異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

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さて準備かな

機会を増やすしかできないけど、干渉しすぎるのはいいのかなと迷い、けど向き合うことからは逃げてはいけないという葛藤が裏にあったりなかったり

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「え? ……う~ん、どうしよ」

 昼食の最中、部屋のことを相談したらロイス父さんが少し悩んだ。悩むことに意識を向けたので、手に持っていたパニーノから雨魔猪のハムが落ちる。

 ブラウに離乳食を与えていたアテナ母さんが素早く手元にあったナイフでそれを絡めとり、ロイス父さんのお皿に置く。

「ありがとう、アテナ」
「どういたしまして。それで何を悩んでいたのかしら? セオの部屋の植物をある程度私の薬草庭園に移すだけでいいんじゃない?」
「それもそうなんだけどね」

 ロイス父さんはナイフに絡められたおハムを口に運び、苦笑する。

「ロイス父さんは何か別の案でもあるの?」
「案っていうよりは……う~ん」

 ロイス父さんは首を捻る。それに食事に勤しんでいたユリシア姉さんやエドガー兄さんたちもロイス父さんの方に注目する。

 その視線を感じたのか、ロイス父さんは手に持っていたパニーノをお皿に置き、一度咳ばらいをした。

「いや、ちょっと家を改装しようかと思っててね」
「……私、そこまでの精神力残ってないわよ」
「分かってる。大掛かりなものじゃないし、一日も経たずに終わるような改装なんだ」

 そう、とアテナ母さんが頷く。それからブラウの離乳食の方へと注力する。アテナ母さん的には部屋の改装はそこまで重要な事ではないらしい。

 いや、ロイス父さんがアテナ母さんに事前相談せずにこの場で話しているのだから、そこまで重要ではないと分かっているのか。

 けど、アテナ母さんが興味なくともエドガー兄さんたちは違うらしい。

「父さん、何処を改装するんだ? 俺としては俺専用の執務室が欲しいところなんだけど。二階の部屋は空いてるけど、父さんの執務室から離れてるのは。それか二人分の大きな執務室作るのか。バトラさんとの仕事も上手く回したいし。あと、こないだの件――」
「エド、そんな事は後。父さん、私ももうちょっと大きな部屋が欲しいんだけど。小物とか、剣とか武器とかも置きたいし。あと、母さんと同じ衣裳部屋は嫌だ。私におしゃれおしゃれ言うなら、私専用の――」
「だったら、僕、僕! 新しい書斎とアトリエが欲しい! あと、母さんだけ植物園持ってるのズルい! 僕も動植物とかの観察保護ができる――」

 三人が口々に主張する。

 ……一番事務的なのはエドガー兄さんかな? けど、ユリシア姉さんとライン兄さんをチラリと見る紺色の瞳を見る限り、私的な要求もしたいけどまずは公的な要求を通してからって感じなのが透けて見える。

 つまり全員下心満載だ。けど、ユリシア姉さんとライン兄さんの表情は純真さ満載だが。

 エドガー兄さんってロイス父さんの仕事にかかわるようになってきてから、純真というかそういう部分を隠すのが上手くなったけど、その分いやらしさっていうのが出ちゃってんだよな。

 ……だからどうするべきか、なんて事は俺には言えないが。事実を教えることくらいしかできないんだよな。俺が教えるっていうのもおこがましいし、教えられるほど教養やらがあるわけではないし。

 そんな思考に陥りそうになっていた時、

「はい、そういう要望は後ね。最初に決まっていることだけ言うよ」

 ロイス父さんが柏手を打つ。エドガー兄さんたちが口をつぐみ、ロイス父さんの方を見た。

「まず、執務室を大きくする」
「ちょ、ずるい! エドの要求――」
「ユリシア。話を聞きなさい」
「……分かったわ」

 ユリシア姉さんが唇を尖がらせる。ついでにフォークでパニーノを上から刺す。アテナ母さんに少し小言を言われる。うなだれる。

「それで執務室を大きくする理由は二つある。一つ目は先日、ようやく筆記ギルドとの交渉が終わったことが大きく関連するんだけど……」
「タイプライターの件? けど、あれは商会の方で……」
「いや、商会の方はマキーナルト子爵が援助しているとセオの生誕祭に合わせて公表するつもりだから、領地運営の方にも入る」
「……いや、確かに俺たちはそういうのできないから、ロイス父さんやアカサ、あとソフィアたちに任せてるけど……」

 そういえば、エドガー兄さんに専属部下を作れとは言われたな。けど、いくら雇うお金があっても雇い方とかも分からないしな……

「なので、新しく僕の手伝いをする文官を雇おうと思っている。あと、セオはもちろん、ラインも次の生誕祭に合わせて王都に行くよ」
「え!? 嫌だ! 行きたくない!」
「ライン、落ち着きなさい」

 ガタッと立ち上がり、泡を飛ばす勢いで叫んだライン兄さんをアテナ母さんがたしなめる。ブラウは離乳食を食べ終えていて、既に寝ていた。いつの間に……

「けど、僕嫌だよっ!」
「……仕方ない。ラインはちょっとしたお茶会を一つ出てくれるだけでいいよ」
「ちょっとしたって何? ねぇ、僕のちょっとしたと父さんのちょっとしたが同じ言葉なの?」
「……詳しくはまだ未定だけど、令嬢が二人に令息が三人。全員、王立研究所の職員の子息子女だよ。ハンダーレンス男爵は覚えてるでしょ?」
「え、もちろん覚えてるよ! え、何、もしかしてハンダーレンス男爵様とお話できるのっ!? 魔鹿の骨格が見れるのっ?」

 ライン兄さんが興奮したようにずいっと顔を前に出す。

 ……現ハンダーレンス男爵って、確かピューレゲート・ハンダーレンスだったっけ? あ、そうか。魔物の骨格研究の第一人者だっけ?

 ソフィアやベテラン冒険者たちが、話題にしてたからよく覚えてる。

 六年前くらいに約三百種の魔物の骨格的弱点を書き記した本を自由ギルドに無償で渡した人だったよな。知識贈呈と言うべきか、そのお陰で討伐が楽になったり、色々とあったって聞いた。

 なるほど。一昨年の生誕祭でライン兄さんはハンダーレンス男爵に会ったのか。

 なにそれ、ズルい。

 そう、頬をふくらませようとしたとき、

「会えるかと言えば、会えないとしか言えないよ」
「……ぇ」
「そう露骨にがっかりしないでよ。ハンダーレンス男爵だって忙しいしね。けど、その子息がお茶会で出るんだ。なんでも息子の話し相手になって欲しいってね。僕としては話の合う同年代の貴族がいた方がいいと思うんだけど……」
「……分かった。考えてみる」

 ライン兄さんは頷いた。

「っと、話が逸れたけど執務室を大きくする理由の一つ目は事業拡大に伴ってマキーナルト専属の文官を増やすから。二つ目はシンプルで今の執務室の構造だと効率が悪いから。ユリシア、ここまでは何かある?」
「……ないわ」

 ユリシア姉さんは気難しい顔をして、もっさもっさとパニーノを頬張りながら首を振る。

 けど、今まで黙って聞いていたエドガー兄さんが立ち上がる。ちょうど昼食を食べ終わったらしく、立ち上がる前にご馳走様と言っていた。ちゃっかりしてる。

「父さん、俺の執務室は? 俺だって色々と――」
「それは却下」
「なんで!?」
「エドガー、今年の秋には王都で生活するでしょ?」
「あ」

 ……ええっと、なんで王都で生活す――

「中等学園に入るからだよ、セオ」
「あ、はい。覚えてましたよ、はい」

 ロイス父さんがすかさずニッコリと俺を見つめたので、冷や汗を垂らしながら頷く。流石に忘れてたとはいえない。

 けど、俺以上にヤバいのがエドガー兄さん。

 小声で忘れてた~と言いながら頭を抱えている。ロイス父さんの笑ってない笑顔の目が恐ろしい。リビングの隅に設置されているベビーベッドにブラウを寝かしたアテナ母さんが溜息を吐いている。

「エドガー。領主貴族としての爵位を授かるには原則、中等高等二つの卒業が必要なんだよ?」
「……中等だけで済ませたければそれ相応の能力を示せってことだろ?」
「うん。覚えていて嬉しいよ」
「……」

 エドガー兄さんがバツの悪そうにそっぽを向く。

 そういえば、そもそも貴族って通常初等から王立学園に入る必要があるんだよな。地方貴族はそれ相応の学力なりなんなりがある場合、高等からでも許可されてるけど。

 どっちにしろ原則としては、貴族として生きるためには高等の卒業は必須なんだよな……

 まぁそれは原則であり、ロイス父さんのように一平民――冒険者から爵位を授かって貴族になる場合もあるので例外もあるらしいが。

 と、隣でユリシア姉さんも頭を抱えている。高等行きたくない。学園嫌だ。騎士団に入りたい。などとぶつぶつ呟いてる。

 まぁ俺は貴族になるつもりはないので行かない――

「ライン、セオ。分かってると思うけど、二人も中等、もしくは高等のどちらかを卒業してもらうからね」
「なんでっ!?」
「面倒、行きたくない!」

 ロイス父さんが溜息を吐く。

「今の二人が貴族として生きたくないのは分かってる。けど、将来どうかは分からないし、それに二人がやりたい事には貴族とのつながりがあった方がいい。そしてそれは同年代である事がよく効いてくる」
「……それはそうだけど……」
「まぁ確かに」

 俺が大人になるころには、その繋がり相手は貴族社会の一員だし、話を通せるだけでもちが……

 いや、そうか? 

 自慢じゃないが、俺は結構良い魔道具を作っているつもりだ。学園に行かなくても繋がりなどいくらでも――

「それに、セオもラインも多くの人に関わって視野を広げた方がいい。高等学園は特に思想が固まりかけている子たちが多い。だから、多くの思想に触れることができるし、オリバー国王がそういう機会を増やすカリキュラムを組んでいる。そして何よりそういう同年代と一つのことに取り組む事も重要だよ」

 ロイス父さんはそう真剣に行った後、

「まぁ学園に行ってもいない僕の言葉にそこまで説得力はないけど」

 少し苦笑した。
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