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てんやわんやの新たな日常
親に隠れてお菓子をいっぱい食べよう:小さき者たち
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ミズチの夜はあにぃによる。
今日は遅い方だった。
「よし、できた」
薄暗い部屋を天井窓から射す月明りだけが照らす。
そんな月明りに照らされて見える部屋は、六歳児が使う部屋としては、少々、いやかなり違うものだった。
まず、紙が散乱している。
よく目を凝らせば、遊戯盤や遊戯カードなども見えるが、床はもちろん、壁や箪笥、果てにはベッドの上まで紙が散らばっている。
その紙も多種多様だ。
雲の隙間を泳ぐ天使が描かれた1000 mm×803 mmの大紙だったり、一本の大樹が描かれた530 mm×410 mmだったり。
はたまた、ビッシリと文字が書き記されたものだったり、はたまた動物や昆虫のスケッチだったり。
あと、分厚い本もある。
どっちにしろ、その散らかり具合は酷い。
けれど、それよりも子供部屋、いや普通の部屋としてありえない光景が広がっている。
部屋の中に水が流れているのだ。
言葉にしても分からないが、つまりところミズチのせいだ。
ミズチは、いわば環境幻獣ともいうべきか。自身の周りの環境を自分に適した環境へと変える力を持っている。
姉妹分も成長すればそうなるだろう。
兎にも角にも、無数の枝が伸ばされたかの如く部屋には清流の小川が空中を流れているのだ。月明りに照らされてキラキラと光っている。
そしてあにぃが立ち上がれば、それに合わせて空中を流れる清流の小川は形を変える。うねりくねり、昇り、落ちる。
あにぃの魔力に反応するようになっているのだ。
因みに、床に水が落ちることはない。落ちるとあにぃがとても悲しむので、そんなへまはしないのだ。
「シュー?」
「え、タイトル?」
夜遅くまで――六歳児なのでそれでも21時前――作業に没頭していたあにぃは、首に巻きつくミズチの頭を指先で撫でる。
その撫でテクニックもそうだが、体から溢れる優しい魔力にミズチは目を細める。
「う~ん、そうだね。今回は僕一人で書いて描いたし、原作があるわけではないからね……」
「シュ~?」
「え、セオ? どうだろ。けど、まぁ相談してもいいんだけど、せっかく初めて全てを一から作ったし、自分でつけたいな」
あにぃはベッドの上に散乱していた紙をどかし、座る。それから先ほど完成した絵本をパラリパラリと捲り、目を通す。
「……うん、とてもいいよ」
「シューシュ?」
「うん、自分で言うよ。自分の作品を信じないで、誰が信じてくれるのさ。もちろん、ああすればよかった、こうすればよかったて思うけど、っというか今も凄く思ってるけど――」
あにぃはベッドに倒れ込み、腕をもって絵本を見上げる。空中を流れる小川が複雑に月明りを反射するため、絵本に影に埋もれず、照らされる。
「楽しいし、嬉しい。やり切った」
「シュー」
「アハハ、くすぐったいよ、ミズチ」
達観した、それでいて無邪気な表情を浮かべたあにぃがキラキラしていて、ミズチは体を首筋にこすり付ける。
あにぃはこそばゆいのか、大笑いしながら体を震わせる。
それから少しして、
「僕だけで全てを作ったんだよな……」
感慨深げに呟いた。
その呟きには、少しだけ暗い気持ちも隠れていた気がして、ミズチは首を傾げる。
「シュー?」
「……うん、そうだね。うん、多分そんな気持ちもあると思うよ」
あにぃは絵本の背表紙を撫でる。
「ほら、セオってなんでもできるじゃん。僕のこととても自慢してくれるし、それは嬉しいけど……僕じゃ敵わないと思うところがいっぱいある」
「シューシュ」
「うん、そうなんだよ。なのに、セオったら自分を下げることばかりしててさ」
「シュー」
気持ちよく暗い気持ちを吐き出す。あにぃは利発で無垢だからこそ、素直に自分の感情を吐露できる。
憧れと妬みと悔しさと野心。
「いつかさ、セオを超えたい。セオが僕と競い合って欲しい。これはそのための一歩かな」
「シュシュー」
「……ミズチはせっかちだなぁ」
それよかタイトルは? と尋ねてきたミズチにあにぃは苦笑する。
それから首を傾げ、悩ます。
ポツリポツリと思いついた事を述べていく。
「……月明り……僅か……夜……見守る……でも、この話は昼すぎの森が舞台だし……淡い光……そっと添えらえる……お日様……木漏れ日?」
「シュー?」
「う~ん、ちょっとあれかな? 安直すぎるというか……」
あにぃは首を捻りまくる。何度も何度も捻るがいいタイトルが思い浮かばない。
ミズチはう~ん、う~ん、と頭を悩ますあにぃの様子が、少し嬉しくって微笑ましくって、シュルシュルとあにぃの体を移動する。
そんな移動が心地よかったのか。
「スー。スー」
「シュ~」
あにぃは寝てしまった。
ミズチは困ったように溜息を吐き、少しだけ唸った後。
「シュ。シュシュー」
あにぃの足元にあった毛布を口につかみ、引っ張る。あにぃに掛ける。今は冬で、外は雪が積もっているので、風邪を引かないように念入りにだ。
それからあにぃが抱きしめていた絵本をそっと尻尾で巻き取り、抜き去る。
それを枕元に避難させる。
「シュッシュー!」
次に、空中を流れる清流に飛び込み、そこから無数の水の触手を伸ばしていく。
今日、あにぃが散らかした紙や絵具、遊戯などを片づけるのだ。
だたその時、ミズチは部屋全体、特に紙類に防水の加護を施す。水の触手で持ち上げた時に濡れないようにするためだ。
「シュ~? ……シュ」
整理をする際の分別で少し迷いながらも、ミズチはあにぃの癖や思考等々を考慮して紙等々を整理していく。
それから十分ちょっと。
部屋の整理が終わり、まぁまぁ綺麗になった。
と、言っても元々の量が多く、一つも捨てていないので散らかっているといえば、散らかっているのだが、先ほどよりもマシだったりする。
「シューシュ」
だからか、ミズチも満足気に頷いた。
そしてミズチは空中を流れる清流から床へ飛び降りる。音はない。
「シューーーー」
ミズチは瞑目する。空気中を漂う水分を己の近くの一部として、感知を広げていく。
ミズチは蛇だ。そのため、全身が耳だったりする。
そのため体を床に押し付ける。
そうして数十秒。
「シュ!」
ミズチは嗤った。よし、これならいける、と。
そういう事でミズチは床を移動する。くねくねと体を動かし、無音移動する。
扉の前に立ち、物凄い跳躍力でドアノブに飛び乗る。ドアノブに体を巻きつけ、尻尾で回す。
それから振り子のように頭を揺らし、扉を僅かに開けたら、その隙間に頭を入れる。
反対側のドアノブに頭を巻きつけた後、ゆっくりと移動する。完全に外のドアノブに移動し終わったら、再びドアノブを回し、体を揺らして閉める。
ここまで完全な無音。まさに蛇の容姿に相応しいサイレントハンターだ。
「シュ~シュ」
ここでミズチは再び瞑目。空気中の水分を感じ取っていく。
確信する。
「シューシュ!」
そこからは凄い。速い。
まるで氷の上を滑るがごとくミズチはスルスルと床を移動していく。その速さは人間の全力ダッシュよりも速いだろう。
それはそうだ。ミズチは水を自由自在に操る。床と自らの間に薄い水の膜を張って摩擦を減らすとともに、小さなジェット噴射の要領で加速しているのだ。
ものの十秒もしないうちに一階に降り、ミズチは壁を這うように移動する。
ここからは移動速度よりも隠密重視だからだ。
ソロリソロリと這う。
ヒタヒタと暗闇が迫るが如く、僅かに恐ろし雰囲気を醸し出しながら、ゆっくりと移動する。
そうして、数分近く。
「シュー」
目的の場所にたどり着いた。
そこは厨房室。明かりはついていて、
「よし、仕込みはこんな程度か」
鬼説教強面角男の声が聞こえてくる。
けれど、ミズチはひるまない。今日こそは、と気合を入れる。
ここからが勝負だ。
「……」
ミズチは己の全力を出す。空気中の水分を操作して、自らに幻惑を纏わせる。
光学迷彩とも言うべきか。ミズチの周りの水分がうまい具合に光を屈折反射させる事により、ミズチは背景と同化する。
それから己の知覚能力を頭が痛くなる限界まで拡張する。
水分の感知と振動の感知をフル稼働させ、鬼説教強面角男の血液の流れや心臓の脈拍を読む。思考を先読みする。
さぁ、準備は整った。
では、厨房への侵入ミッション開始――
「ほれ、これだろ」
「シュッッッッッ!!!!????」
と、思った瞬間、後ろから鬼説教強面角男の声が聞こえてミズチは飛び上がる。
厨房の扉に体をぶつけ、のたうち回る。
「お、大丈夫か?」
「シューシュっ!」
「おお、大丈夫らしいな。ほれ、これを飲みに来たんだろ?」
ミズチの抗議などなんのその。鬼説教強面角男はガハハと笑いながら、ある水が入った小皿を目の前に置く。
聖水だ。しかも、水の大精霊が管理している竜霊慰泉の水である。
つまるところ最高級の水だ。この水一滴だけで、大病すら治るといわれる代物だったりする。
だから、
「シューシュ―シュー!!!」
「そうか、そうか。そんなに美味いか」
ミズチはたまらずその小皿に飛び込んでしまう。チロチロと長い舌を出し、小皿の聖水を舐めとる。
けれど、その聖水が入っていたのは小皿だった。
そのため、すぐに空っぽになってしまった。
ミズチは尻尾をダンダンと下に叩きつけて抗議する。
「シュー! シュー!」
「駄目だ。飲みすぎるとお前の成長にも悪影響がでる。良いもんだって取り込みすぎると悪いもんになんだよ」
鬼説教強面角男は手のひらを振り、ミズチの抗議をいなした。
ミズチはうなだれる。悔しさが溢れる。
気づかれずに侵入できていれば、鬼説教強面角男を通さずにたらふく聖水が飲めるというのに。
「まぁ、明日の分もある。ライン坊が寝たら、また来い」
「シュー」
ミズチは明日こそは腹いっぱい飲んでやる、と強く心に誓い、鬼説教強面角男に背を向けた。
今日は遅い方だった。
「よし、できた」
薄暗い部屋を天井窓から射す月明りだけが照らす。
そんな月明りに照らされて見える部屋は、六歳児が使う部屋としては、少々、いやかなり違うものだった。
まず、紙が散乱している。
よく目を凝らせば、遊戯盤や遊戯カードなども見えるが、床はもちろん、壁や箪笥、果てにはベッドの上まで紙が散らばっている。
その紙も多種多様だ。
雲の隙間を泳ぐ天使が描かれた1000 mm×803 mmの大紙だったり、一本の大樹が描かれた530 mm×410 mmだったり。
はたまた、ビッシリと文字が書き記されたものだったり、はたまた動物や昆虫のスケッチだったり。
あと、分厚い本もある。
どっちにしろ、その散らかり具合は酷い。
けれど、それよりも子供部屋、いや普通の部屋としてありえない光景が広がっている。
部屋の中に水が流れているのだ。
言葉にしても分からないが、つまりところミズチのせいだ。
ミズチは、いわば環境幻獣ともいうべきか。自身の周りの環境を自分に適した環境へと変える力を持っている。
姉妹分も成長すればそうなるだろう。
兎にも角にも、無数の枝が伸ばされたかの如く部屋には清流の小川が空中を流れているのだ。月明りに照らされてキラキラと光っている。
そしてあにぃが立ち上がれば、それに合わせて空中を流れる清流の小川は形を変える。うねりくねり、昇り、落ちる。
あにぃの魔力に反応するようになっているのだ。
因みに、床に水が落ちることはない。落ちるとあにぃがとても悲しむので、そんなへまはしないのだ。
「シュー?」
「え、タイトル?」
夜遅くまで――六歳児なのでそれでも21時前――作業に没頭していたあにぃは、首に巻きつくミズチの頭を指先で撫でる。
その撫でテクニックもそうだが、体から溢れる優しい魔力にミズチは目を細める。
「う~ん、そうだね。今回は僕一人で書いて描いたし、原作があるわけではないからね……」
「シュ~?」
「え、セオ? どうだろ。けど、まぁ相談してもいいんだけど、せっかく初めて全てを一から作ったし、自分でつけたいな」
あにぃはベッドの上に散乱していた紙をどかし、座る。それから先ほど完成した絵本をパラリパラリと捲り、目を通す。
「……うん、とてもいいよ」
「シューシュ?」
「うん、自分で言うよ。自分の作品を信じないで、誰が信じてくれるのさ。もちろん、ああすればよかった、こうすればよかったて思うけど、っというか今も凄く思ってるけど――」
あにぃはベッドに倒れ込み、腕をもって絵本を見上げる。空中を流れる小川が複雑に月明りを反射するため、絵本に影に埋もれず、照らされる。
「楽しいし、嬉しい。やり切った」
「シュー」
「アハハ、くすぐったいよ、ミズチ」
達観した、それでいて無邪気な表情を浮かべたあにぃがキラキラしていて、ミズチは体を首筋にこすり付ける。
あにぃはこそばゆいのか、大笑いしながら体を震わせる。
それから少しして、
「僕だけで全てを作ったんだよな……」
感慨深げに呟いた。
その呟きには、少しだけ暗い気持ちも隠れていた気がして、ミズチは首を傾げる。
「シュー?」
「……うん、そうだね。うん、多分そんな気持ちもあると思うよ」
あにぃは絵本の背表紙を撫でる。
「ほら、セオってなんでもできるじゃん。僕のこととても自慢してくれるし、それは嬉しいけど……僕じゃ敵わないと思うところがいっぱいある」
「シューシュ」
「うん、そうなんだよ。なのに、セオったら自分を下げることばかりしててさ」
「シュー」
気持ちよく暗い気持ちを吐き出す。あにぃは利発で無垢だからこそ、素直に自分の感情を吐露できる。
憧れと妬みと悔しさと野心。
「いつかさ、セオを超えたい。セオが僕と競い合って欲しい。これはそのための一歩かな」
「シュシュー」
「……ミズチはせっかちだなぁ」
それよかタイトルは? と尋ねてきたミズチにあにぃは苦笑する。
それから首を傾げ、悩ます。
ポツリポツリと思いついた事を述べていく。
「……月明り……僅か……夜……見守る……でも、この話は昼すぎの森が舞台だし……淡い光……そっと添えらえる……お日様……木漏れ日?」
「シュー?」
「う~ん、ちょっとあれかな? 安直すぎるというか……」
あにぃは首を捻りまくる。何度も何度も捻るがいいタイトルが思い浮かばない。
ミズチはう~ん、う~ん、と頭を悩ますあにぃの様子が、少し嬉しくって微笑ましくって、シュルシュルとあにぃの体を移動する。
そんな移動が心地よかったのか。
「スー。スー」
「シュ~」
あにぃは寝てしまった。
ミズチは困ったように溜息を吐き、少しだけ唸った後。
「シュ。シュシュー」
あにぃの足元にあった毛布を口につかみ、引っ張る。あにぃに掛ける。今は冬で、外は雪が積もっているので、風邪を引かないように念入りにだ。
それからあにぃが抱きしめていた絵本をそっと尻尾で巻き取り、抜き去る。
それを枕元に避難させる。
「シュッシュー!」
次に、空中を流れる清流に飛び込み、そこから無数の水の触手を伸ばしていく。
今日、あにぃが散らかした紙や絵具、遊戯などを片づけるのだ。
だたその時、ミズチは部屋全体、特に紙類に防水の加護を施す。水の触手で持ち上げた時に濡れないようにするためだ。
「シュ~? ……シュ」
整理をする際の分別で少し迷いながらも、ミズチはあにぃの癖や思考等々を考慮して紙等々を整理していく。
それから十分ちょっと。
部屋の整理が終わり、まぁまぁ綺麗になった。
と、言っても元々の量が多く、一つも捨てていないので散らかっているといえば、散らかっているのだが、先ほどよりもマシだったりする。
「シューシュ」
だからか、ミズチも満足気に頷いた。
そしてミズチは空中を流れる清流から床へ飛び降りる。音はない。
「シューーーー」
ミズチは瞑目する。空気中を漂う水分を己の近くの一部として、感知を広げていく。
ミズチは蛇だ。そのため、全身が耳だったりする。
そのため体を床に押し付ける。
そうして数十秒。
「シュ!」
ミズチは嗤った。よし、これならいける、と。
そういう事でミズチは床を移動する。くねくねと体を動かし、無音移動する。
扉の前に立ち、物凄い跳躍力でドアノブに飛び乗る。ドアノブに体を巻きつけ、尻尾で回す。
それから振り子のように頭を揺らし、扉を僅かに開けたら、その隙間に頭を入れる。
反対側のドアノブに頭を巻きつけた後、ゆっくりと移動する。完全に外のドアノブに移動し終わったら、再びドアノブを回し、体を揺らして閉める。
ここまで完全な無音。まさに蛇の容姿に相応しいサイレントハンターだ。
「シュ~シュ」
ここでミズチは再び瞑目。空気中の水分を感じ取っていく。
確信する。
「シューシュ!」
そこからは凄い。速い。
まるで氷の上を滑るがごとくミズチはスルスルと床を移動していく。その速さは人間の全力ダッシュよりも速いだろう。
それはそうだ。ミズチは水を自由自在に操る。床と自らの間に薄い水の膜を張って摩擦を減らすとともに、小さなジェット噴射の要領で加速しているのだ。
ものの十秒もしないうちに一階に降り、ミズチは壁を這うように移動する。
ここからは移動速度よりも隠密重視だからだ。
ソロリソロリと這う。
ヒタヒタと暗闇が迫るが如く、僅かに恐ろし雰囲気を醸し出しながら、ゆっくりと移動する。
そうして、数分近く。
「シュー」
目的の場所にたどり着いた。
そこは厨房室。明かりはついていて、
「よし、仕込みはこんな程度か」
鬼説教強面角男の声が聞こえてくる。
けれど、ミズチはひるまない。今日こそは、と気合を入れる。
ここからが勝負だ。
「……」
ミズチは己の全力を出す。空気中の水分を操作して、自らに幻惑を纏わせる。
光学迷彩とも言うべきか。ミズチの周りの水分がうまい具合に光を屈折反射させる事により、ミズチは背景と同化する。
それから己の知覚能力を頭が痛くなる限界まで拡張する。
水分の感知と振動の感知をフル稼働させ、鬼説教強面角男の血液の流れや心臓の脈拍を読む。思考を先読みする。
さぁ、準備は整った。
では、厨房への侵入ミッション開始――
「ほれ、これだろ」
「シュッッッッッ!!!!????」
と、思った瞬間、後ろから鬼説教強面角男の声が聞こえてミズチは飛び上がる。
厨房の扉に体をぶつけ、のたうち回る。
「お、大丈夫か?」
「シューシュっ!」
「おお、大丈夫らしいな。ほれ、これを飲みに来たんだろ?」
ミズチの抗議などなんのその。鬼説教強面角男はガハハと笑いながら、ある水が入った小皿を目の前に置く。
聖水だ。しかも、水の大精霊が管理している竜霊慰泉の水である。
つまるところ最高級の水だ。この水一滴だけで、大病すら治るといわれる代物だったりする。
だから、
「シューシュ―シュー!!!」
「そうか、そうか。そんなに美味いか」
ミズチはたまらずその小皿に飛び込んでしまう。チロチロと長い舌を出し、小皿の聖水を舐めとる。
けれど、その聖水が入っていたのは小皿だった。
そのため、すぐに空っぽになってしまった。
ミズチは尻尾をダンダンと下に叩きつけて抗議する。
「シュー! シュー!」
「駄目だ。飲みすぎるとお前の成長にも悪影響がでる。良いもんだって取り込みすぎると悪いもんになんだよ」
鬼説教強面角男は手のひらを振り、ミズチの抗議をいなした。
ミズチはうなだれる。悔しさが溢れる。
気づかれずに侵入できていれば、鬼説教強面角男を通さずにたらふく聖水が飲めるというのに。
「まぁ、明日の分もある。ライン坊が寝たら、また来い」
「シュー」
ミズチは明日こそは腹いっぱい飲んでやる、と強く心に誓い、鬼説教強面角男に背を向けた。
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