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さて準備かな
道中のほとんどは農業魔法をきわめていました:Departure
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ラート町を抜け、緑一面の農業地帯を通る。
マキーナルト領は広い。なんといってもアダド森林とバラサリア山脈をも領地に持っているからだ。
そして、それらを除けば殆どが農業地帯となっている。ラハム山とアダド森林とバラサリア山脈のそれぞれの境目から流れている二つの大河、バーバル川とラハム川により肥沃な大地なのだ。
今は、アカサ・サリアス商会を使い、王国や他国の貴族相手に小麦や多種多様な農産物を輸出している。大量生産ではなく、質を高めて一種のブランド品として売っているのだ。
だが、しかしながら十数年前までここら一帯はそもそも農業ができる土地ではなかった。
バーバル川とラハム山が年に三度か四度ほど大洪水を引き起こすし、そもそもアダド森林やバラサリア山脈から流れる凶悪な魔物が棲みついていた。数年に一度、死之行進があったのもある。
殆どの人が農業に適している土地だとは思っていなかったのだ。
「まぁ、だから、僕とアテナがこの土地を欲しいと言ったときは、大抵の貴族が手放しに喜んでいたんだよね。公爵とか、頭の切れすぎる貴族は別として」
「へぇ。あれ、でも、ロイス父さんってその頭の切れすぎる貴族に厄介払いされたんじゃないの?」
「厄介払いって……まぁ、そうなんだけど」
ガタンゴトンと心地よく揺れる馬車。クッションやら何やらによりお尻が痛くなることもすくない。けど、サスペンションはついていないので、今度つけてみようかな。
「それでもこの土地は元々厄介な場所なのよ。農業地帯として成り立つ前提をクリアするのがそもそも難しく、そしてその土地に住んでいた先住民――今の町人の大半ね。彼らとの折り合いもつけにくかった」
「デメリットが上回ってたと?」
「そうよ。エウ様やアラン、ロイドロイドさんなど。スペシャリストがいたにも関わらず、事業にできるまで二年近くかかったわ」
「……二年って早い方だと思うんだけど」
「アラン一人いれば、普通は半年でできるわよ」
「……マジで?」
俺は驚く。それって結構、いや滅茶苦茶凄いのでは? 凄いというか、もはや一つの兵器では?
料理作って、庭いじりして、ガハハと笑っている筋骨隆々なだけじゃなかったのか?
そんな思考を読み取ったのか、ロイス父さんが苦笑する。
「アランは元々世俗嫌いで、クラリスが無理やり外に連れ出してね。今は冒険者の時の好もあって手伝ってくれているだけなんだ」
「料理は?」
「趣味。食事を疎かにするクラリスの世話をしてたら、凝りだしたとかなんとかだったけな?」
「庭いじりは?」
「そもそもアランは森、というか自然をいじる存在だからね……」
「何それ?」
「まぁ、結構ふわっとした存在なんだよね。元々はドワーフではあるんだけど」
「ふ~ん」
そういえば、アランの事、あまり知らないな……
帰ったら聞いてみるか。
「ねぇねぇ、拠点が見えてきたよ!」
と、御者席と馬車を隔てる窓からライン兄さんがひょいっと顔を出した。周りの景色や匂い、感触などを堪能したくて、御者席に移動していたのだ。首にはミズチが巻かれていた。
なんというか、傍目からみると一種のファッションに見えるんだよな……
「もうか。少し早めに着いちゃったな……」
ライン兄さんの言葉を聞いて、ロイス父さんは腕を組んで悩む。
「仕方ない。レモン、もう少し速度を落としてくれないか?」
「分かりました」
レモンがそう頷くと、馬車の速度が目に見えて遅くなった。たぶん、徒歩よりも遅いかもしれない。
「拠点って農業拠点だよね? 一番ラート町に近いし、第四拠点だったけ? なんか予定でもあるの?」
「ああ、セオには言っていなかったね。今回は王都への道中にある農業拠点の全ての視察を入れてあるんだ。だから、行きは結構ゆっくりになるよ」
農業拠点とは、その名の通り農業従事者が住まう拠点だ。
ただ、農村とは少し違う。マキーナルト領には農家がいないからだ。
マキーナルト領の農業従事者はマキーナルト家が雇っている公務員であり、いわば農業拠点は社宅などが集まった場所だ。
後は、ラート町を訪れる冒険者や商人のための中継地点でもあったりするんだが……
「うん? 元々王都に行くのには一週間近く掛かるっていってたけど、じゃあもっとかかるの?」
「いや、一週間で王都に行くよ。元々、天角馬は持久力もスピードもある。やろうと思えば、一日で王都にもいけるよ」
「えっ!?」
いやいや、前に地図で見たけど一直線の最短距離でも、結構あるよ、ここから王都まで。江戸時代の悪路を草履で一日三十キロ歩く超人健脚の人でも、三日は掛かりそうな道のりだよ?
驚く俺を見て、ライン兄さんは変な表情をした。
「何驚いてるの、セオ。天角馬っていったら、世界を一か月で一周したなんていう逸話があるくらい、早くて持久力がある馬だよ。っというか、幻獣だし。それくらいできておかしくないでしょ」
「あと、道の整備は結構気合をいれたからね。ほぼ最短ルートでいけるんだよ」
「な、なるほど」
いや、だが、やっぱりおかしくない?
……まぁ、いいか。そういうもんだと納得しておこう。
そうしてゆっくりと時間を引き伸ばし、第四拠点に着いた。
それでロイス父さんの視察に俺たちも参加させてもらった。まぁ、俺の場合は挨拶等々も兼ねていたのだが、
「凄い……」
「セオでもこれできないの?」
「できるかな……? 分からない」
何から何まで新鮮だった
そもそも、第一産業で肉体労働のイメージが強い農業だが、魔法や能力がある場合、それは変わってくる。
アメリカの機械で行う農業の機械部分を魔法に変えたようなものだ。
なので、ここにいる人たちの魔法や能力の腕前が凄いのだ。
高台から半径数十キロメートルに亘って水を降らせたり、しかもその水の量だって作物の成長具合や葉っぱの色合いなどから、凄く細分化されていた。
また、土魔法などで、雑草だけを引っこ抜いたり。後は、栄養を集めるためか、花や葉っぱなども風魔法の風の刃を使って間引いたり。
収穫も見せてもらったのだが、作物を傷つけないにしながら、〝念動〟などでおよそ数百メートルの農作物を一瞬で収穫したり。
色々と常識が崩れ去る音が頭の中で響いた。
「一週間前から、西から来た見知らぬ渡り鳥が棲みついたのが問題ですね。最初の数日は問題なかったのですが、次第に飼い鳥たちを挑発したり、作物を食い荒らしたり。あと、糞を落として、病原菌などで作物が枯れたり、栄養過剰になっているところもごくわずかにあります。今は簡易の結界などにより被害は僅かですが」
「早めの対処は必要だね。にしても西からの渡り鳥……ああ、パーン大陸の方であった大きな森林火災の影響か。ただ、なるべく手荒な真似はしたくないし……渡り鳥の飛行時間や移動範囲の傾向などのデータはでてるかい?」
「少し待ってください。……一週間ほどですが、出ています」
「分かった。直ぐにロイドロイドに指示を出す。君たちは、これまで通り結界の展開とデータの収集をお願いする。それと、異変が起きたら規定通り放浪兵団を使って連絡するように」
「了解しました」
後ろではロイス父さんたちがそんな会話をしていた。
そうして、色々な農業拠点を移動しながら一週間近く。
将来農業従事者としてエドガー兄さんに雇ってもらえるくらいには、農業魔法を極めた時、
「王都よ、私は帰ってきたっ!」
「始めてきたでしょ」
王都にたどり着いたのだった。
マキーナルト領は広い。なんといってもアダド森林とバラサリア山脈をも領地に持っているからだ。
そして、それらを除けば殆どが農業地帯となっている。ラハム山とアダド森林とバラサリア山脈のそれぞれの境目から流れている二つの大河、バーバル川とラハム川により肥沃な大地なのだ。
今は、アカサ・サリアス商会を使い、王国や他国の貴族相手に小麦や多種多様な農産物を輸出している。大量生産ではなく、質を高めて一種のブランド品として売っているのだ。
だが、しかしながら十数年前までここら一帯はそもそも農業ができる土地ではなかった。
バーバル川とラハム山が年に三度か四度ほど大洪水を引き起こすし、そもそもアダド森林やバラサリア山脈から流れる凶悪な魔物が棲みついていた。数年に一度、死之行進があったのもある。
殆どの人が農業に適している土地だとは思っていなかったのだ。
「まぁ、だから、僕とアテナがこの土地を欲しいと言ったときは、大抵の貴族が手放しに喜んでいたんだよね。公爵とか、頭の切れすぎる貴族は別として」
「へぇ。あれ、でも、ロイス父さんってその頭の切れすぎる貴族に厄介払いされたんじゃないの?」
「厄介払いって……まぁ、そうなんだけど」
ガタンゴトンと心地よく揺れる馬車。クッションやら何やらによりお尻が痛くなることもすくない。けど、サスペンションはついていないので、今度つけてみようかな。
「それでもこの土地は元々厄介な場所なのよ。農業地帯として成り立つ前提をクリアするのがそもそも難しく、そしてその土地に住んでいた先住民――今の町人の大半ね。彼らとの折り合いもつけにくかった」
「デメリットが上回ってたと?」
「そうよ。エウ様やアラン、ロイドロイドさんなど。スペシャリストがいたにも関わらず、事業にできるまで二年近くかかったわ」
「……二年って早い方だと思うんだけど」
「アラン一人いれば、普通は半年でできるわよ」
「……マジで?」
俺は驚く。それって結構、いや滅茶苦茶凄いのでは? 凄いというか、もはや一つの兵器では?
料理作って、庭いじりして、ガハハと笑っている筋骨隆々なだけじゃなかったのか?
そんな思考を読み取ったのか、ロイス父さんが苦笑する。
「アランは元々世俗嫌いで、クラリスが無理やり外に連れ出してね。今は冒険者の時の好もあって手伝ってくれているだけなんだ」
「料理は?」
「趣味。食事を疎かにするクラリスの世話をしてたら、凝りだしたとかなんとかだったけな?」
「庭いじりは?」
「そもそもアランは森、というか自然をいじる存在だからね……」
「何それ?」
「まぁ、結構ふわっとした存在なんだよね。元々はドワーフではあるんだけど」
「ふ~ん」
そういえば、アランの事、あまり知らないな……
帰ったら聞いてみるか。
「ねぇねぇ、拠点が見えてきたよ!」
と、御者席と馬車を隔てる窓からライン兄さんがひょいっと顔を出した。周りの景色や匂い、感触などを堪能したくて、御者席に移動していたのだ。首にはミズチが巻かれていた。
なんというか、傍目からみると一種のファッションに見えるんだよな……
「もうか。少し早めに着いちゃったな……」
ライン兄さんの言葉を聞いて、ロイス父さんは腕を組んで悩む。
「仕方ない。レモン、もう少し速度を落としてくれないか?」
「分かりました」
レモンがそう頷くと、馬車の速度が目に見えて遅くなった。たぶん、徒歩よりも遅いかもしれない。
「拠点って農業拠点だよね? 一番ラート町に近いし、第四拠点だったけ? なんか予定でもあるの?」
「ああ、セオには言っていなかったね。今回は王都への道中にある農業拠点の全ての視察を入れてあるんだ。だから、行きは結構ゆっくりになるよ」
農業拠点とは、その名の通り農業従事者が住まう拠点だ。
ただ、農村とは少し違う。マキーナルト領には農家がいないからだ。
マキーナルト領の農業従事者はマキーナルト家が雇っている公務員であり、いわば農業拠点は社宅などが集まった場所だ。
後は、ラート町を訪れる冒険者や商人のための中継地点でもあったりするんだが……
「うん? 元々王都に行くのには一週間近く掛かるっていってたけど、じゃあもっとかかるの?」
「いや、一週間で王都に行くよ。元々、天角馬は持久力もスピードもある。やろうと思えば、一日で王都にもいけるよ」
「えっ!?」
いやいや、前に地図で見たけど一直線の最短距離でも、結構あるよ、ここから王都まで。江戸時代の悪路を草履で一日三十キロ歩く超人健脚の人でも、三日は掛かりそうな道のりだよ?
驚く俺を見て、ライン兄さんは変な表情をした。
「何驚いてるの、セオ。天角馬っていったら、世界を一か月で一周したなんていう逸話があるくらい、早くて持久力がある馬だよ。っというか、幻獣だし。それくらいできておかしくないでしょ」
「あと、道の整備は結構気合をいれたからね。ほぼ最短ルートでいけるんだよ」
「な、なるほど」
いや、だが、やっぱりおかしくない?
……まぁ、いいか。そういうもんだと納得しておこう。
そうしてゆっくりと時間を引き伸ばし、第四拠点に着いた。
それでロイス父さんの視察に俺たちも参加させてもらった。まぁ、俺の場合は挨拶等々も兼ねていたのだが、
「凄い……」
「セオでもこれできないの?」
「できるかな……? 分からない」
何から何まで新鮮だった
そもそも、第一産業で肉体労働のイメージが強い農業だが、魔法や能力がある場合、それは変わってくる。
アメリカの機械で行う農業の機械部分を魔法に変えたようなものだ。
なので、ここにいる人たちの魔法や能力の腕前が凄いのだ。
高台から半径数十キロメートルに亘って水を降らせたり、しかもその水の量だって作物の成長具合や葉っぱの色合いなどから、凄く細分化されていた。
また、土魔法などで、雑草だけを引っこ抜いたり。後は、栄養を集めるためか、花や葉っぱなども風魔法の風の刃を使って間引いたり。
収穫も見せてもらったのだが、作物を傷つけないにしながら、〝念動〟などでおよそ数百メートルの農作物を一瞬で収穫したり。
色々と常識が崩れ去る音が頭の中で響いた。
「一週間前から、西から来た見知らぬ渡り鳥が棲みついたのが問題ですね。最初の数日は問題なかったのですが、次第に飼い鳥たちを挑発したり、作物を食い荒らしたり。あと、糞を落として、病原菌などで作物が枯れたり、栄養過剰になっているところもごくわずかにあります。今は簡易の結界などにより被害は僅かですが」
「早めの対処は必要だね。にしても西からの渡り鳥……ああ、パーン大陸の方であった大きな森林火災の影響か。ただ、なるべく手荒な真似はしたくないし……渡り鳥の飛行時間や移動範囲の傾向などのデータはでてるかい?」
「少し待ってください。……一週間ほどですが、出ています」
「分かった。直ぐにロイドロイドに指示を出す。君たちは、これまで通り結界の展開とデータの収集をお願いする。それと、異変が起きたら規定通り放浪兵団を使って連絡するように」
「了解しました」
後ろではロイス父さんたちがそんな会話をしていた。
そうして、色々な農業拠点を移動しながら一週間近く。
将来農業従事者としてエドガー兄さんに雇ってもらえるくらいには、農業魔法を極めた時、
「王都よ、私は帰ってきたっ!」
「始めてきたでしょ」
王都にたどり着いたのだった。
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