183 / 306
さて準備かな
成長は気が付かないところで行われ、そして一気に開花する:crawling
しおりを挟む
「……ええっと」
俺は考え込む。
「……色は俺が言っていいの?」
「ある程度聞くよ。後はロイス君やボク、アテナ君の意見も聞くけど。まぁ今日はユリシア君がアテナ君の代理だけどね」
「そうなの?」
「そうよ。ドレスについては母さんにみっちり仕込まれたから、安心しなさい!」
ユリシア姉さんがふすんっとした表情をしながら、胸をドンと叩く。
……ドンッと鳴ってしまうのはご愛敬――
「セオ?」
「セオ君。考えてること顔に出てるよ」
と、思ったら恐ろしい殺気がユリシア姉さんから放たれ、ソフィアも心なしか蔑むように俺を見る。
……気をつけよ。けど、ユリシア姉さんはアテナ母さんの子供だから将来の可能性は夢いっぱい胸いっぱいだ。……たぶん。
俺はユリシア姉さんに反省の意をみせつつ、色を伝える。
「地味、深緑とか茶色とかそっちをベースにすることってできる?」
「カーキー系だね」
「うん、たぶん」
俺は頷く。ソフィアはメモを取りながら、ユリシア姉さんとロイス父さんの方を向く。
「ユリシア君は?」
「う~ん。少し地味すぎじゃないかしら? セオの髪とか考えると、少し明るめでもいいかと思うんだけど。ああ、でも、暗めの赤をワンポイントにしてもいいかしら?」
「それならアクセントをダーク――いやビビットの赤にで、アソートがベースの明るめ系にしようかな? ……ロイス君は?」
ブツブツと呟いたソフィアは、ロイス父さんの方を向く。
ロイス父さんは顎に手をあてて少し考えこんだ後、
「……並んだ時に映える感じかな?」
「……なるほど。やっぱり、そこなんだよね」
「うん。そこだと思ってる」
ソフィアが神妙に頷き、ロイス父さんも同調する。
……並んだ? 誰と? いや、ロイス父さんたちとか。けど、なんでそんなに深刻というか真剣な表情をしているのだろうか?
ユリシア姉さんも少し目を細める。
「……父さんたち、何か隠してるのかしら?」
「……まぁ隠しているといえば隠してるけど、今の二人ともあんまり関係ないかな?」
「そう」
苦笑いするロイス父さんの表情を見て、ユリシア姉さんはそれ以上の追求をやめる。なら、俺もしない方がいいだろう。
こういう場合、首を突っ込んだ方が面倒ごとに巻き込まれるのだ。
「とすると……なるほど、分かった」
ソフィアはその碧眼を俺に向ける。
「色はこっちで幾つか検討するよ。他に希望はある?」
「う~ん。軽い服――動きやすくできる?」
「……素材次第では可能かな?」
ソフィアがチラリとユリシア姉さんの方を見る。
ユリシア姉さんはハッと顔を輝かせる。
「任せなさい、セオ。たとえ厄災級の魔物であろうと狩って見せるわ」
「……流石に厄災級はいいんだけど……」
俺は呆れかえる。ロイス父さんもソフィアも苦笑する。
けど、二人ともユリシア姉さんならいつかやりかねないな、といった目を向けている。
……ロイス父さんたちの子供だし、稀有な能力、“勇者の卵”があるし、他にも目覚ましい才能と努力をしてるからな……。あり得ないことではないだろう。
そう思うと、なんかユリシア姉さんが遠い存在に感じてしまう。
「そうそう、軽いっていっても色々あるけど、具体的には?」
「う~ん。通気性がいいのは譲れないかな」
「通気性ね。他には?」
「動きやすさとか、あ、そうだ。普段使いできる感じかな?」
「……なるほどね。日常的に使いたいと。それって、普通の日常生活だけ? それとも作業したり遊んだりとかは?」
ペンを弄び、頭をトントンと叩くソフィア。俺はう~んと首を悩ます。
「アランから貰う服は着やすいんだよね。今着てるのもそれだし」
「……山駆族の系統か。でも、セオ君って山登ったり、森を駆けたりしないよね?」
「多少するよ。それに俺自身がしなくても、分身体には色々とさせてるし。今もバラサリア山脈に四体派遣してて、鉱物と――」
そう説明しようとした瞬間、
「セオ?」
「セオ君?」
ロイス父さんとソフィアの瞳が恐ろしく開く。
「聞いてないけど?」
「ねぇ、ここ最近、許可証バッチを身に着けてない人影がバラサリア山脈で何度か目撃されてて、今度調査隊が組まれる予定だったんだけど? ボク、昨日までその手配をしてたんだけど」
……ヤバい。
ユリシア姉さんがアホと言わんばかりに遠巻きに俺を見やる。
「ま、待って。ろ、ロイス父さん。俺、ちゃんと言ったよ。ほら、半年前くらいにさ、死之行進のちょっと前くらい。必要な鉱石があるから分身体をさって言ったじゃんっ! それにソフィア。分身体が人前に出たことないし、ずっと“隠者”を使いっぱなしだから人影なんて目撃されない。つまり俺じゃない!」
「それって半年前でしょ?」
「たとえセオ君の“隠者”が凄かろうと、この町にいる冒険者は相当の実力者だけど。多少見破られる事はあると思うよ。だから人影なんだと思うけど?」
ロイス父さんとソフィアの瞳孔が恐ろしいほど開く。二人とも碧眼だから、余計恐ろしい。そういえば、俺以外ここにいるみんな碧眼だなっ!
「そ、ソフィア。その人影ってどこで目撃されたのっ?」
「第三脈と第二山脈だよ」
「なら、違う。分身体がいるのは第五山脈と第六山脈だもん。ここ半年間、ずっとそこにいる!」
俺はガクガクブルブルと震えながら、ユリシア姉さんが座っている椅子の後ろに隠れてそう叫ぶ。ユリシア姉さんは動じず、お茶を飲んでいる。
「あ、なくなったわ」と言って、ユリシア姉さんが席を立つ。
待って、盾がっ!
「……ちょっと待って」
俺が防御を失い、絶望した瞬間、ロイス父さんがこめかみを押さえて、そう呟いた。ソフィアも同じような様子だ。
「今、バラサリア山脈にいる分身体は半年前に召喚されたやつなの?」
「そ、そうだよ。だ、だから報連相はキチンとしましたっ! 怒られる理由がありません」
「……いや、継続しているっていう報告をしていないから叱るんだけどさ」
ロイス父さんは溜息を吐いた。
「アテナも言ってたけど、魔力量の件、想像以上に深刻らしい」
「いや、それよりも“隠者”の熟練度じゃない? ロイス君。第五、第六ってボクでも隠れ続けるのは難しいよ。確かに、分身体だから生命気配はないし、食事睡眠等々は必要ないかもしれないけど、戦闘せずに半年間隠れ延びたって事でしょ?」
「……それもか。確かに戦闘してたら、流石に結界を張ってるアテナか僕が気が付くだろうし」
「でしょ?」
おや、呆れてる? つまり怒られない?
「いや、叱るよ。セオ。反省してないようだし、報連相は重要だからね」
「けど、その前に幾つか聞かなきゃいけない事があるよ」
え、なんか二人とも凄い怖いんだけど。
一つも罪を見逃さないと言わんばかりに詰問してくる閻魔様みたいな感じなんですけど。
ヤバい。
「セオ、そこに座りなさい」
「……はい」
そして、服どころではなくなってしまった。
Φ
「戦闘なんてしたくないんだけど」
「戦闘はしないわよ。調査よ、調査」
「……だとしても、寒い中――」
すっかり夜の帳も落ち、俺たちは帰路についていた。あの後、色々とあって流石に疲れたので、俺はロイス父さんにおんぶされている。
ロイス父さんの背中から感じる圧力から、やっぱり着やせするタイプだよな、と思いながら、ユリシア姉さんにそう返答して、ロイス父さんが俺の体を揺らした。
「分かってるよ、ロイス父さん。測定でしょ?」
「それもあるけど、ソフィアから色々学んできなさい。魔力量の隠蔽もそうだけど、隠蔽している事を隠す技術も必要だから。じゃないと、生誕祭で面倒ごとに巻き込まれるよ」
「……分かってるよ」
俺がそう小さく呟くと、ロイス父さんは、小さく「ごめんね」と囁く。
……いや、俺が俺なりに色々した結果なんだから、俺がそれに対して責任というか、努力するんだから、謝る必要はないんだが……
けど、まぁむつかしいし、恥ずかしいけど、俺はロイス父さんを父親だと思ってるし、ロイス父さんも俺を子として愛してくれてるし――
「はっず」
「セオ、どうしたの?」
「いや、何でもない」
まぁ、ロイス父さんはロイス父さんで悩んでいるんだろう。うん。
「あ、ユナ」
「おかえりなさいませ、ロイス様、ユリシア様、セオ様」
と、ユナが門の灯の魔道具をつけていた。ユリシア姉さんの呟きでこっちを見て、深々とお辞儀をする。
「おつかれ、ユナ。夕飯はあとどれくらいかい?」
「確か、一刻後かと。風呂に入っていないのは、ロイス様たちだけです」
「分かった。ありがとう」
「恐れ入ります」
ユナはまだ門で作業を続けるらしい。俺とユリシア姉さんがありがとう、と言って手を振れば、振り返してくれた。
玄関は既に灯の魔道具で明るく、ロイス父さんが家の扉を開ける。
「ただい――」
「ちょっと、待ってっ!」
「アナタ、ブラウを止めてっ!」
「あううぅあっ!」
ライン兄さんとアテナ母さんが大きな声を出し、そしてハイハイしたブラウが剛速球で飛び出し、
「ッ!」
ロイス父さんが間一髪でブラウを受け止めた。俺は邪魔にならないようにスルリとロイス父さんの背中から降りた。
けど、それどころではない。
「ハイハイできるようになったのっ!?」
「そうよ! ついさっき、急にハイハイしだしたのよ。それで」
「間髪入れずにここまで来たんだね」
「あ~う」
ロイス父さんが抱きかかえたブラウをアテナ母さんに渡す。肩で息をしていたライン兄さんが、けれど興奮した様子で語る。
「赤ちゃんってあんなに早くハイハイできるんだねっ! 全然捕まえられなかったよっ!」
「いや、そんな事よりもブラウがハイハイしたんでしょっ! お祝いしなきゃ!」
「そうよっ! 何かしなきゃっ!」
俺とユリシア姉さんも興奮する。
そして、
「落ち着きなさい、アナタたち」
「そうだね。まずは、セオとユリシア。風呂に入ってきなさい」
アテナ母さんとロイス父さんが微笑んだ。
因みに、エドガー兄さんはソファーで寝ていてブラウがハイハイできた瞬間を見逃したらしかった。崩れ落ちていた。
俺は考え込む。
「……色は俺が言っていいの?」
「ある程度聞くよ。後はロイス君やボク、アテナ君の意見も聞くけど。まぁ今日はユリシア君がアテナ君の代理だけどね」
「そうなの?」
「そうよ。ドレスについては母さんにみっちり仕込まれたから、安心しなさい!」
ユリシア姉さんがふすんっとした表情をしながら、胸をドンと叩く。
……ドンッと鳴ってしまうのはご愛敬――
「セオ?」
「セオ君。考えてること顔に出てるよ」
と、思ったら恐ろしい殺気がユリシア姉さんから放たれ、ソフィアも心なしか蔑むように俺を見る。
……気をつけよ。けど、ユリシア姉さんはアテナ母さんの子供だから将来の可能性は夢いっぱい胸いっぱいだ。……たぶん。
俺はユリシア姉さんに反省の意をみせつつ、色を伝える。
「地味、深緑とか茶色とかそっちをベースにすることってできる?」
「カーキー系だね」
「うん、たぶん」
俺は頷く。ソフィアはメモを取りながら、ユリシア姉さんとロイス父さんの方を向く。
「ユリシア君は?」
「う~ん。少し地味すぎじゃないかしら? セオの髪とか考えると、少し明るめでもいいかと思うんだけど。ああ、でも、暗めの赤をワンポイントにしてもいいかしら?」
「それならアクセントをダーク――いやビビットの赤にで、アソートがベースの明るめ系にしようかな? ……ロイス君は?」
ブツブツと呟いたソフィアは、ロイス父さんの方を向く。
ロイス父さんは顎に手をあてて少し考えこんだ後、
「……並んだ時に映える感じかな?」
「……なるほど。やっぱり、そこなんだよね」
「うん。そこだと思ってる」
ソフィアが神妙に頷き、ロイス父さんも同調する。
……並んだ? 誰と? いや、ロイス父さんたちとか。けど、なんでそんなに深刻というか真剣な表情をしているのだろうか?
ユリシア姉さんも少し目を細める。
「……父さんたち、何か隠してるのかしら?」
「……まぁ隠しているといえば隠してるけど、今の二人ともあんまり関係ないかな?」
「そう」
苦笑いするロイス父さんの表情を見て、ユリシア姉さんはそれ以上の追求をやめる。なら、俺もしない方がいいだろう。
こういう場合、首を突っ込んだ方が面倒ごとに巻き込まれるのだ。
「とすると……なるほど、分かった」
ソフィアはその碧眼を俺に向ける。
「色はこっちで幾つか検討するよ。他に希望はある?」
「う~ん。軽い服――動きやすくできる?」
「……素材次第では可能かな?」
ソフィアがチラリとユリシア姉さんの方を見る。
ユリシア姉さんはハッと顔を輝かせる。
「任せなさい、セオ。たとえ厄災級の魔物であろうと狩って見せるわ」
「……流石に厄災級はいいんだけど……」
俺は呆れかえる。ロイス父さんもソフィアも苦笑する。
けど、二人ともユリシア姉さんならいつかやりかねないな、といった目を向けている。
……ロイス父さんたちの子供だし、稀有な能力、“勇者の卵”があるし、他にも目覚ましい才能と努力をしてるからな……。あり得ないことではないだろう。
そう思うと、なんかユリシア姉さんが遠い存在に感じてしまう。
「そうそう、軽いっていっても色々あるけど、具体的には?」
「う~ん。通気性がいいのは譲れないかな」
「通気性ね。他には?」
「動きやすさとか、あ、そうだ。普段使いできる感じかな?」
「……なるほどね。日常的に使いたいと。それって、普通の日常生活だけ? それとも作業したり遊んだりとかは?」
ペンを弄び、頭をトントンと叩くソフィア。俺はう~んと首を悩ます。
「アランから貰う服は着やすいんだよね。今着てるのもそれだし」
「……山駆族の系統か。でも、セオ君って山登ったり、森を駆けたりしないよね?」
「多少するよ。それに俺自身がしなくても、分身体には色々とさせてるし。今もバラサリア山脈に四体派遣してて、鉱物と――」
そう説明しようとした瞬間、
「セオ?」
「セオ君?」
ロイス父さんとソフィアの瞳が恐ろしく開く。
「聞いてないけど?」
「ねぇ、ここ最近、許可証バッチを身に着けてない人影がバラサリア山脈で何度か目撃されてて、今度調査隊が組まれる予定だったんだけど? ボク、昨日までその手配をしてたんだけど」
……ヤバい。
ユリシア姉さんがアホと言わんばかりに遠巻きに俺を見やる。
「ま、待って。ろ、ロイス父さん。俺、ちゃんと言ったよ。ほら、半年前くらいにさ、死之行進のちょっと前くらい。必要な鉱石があるから分身体をさって言ったじゃんっ! それにソフィア。分身体が人前に出たことないし、ずっと“隠者”を使いっぱなしだから人影なんて目撃されない。つまり俺じゃない!」
「それって半年前でしょ?」
「たとえセオ君の“隠者”が凄かろうと、この町にいる冒険者は相当の実力者だけど。多少見破られる事はあると思うよ。だから人影なんだと思うけど?」
ロイス父さんとソフィアの瞳孔が恐ろしいほど開く。二人とも碧眼だから、余計恐ろしい。そういえば、俺以外ここにいるみんな碧眼だなっ!
「そ、ソフィア。その人影ってどこで目撃されたのっ?」
「第三脈と第二山脈だよ」
「なら、違う。分身体がいるのは第五山脈と第六山脈だもん。ここ半年間、ずっとそこにいる!」
俺はガクガクブルブルと震えながら、ユリシア姉さんが座っている椅子の後ろに隠れてそう叫ぶ。ユリシア姉さんは動じず、お茶を飲んでいる。
「あ、なくなったわ」と言って、ユリシア姉さんが席を立つ。
待って、盾がっ!
「……ちょっと待って」
俺が防御を失い、絶望した瞬間、ロイス父さんがこめかみを押さえて、そう呟いた。ソフィアも同じような様子だ。
「今、バラサリア山脈にいる分身体は半年前に召喚されたやつなの?」
「そ、そうだよ。だ、だから報連相はキチンとしましたっ! 怒られる理由がありません」
「……いや、継続しているっていう報告をしていないから叱るんだけどさ」
ロイス父さんは溜息を吐いた。
「アテナも言ってたけど、魔力量の件、想像以上に深刻らしい」
「いや、それよりも“隠者”の熟練度じゃない? ロイス君。第五、第六ってボクでも隠れ続けるのは難しいよ。確かに、分身体だから生命気配はないし、食事睡眠等々は必要ないかもしれないけど、戦闘せずに半年間隠れ延びたって事でしょ?」
「……それもか。確かに戦闘してたら、流石に結界を張ってるアテナか僕が気が付くだろうし」
「でしょ?」
おや、呆れてる? つまり怒られない?
「いや、叱るよ。セオ。反省してないようだし、報連相は重要だからね」
「けど、その前に幾つか聞かなきゃいけない事があるよ」
え、なんか二人とも凄い怖いんだけど。
一つも罪を見逃さないと言わんばかりに詰問してくる閻魔様みたいな感じなんですけど。
ヤバい。
「セオ、そこに座りなさい」
「……はい」
そして、服どころではなくなってしまった。
Φ
「戦闘なんてしたくないんだけど」
「戦闘はしないわよ。調査よ、調査」
「……だとしても、寒い中――」
すっかり夜の帳も落ち、俺たちは帰路についていた。あの後、色々とあって流石に疲れたので、俺はロイス父さんにおんぶされている。
ロイス父さんの背中から感じる圧力から、やっぱり着やせするタイプだよな、と思いながら、ユリシア姉さんにそう返答して、ロイス父さんが俺の体を揺らした。
「分かってるよ、ロイス父さん。測定でしょ?」
「それもあるけど、ソフィアから色々学んできなさい。魔力量の隠蔽もそうだけど、隠蔽している事を隠す技術も必要だから。じゃないと、生誕祭で面倒ごとに巻き込まれるよ」
「……分かってるよ」
俺がそう小さく呟くと、ロイス父さんは、小さく「ごめんね」と囁く。
……いや、俺が俺なりに色々した結果なんだから、俺がそれに対して責任というか、努力するんだから、謝る必要はないんだが……
けど、まぁむつかしいし、恥ずかしいけど、俺はロイス父さんを父親だと思ってるし、ロイス父さんも俺を子として愛してくれてるし――
「はっず」
「セオ、どうしたの?」
「いや、何でもない」
まぁ、ロイス父さんはロイス父さんで悩んでいるんだろう。うん。
「あ、ユナ」
「おかえりなさいませ、ロイス様、ユリシア様、セオ様」
と、ユナが門の灯の魔道具をつけていた。ユリシア姉さんの呟きでこっちを見て、深々とお辞儀をする。
「おつかれ、ユナ。夕飯はあとどれくらいかい?」
「確か、一刻後かと。風呂に入っていないのは、ロイス様たちだけです」
「分かった。ありがとう」
「恐れ入ります」
ユナはまだ門で作業を続けるらしい。俺とユリシア姉さんがありがとう、と言って手を振れば、振り返してくれた。
玄関は既に灯の魔道具で明るく、ロイス父さんが家の扉を開ける。
「ただい――」
「ちょっと、待ってっ!」
「アナタ、ブラウを止めてっ!」
「あううぅあっ!」
ライン兄さんとアテナ母さんが大きな声を出し、そしてハイハイしたブラウが剛速球で飛び出し、
「ッ!」
ロイス父さんが間一髪でブラウを受け止めた。俺は邪魔にならないようにスルリとロイス父さんの背中から降りた。
けど、それどころではない。
「ハイハイできるようになったのっ!?」
「そうよ! ついさっき、急にハイハイしだしたのよ。それで」
「間髪入れずにここまで来たんだね」
「あ~う」
ロイス父さんが抱きかかえたブラウをアテナ母さんに渡す。肩で息をしていたライン兄さんが、けれど興奮した様子で語る。
「赤ちゃんってあんなに早くハイハイできるんだねっ! 全然捕まえられなかったよっ!」
「いや、そんな事よりもブラウがハイハイしたんでしょっ! お祝いしなきゃ!」
「そうよっ! 何かしなきゃっ!」
俺とユリシア姉さんも興奮する。
そして、
「落ち着きなさい、アナタたち」
「そうだね。まずは、セオとユリシア。風呂に入ってきなさい」
アテナ母さんとロイス父さんが微笑んだ。
因みに、エドガー兄さんはソファーで寝ていてブラウがハイハイできた瞬間を見逃したらしかった。崩れ落ちていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
541
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる