異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

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さて準備かな

散歩というよりもただの雑談:emulate

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 あの後、俺たちは早めの夕食を取り、寝入ってしまった。滅茶苦茶疲れてたため、気絶するように寝たのだ。

 そのためか、

「……暗い」
「……ね」

 テントから出た俺たちの天井は、まだまだ暗く星々が輝いていた。

「っというか、寒い寒い。もう一度、寝よ」

 春先の夜風にブルブルと体を震わせ、俺はテントの中に飛び込み、寝袋に潜り込む。目を閉じて眠ろうとする。

 が、

「……眠れない」

 寝たのが早すぎたせいか、目が醒めてしまった。
 
 どうにか体を震わせたり、寝返りを打ったりするが、やはり寝れず。

 すると、もぞもぞと着替えていたライン兄さんが俺の体を揺らす。

「ねぇ、セオ。一緒に散歩しよ」
「………………えぇ」
「どうせ寝れないんでしょ。いいじゃん。流石に一人で歩き回ると怒られそうだしさ」

 まぁ怒られるだろうな。まだ、これが街だったら大丈夫だが、ここはバラサリア山脈。ここ周辺はアラン達が魔物を追い払い、結界を張っているから安全だが、一歩出れば危険地帯だ。

 つまるところ、

「一緒に怒られろと?」
「……まぁ、うん」

 苦笑いするライン兄さん。

 なんか、そういうことがあるよな、ライン兄さんって。末っ子気質というか、なんというか。

 まぁ、いいけど。

 寝れなかったし、うん。

 俺は芋虫の如くモゾモゾとしながら寝袋から出る。スパパパと着替える。それは目にも止まらぬ速さだ。

 けれど、すれでも外気に触れるので寒い。鳥肌が立った。

 ……一瞬で着替えできる魔術か魔道具でも作るか?

 そういえば、一度、そういうのを見たことがある気がする……いや、前世の記憶か。魔法少女だってライダーだって戦隊だって一瞬で着替えてたしな。

 あれを再現できたらいいか。研究するか。

 ローブを羽織り、寒いのでフードを被りマフラーを首に巻く。

「できたよ」
「じゃあ、行こうか」

 テントの外に出る。

 全てが澄んでいた。

 夜風に流れる空気は柔らかく、それでいて冷たい。聞こえるのは静寂に響く沢の音と、遠くから響く獣の声。

 薄暗いそこは、けれど幾星霜も輝く無限の星々によって美しく飾られる。

 まぁ、それでも足元は暗く危ないので、

「〝光球〟」
「ありがと、セオ」
「うん」

 球体上の魔力を発光させる無属性魔法、〝光球〟で辺りを明るくする。それでも淡い光のため、天に輝く星々がかすむことはない。

「それでどこを周るの?」
「そうだね……流石に結界外に出るのは駄目だろうし……」
「まぁ、そうだね。ある程度の事には対応できるけど、それでも絶対に安全を確保できないし」
「そうだよね」
 
 よかった、よかった。流石に外に出るなんて言わなくて――

「でも、出ちゃおっか」
「うぇっ?」

 フラグか。フラグを立てたのがいけなかったのかっ?

「い、いや、ライン兄さん。本当に危ないし、駄目だって」
「大丈夫だよ。セオだって分身体で外歩いてるんでしょ?」
「いや、それはごり押しで、無理。俺たちじゃ、死んじゃうからっ」

 語気を強くして言えば、ライン兄さんは少し思案顔になる。

「……じゃあ、ここの沢周辺だけ。ね?」
「……まぁ、それなら。結界外でもそこまで危ない魔物もいないはずだし……」

 俺はそう頷き、歩き始める。

 ……あれ? なんか、口車に乗せられたような……最初からこれが目的だったのでは?

 ま、まぁ、いいか。万が一のために分身体をキャンプ地に一体。それ以外の六体を先行させよう。

 うん。大丈夫だろ。

 自分を納得させる。

 たぶん、というか絶対マズったと思うが、仕方ない。こういうのは気持ちだ。たまには馬鹿な判断をしてもいいだろう。

 ……たまには?

「セオ、どうかしたの?」
「いや、何でもない。……それより、気になってたんだけどライン兄さんって結局俺と一緒に王都に行くの?」

 お茶会に出るのは知っているが、それって王都のお茶会なのだろうか。それともどっかの貴族領で行うお茶会なのだろうか?

 意外とそこらへんがハッキリしていなかった気がするんだよな……

「……帰りは一緒らしい」
「結局、王都には行くことになったんだね」
「うん。父さんはズルいよ。僕も王都のじゃないと思ったから頷いたのにさ。けれど一言も開催場所は王都じゃないって言ってなかったんだよね。……はぁ」
「ああ、そういえば流れ的にそんな感じだったけど、明言はしてなかった。でも、お茶会、しかも研究職の子息子女と会うんでしょ? ライン兄さん的には楽しみじゃないの?」

 そりゃあ、面倒な貴族を相手にするのは嫌だろうけど、少しでも興味のある分野に関わっている貴族の子息子女。

 そこまで嫌がる事でもないと思うのだが……

「いい、セオ。王都は魔境なの。予定にもなかったお茶会やパーティーに勝手に参加させられるなんてザラなの。前回、僕がどれだけ頑張って王立図書館に引きこもってそれを防いでいたか……」
「そういうもんなの?」
「そうだよ。なんせ、一週間ちょっと。生誕祭はエレガント王国の多くの貴族が王都に集まるんだよ。しかも、僕たちと同じような引きこもりの地方貴族も。交友を広げたい人がたくさんいるんだよ」

 ……うん?

「生誕祭って、五歳になる貴族の子息子女を祝う祭でしょ? そう、全ての貴族が毎年毎年子供を作っているわけでもないんだし、そんなに集まる?」
「集まるよ。五歳になるって言っても、年の近いとかで、大体十歳になるまで毎年行く場合も多いんだから」
「主役は五歳児だけど、それ以外もたくさん?」
「そういうこと。あと、地方貴族は地方貴族で結束力を強めるとかで、結構パーティーを開くんだよ。僕の時はフェーダー伯爵だったね」

 ああ、その名前なら最近聞いた。

「運河のでしょ?」
「そうそう。あ、そういえば、フェーダー伯爵からドルック商会経由でセオに手紙が来てたけど……」
「……ええっと、文通相手のお手伝いかな? まぁ、ちょっとした魔道具の設計を書くだけだし、基本的にクラリスさんがやってくれるから俺はそこまで関わらないんだけど」

 そういうと、ライン兄さんは物凄い微妙な表情をする。

「僕まで巻き込まないでよ。あと、絶対にセオがツクルだってバレたりしないでよ。フェーダー伯爵って東の河川舟運を仕切ってるから、国まで話は行くだろうし」
「……大丈夫だって」
「セオは顔に出やすいからさ。その大丈夫が全然信用できない」

 ……確かに。けっこうポカやらかす自覚があるしな……

 俺もライン兄さんみたいにどこかに引きこもるか。

「王立図書館っていい場所?」
「……まぁ、それは、本当に良い場所だよ。政に興味がない人が来ることのほうが多いし。メリンダさん、ああ、司書の人なんだけど、とても良い人だし、とても落ち着いてる。あと、古今東西あらゆる書物が集まっているんじゃないかって思うほどの本があるし、王立研究所の人たちが書いた論文も保管してるから、お金を払えば見せてもらえるし」

 饒舌だな……

 よほど良い場所なのだろう。

 にしても論文か。魔道具関連の論文がどれほどのものなのか知らないからな。

 クラリスさんに今の常識がどうなのかを尋ねているが、それもクラリスさんだしな……

 あまり当てにはならない。

 書きたい事はいっぱいあるのだが、論文の形式も分かっていないし、既にどんな論文があるのかも分かっていないから、書こうにも書けないんだよな。まぁ、ドルック商会で発行している月刊誌ペディスコーンマでは、いろいろと書いたりしてるが、あれはおまけみたいなもんだしな。

 クラリスさんに監査してもらっているし……

 というか、前世はそうだったけど、論文って形式をキチンと守るのが重要だったからな。その癖もあって、キチンと調べておいた方がいいのは確かだ。

 確かめたいな。

「どれくらいお金が掛かるの?」
「原本は大金貨レベル。まぁ、無理だね。それで正本はピンからキリで、安いやつだと小銀貨十枚程度。高いやつだと、小金貨十枚を超えるかな」

 つまり、一万円から一千万円前後か。

 ……知識が貴重なこの世界では適正レベルか。書き上げるのにそれなりの研究費がかかるだろうし、管理するのも一苦労だ。

 それに王立図書館に置いてあるということは、それなり認められている論文なのだろう。権威がある。

 妥当か。

「それで抄本だね。これは高くても小金貨くらい。ただ、読めばわかるけど、本当に最低限しか書いていないし、書き方も玉石混交だよ。聞いた話だと、学生のアルバイトの一つらしい。あと、写本するのは駄目らしい」
「……なるほどね。正本を読むのが妥当かな」
「うん。ああ、そうか。今は、お金あるし、前に諦めたのも読めるのか。どうしよ、セオと一緒に行こうかな? 僕がいることは伏せてもらって。ちょうど、変装の技術だってソフィアに――」

 ラン兄さんが頭を抱える。ジレンマに陥っているのだろう。

 と、

「ボクが何だって?」
「あ」
「ソフィア、いつの間に」

 ソフィアがいつの間にか目の前にいた。

 辺りを見渡すと、うに結界外に出ていて、沢もかなり上まで昇っていたらしい。全くもって気が付かなかった。

「二人とも、何かいうことはある?」
「散歩してました。故意です」
「謝るけど、反省はできません」

 結局こういうしかない。だって、怒られるの覚悟で歩いていたんだし。

 その割には周りの景色とかたのしむこともなく、ただただ話し込んでいただけだけど。

 ソフィアは満面の笑みで頷く。

「街に帰ったら、嫌というほど地獄を味合わせるから」
「い、痛いっ!」
「ちょ、ソフィアっ!」

 俺たちは耳を引っ張られ、ソフィアにキャンプ地に連れ戻されたのだった。
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