異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

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さて準備かな

同じではないが、違う血液型を輸血したと想像すると分かりやすいかもしれない:emulate

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「君たちは感覚的に魔力の流れを感知できている。うん。その歳でそれができるのは、凄いことだから誇っていいよ」

 カップと金属板をどこかにしまい、魔晶石と魔石をお手玉するソフィアは、「けれど」と続ける。

「酷な事を要求するよ。それだと、君たちは守れない」

 お手玉をやめ、真剣に俺たちを見る。

「今、見てもらったのは魔晶石と魔石が自然環境内でどうやって形成されるかの再現に近い。もちろん、実際は粒子状の魔力などなく、全ては非実体なんだけどね」
「わわっ!」
「急に投げないでよっ!」

 ソファが俺たちに魔晶石と魔石を投げる。ライン兄さんが魔晶石を、俺が魔石を受け止める。

「その形成の違いは君たちが考えること。ボクは教えないよ。まぁ違いを知らなくても問題はないからね」
「え、待って。じゃあ、ここまでの流れって何だったの?」

 ライン兄さんが胡乱な瞳をソフィアに向ける。これまでが無駄なのはあり得ず、絶対に意図があったはずだ。

「ただの与太話さ」

 ソフィアがニシシッと笑う。一転、真面目な表情をする。

「さて、一番最初に言った通り、二人には互いの体内魔力を感じて、それを隠蔽してもらう。はい、二人とも向き合って」
「え、あ、うん」
「……せっかちだなぁ」

 まだ、体内魔力等々の違いも分かってないんだが……

 いつも通り魔力感知をすればいいのか?

 と、思っていたらソフィアが向かった俺たちの手を掴む。

「じゃあ、両手を繋いで。そう。じゃあ、ボクが二人の体内魔力を操作するから、感知してね」
「ちょ――ッ!」
「うぇっ!」

 気持ち悪い。

 なんだ、これ。

 俺の魔力が無理やり動いているのもそうだが、ライン兄さんの魔力……いや、今まで感じていた魔力とは感覚的に全てが違うけど、それでも思わず拒否反応がでる魔力が流れてくる。

 気持ち悪い。気持ち悪い。

 吐きそう。

 一秒か、十秒か。どっちにしろ、一分は立っていないだろう。

「はい。やめ」
「はぁはぁはぁはぁ」
「なに、これ……気持ち悪い」

 ライン兄さんと俺はその場で膝を突き、倒れ込む。どばっと冷や汗がいっぱい出て、気持ち悪い。不快だ。

「……思ったよりも過敏だね。だとしたら……っと、ほら、水。ゆっくり飲みな」
「……ん」
「……分かった」

 いつの間にか、ソフィアは水が入った二つの木製のコップを持っていて、俺たちはそれを受け取る。

 恐る恐る口に着け、ゆっくり飲む。

「……ふぅ」

 清涼感が広がる。先ほどまでの気持ち悪さは消え去り、澄み切った爽やかさが心の奥底から広がる。

 ライン兄さんも同じだったのか、ふぃ~と頬を緩ませていた。

 と、思ったら。

「はい、もう一度向かって」
「え、待って。どういう――」
「やだっ。あれ、気持ちわ――」
「つべこべ言わない」

 流石にあれをまた味わいたいと思わない。俺たちはバッとその場から逃げようとしたが、

「ボクから逃げられるとは思わない方がいいよ。自慢じゃないけど、追いかけっこではロイス君たちにすら負けたことないから」

 瞬きした一瞬には、俺とライン兄さんは向かい合わせられた。

 そして、

「ッッッ!」
「もう嫌だっ!」

 また、気持ち悪いのが流れてくる。流れてくる。

 それに、さっきよりも明瞭だ。異物魔力が体に侵入しているのが、ありありと理解できる。異物だから、それを吐き出そうと自分の魔力を放出して押し出そうとするが、ソフィアに魔力制御権を奪われていて、それができない。

 “研究室ラボ君”もさっきから呼びかけても反応してくれない。

 そうしてまた一分も経たずして、

「よし」
「ッァ! ……ハァハァハァ」
「カッ! ……もう、や……だ。かえる。いえにか……える」

 かき乱された魔力を必死に制御して、俺は分身を五体、召喚。ソフィアに向かって全力全開の魔術を発動。

 ごめん、ライン兄さん。見捨てるっ!

 ライン兄さんを巻き込んだことに涙しながら、俺は浮遊魔術と風魔術を合成して、一気に上昇。風の膜を張って己を守り、家へと飛翔しようとした瞬間、

「言ったよね、ボクから逃げられないって」
「どうしてっ!?」

 俺はソフィアの前で正座していた。今まで上空にいたはずなのに、気づいた時には河原で正座させられていたのだ。

 どうやったのか、皆目見当もつかない。

 ソフィアが申し訳なさそうに、眉を八の字にしながら、

「ボクだって嫌だよ。苦しいのは知ってるし」
「な、なら……」
「けど、時に心を鬼にしなくてはいけないんだ。それに君たちも苦しみは早く終わる方がいいでしょ?」

 笑みだ。恐ろしい笑みだ。怖い、ヤバい。鬼だ。マジで、一番スパルタだ。
 
 ライン兄さんの方を見る。

「ら、ライン兄さんっ!」
「……逃げられないよ。僕たち、恐ろしい人の前にいるんだよ……ハハ」

 諦めた様子だった。全てを受け入れる事にしたらしい。

 え、マジでっ!? ライン兄さんがっ! 嫌なことがあったら、俺以上に逃げようとするライン兄さんがっ!?

「じゃあ、また再開するよ」
「いやだーーーー!!!!」

 地獄があった。


 Φ


 グスグスと泣き声が夜に響く。少し離れたところでは、おっさんたちBBQを堪能している声が響く。

「ふ、二人とも。ね、あれは今日で終わりだし、機嫌直して、ね」
「……やだ」
「……嫌い。あっち行って」
「わ、分かっていたけど、つ、つらい」

 河原にあった大きな岩の影で俺とライン兄さんは閉じこもる。マジで、ソフィアの顔なんて見たくない。

 もう嫌だ。

 ライン兄さんの魔力を無理やり体内に注がれて、それが数時間。残り最後は、ライン兄さんの魔力を俺が操作して、体外に放出される魔力の隠蔽をする。これも強制的にさせられる。

 もう嫌だった。気持ち悪いし、吐き気が止まらないし、いくら俺たちが根を上げても問答無用。

 今はだいぶ収まって落ち着いたけど、あんな思いはもう二度と味わいたくない。

 ソフィアは嫌いだ。

「ほ、ほら。ボクが嫌なのは分かるけど、ごはん、夕食、食べよ? ボクは席を外すからさ。ね?」

 いい匂いが漂う。肉だ。焼肉だ。どうやら俺たちを誘おうとしているらしい。

 ハンッ。そんなので俺らがつられるわけがないだろ。

 っつか、食べられない。食べたくない。

 めちゃくちゃ疲れているのに、眼だけがギンギンにさえていて寝れないし、けどだからといってお腹に何も入れたくない。入れたら吐く。気持ち悪い。

「持たないよ。今日ので食欲がないのはわかるけど、ね。明日まで持たないからさ、お願い。食べよ」
「「……」」

 ギュっと体育座りして顔を膝に押し付ける。何も聞きたくない。

 と、思ったらザッと大きな足音が聞こえ、

「喰え、坊主たち」
「やっ!」
「離せ、アランっ!」

 巨漢アランに首根っこを掴まれ、担がれる。ライン兄さんと同時に手足をバタバタとさせ、暴れるがびくともしない。

 諦めて、目を瞑り全てをシャットアウトしようとする。

「ソフィア。坊主たちは俺に任せて、お前はもう休め。顔色が相当悪い。あ、置いてある仙茶と冷暗薬、キチンと飲めよ。お前が一番負担があったんだしな」
「……ありがとう」

 …………………………

 ソフィアが消えた。

 ずんずんと歩くアランの振動だけが伝わる。

 アランがポツリと呟く。

「魔法は遺伝する。何故か分かるか?」
「「……」」

 嫌だ、何も聞きたくない。

「魔力が遺伝するからだ。魔力の波長、色、性質。それらによって属性変換のしすさが決まる。もちろん、だからといってセオのように属性変換が難しい魔力性質を持った子も産まれる。だが、母親と父親の魔力が合わさるから、必ず同じ部分――核が同様なんだ」

 沢のせせらぎが響く。夜のせせらぎだ。

「なぁ、セオ。お前、魔石の魔力を体内に取り入れたことはあるか? 魔法の補助で使う際、無意識に魔晶石と魔石で魔力の制御を変えなかったか? 魔晶石は体内に取り入れて、魔石は外で操作しただろ?」

 パチパチと火の粉が弾ける音が聞こえる。

「自然魔力は特有の核、いわば己を持たない。存在を持たない。だから、体内に取り込んでも問題ない。そもそも、魔力回復は自身の体内エネルギーの変換以外に、空気中の自然魔力の吸収もあるからだ」

 アランの体が暖かい。筋肉モリモリだからか、ホッカホカだ。

「だが、魔石は魔物――生物の魔力が凝縮したものだ。己がある。絶対の個があるんだ」

 早春の寒く、それでも柔らかい夜風が頬を撫でた。

「そりゃあ、拒絶反応がでるんだ。お前らは賢いからやったことはないかと思うが、口の中に長いものを入れてみろ。おえってなって吐くだろ? セオは兎も角、ライン。お前は熱になったことあるだろ? あれは異物を排除する反応だ」

 肉が焼ける匂いがする。野菜が焼ける匂いがする。

「お前らは家族だ。だから、それでも拒絶反応は少ない。己の部分の性質がだいぶ似通っているからだ」

 焚火に影が揺らめいていた。

「だが、ソフィアは違う。家族ではないし、まして種族も違う」

 おっさんたちが騒ぎ明かしていた。

「アイツは感知と制御に優れたやつだ。だから、子供の肉体でも耐えられるように拒絶反応を調整できる。微弱な反応の違いを一瞬で訂正できる」

 夜空は澄んでいて、幾星霜の星々が浮かんでいた。

「けれど、アイツは自分をおざなりにする。お前らに全力を注ぐ」

 へろへろと歩くソフィアが小さなテントに入っていく様子が見えた。

「お前らは賢い。聡い。なら、酷だが感情のままに世界を狭めるな。感情をないがしろにせず、けれど公平な杓子で世界を広げろ」

 俺たちは席に降ろされた。座らされた。

 目の前の簡易テーブルには、お米ではない穀物が入った薬膳らしきスープと、幾つかの果物があって、

『ゆっくり食べなよ』

 そう書置きがあった。
 
 

 


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