異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
198 / 316
王都邂逅

当主とその子供では身分が少し変わります。存じ上げるは最高敬語:First encounter

しおりを挟む
「うげっ」

 ロイス父さんが思わずそんな声を出した。隣で優雅に座っていたアテナ母さんに肘で突かれ、こほんと咳払いする。

 ここは貴族街。王城を中心に円状に連なっており、とても広い。半径数キロほどあるのではなかろうか。たぶん、市街地よりも面積が広い。

 というのも一つ一つの家が大きいのと、家と家がそれなりに離れているのだ。

 ライン兄さんに聞いたところによれば、無用なトラブルを避けるためだとか。

 王都は基本的に南と東に門がある。

 それゆえか、王都に住まう貴族たちの屋敷も大抵は南と東側にある。あと、南門から王城までは一直線の道で繋がっており、貴族街であってもそこの領域は一般人でも入れるとか。

 色々な高級そうなお店が立ち並んでいた。

 そして西や北は、俺たちのような地方貴族が泊るための、別荘や借用屋敷が集合している。あとは巨大な演習場だったり、緊急時に民を受け入れる場所なのだとか。

 貴族街といいながら北は特に色々なものが入っているらしい。

 まぁ、北に行けば行くほど貴族にとって重要な場所ではなくなる。王城の影で太陽が隠れるから、基本的にそこに住みたいとは思わないだろうし。

「ねぇ、あれ、全員、使用人なの?」
「そうだよ。一昨年もあんな感じで父さんたち、嫌がってたんだよ。あ、それとあの人たち王家から派遣されている人たちだから」
「分かってる。それ相応の作法でしょ。大丈夫、礼儀作法はそれなりに問題ないんだから」
「……いや、礼儀作法は問題なくても常識に問題ありそうなんだよね」
「常識外れの天才が何を言っているんだか」

 俺はライン兄さんに呆れた表情を向ける。

 西側の一等地と言わんばかりの場所にある豪華な敷地内。

 敷地への門と屋敷はそれなりに離れていて、レモンが馬車を敷地内に進めた際は遠目でしか屋敷が見えなかった。

 しかしながら屋敷前に行くにつれ、それはハッキリ見えてきた。

 ずらりと若人から老人まで、性別問わず様々な使用人が恭しく並んでいて、俺たちに頭を下げていた。およそ四十人近くだろうか。

 The貴族って感じだ。レモンが使用人じゃなくてただの御者にしか見えないほど、動きが洗練されている。

 そしてそんなレモンもうげぇと顔を顰めていた。「これがあるからいつもユナに任せてたんですよね」とぶつくさ呟いていた。

 モフモフの狐尻尾はしんなりと垂れさがっていた。

 俺たちは馬車から降りた。

 すると、マリーさんかそれ以上に背筋が伸びて厳しそうな雰囲気のメイド服を着た女性が一歩前へ出た。ダークブラウンの瞳が鋭く光、白髪が少しだけ混じった長髪までもがピアノ線のように張り詰めていた。

 恭しく先頭を歩くロイス父さんとアテナ母さんに頭を下げる。

亭々ていていたる昇り竜が息吹を鳴らす頃、再びお会いできたこと光栄に存じ上げます」
「久しぶりです、リザさん」

 紳士服を着ているロイス父さんは、にこやかにその女性――リザさんに微笑みかける。

 頭は下げず、されど品と礼を保って。

 イケメンである。

 隣のアテナ母さんは一言も発することなく、けれど目くばせと仕草だけでリザさんに挨拶していた。

 ……うっわ。面倒くさそう。え、貴族スタイルで過ごさなきゃいけないの、マジで、面倒くさそう。

 俺が顔を顰めそうになると、隣のライン兄さんんが軽く咳払いする。

 う、我慢しないと。

 ロイス父さんが身体を一歩引いて、俺たちの方へ手を向ける。最初はライン兄さんの方。

「若葉盛る父の光に、その恵みに再び御目通り願えたこと、大変光栄でございます。お久しぶりでございます、ラインヴァント・マキーナルト様。リザ・リードバルトでございます」
「久しぶりです、リザさん」

 頭を下げたリザさんにライン兄さんは軽く目を伏せる。

 それからロイス父さんは俺の方に手を向ける。口を開く。紹介だ。

「リザさん、紹介するよ。こっちが今年生誕を授かる」
「セオドラー・マキーナルトです」

 一応、事前にこういう事は教わっていたので、頭は下げることなく、それでも丁寧に挨拶する。

 リザさんは一瞬だけ、俺とロイス父さん、アテナ母さんの顔を見比べ、直ぐに冷徹な表情を取り繕う。

 ……分かってるもん。

 そりゃ似てないよな、うん。ロイス父さんたち物凄い美形だけど、俺、そうじゃないもんね。天パ気味の眠たそうな顔してるもんね。印象薄い感じだもんね。

 知ってる。ラート町で散々言われたし、うん、知ってるよ。

「雫が命を芽吹かせ、残花が土に還りたてまつるこの地にてお会いできたこと、光栄でございます。初めまして、セオドラー・マキーナルト様。私はリザ・リードバルトと申します。此度、この屋敷を預かる使用人長でございます。何かあれば申し付けくださいませ」
「分かった。よろしく頼みます」

 面倒、面倒と心の中で叫びつつ、俺はなんとか右手を胸に当てる。

 すると、ロイス父さんが俺たちに向かい直った。

「っということで、荷物の搬入とか色々あるから、遊んできていいよ」
「え。いいの」
「うん。あと二時間後には夕方になるから、その前までには帰ってきなさい。あと、夕立があるかも知れないから気を付けて。じゃあ、これ」

 ロイス父さんは俺たちに銀色のコインをそれぞれ渡した。仰々しい模様が刻まれており、精巧だとわかる。逸品ものだろう。

「懐に隠し持ってなさい。そしてトラブルに巻き込まれたなら、見せなさい」

 注意するように静かにそういったロイス父さんは俺たちの背を向け、リザさんたちと話し込む。レモンは他の使用人に指示を出していた。

 優雅にニッコニッコと微笑むアテナ母さんに視線を送れば、軽く頷き、外を指さす。

 たぶん、俺たちがいると邪魔、もしくは面倒なのだろう。

 ということで、俺とライン兄さんは敷地の外に出たのだった。


 Φ


「生誕祭って明後日でしょ?」
「そうだね」
「エド兄によればだけど、うちってかなり王都にいることが少ないからさ。あの使用人の中にも色々いるらしいんだって」
「……諜報員?」
「ひも付きとか言ってた」

 王家から手配された使用人たちって話しだったけど、つまり王家が採用するほどの人たちだから、多分、騎士爵や男爵、後は爵位を持たない宮廷貴族の人たちの子息子女が王家に雇われている感じなんだろう。
 
 リザさんはそのまま王家の方に仕えてるって感じか?

 まぁどっちにしろ、血のつながりがあるわけだし、完全につのは難しいのは確かだろう。

「危険とかはないし、王家の方も注意して監視してるらしいから問題はないんだけど、なるべく手札を隠して起きたいんだって」
「俺の情報って事か」
「らしいよ。特に生誕祭はどれだけ相手の子息子女の情報を持っているかがカギになるとか言ってたし」
「ああ、面倒くさい。そんな泥沼そうなところに明後日足を踏み入れるのか」

 そう言いながら、俺とライン兄さんは貴族街と市街地を分断する二メートルほどの壁の影に隠れる。

「ねぇ、普通に市街地に行っても良いんだよね」
「うん、たぶん。本当は貴族通りで過ごして欲しいんだろうけど」
「貴族通り?」
「ほら、南から一直線に伸びてる通り。高級店が多いでしょ。だから治安がいいんだよ」
「確かに」

 貴族街の影に隠れた俺たちは、面倒くさい肩っ苦しい上着を脱ぎ捨て、シャツだけになる。ライン兄さんも同様だ。

 俺の“宝物袋”に仕舞い、準備していたフードが付いた上品なローブを取り出す。

 ローブを羽織る。ついでに俺は首からゴーグルを下げる。

 すると懐から、

「アル?」
「リュネ?」
「ケン?」

 アルたちが現れた。

 王都に入る前に俺の懐に隠れているように言っておいたのだ。たぶん、もう出ていいと判断したのだろう。

「俺から離れなこと。あと、あまり人の目に付かないこと。じっとできる?」
「アルル!」
「リュネネ!」
「ケケン!」

 皆が頷いた。俺は微笑み、それからアルたちを頭に乗っける。三人とも俺の天パ気味の頭に埋もれ、葉っぱだけが頭から見える。

「中から覗いてね」
「アル!」
「リュネ!」
「ケン!」

 小さな声と共に俺の頭から生えた葉っぱがピンと立った。

 それを見ていたライン兄さんがプククと笑う。

「へ、変だよ、セオ。頭から葉っぱなんて……」
「そういうライン兄さんだって、ミズチを堂々と首にまいてるじゃん」
「そういうファッションなんだよ、ね」
「シュー」

 ライン兄さんの首にまきついていたミズチがチョロチョロと舌を出して頷いた。それから直ぐに微動だにしなくなる。

 つまるところ、アルたちの存在を隠すためだ。

 アルたちをずっと押し込めるのは嫌だ。だから、どうにかアクセサリーとかそういう装飾品として納得してもらうのだ。

 それに一応、認識阻害やら、ようやくモノになった放出魔力偽装などにより一般人の眼ではアルたちは認識できないはずだ。

 だから、問題ない。

「じゃあ、行こうか」
「え、跳ぶの?」
「貴族通りから市街地に抜けるのだって一応門番いるでしょ? 面倒じゃん。だから、こうやってっ!」

 そう言いながらライン兄さんは風魔法で脚に風圧を纏うと、そのままハイジャンプする。貴族街と市街地を分断する二メートルほどの壁を飛び越えた。

 仕方ないので俺も風魔術を発動させて飛び越えた。

 そして俺の初めての王都探索が始まる。
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...