異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
165 / 316
てんやわんやの新たな日常

男子のやり取りなんて大抵こんな感じだ(たぶん):Resistance

しおりを挟む
 レモンがモフモフの狐尻尾を揺らし、先導する。

 そんなレモンをチラチラと見ながら、エイダンが俺の耳に顔を近づける。

 おい、やめろ。ライン兄さんやエドガー兄さん級の美形以外にそれやられると、反応に困るんだよっ!

「なぁ、どこ向かってんだ?」
「……俺の部屋。ブラウはまだ寝てるからね。それに先に絵本の方を済ませたいし」
「そうか」

 エイダンはそう言ったきり、レモンをチラチラ見ては物珍しいのか、屋敷の天井やら窓やら壁やらを見ている。

 そんなせわしないエイダンとは違い、カーターは非常に落ち着いていた……いや、落ち着いてなかった。

 時よりグーグーとお腹を鳴らしているし、ジュルリと涎が垂れている。ポーカーフェイスでありながら、たぶん脳内では美味しいお菓子を頬張っている妄想でもしているのだろう。

 やれやれ、と二人に溜息を吐いた時。

「では、私はセオ様がご用意されたお菓子と飲み物を持ってきますので、ごゆるりと楽しんで下さい」
「あ、レモン。よろしくね」
「はい」

 俺の部屋の前に辿り着いたため、レモンは尻尾をゆらゆら揺らしてお菓子と飲み物を取りに行った。

 ……あれ? 何でレモンはここまで来たんだろ。俺の部屋に行くなら、俺が案内すればいい話だし……

 まぁいっか。

「じゃあ、俺の後に続いて上がってきて」
「お、おう」
「ああ」

 俺は部屋の前のほぼ梯子の階段を昇る。エイダンとカーターが珍しそうにそれを見ながら、いやキラキラと目を輝かせているな。どっちにしろ、興奮した様子で二人も昇る。

 それからアランにお願いして大きくしてもらった扉を開き、エイダンとカーターを自室に入れる。

「……部屋か、ここ?」
「森かなにかじゃないか、ここ」

 エイダンとカーターが物珍しそうに俺の部屋を見渡す。

「前は普通の部屋だったんだけどね。アルたちがいつの間にか……」

 俺の部屋は、一言で言えば森だ。

 部屋の四隅に置かれた大き目の植木鉢から伸びる四本の堅い木は、天井に沿いながら枝を伸ばし、絡み合い、複雑怪奇なオブジェクトと化している。葉も生えまくってる。

 そして部屋の中央にだけは枝や葉はなく、そこから陽光球が糸に吊り下がっている。部屋の灯り兼植物たちの光だ。

 また、アルやリュネ、ケンが集めた枝やら木の実が、まるで生きているかの様に枯れることなく堅い木に突き刺さったりしている。

 また、どこから珍しい花を持ってきては、家具のあちこちに植えつけるのだ。枯れることなく――正確には普通の植物のように生長して枯れて成長して枯れてを繰り返している感じだ。種は、アルたちが大切に保管している。

 少し視線をずらし、そこを見る。

 元々は屋根の上に行くはずだった階段式の箪笥の上部には水が流れている。別にレールを引いて疑似的な川を作ったわけではない。

 ただ、ミズチの力によって階段を一つの川として水が流れ、落ち、流れ、落ち、そして一番下に行くとうねうねと昇り龍のように水が巻き上がり、一番頂上へと水が戻るのだ。

 幸い、ユキが雪関連でなにかをすることはなかったが、それでもこの部屋を作り出した四人は。

「ア、アル……」
「リュネ~~!」
「ケン~!」
「シュー!」
「お、おい。なんだこのちっこいのっ!」
「魔物――いや、幻獣っ?」

 俺の部屋で遊んでいたリュネ達が見えたからか、先ほどまでエイダン達をずっと警戒していたアルが俺の頭から顔を覗かせる。

 リュネたちは、初めての客であるエイダン達に飛びつく。二人とも驚き、どうすればいいのか戸惑っている。

 ……あれ、にしてもなんでミズチがここにいるんだろ。さっきまでライン兄さんの首に巻かれていたかと思ったんだが。

 まぁいいや。

「この子たちが部屋をこんな感じに変えた犯人だよ」
「そんなっ、事より――アハハッ。、ちょ、助けてくれっ!」
「くすぐったいっ! アハハ、アハハハハハッ――くすぐったいからっ! ちょ、やめっ!」

 リュネたちがエイダンとカーターの体をあっちこっちに回りまくるので、子供肌で敏感な二人はくすぐったそうに身をよじる。

 それどころか、バタバタとしながら倒れ込む。

 ただ、扉の入り口で暴れ回られるのも困るので。

「リュネたち、一旦離れなさい」
「……リュ―」
「ケン」
「シュー」

 三人を回収する。

「た、助かった」
「笑い死ぬかと思った」

 エイダンとカーターは肩を上下させる。俺はベッドの下から二つの座布団を取り出し、部屋の中央にある布が被ったちゃぶ台――コタツに近くに置く。

「はい、ここ座って」
「あ、ああ。分かった」
「あ、温かい。何だいこれは?」

 コタツの中に足を入れたカーターが首を傾げる。

「中を覗けば分かるんだけど、そこにお湯を入れられるんだよ」
「お湯?」
「うん。裏にあるでしょ? 保温性に優れたガンツ鉱石で作った箱にお湯を入れるんだよ」

 そう。これは、前世のコタツの様に火を入れるとかではなく、いわば湯たんぽコタツなのだ。

 一応、魔道具を使えば温かな炎や熱い鉱石を創れるのだが、危ないし、肌に悪い。試作品として作ったけど、エドガー兄さんたちも使うため赤外線の熱波はちょっとと思った。

 それに今は冬の秋の終わりであり冬の始めという微妙な時期なので、そこまで火力が必要ではない。

 なので、温かいではなくぬくい感じを再現するために、お湯を入れるコタツを創ったのだ。因みに売る予定はまだない。というか、アカサ・サリアス商会に卸す道具のレシピが溜まりすぎているので、売るとしても来年か再来年になりそうだ。

「……おい、セオ。これを僕にくれ」
「俺もだっ! これ欲しいっ!」

 まぁけど、コタツだ。魔の箱だ。多くの偉人賢人お坊さんを堕落の道へと引き込んだ悪魔の道具だ(By. 俺調べ)。

 幼児なエイダンは直ぐに堕ちる。

 ……フハハ。フハハハハっ!

「お、おい。なんだ、その顔はっ!?」
「嫌な予感がする。おいっ、逃げるぞ、エイダンっ! コイツ、俺たちに厄介ごと押し付けるつもりだっ!」

 エイダンとカーターが俺の顔を見て、反転。

 座布団から飛び上がり、コタツから出ようとするが。

「お、おい。カーターッ! 俺の足を押せえるんじゃねぇッ!」
「押さえてないっ! エイダンこそ、僕の足を押さえてるだろっ!」

 二人ともコタツから出れない。出ようとしてもグイグイと引き込まれている。

「セオっ! 中になにかいるのかっ!?」
「離せっ! 離すんだっ!」

 やめ、やめっ! と言った感じに二人はコタツに逆戻り。体の半分もコタツに体を突っ込み、ふにゃ~と横たわる。声だけ聞けば暴れているようだが、実際は気持ちよさそうに、ともすれば間抜けに頬を緩めている。

 俺はそんな二人にやれやれと首を振る。

「二人とも、中に誰かいるわけないじゃん。ましてブラックホールがあるわけないじゃん。リサイクルショップで買ったわけじゃないんだし」
「セオっ! 何を言ってやがるっ!」
「そうだよ、わけわかんないこと言ってっ! 大体、中に誰もいないなら何故僕たちはここから出れないんだっ?」

 俺の様子にムカついたのか、二人は怒鳴る。そんな二人に俺は懇切丁寧に教える。

「簡単だよ。二人がここから出たくないんだよ。本能レベルでここから出ることを拒否してるんだよ」
「んなっ、そんなわけ――」
「そうだっ、僕がそんな――」

 “宝物袋”を発動。コタツを異空間にしまう。

「ちょ、やめてくれっ! 俺の、俺の楽園がっ!」
「セオ、セオ様っ! お願いしますっ、どうか僕らにお恵みをっ!」

 エイダンが虚空に手を伸ばす。カーターは相変わらずの変わり身の良さで俺の縋りつく。

 っというか、お恵みってなんだよ。どうしてそんな言葉が直ぐに出てくるんだよ。五歳児でしょ?

 疑問に思いつつ、俺はニヤリと嗤った。

「ところで、お願いがあるんだけど」
「分かったっ! 分かったからっ!」
「そうだっ! 手伝う、なんでもやるっ! だから!」

 よし。言質はとった。

 なんというか、こういう関係がいいかどうかはおいておいて、やっぱりエイダンたちといると楽しいな。

 見ていて楽しいし、嬉しい。二人もノってくれるし。

「分かった。じゃあ、はい」

 俺は再び“宝物袋”を発動してコタツを元に戻す。エイダンとカーターがすかさずサッとそこにはいる。新しい家を見つけたヤドカリよりも俊敏だ。

 と、コンコンと扉を叩く音が響いたかと思うと、ユナが入ってきた。

「あれ、レモンは?」
「やるべき仕事がございましたので、私が代わりに」

 ああ、なるほど。さてはサボってたな。わざわざ俺の部屋の前まで来たのも、時間を引き延ばすためか。

 相変わらずセコイ。

「持つよ」
「ありがとうございます、セオ様」

 ユナが手に持っていたお菓子が載ったお盆を受け取る。ジュースはユナが持ってる。

 それを机に並べる。

「では、ブラウ様が目を覚ました時、お呼びに参ります。では失礼いたします」
「ありがとう、ユナ」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます」

 エイダンとカーターが少しだけ居心地が悪そうに頭を下げた後、ユナがニッコリと手を振って部屋を出ていった。
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

処理中です...