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さて準備かな

愛おしさがあるで、可愛いなんだと思います:crawling

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「……で、結局俺の部屋はどうなるの?」
「あ、そうだったね」

 ロイス父さんは思い出したように頷く。

 改装云々はもう少し先。それよりも俺が自室で過ごせないって事が一大事だ。

「まぁ今回はアテナのいう通り薬草庭園に移すよ。けど、今後アルたちが同じことをしないとも限らないし、そもそもの種族の性質上ね」
「確かに屋根裏部屋は狭いというよりは……それ専用の部屋にするの?」
「うん。けど、準備が幾分か必要だから今年の夏くらい……生誕祭が終わってからになりそうかな」

 ……準備って何するんだろ。ロイス父さんたちが準備するってことは、それなりの物ってことだからな。

 たぶん、執務室は近日中にやるんだろうな。

「あ、そうだ。ラインもどうするか考えておいて。ミズチの力でだいぶ部屋が様変わりしているでしょ?」
「そうなんだよね。あんまり気にしてなかったけど……」
「……気にならないんだ」

 ロイス父さんは呆れたように言った。それから少しむくれているユリシア姉さんの方を向いて、

「ユリシアも希望があるなら事前に書いて教えてくれるかな? 王都で揃える物もあるかもしれないし」
「! いいのっ?」
「まぁ節度ある範囲内でね。流石に武器庫とかそういう要望は応えられないけど」
「……無理なのね」

 むっと唇を尖がらせたユリシア姉さんを見て、タハハ、とロイス父さんが苦笑いする。

「あと、エドガー。準備をしておくんだよ」
「……分かってる」

 「まぁ半年後には家を出るし、いいんだがな」と呟いたエドガー兄さんは、そっぽを向きながら頷いた。ロイス父さんは呆れたような、それでいて愛おしいような瞳をエドガー兄さんに向ける。

 そうして、昼食はおわ――

「あ、セオ。一時間後に服を作りに行くから準備しておいて」
「え」
「じゃあ、僕は仕事があるから」

 と、思ったらロイス父さんがそう言って消えた。
 
 ……報連相をキチンとして欲しいんだが……


 Φ


「何の服を作るの? っというか、なんでユリシア姉さんも一緒なの?」
「何よ。いちゃダメなの?」
「いや、そういうわけではないけどさ……」

 ラート町に連れてこられ、俺は手をつなぎ隣を歩くユリシア姉さんに微妙な表情を向ける。

 なんというか、機嫌がいいのか、ユリシア姉さんはルンルンと鼻歌を歌う。

 仕方なく、すれ違う町人や冒険者、商人たち全員と一言二言言葉を交わしているロイス父さんを見る。

 それにしても、寒い日なのに意外と人が外に出てるな。雪もまぁまぁ積もってるのに。吐く息が結構白いのに。

 そんな疑問に気が付いたのか、ロイス父さんが歩きながら教えてくれる。

「冬でも仕事はあるからね。冒険者も冬ならではの仕事もあるんだよ」
「何があるの?」
「薪を割ったり、調薬に使う冬草を採取したり、調査だね。アダド森林とかだと、魔物の沈静化しててね。この時期に探知系の魔法や能力スキルが使える冒険者が魔物の頭数を調べたり、地形の変化を調べたり……」

 そらんじるようにロイス父さんが言う。鼻息を少しだけ荒くしたユリシア姉さんがロイス父さんの言葉を奪うように続ける。

「後、文字とか戦い方とか色々教えてんのよ! 知識を編纂したりもしてるらしいわ!」
「らしい?」
「ええ、私は見たことないもの! けどジェーラルトたちが言ってたわ」

 どうよ、っといった感じにユリシア姉さんがドヤっとする。ちょうど俺の目の高さにユリシア姉さんが身に着けている可愛いモコモコ手袋があるため、とても可愛いとしか思えない。

 っと、チラチラと蒼穹の視線をよこすので、

「そうなんだ。ありがとう、ユリシア姉さん!」
「ふふん」

 こんな感じに褒めておけば、万事上手くいく。

 で、

「服ってなんの? それとユリシア姉さんがついてきたのはなんで?」

 ユリシア姉さんが上機嫌から不機嫌にジェットコースターする前に、ロイス父さんが答える。

「生誕祭で着る服、礼服だよ。って、そんな露骨に嫌な顔をしないでよ。気持ちは分かるけどさ」
「そうね。ドレスなんて動きにくくてありゃしないものね」

 ロイス父さんとユリシア姉さんがげんなりとした表情をする。そういえば、ロイス父さんもユリシア姉さんも軽装を好む。

 特にロイス父さんは俺たちがモコモコ着込んでいるのに、薄手の長袖とアテナ母さんが編んだマフラーしか身に着けていないくらいには服を着込むのが苦手なのだ。

 ロイス父さんのげんなりは止まらない。

「しかもさ、礼服って一品ものなのがね……。セオたちはすぐに成長するから、正直使いまわしたいんだけどね」
「ライン兄さんのとかエドガー兄さんのとかを仕立て直すじゃだめなの?」
「……三人とも個性が違いすぎるんだよ」
「ああ、なるほど」

 エドガー兄さんはワイルドと理知が合わさったハンサム。ライン兄さんは儚さと美しさが合わさった美少年。まぁそれは成長すればで、今だったら女の子と言っても問題ないくらいの可愛さがあるが。

 そして俺はぬぼっとしたフツメン。天パ気味の深緑の髪に瞳。捉えようがない薄い顔。雰囲気もアレだし。

 うん、エドガー兄さんたちの服を着ても確かにな……

 想像すると、微妙な感じになる。

 ただ、ユリシア姉さんは違うらしく。

「確かにちょっと特徴は違うけど、みんな可愛いじゃない」
「……ライン兄さんだけでしょ? 可愛いの?」
「うん? エドガーも可愛いし、セオも可愛いわよ。ほっぺだってプニプニだし」
「……そう」

 ロイス父さんを見やれば、そういうものだよ、と雄弁に語る柔らかな瞳と視線が合う。

 姉か。たぶん、姉の気分なのだろう。姉って弟が可愛く見える特殊眼鏡でも掛けているのだろうか?

 うん? エドガー兄さ――ああ、そういえば、ユリシア姉さんは自分が姉だと思っているのか。エドガー兄さんは自分が兄だと思っているらしいが。

 先に産まれたのはエドガー兄さんだったけ? どっちにしろ、同じ日に産まれた双子なんだからどちらが兄とか姉とかないと思うんだがな……

 そこらへんは双子しか分からないことか。けど、双子だけど二人ともあんまり似てないんだよな。

 特にここ最近は。昔は二人ともやんちゃっ子だったのに、今はやエドガー兄さんはあんなに落ち着いて頼れるのに、もう一方――

「セオ?」
「何でしょうか、姉上?」

 繋いでいた手がギュッと握りしめられる。モコモコ手袋しなのにユリシア姉さんの握力の強さを存分に味わえる。
 
 味わいたいとは思わないし、今すぐにでもこの苦痛から解放されたいが。

 そういう想いが伝わったのか、ユリシア姉さんが溜息を吐く。あら、珍しい。

「……そういうところが可愛くないのよ」
「別段可愛くあろうとも思ってないけど」

 そうだ。俺は俺だ。たとえ幼児であろうと、俺が可愛さを使っても意味はない。むしろ、幼児なのにクールな感じを――

「そう。なら、こうねっ!」
「あ゛あ゛っ!」

 俺は足をバタつかせる。ユリシア姉さんに羽交い絞めにされ、脇をこちょこちょされたのだ。

 っというか、

「し、死ぬ。ちょ、マジでっ! ああ!」
「動かないっ! くすぐれないじゃない!」
「く、くすぐら、なくていいんだよ!」
「うるさいわ!」

 無茶をおっしゃる。

 声にならない笑い声で抗議するが、ユリシア姉さんは意に介さない。そもそも身長差が大きいのだ。ユリシア姉さんの身長はエドガー兄さんと同じくらいなのだ。

 同年代の中でもとても高い方だろう。

 対して俺は――

「じゃれ合うのはいいけど、着いたよ」
「あ」

 っと、ロイス父さんが割って入ってきた。

 ユリシア姉さんは渋々俺を地面に降ろす。俺は肩でハァーハァーと息を吸って吐く。

 そして俺がようやく顔を上げたのを見て、

「久しぶりだね」

 ソフィアが待っていた。

 ……そういえば、ユリシア姉さんの方がソフィアよりも身長があるのか。
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