異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

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てんやわんやの新たな日常

男子のやり取りなんて大抵こんな感じだ(たぶん):Resistance

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 レモンがモフモフの狐尻尾を揺らし、先導する。

 そんなレモンをチラチラと見ながら、エイダンが俺の耳に顔を近づける。

 おい、やめろ。ライン兄さんやエドガー兄さん級の美形以外にそれやられると、反応に困るんだよっ!

「なぁ、どこ向かってんだ?」
「……俺の部屋。ブラウはまだ寝てるからね。それに先に絵本の方を済ませたいし」
「そうか」

 エイダンはそう言ったきり、レモンをチラチラ見ては物珍しいのか、屋敷の天井やら窓やら壁やらを見ている。

 そんなせわしないエイダンとは違い、カーターは非常に落ち着いていた……いや、落ち着いてなかった。

 時よりグーグーとお腹を鳴らしているし、ジュルリと涎が垂れている。ポーカーフェイスでありながら、たぶん脳内では美味しいお菓子を頬張っている妄想でもしているのだろう。

 やれやれ、と二人に溜息を吐いた時。

「では、私はセオ様がご用意されたお菓子と飲み物を持ってきますので、ごゆるりと楽しんで下さい」
「あ、レモン。よろしくね」
「はい」

 俺の部屋の前に辿り着いたため、レモンは尻尾をゆらゆら揺らしてお菓子と飲み物を取りに行った。

 ……あれ? 何でレモンはここまで来たんだろ。俺の部屋に行くなら、俺が案内すればいい話だし……

 まぁいっか。

「じゃあ、俺の後に続いて上がってきて」
「お、おう」
「ああ」

 俺は部屋の前のほぼ梯子の階段を昇る。エイダンとカーターが珍しそうにそれを見ながら、いやキラキラと目を輝かせているな。どっちにしろ、興奮した様子で二人も昇る。

 それからアランにお願いして大きくしてもらった扉を開き、エイダンとカーターを自室に入れる。

「……部屋か、ここ?」
「森かなにかじゃないか、ここ」

 エイダンとカーターが物珍しそうに俺の部屋を見渡す。

「前は普通の部屋だったんだけどね。アルたちがいつの間にか……」

 俺の部屋は、一言で言えば森だ。

 部屋の四隅に置かれた大き目の植木鉢から伸びる四本の堅い木は、天井に沿いながら枝を伸ばし、絡み合い、複雑怪奇なオブジェクトと化している。葉も生えまくってる。

 そして部屋の中央にだけは枝や葉はなく、そこから陽光球が糸に吊り下がっている。部屋の灯り兼植物たちの光だ。

 また、アルやリュネ、ケンが集めた枝やら木の実が、まるで生きているかの様に枯れることなく堅い木に突き刺さったりしている。

 また、どこから珍しい花を持ってきては、家具のあちこちに植えつけるのだ。枯れることなく――正確には普通の植物のように生長して枯れて成長して枯れてを繰り返している感じだ。種は、アルたちが大切に保管している。

 少し視線をずらし、そこを見る。

 元々は屋根の上に行くはずだった階段式の箪笥の上部には水が流れている。別にレールを引いて疑似的な川を作ったわけではない。

 ただ、ミズチの力によって階段を一つの川として水が流れ、落ち、流れ、落ち、そして一番下に行くとうねうねと昇り龍のように水が巻き上がり、一番頂上へと水が戻るのだ。

 幸い、ユキが雪関連でなにかをすることはなかったが、それでもこの部屋を作り出した四人は。

「ア、アル……」
「リュネ~~!」
「ケン~!」
「シュー!」
「お、おい。なんだこのちっこいのっ!」
「魔物――いや、幻獣っ?」

 俺の部屋で遊んでいたリュネ達が見えたからか、先ほどまでエイダン達をずっと警戒していたアルが俺の頭から顔を覗かせる。

 リュネたちは、初めての客であるエイダン達に飛びつく。二人とも驚き、どうすればいいのか戸惑っている。

 ……あれ、にしてもなんでミズチがここにいるんだろ。さっきまでライン兄さんの首に巻かれていたかと思ったんだが。

 まぁいいや。

「この子たちが部屋をこんな感じに変えた犯人だよ」
「そんなっ、事より――アハハッ。、ちょ、助けてくれっ!」
「くすぐったいっ! アハハ、アハハハハハッ――くすぐったいからっ! ちょ、やめっ!」

 リュネたちがエイダンとカーターの体をあっちこっちに回りまくるので、子供肌で敏感な二人はくすぐったそうに身をよじる。

 それどころか、バタバタとしながら倒れ込む。

 ただ、扉の入り口で暴れ回られるのも困るので。

「リュネたち、一旦離れなさい」
「……リュ―」
「ケン」
「シュー」

 三人を回収する。

「た、助かった」
「笑い死ぬかと思った」

 エイダンとカーターは肩を上下させる。俺はベッドの下から二つの座布団を取り出し、部屋の中央にある布が被ったちゃぶ台――コタツに近くに置く。

「はい、ここ座って」
「あ、ああ。分かった」
「あ、温かい。何だいこれは?」

 コタツの中に足を入れたカーターが首を傾げる。

「中を覗けば分かるんだけど、そこにお湯を入れられるんだよ」
「お湯?」
「うん。裏にあるでしょ? 保温性に優れたガンツ鉱石で作った箱にお湯を入れるんだよ」

 そう。これは、前世のコタツの様に火を入れるとかではなく、いわば湯たんぽコタツなのだ。

 一応、魔道具を使えば温かな炎や熱い鉱石を創れるのだが、危ないし、肌に悪い。試作品として作ったけど、エドガー兄さんたちも使うため赤外線の熱波はちょっとと思った。

 それに今は冬の秋の終わりであり冬の始めという微妙な時期なので、そこまで火力が必要ではない。

 なので、温かいではなくぬくい感じを再現するために、お湯を入れるコタツを創ったのだ。因みに売る予定はまだない。というか、アカサ・サリアス商会に卸す道具のレシピが溜まりすぎているので、売るとしても来年か再来年になりそうだ。

「……おい、セオ。これを僕にくれ」
「俺もだっ! これ欲しいっ!」

 まぁけど、コタツだ。魔の箱だ。多くの偉人賢人お坊さんを堕落の道へと引き込んだ悪魔の道具だ(By. 俺調べ)。

 幼児なエイダンは直ぐに堕ちる。

 ……フハハ。フハハハハっ!

「お、おい。なんだ、その顔はっ!?」
「嫌な予感がする。おいっ、逃げるぞ、エイダンっ! コイツ、俺たちに厄介ごと押し付けるつもりだっ!」

 エイダンとカーターが俺の顔を見て、反転。

 座布団から飛び上がり、コタツから出ようとするが。

「お、おい。カーターッ! 俺の足を押せえるんじゃねぇッ!」
「押さえてないっ! エイダンこそ、僕の足を押さえてるだろっ!」

 二人ともコタツから出れない。出ようとしてもグイグイと引き込まれている。

「セオっ! 中になにかいるのかっ!?」
「離せっ! 離すんだっ!」

 やめ、やめっ! と言った感じに二人はコタツに逆戻り。体の半分もコタツに体を突っ込み、ふにゃ~と横たわる。声だけ聞けば暴れているようだが、実際は気持ちよさそうに、ともすれば間抜けに頬を緩めている。

 俺はそんな二人にやれやれと首を振る。

「二人とも、中に誰かいるわけないじゃん。ましてブラックホールがあるわけないじゃん。リサイクルショップで買ったわけじゃないんだし」
「セオっ! 何を言ってやがるっ!」
「そうだよ、わけわかんないこと言ってっ! 大体、中に誰もいないなら何故僕たちはここから出れないんだっ?」

 俺の様子にムカついたのか、二人は怒鳴る。そんな二人に俺は懇切丁寧に教える。

「簡単だよ。二人がここから出たくないんだよ。本能レベルでここから出ることを拒否してるんだよ」
「んなっ、そんなわけ――」
「そうだっ、僕がそんな――」

 “宝物袋”を発動。コタツを異空間にしまう。

「ちょ、やめてくれっ! 俺の、俺の楽園がっ!」
「セオ、セオ様っ! お願いしますっ、どうか僕らにお恵みをっ!」

 エイダンが虚空に手を伸ばす。カーターは相変わらずの変わり身の良さで俺の縋りつく。

 っというか、お恵みってなんだよ。どうしてそんな言葉が直ぐに出てくるんだよ。五歳児でしょ?

 疑問に思いつつ、俺はニヤリと嗤った。

「ところで、お願いがあるんだけど」
「分かったっ! 分かったからっ!」
「そうだっ! 手伝う、なんでもやるっ! だから!」

 よし。言質はとった。

 なんというか、こういう関係がいいかどうかはおいておいて、やっぱりエイダンたちといると楽しいな。

 見ていて楽しいし、嬉しい。二人もノってくれるし。

「分かった。じゃあ、はい」

 俺は再び“宝物袋”を発動してコタツを元に戻す。エイダンとカーターがすかさずサッとそこにはいる。新しい家を見つけたヤドカリよりも俊敏だ。

 と、コンコンと扉を叩く音が響いたかと思うと、ユナが入ってきた。

「あれ、レモンは?」
「やるべき仕事がございましたので、私が代わりに」

 ああ、なるほど。さてはサボってたな。わざわざ俺の部屋の前まで来たのも、時間を引き延ばすためか。

 相変わらずセコイ。

「持つよ」
「ありがとうございます、セオ様」

 ユナが手に持っていたお菓子が載ったお盆を受け取る。ジュースはユナが持ってる。

 それを机に並べる。

「では、ブラウ様が目を覚ました時、お呼びに参ります。では失礼いたします」
「ありがとう、ユナ」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます」

 エイダンとカーターが少しだけ居心地が悪そうに頭を下げた後、ユナがニッコリと手を振って部屋を出ていった。
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