異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

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さて準備かな

意外と時間がかかったり、あっさりできたりするので、個人差だったりする:crawling

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 猫が寝ころんだ。

「アァウーア」

 思わず、クソ寒いダジャレをしてしまうくらいにはちょっと興奮している。

「そうだ、そうだ。ブラウ、頑張れ!」
「こっち、こっちよ!」
「僕の方!」
「いや、俺! ほら、好きな玩具ですよ~~」

 朝食を食べ、マリーさんによるマナー授業などが始まるまでの間、ブラウと戯れていた。

 つい先月くらいに寝返りを打つようになった。それによって移動範囲が格段に広がった。

 ……そういえば、俺も結構移動してたよな。分かる。みんなの目を盗んで動きたくなるんだよな。

 ッということで、ここ最近のブラウはめちゃくちゃ動いたり、俺が作った玩具で遊んだりして、事切れたかのように急に寝入る事が増えた。

 なので、以前のように専用のベッドで寝かして魔法で見守るっていうよりは、直視で誰かがブラウを付きっ切りで見るようになった。うつ伏せで寝てしまう心配が高いし、遊び相手がいないと泣くし。

 そして今、ブラウは新たな成長をしようとしていた。

「ハイハイごときで大袈裟ですね」
「……レモンが一番興奮してると思うんだけど。尻尾が三本に増えてブンブン振ってるんだけど」
「嫌ですね。ちょっと朝食が美味しかっただけです」
「ピコピコとブラウに向けて耳が動いてるんだけど。心臓の音すら聞き逃さないつもりだと思うんだけど」
「……どうでもいいんですよ、そんな事。ブラウ様、ブラウ様。ほ~ら、モフモフですよ~」
「あ、ずるい!」

 ハイハイだ。ブラウは今、ハイハイしようともがいているのだ。ここ二週間くらいこんな感じなのだ。昨日よりめっちゃ成長している。

 懸命に両足をばたつかせ、体の重心を前にしようとしているのに、手がうまく動かせないのか、ステンステンとその場で滑っている。

 ……昨日よりも成長してる。まだハイハイできてないけど、これは確かだ。

 レモンは自身の尻尾を猫じゃらしのようにブラウの前に出し、ハイハイを促している。そして最初のハイハイで自分のところに来てほしいのだろう。

 エドガー兄さんやユリシア姉さん、ライン兄さんも負けずと物で釣る作戦にでる。

 ……ユリシア姉さん、短剣は危ないと思うんだけど。後、エドガー兄さん。ここ最近書類仕事ばかりしてたからって、羽ペンに喜ぶ赤ちゃんいないと思うんだけど。

 ライン兄さんが一番真面かな。絵本とか、ぬいぐるみとか。ライン兄さんは裁縫の才能もあったらしく、ここ最近はぬいぐるみ製作にも取り組んでいたりする。

 兎も角、このままでは危ない。俺も物で釣る作戦にでるか?

 いや、ブラウは今、ハイハイすることに熱中している。物をで釣るのはどうなのだろうか?

 ……最初のハイハイで自分のところに来てもらう事を諦めれば、ハイハイを促すことは可能か?

 そうだ。ライン兄さんに頼まれて記録の魔道具を作ったな。今のブラウに自我や記憶を薄いし、なら将来見せて凄ーいと言ってもらった方がいいかもしれない。

 ハハハ。俺は目先の利益に囚われないのだ。

 なので。

「ブラウ! こうだ、ここに魔力を集めるんだよ!」
「あ、セオ様。それは卑怯です。赤ちゃんの時の経験を生かすなど」
「なんとでも言え。俺はブラウを助けたいだけだ」

 俺が赤ちゃんの時にどうやってハイハイしたかを教授する。俺のハイハイは早かった。理由は魔力操作ができたからだ。

 魔力による身体強化は、有用なのだ!

 そしてどうにもブラウは魔力の流れに敏感だ。魔力が視えているわけではないらしいが、“魔力感知”系統の能力スキルを持っているのは確かだと、アテナ母さんたちが言っていた。

 なら、俺の魔力の流れだって分かるはずだ。

「ア、ウ。アァーウ!」
「そうだ、そうだ。そう魔力のうご――」

 ブラウの灰がかった青の瞳が俺を捉え、ジーっと観察する。頷くようにコテンと頭を動かし、そして両腕に魔力を動かす。

 そうだよ。ハイハイするには、最初に肩を上げなきゃいけないんだ。お尻をいくら持ち上げても、ハイハイはできない!

 と思って、俺も四つん這いになりながら魔力の操作を教えようとして――

「やめなさい、セオ」
「あ」

 アテナ母さんに抱っこされ、全身を固定されてしまった。

「何するの? アテナ母さんっ!」
「何もアナタが安易に身体強化を教えようとしてたからよ。成長に弊害がでるから、自然的に学ぶならともかく教えるのは良くないわ」
「子は親や兄弟を見て学ぶものだよっ? 自然だ!」
「アナタの場合、魔力量と操作の仕方が特殊なのよ。変な癖がついてしまうわ」
「特殊って、最も合理普通を突き詰めてるだけだよ! だいたい、アテナ母さんたちの魔力操作の方が異常じゃん!」
「魔力操作は基本、各々の固有の仕方生まれながらの癖があるのよ。アナタの魔力操作は魔道具の魔力の流れに近いから、学ぶとしても魔力操作の感性が育った後なのよ」

 ブラウを見たいがために政務を執務室で行わず、リビングで仕事をしていたロイス父さんに顔を向ける。

 デレデレと見っともない表情をしていたロイス父さんは、俺の視線を感じてキリッと表情を整え、頷く。今更キリっとしても遅いと思うだけどな……

「……つまり俺は魔力操作の感性がなかったと?」
「いえ、アナタは生まれた時から魔力操作の練習をしてたのよね?」
「うん」
「なら、感性は育ってるわよ。というより、アナタの魔力操作は主に“解析者”を利用した魔力操作でしょ? それを獲得するためにそれ相応の魔力操作をしたのだから問題ないわ」
「……けど、ブラウはまだそれがない?」
「ええ。経験からしか言えないけれど、四、五歳になるまで魔力操作は意図的に教えない方がいいのよ」
「……そうなんだ」

 初めて知った。

 そうなのか。魔力操作は教えない方がいいのか。

 ……うん?

「意図的、つまりブラウが倣う真似る事は問題ないってこと?」
「ええ。朝稽古とかも見せてるから、自然と魔力操作や身体強化は学んでいると思うわよ」
「へぇ……」

 あ、ブラウが肩を上げようとしたけど、力が足らなかったのかドテンと崩れた。頭を打って涙目だ。

 そして、

「ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」

 唸り声みたいに泣き始めた。

 大泣きするほどのものでもなかったのだろうが、けれど痛くて泣く感じかな? 我慢している?
 
 泣き止ませた方がいいか。

 うん、そう――

「セオ、降ろすわよ」

 と思ったら、アテナ母さんが素早く俺を床に降ろし、すぐにブラウを抱きかかえた。僅か一秒ほどである。

 そして、縦抱きしているブラウの背中を撫でながら、体を揺らす。

「痛かったね。痛かったね。けど、頑張ってたわよ。ええ、ええ」

 小声で優しく囁く。手慣れている。

 と、思ったら。

「エドガー様、ユリシア様、ラインヴァント様、セオドラー様。時間です」
「……もう?」

 雑事を終わらせたマリーさんが恭しく頭を下げてきた。

 エドガー兄さんとユリシア姉さんはブラウをチラリチラリと見ていて、ライン兄さんがまだ駄目? と上目遣いでマリーさんを見つめる。最近、ライン兄さんがこういうズルい事を覚えてきたんだよな。

 まぁズルいけど、可愛くて素晴らしいので俺だったら即陥落しているが、

「はい。お時間です。支度ができ次第、来てください」

 マリーさんは表情を一切崩さず、即答で首を横に振る。

「「「「……は~――」」」」

 渋々頷こうとした俺たちは、けれど切れ長の綺麗な黒目のマリーさんが俺たちを見つめたため、

「「「「はい」」」」

 ハキハキと頷いた。ここで頷かないと、普通に後が怖い。礼儀作法の授業が物凄い伸びるかもしれない。

 俺たちはそのあと、アテナ母さんの肩から涙目を覗かせているブラウに手を振り、各々の部屋で授業道具を取りに行った。

 ……と思ったんだが、俺の部屋は今ジャングルだったので、仕方なくマリーさんに言って道具を貸してもらった。

 マジで午後に部屋をどうにかしなきゃな。
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