ!?」
「……はぁ」

 どうやら、迷子らしい。

 あと、オルドナンツが騒ぐせいで、何人かが俺に気が付き始めてしまった。

 俺は溜息を吐き、オルドナンツを見やる。

「教えるから、ちょっとこっちい」
「あん? ああ、分かったぞ!」

 俺はオルドナンツを連れて、移動したのだった。
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