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てんやわんやの新たな日常
実際の電気回路の抵抗もこの考え方で問題ない(たぶん):Resistance
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ギャースカピースカ騒ぎ、疲れたころ。
「そういえば、カーター。魔法や魔道具の何が分からないの?」
「あ、そうだった」
感想を語りつくし、ゼーハァーゼーハァーといった具合になっていたカーターが辺りを見渡す。
「書くものない?」
「あるよ」
俺は〝念動〟で木々によって部屋の片隅に追いやられている机から羽ペンとインク壺、安紙を取り出す。
それをカーターに渡す。
「いや、な。死之行進会っただろ? 俺らは後方での見学が主だったけど、やっぱり魔法って使えた方がいいと思ったんだ。こう、ドカーンっとしたのとか、ビュッドンって感じのをな」
「はぁ、それで」
カーターで普段は語彙力が高いのだが、魔法は主に感覚でやってるからな。それだけ天性の才に溢れているという事だが……
「こないだガビドにその事を言ったらな。何故か魔道具について学んでこいって。こう薄っぺらい本――確か、ゴブリンでもわかる魔道具基礎、だったか? アレを渡されて。でも分かんねぇんだよ」
「ええっとどこら辺が?」
俺は苦笑しながら尋ねる。
『ゴブリンでもわかる魔道具基礎』。あれは、嘘だ。難しい。
いや、難しいというわけではないが、基礎が理解できる本ではない。
いわば小学校や中学校の理科や科学の教科書と一緒。理屈は書いておらず、ただただ事象とちょっとした公式が乗っているだけ。
あれって、知るだけなら問題ないが、学んだり理解するとなると使えないんだよな。何故の部分が少なかったりするし。
特に小中、特に中学で学ぶ科学系の言葉って結構事実とは異なってる場合も多いからな。簡略化しているというか……
いや、まぁ興味がなければそれで十分だから、文句はないんだが。
兎にも角にも、たぶんカーターには合わない。
それに、ガビドが魔道具を学べといった理由を考えれば、特にだ。何で『ゴブリンでもわかる魔道具基礎』の本を渡したか気になるが、ガビドは魔力の流れや変質、展開や固定等々の明確な理論イメージを学んでほしんだろう。
なので、俺は背筋を正し、カーターに尋ねる。エイダンは疲れたのか、コタツの中で丸まって横になっているので、邪魔される事はないだろう。
「まず、魔力回路だな。閉回路と開回路の違いを教えてくれ。あと、抵抗だ。この補助魔道言語の意味が分からん。どうして邪魔する必要がある? 魔法だとどれだけ少ない魔力量で魔法を発動するかだろ? 無駄に消費してどうすんだよ。それと、なんでここの補助魔道言語は現代魔道言語じゃなくて、古代魔道言語を使ってるんだ? あと概念魔道言語の理屈がさっぱりだ。ただただ文字しか書いてないし。他にもさ――」
「ああ、ちょっとごめん。いったん落ち着いて」
先ほどの感想のマシンガンよりも弾数が多い。
そうか、アテナ母さんたちって俺やライン兄さんからこんなマシンガン質問を受けていたのか。大変だったんだな。
けど、アテナ母さんたちがしっかり答えてくれたから、俺も同じようにするが。
「あと、どれくらいある?」
「十六個くらい」
「うん、だよね。ちょっと待ってて」
そう言いながら、俺は〝念動〟を再び発動して、階段式の箪笥の引き出しの一つから、タイプライターと専用の紙束を取り出す。
「なんだ、それ?」
「企業秘密。誰にも話しちゃだめだよ?」
「……そうか」
カーターは神妙に頷いた。俺の表情が結構真剣だったからだろう。
普段は手のひらクルックルに返しまくって、不誠実に感じるかもしれないが、こう弁えるところは弁えているのだ。
だからこそ、ライン兄さんと同じで利発だと思ってるんだが。
「まず、一番知りたいことは何?」
「……これだ」
タイプライターのインクや細かな部分のチェックが終わり、紙をセットしながら尋ねると、カーターが渡した安紙に羽ペンを走らせ、見せてくる。
「第三補助魔道言語?」
「そうだ。抵抗の意味が全くもって分からん。たくさん流せた方がいいだろ。常に効率効率と言ってたガビドの爺さんがこれを学べといった理由が分からん」
カーターが口先をへの字に曲げ、そう言った。
魔道具は電気回路に似てもなくもない。つまり、微妙に似ている。
前世で、そっち専攻だったからこそ、魔術を再現出来たりしたんだが……
「そうだね。まずは、抵抗は邪魔をする、という認識を改めた方が早いかな?」
「あん? 魔力の流れを邪魔してるから、抵抗なんだろ?」
「それはちょっと違うね」
俺はそう言いながら、片手でタイプライターを打っていく。ぶっちゃけ、ここで話しただけで理解し、それを覚え続けられるとは思わない。
家に帰って読み返しが出来たり、学習の手助けになれるように別途で考え方のヒントや分かりやすい説明を書くのだ。
つまり今から専用の教本を書いているのだ。
時折チーンと音がなるタイプライターにびっくりするカーターは、だが、俺の説明に耳を傾ける。
……教本書きながら説明ってちょっと面倒……あ、分身。
ということで、分身を召喚してタイプライターと教本作りを任せる。
「で、何が違うんだよ」
「ごめんごめん。魔道具学において魔力って何?」
「あん? 魔力は魔力だろ。ほら、僕もお前も持ってる」
「それは一般的な魔力。魔道具学に置いて『魔力』は流れる量を指す」
「流れ?」
う~ん。俺も説明するのは初めてだしな。頑張るか。
「その補助魔道言語内に流れている魔力の量を、魔道具学では『魔力』なんだ」
「う、うん? それって魔力と何の違いがあるんだよ?」
ここも問題だよな。
今の魔道具学で躓く多くのポイントは、日常生活や他の学問で簡易的に使われる言葉の意味と違うという事だ。
今度、それを訂正した言葉リストっていうのを作ろうかな。
「そうだね。仮に魔道具学の『魔力』を『魔流』とでも置き換えようかな。ここは大丈夫?」
「あ、ああ。『魔流』な。魔力の流れで『魔流』か」
「うん」
前世の電流は一秒間に流れる電荷の量だったが、似ているのでパクらせてもらう。あくまで似ているだけなのだが。
「じゃあ、この補助魔道具言語による全回路内の『魔流』はどれくらいになる? 概念魔道言語とかの影響は考えずに」
「ああん? 魔力が『魔流』で、だからつまり……あの式で……」
カーターは安紙に羽ペンを走らせ、数式を立てていく。
なるほど。言葉面と使う道筋は分かってるのか。けど、言葉の意味とか公式の意味自体は分かってない感じかな。
基本的な四則演算だから、うん、できてるね。まぁ五歳で四則演算できるなんて凄いんだが。
ここで行列を使いたくなるけど、行列ってこの世界にないしな。あれもいずれ発表してみんなが使えるようにしたいところだけど、俺もあんまり理解してないんだよな。
理数じゃなくて、工学だったせいで実際に使っていたやつしか覚えてないし。それも会社に入る前の記憶だし……
「12.5だろ?」
「うん、正解。じゃあ、これとこれの補助魔道言語内の『魔流』は?」
「……6.3」
「うん正解。じゃあ、何でこの二つの『魔流』の大きさは違う?」
カーターがハンッと鼻を鳴らす。
「だって、補助魔道具言語の回路自体が分岐してるだろ? 二つに。だから、『魔流』の大きさも別れて、変わったんだ」
「じゃあ、もう一つの補助魔道具言語内の『魔流』は?」
「6.2」
「うん、あってる。じゃあ、何でこことここの『魔流』の大きさが違うの? 何で、共に6.25じゃないの?」
「あん? それは……ほら、ここだっ! この式の抵抗の値が違うからっ!」
カーターはトンチに会ったような顔をしながら、ビシッと先ほどの計算式を見せる。俺は頷く。
「そう。それが抵抗の意味だよ」
「あん? どういう事だ?」
「『魔流』の大きさを調整する。それが抵抗の意味」
「う……ん? だが、『魔流』は元々魔力で、抵抗を通したら消費されてなくなるだろっ!」
「それは第二補助魔道具言語。つまり、事象を引き起こす魔道言語。あれも、一種の抵抗だけど、第三補助魔道具言語とは違う」
「第二? 第三?」
厄介だし、一度に理解できる代物でもない。そもそも、今の魔道具学だってクラリスさんが前世の半分をかけてようやく作り出した学問だ。
エルフのクラリスさんの半分だ。それを易々と理解できるものではない。
なので俺は“宝物袋”を発動して、幾つかの鉱石を取り出す。
「ちょっと待っててね」
そう言いながら、俺は“細工術”で鉱石の形を変形させていく。粘土の様に柔らかくし、またくっつけたり。
そうして作ったのが。
「水差し?」
「ジョウロ。ほら、お母さんとかが花壇の水やりに使ってない?」
「使ってたような、そうでないような……」
まぁいいっか。
俺は立ち上がり、階段式の箪笥の上を流れる水をジョウロの中に入れる。ある程度入ったところで、部屋の四隅においてある大き目の植木鉢の内、箪笥に近いところに移動し、カーターを手招きする。
コタツに出るのが嫌だったのか、少しだけ顔を顰めたものの、カーターは渋々出てきた。
わからんでもないが、渋々なんだよな……
まぁいっか。正直な子供だし。
「ここに植物があります」
「あ、ああ」
「とすると、水を上げたいですよね?」
「そ、そうだな。なんだ、その話し方」
「まぁいいから」
ごめんよ、アルたち。
コタツの中で寝ているエイダンに引っ付きながら寝ているアルたちに、心の中で一言謝った後、ジョウロの口金とも呼ばれるところに、大き目の穴が幾つも空いたキャップを取り付ける。
いわゆるハス口だ。
「じゃあ、注ぐよ」
「おう」
注ぐ。
すると、ジョウロのハス口から多くの水が流れ、植木鉢の土に大きなクレータを作る。ぐちゃぐちゃになり、ドロドロとなる。
注ぐのをやめる。
「ねぇ、どんな感じ?」
「どんな感じって……」
「この道具ってこの植物にとって相応しいと思う?」
「……いや。なんか、ドロドロしてて、すっごい水たまりできてるし、根っこが見えてる。なんか嫌だ」
「そうだよね。水が過多になりやすいし、土壌を悪くする。じゃあ、次はこっち」
俺はそう言いながら、反対側にある植木鉢の方へと移動する。カーターもついてくる。
それから、先ほど付けたハス口を外し、小さめの穴が幾つも空いたハス口に取り換える。
「注ぐよ」
「お、おう」
すると、今度は柔らかな雨のように水が植木鉢に降り注ぐ。つまり、土に穴が開くことはないし、水たまりができることもない。
注ぐのをやめる。
「ねぇ、さっきと比べてどんな感じ?」
「え、いや、いい感じだと。ドロドロしてないし、自然な感じがする」
「そうだよね」
先ほどドロドロにして悪くした植木鉢を水魔術と土魔術を使って元の状態に直しながら、俺は頷く。
ジョウロを床において、大き目の穴が幾つも空いたハス口と小さめ幾つも空いたハス口を手にとる。カーターに見せる。
「これが第三補助魔道言語の抵抗。適切な分の水の流れ――つまり『魔流』を取り出すための道具なんだよ」
「つまり、邪魔をするっていうか、調節器って事か?」
「そういう事。大き目の穴が空いたこっちは、たくさん水が流れるけど、植物に水をやるには不適切。小さめの穴の方は、流れる量は少ないけど、植物に水をやるには適切」
コタツに戻りながら、俺はいう。
「第三補助魔道言語の抵抗はいわば『魔流』の大きさを調節する『調節抵抗』」
「まんまだな」
「そう、それでいいんだよ。分かりやすい方がいい。そして第二補助魔道言語の抵抗は、『水をやる』、それ自体を指す。だから、水流――『魔流』が消費される」
「つまり、普通の魔法と同じで事象を起こしたから魔力が減ると」
「そう。正確には『魔流』が事象に返還されるだけなんだけど。まぁこの場合は、全体の回路内に流れてる『魔流』の大きさが減る。抵抗って称されてるから問題だけど、『事象変換』とかそんな感じだね」
「……なるほど」
カーターは神妙に頷いた。
まぁ半分分かって半分分かってない状態なんだろうな。それでいい。
「そういえば、カーター。魔法や魔道具の何が分からないの?」
「あ、そうだった」
感想を語りつくし、ゼーハァーゼーハァーといった具合になっていたカーターが辺りを見渡す。
「書くものない?」
「あるよ」
俺は〝念動〟で木々によって部屋の片隅に追いやられている机から羽ペンとインク壺、安紙を取り出す。
それをカーターに渡す。
「いや、な。死之行進会っただろ? 俺らは後方での見学が主だったけど、やっぱり魔法って使えた方がいいと思ったんだ。こう、ドカーンっとしたのとか、ビュッドンって感じのをな」
「はぁ、それで」
カーターで普段は語彙力が高いのだが、魔法は主に感覚でやってるからな。それだけ天性の才に溢れているという事だが……
「こないだガビドにその事を言ったらな。何故か魔道具について学んでこいって。こう薄っぺらい本――確か、ゴブリンでもわかる魔道具基礎、だったか? アレを渡されて。でも分かんねぇんだよ」
「ええっとどこら辺が?」
俺は苦笑しながら尋ねる。
『ゴブリンでもわかる魔道具基礎』。あれは、嘘だ。難しい。
いや、難しいというわけではないが、基礎が理解できる本ではない。
いわば小学校や中学校の理科や科学の教科書と一緒。理屈は書いておらず、ただただ事象とちょっとした公式が乗っているだけ。
あれって、知るだけなら問題ないが、学んだり理解するとなると使えないんだよな。何故の部分が少なかったりするし。
特に小中、特に中学で学ぶ科学系の言葉って結構事実とは異なってる場合も多いからな。簡略化しているというか……
いや、まぁ興味がなければそれで十分だから、文句はないんだが。
兎にも角にも、たぶんカーターには合わない。
それに、ガビドが魔道具を学べといった理由を考えれば、特にだ。何で『ゴブリンでもわかる魔道具基礎』の本を渡したか気になるが、ガビドは魔力の流れや変質、展開や固定等々の明確な理論イメージを学んでほしんだろう。
なので、俺は背筋を正し、カーターに尋ねる。エイダンは疲れたのか、コタツの中で丸まって横になっているので、邪魔される事はないだろう。
「まず、魔力回路だな。閉回路と開回路の違いを教えてくれ。あと、抵抗だ。この補助魔道言語の意味が分からん。どうして邪魔する必要がある? 魔法だとどれだけ少ない魔力量で魔法を発動するかだろ? 無駄に消費してどうすんだよ。それと、なんでここの補助魔道言語は現代魔道言語じゃなくて、古代魔道言語を使ってるんだ? あと概念魔道言語の理屈がさっぱりだ。ただただ文字しか書いてないし。他にもさ――」
「ああ、ちょっとごめん。いったん落ち着いて」
先ほどの感想のマシンガンよりも弾数が多い。
そうか、アテナ母さんたちって俺やライン兄さんからこんなマシンガン質問を受けていたのか。大変だったんだな。
けど、アテナ母さんたちがしっかり答えてくれたから、俺も同じようにするが。
「あと、どれくらいある?」
「十六個くらい」
「うん、だよね。ちょっと待ってて」
そう言いながら、俺は〝念動〟を再び発動して、階段式の箪笥の引き出しの一つから、タイプライターと専用の紙束を取り出す。
「なんだ、それ?」
「企業秘密。誰にも話しちゃだめだよ?」
「……そうか」
カーターは神妙に頷いた。俺の表情が結構真剣だったからだろう。
普段は手のひらクルックルに返しまくって、不誠実に感じるかもしれないが、こう弁えるところは弁えているのだ。
だからこそ、ライン兄さんと同じで利発だと思ってるんだが。
「まず、一番知りたいことは何?」
「……これだ」
タイプライターのインクや細かな部分のチェックが終わり、紙をセットしながら尋ねると、カーターが渡した安紙に羽ペンを走らせ、見せてくる。
「第三補助魔道言語?」
「そうだ。抵抗の意味が全くもって分からん。たくさん流せた方がいいだろ。常に効率効率と言ってたガビドの爺さんがこれを学べといった理由が分からん」
カーターが口先をへの字に曲げ、そう言った。
魔道具は電気回路に似てもなくもない。つまり、微妙に似ている。
前世で、そっち専攻だったからこそ、魔術を再現出来たりしたんだが……
「そうだね。まずは、抵抗は邪魔をする、という認識を改めた方が早いかな?」
「あん? 魔力の流れを邪魔してるから、抵抗なんだろ?」
「それはちょっと違うね」
俺はそう言いながら、片手でタイプライターを打っていく。ぶっちゃけ、ここで話しただけで理解し、それを覚え続けられるとは思わない。
家に帰って読み返しが出来たり、学習の手助けになれるように別途で考え方のヒントや分かりやすい説明を書くのだ。
つまり今から専用の教本を書いているのだ。
時折チーンと音がなるタイプライターにびっくりするカーターは、だが、俺の説明に耳を傾ける。
……教本書きながら説明ってちょっと面倒……あ、分身。
ということで、分身を召喚してタイプライターと教本作りを任せる。
「で、何が違うんだよ」
「ごめんごめん。魔道具学において魔力って何?」
「あん? 魔力は魔力だろ。ほら、僕もお前も持ってる」
「それは一般的な魔力。魔道具学に置いて『魔力』は流れる量を指す」
「流れ?」
う~ん。俺も説明するのは初めてだしな。頑張るか。
「その補助魔道言語内に流れている魔力の量を、魔道具学では『魔力』なんだ」
「う、うん? それって魔力と何の違いがあるんだよ?」
ここも問題だよな。
今の魔道具学で躓く多くのポイントは、日常生活や他の学問で簡易的に使われる言葉の意味と違うという事だ。
今度、それを訂正した言葉リストっていうのを作ろうかな。
「そうだね。仮に魔道具学の『魔力』を『魔流』とでも置き換えようかな。ここは大丈夫?」
「あ、ああ。『魔流』な。魔力の流れで『魔流』か」
「うん」
前世の電流は一秒間に流れる電荷の量だったが、似ているのでパクらせてもらう。あくまで似ているだけなのだが。
「じゃあ、この補助魔道具言語による全回路内の『魔流』はどれくらいになる? 概念魔道言語とかの影響は考えずに」
「ああん? 魔力が『魔流』で、だからつまり……あの式で……」
カーターは安紙に羽ペンを走らせ、数式を立てていく。
なるほど。言葉面と使う道筋は分かってるのか。けど、言葉の意味とか公式の意味自体は分かってない感じかな。
基本的な四則演算だから、うん、できてるね。まぁ五歳で四則演算できるなんて凄いんだが。
ここで行列を使いたくなるけど、行列ってこの世界にないしな。あれもいずれ発表してみんなが使えるようにしたいところだけど、俺もあんまり理解してないんだよな。
理数じゃなくて、工学だったせいで実際に使っていたやつしか覚えてないし。それも会社に入る前の記憶だし……
「12.5だろ?」
「うん、正解。じゃあ、これとこれの補助魔道言語内の『魔流』は?」
「……6.3」
「うん正解。じゃあ、何でこの二つの『魔流』の大きさは違う?」
カーターがハンッと鼻を鳴らす。
「だって、補助魔道具言語の回路自体が分岐してるだろ? 二つに。だから、『魔流』の大きさも別れて、変わったんだ」
「じゃあ、もう一つの補助魔道具言語内の『魔流』は?」
「6.2」
「うん、あってる。じゃあ、何でこことここの『魔流』の大きさが違うの? 何で、共に6.25じゃないの?」
「あん? それは……ほら、ここだっ! この式の抵抗の値が違うからっ!」
カーターはトンチに会ったような顔をしながら、ビシッと先ほどの計算式を見せる。俺は頷く。
「そう。それが抵抗の意味だよ」
「あん? どういう事だ?」
「『魔流』の大きさを調整する。それが抵抗の意味」
「う……ん? だが、『魔流』は元々魔力で、抵抗を通したら消費されてなくなるだろっ!」
「それは第二補助魔道具言語。つまり、事象を引き起こす魔道言語。あれも、一種の抵抗だけど、第三補助魔道具言語とは違う」
「第二? 第三?」
厄介だし、一度に理解できる代物でもない。そもそも、今の魔道具学だってクラリスさんが前世の半分をかけてようやく作り出した学問だ。
エルフのクラリスさんの半分だ。それを易々と理解できるものではない。
なので俺は“宝物袋”を発動して、幾つかの鉱石を取り出す。
「ちょっと待っててね」
そう言いながら、俺は“細工術”で鉱石の形を変形させていく。粘土の様に柔らかくし、またくっつけたり。
そうして作ったのが。
「水差し?」
「ジョウロ。ほら、お母さんとかが花壇の水やりに使ってない?」
「使ってたような、そうでないような……」
まぁいいっか。
俺は立ち上がり、階段式の箪笥の上を流れる水をジョウロの中に入れる。ある程度入ったところで、部屋の四隅においてある大き目の植木鉢の内、箪笥に近いところに移動し、カーターを手招きする。
コタツに出るのが嫌だったのか、少しだけ顔を顰めたものの、カーターは渋々出てきた。
わからんでもないが、渋々なんだよな……
まぁいっか。正直な子供だし。
「ここに植物があります」
「あ、ああ」
「とすると、水を上げたいですよね?」
「そ、そうだな。なんだ、その話し方」
「まぁいいから」
ごめんよ、アルたち。
コタツの中で寝ているエイダンに引っ付きながら寝ているアルたちに、心の中で一言謝った後、ジョウロの口金とも呼ばれるところに、大き目の穴が幾つも空いたキャップを取り付ける。
いわゆるハス口だ。
「じゃあ、注ぐよ」
「おう」
注ぐ。
すると、ジョウロのハス口から多くの水が流れ、植木鉢の土に大きなクレータを作る。ぐちゃぐちゃになり、ドロドロとなる。
注ぐのをやめる。
「ねぇ、どんな感じ?」
「どんな感じって……」
「この道具ってこの植物にとって相応しいと思う?」
「……いや。なんか、ドロドロしてて、すっごい水たまりできてるし、根っこが見えてる。なんか嫌だ」
「そうだよね。水が過多になりやすいし、土壌を悪くする。じゃあ、次はこっち」
俺はそう言いながら、反対側にある植木鉢の方へと移動する。カーターもついてくる。
それから、先ほど付けたハス口を外し、小さめの穴が幾つも空いたハス口に取り換える。
「注ぐよ」
「お、おう」
すると、今度は柔らかな雨のように水が植木鉢に降り注ぐ。つまり、土に穴が開くことはないし、水たまりができることもない。
注ぐのをやめる。
「ねぇ、さっきと比べてどんな感じ?」
「え、いや、いい感じだと。ドロドロしてないし、自然な感じがする」
「そうだよね」
先ほどドロドロにして悪くした植木鉢を水魔術と土魔術を使って元の状態に直しながら、俺は頷く。
ジョウロを床において、大き目の穴が幾つも空いたハス口と小さめ幾つも空いたハス口を手にとる。カーターに見せる。
「これが第三補助魔道言語の抵抗。適切な分の水の流れ――つまり『魔流』を取り出すための道具なんだよ」
「つまり、邪魔をするっていうか、調節器って事か?」
「そういう事。大き目の穴が空いたこっちは、たくさん水が流れるけど、植物に水をやるには不適切。小さめの穴の方は、流れる量は少ないけど、植物に水をやるには適切」
コタツに戻りながら、俺はいう。
「第三補助魔道言語の抵抗はいわば『魔流』の大きさを調節する『調節抵抗』」
「まんまだな」
「そう、それでいいんだよ。分かりやすい方がいい。そして第二補助魔道言語の抵抗は、『水をやる』、それ自体を指す。だから、水流――『魔流』が消費される」
「つまり、普通の魔法と同じで事象を起こしたから魔力が減ると」
「そう。正確には『魔流』が事象に返還されるだけなんだけど。まぁこの場合は、全体の回路内に流れてる『魔流』の大きさが減る。抵抗って称されてるから問題だけど、『事象変換』とかそんな感じだね」
「……なるほど」
カーターは神妙に頷いた。
まぁ半分分かって半分分かってない状態なんだろうな。それでいい。
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『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
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元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
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