異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

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王都邂逅

無事達成。それはそうと、気が付いた人は……:third encounter

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 王城の城門をくぐり、ロイス父さんとアテナ母さんが一瞬で早着替えした十分後、馬車は止まり、俺たちは降りた。

 人気ひとけは少なく遠くにいくつかの馬車が見えるくらい。王城の正面入り口というよりは貴族専用の裏口に近いだろうか?

 高貴そうな身なりの騎士と執事が一人づつ、待っていた。

 騎士は馬車から降りてきた俺を見て一瞬だけ目を見開くが、直ぐに表情を整える。

 それからその騎士は、滅茶苦茶カッコいい、ザ・貴公子って感じの礼服を纏っているロイス父さんに礼を取る。

「ようこそお出でました、マキーナルト子爵様。王国第四騎士団所属、サンマル・リッケルが会場に案内させていただきます」
「ああ」

 騎士――サンマルさんの言葉に、ロイス父さんは威厳たっぷりに頷く。普段のロイス父さんを知っていると、無理しているんだなと分かり、なんか、大変そうだなと思う。

 まぁ、いいや。

 サンマルさんと執事の人が先導し、俺たちを王城へ招き入れた。

 にしても、他に誰も見当たらないな。魔力感知では、結構な人数を確認できているが、俺たちが歩いている通路には俺たち以外いない。

 そう思っていたら、薄緑を基調とした淑やかでけれど、ナイスボディーを強調するようなドレスを着たアテナ母さんがこそっと教えてくれる。

 にしても、ブラウを出産してから一年近いが、プロポーションがいいよな。今日のために仕上げてきたのかな……

 まぁ、いいや。

「高位貴族や、面倒な起きそうな貴族は会場まで他の貴族と出会わないようにしているのよ。会場に入場する順番の調整や警護を万全性も兼ねてね」
「ああ、なるほど」

 VIP専用入口みたいなものか。

 そう思いながら、けれど気分はどんどんと落ち込んでく。憂鬱だ。

 ただ、ここはもう家でもないし、俺の歩幅に合わせて先導してくれているサンマルさんたちがいるのだ。外なのだ。

 溜息は吐かない。
 
 けど、やっぱり疲れるな……

 まぁ、先の事はいいか。

 それよりも、王城だけあって建築技術もだが、意匠や飾られている絵画に至るまで緻密に設計されているのが分かる。

 あと、隠し通路らしき場所も魔力感知でなんとなく分かった。面白い。

 それに……

 俺は歩きながらチラリと天井の隅を見やる。

 同時に、

「セオ」
「分かってる」

 アテナ母さんに一言名前を呼ばれる。俺は何もしないから、と頷く。

 というのも、俺たちを監視している人がいるのだ。

 エマさんだ。

 第三騎士団長ニールさんの部下の女性で、隠密の達人である。たぶん、諜報活動をしているのだろう。

 まぁ兎も角、ちょうど一年前くらいに死之行進デスマーチの数週間前に顔合わせしたのだ。

 あの時は隠れているエマさんを普通に見つけて言ってしまったため、色々とやらかしてしまったが、同じてつは二度は踏まない。

 見つけたとしても、口には出さないのだ。

 それよりも……。

 俺は首をかしげる。

 王城のとある場所から、凄い大きな魔力が感じるのだ。一つはクラリスさんの魔力だと思う。それなりに隠ぺいしているが、クラリスさんの魔力はよく知っているから、分かる。

 そしてもう一つはどこかで感じたことのある魔力。こう、無味透明に近い澄んだ魔力。こっちも隠ぺいしているけど、それとなく大きな魔力を持っているのでは? と感じる。

 まぁ、ただの直感だし、王宮だ。ものすごく魔力を持った魔法使いでもいるんだろな。

 そうなんとなく思っていたら、そのh突圧の魔力よりも少ないが、それでもそれなりに大きな魔力を持つ人たちがいっぱいる場所に近づいてきた。

 会場か?

 そう思ったら、先導していたサンマルさんが立ち止まった。ちょうど、その会場の裏側に近い。

 そしたらサンマルさんは懐から懐中時計を取り出し、チラリと見る。それから俺たちの方に振り返る。

「マキーナルト子爵様、少々お待ちください」

 サンマルさんは執事さんをおいて、その会場っぽい場所に消えてしまった。執事さんはまるで人形のように言葉を発しない。たぶんだけど、影に徹しているのだろう。。ロイス父さんに何か言われたら動き出す感じかな?

 まぁ、いいや。俺はロイス父さんを見やる。

「ねぇ、貴位の言祝ことほぎの開始は7時だよね」

 貴位の言祝ことほぎは、国王と七星教会の大司教が貴族位を与え、神の子ではなく人の子として生まれたことを祝う事だ。入学証書授与とかそんな感じ?

 ロイス父さんは頷く。

「そうだよ。その少し前に集合の声が掛かると思うから、それまでは軽い挨拶回りだね。本格的な挨拶回りは貴位の言祝ことほぎが終わったあとからだよ」
「ふぅん」

 俺は見逃さない。軽い挨拶回りと言っていたが、ロイス父さんの目元が少しだけ引きつっていたことに。

 絶対軽い奴じゃない。ライン兄さんやエドガー兄さんの言葉を加味すれば、たぶん滅茶苦茶多くの貴族が押し寄せるのだろう。

 なので、俺はゆっくり魔力偽装と“隠者”の効力を強めていく。ロイス父さんたちにすら違和感を悟らせないように。

 ぶっちゃけ言うと、ロイス父さんよりもアテナ母さんの方がこの手の見破りは得意なのだが、ブラウの出産による弱体化などでそれなりに感知精度が低下している。

 しかも、今は何故かそこまで元気がないように感じる。にこやかな笑みを顔に貼り付けているし、精神的に少しいっぱいいっぱいなのだろう。

 ククク。

 順当に分身体身代みがわり計画が進んでいるな。思わず悪い笑みが出てしまうほどに、順当だ。

 まぁ、貴位の言祝ことほぎには出る。ただ、その前後の挨拶回りが嫌なのだ。面倒だし、疲れそうだし、うん。その時だけだ。入れ替わるのは。

 と思っていたら、サンマルさんが戻ってきた。

「お待たせいたしました。では、ご案内いたします」

 サンマルさんは俺たちを導く。

 少し進んで先にあった少し大き目の両扉の片側のドアノブに手をかけ、ゆっくり開いた。

 そしてロイス父さんを先頭に俺たちは足を踏み入れる。

「……おぉ」

 煌びやかだ。

 ざっと見た感じ、半径百メートル以上あるだろうか。たぶん、王城の大広間なのだろう。

 俺たちが出てきた扉は大広間の奥側で、大きな階段の直ぐ近くだ。

 大きな階段は海外の宮殿の階段で見る感じのやつで、中央に幅が広い階段があり、途中で左右に二手に分かれる感じのやつだ。それが大広間の奥にある。

 ただ、階段は少し不思議で、階段の左側の一部にスロープが設置されていた。

 それで俺たちが入って来た側は一面壁で、その反対側は庭園につながるガラス張りの扉がある。

 いくつもの美しいシャンデリアが大広間を彩り、天井や壁のいたるところに緻密な意匠が施されている。ささやかに飾られている絵画や美術品、花も一級品。

 夜なので夕食も兼ねているのだが、いくつもの丸テーブルが並べられており、その上に美味しそうな匂いを漂わせる料理が並んでいる。

 まぁ、見た感じ立って食べる感じだな。

 で、そんな大広間には結構な数の人がいた。

 まず、給仕と警備の人。給仕は執事とメイド。服装は結構地味だが、使われている生地などの質は相当いい。動きも洗練されている。まさに一級の使用人だ。

 警備の人は、気品が高そうな騎士と隠密系で影から監視している人たちがいる。影から監視している人は分からないが、騎士の人たちは目立たないように佇みながら鋭く目を光らせている。うん。まぁまぁ強そうだな。

 そして貴族。大人と子供で、大人の数の方が多い。当たり前だけど、両親だし、二人以上いるしな。貴族だから、片親だけっていうのも殆どいないだろうし。

 で、子供は俺と同じ年と年上。たぶん、九歳近くまでだろう。というか、分かりやすい。俺と同じ年は結構浮いてる感じがあるし。

 ………………

 さらりと見た感じ、やっぱりライン兄さんとかは珍しいだよね。みんな、五歳児と言わんばかりに子供な雰囲気だ。

 つまり、うん。五歳児だ。それ以上でもそれ以下でもない。あ、でも、三人くらいすごく理知的というか、大人っぽい子もいるな。

 と、思ったら、

「ひっ」

 グリン。話に花を咲かせていた大人たちが俺たちに振り返った。こう、狩人が獲物を狙うような眼。

 怖い。ホラーだ。

 それから一斉に互いを視線でけん制し合い、じわりじわりと俺たちに近づいてくる。子供たちもそんな大人たちの雰囲気を感じとったのか、俺たちの方を見る。

 ……やっぱり怖い。

 そして一瞬。

「「はぁ」」

 ロイス父さんとアテナ母さんのすごく小さな溜息を完全にかき消すがごとく、大勢が俺たちの回りに集まった。

 よし、今だ。

 俺は一瞬だけ“隠者”で姿を隠し、分身体と入れ替わろうとして、

「いかせない――」

 ロイス父さんが俺の首根っこを掴もうとして、

「お久しぶりでございますな。マキーナルト子爵殿」
「あ、ちょっと」

 一番近くにいたおっさんがロイス父さんに話しかけてきたおかげで、ロイス父さんは俺の首根っこをつかみ損ねた。

 つまり、分身体との入れ替わりが成功した。

 たぶん、入れ替わりに気が付いた人は殆どいないだろう。

 アテナ母さんは気づいたが、時すでに遅しと言った感じで、既に色々な夫人に囲まれていた。

 俺は魔力偽装で魔力気配を全くの別人に変え、“隠者”で大広間の目立たない壁側に移動する。

「おお。確かにレモンが言っていた通り料理は美味しそう」

 壁側に並べられていた料理群を見て、俺は感嘆の声を上げる。

 うん。美味そうだし、腹ごなしをするか。

 そう思って俺は近くの給仕の人に声をかけて、お皿を受け取り、料理をお皿によそり、壁側に寄りかかって食べた。

 ……ロイス父さんたちが凄い目つきで俺をにらんでいるが、うん。知らない。


 Φ


「……気が付いたか?」
「……はい。マキーナルト子爵様がほんの僅かばかり殺気を飛ばしていましたので」
「……つまり、それがなかったら気が付かなかったことか。お前が」
「……ええ」

 父と娘の会話。けれど、驚愕しすぎてそれ以上言葉を交わすことはできなかった。
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