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てんやわんやの新たな日常

お風呂場の一時:Younger sister

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「……手慣れてるね」
「ええ。セオ様の時もお体を洗いましたし、それに小さい時から赤ん坊の世話はよくしていましたので。泣かないツボも心得ております」
「……そう」

 ブラウの顔をガーゼタオルで拭いながら、湯気でベチャンと潰れた尻尾でユキを洗い、桶型お風呂に放り投げたレモンの膝に乗っけているブラウを見やる。

 レモンの手際はすごくいい。ブラウの顔を拭った後、赤ん坊用のタオルに赤ん坊用の石鹸を付けて泡立て、それで優しく体を洗っていく。

 首、体の前面、手足におまた……デリケートな部分は手で泡をすくい、柔らかな春風が囁くように優しく撫でて洗う。

 それでいて、とてもスピーディー。

 エドガー兄さんもライン兄さんもほへぇー、と感心したようにレモンを見ている。

「ブラウ様。ちょっと失礼しますね」
「ウキャッ!」

 言葉はまだわかっていないだろうに、ブラウはレモンの声に反応するように両手を万歳する。

 まぁプニプニで骨や筋肉もそこまで確かではないから、万歳らしきと言った方が正確なのだが、とても可愛い。

 そう思って頬を緩ませながら、チョロチョロと流れるシャワーで泡を落とされているブラウを眺めていたら。

「セオ様……ここでは大丈夫ですが、外では人に見られない様に気を付けてください。気味悪がられるならまだましです。最悪騎士の御厄介になるかもしれません」
「ふぇっ!?」

 レモンが申し訳なさそうにそう言ってきた。

 気味悪がられるっ? 騎士の御厄介っ?

 分けの分からないことを――

「ああ、それは確かにな。セオって興奮したりすると、普段ぬぼーっとしてるからか、目元と口元がな。どうにも」
「確かに。それでいて目は純真の輝きで……」
「そうそう。ちぐはぐなんだよな」

 ………………気持ち悪い? きも……きも……

「ねぇっ、どういう事っ!? ブラウは、ブラウは俺のそんな顔を見たらっ!」
「さぁどうだろうな。俺たちは普通に慣れてるから問題ないんだが……」
「まぁ慣れるんじゃない?」
「……つまり、慣れるまでは気味悪がれる……」

 俺の体がどんどんと湯舟に沈んでいく。ブクブクと泡を立てながら、顔の半分まで浸かった。

 ブラウの体を丹念にチェックしていたレモンがそれを見とがめる。

「セオ様、危ないですよ。……大丈夫です。もう少し顔が大人になれば、表情の付き方も変わりますし、そう気にすることはありません」
「……そう?」
「そうです」

 レモンが自信満々にいうので、大丈夫な気がしてきた。

 うん、大丈夫だ。もし、本当に酷ければ、“研究室ラボ君”の力を借りて無表情になればいい。うん、そうしよう。

 俺が自分で納得していると、レモンがエドガー兄さんを手招きした。

「エドガー様。首元はしっかりと支えながら、こう胸元に寄せるように抱きしめてください」
「う、え? レモンが入れるんじゃ――」
「私はエドガー様とセオ様が、何故か・・・、嫌がるため、メイド服でございます」
「……分かった」

 エドガー兄さんは渋々と頷くと、レモンに言われた通りにブラウを抱く。俺は少しそっぽを向きながら、それでもブラウに万が一がないかハラハラしてしまう。

 エドガー兄さんは湯舟の縁に腰を掛ける。

「そうです。そのまま、足先を湯舟に」
「分かった」

 すると、ブラウはクリッと優しい青の瞳を動かす。

「……ゥ?」
「まだです。ブラウ様がお湯に浸かるのは何度もなかったので、ゆっくり、ゆっくり慣れさせてください」
「……こうか?」
「そうです、そうです」

 レモンの指示にエドガー兄さんは戸惑いながらも、従っていく。なんか、新米パパみたいな感じだ。

 まだ十歳児だというのに……

「膝辺りまで入れてください」
「こうか?」
「……ゥゥ……キャ?」

 膝辺りまでお湯につかり、ブラウは数秒ほど首を傾げたものの、たどたどしく弱弱しく足をパタパタさせる。まぁあんまり動いていないけど、動かそうとしているのがわかる。

 それが気になったのだろう。桶型お風呂に入っていたアルたちがそれを漕いで近くへとやってきた。

「アル。邪魔しないの。じーっと、だからね」
「ア~ッル?」

 アルが俺の真似をするような仕草をする。

「そうそう。他の皆もいい?」
「リュネっ!」
「ケンっ!」
「シューっ」
「ヌー」

 皆頷いてくれた。

 ……目が凄くキラキラ輝いて、ソワソワしているが……まぁ大丈夫だろう。

「そうです。エドガー様も一緒に湯舟に浸かりながら、お腹ら辺まで」
「分かった。……大丈夫か?」
「……大丈夫そうですね。お湯を嫌がることもありません」

 むしろ、とレモンが続ける。

「ウァッ、アアッ……ウィィーー」
「好きなようですね」

 エドガー兄さんの胸元にお収まってるブラウは、なんというかおっさんっぽいというか、ヌーと目を細め間延びした声を出していた。

 実に気持ちよさそうな表情だ。

 それに釣られたのだろう。

「アルっ!」
「あっ――」

 一番人見知りであるアルが、桶型お風呂から飛び出てブラウの頭に引っ付く。

「……う?」
「……アル?」

 ブラウは頭に突然現れた感触に首を傾げ、またアルはひっくり返りながらブラウの顔を覗く。

 俺は止めればいいのかどうか、ハラハラする。ただ、レモンが止めないところを見れば大丈夫なのか……

「うっ!」
「あ、アル~!」

 と、思ったらブラウが軽く体を揺らしアルがブラウの手元に落ちる。大きさ的にはブラウの手には収まらず、ポチャンとお湯に浸かる。

 まぁそれはそうとして、ブラウがアルの両手を鷲掴みしてしまった。

 アルがは、ちょっと、と言わんばかりに声を上げる。

 だが。

「リュネっ!」
「ケンっ」
「シュー」
「ヌーヌー」

 他の皆もブラウの周りへと飛び込む。

 ……楽しそうだ。泣くこともないし、問題ない感じ。

 エドガー兄さんがちょっと困ったように金の眉を八の字にしているが、まぁご愛敬だろう。

「セオ様、ライン様。お歌でも歌ってあげたらどうでしょうか?」
「歌?」
「僕とセオがここで?」

 微笑みながらそんな様子を見守っていたら、レモンがそんな提案をする。

「この時期でこの温度だと、あと三分ちょっとです。それくらいのお歌を歌ってはくれませんか? 楽しいですよ」
「え、うん。僕はいいけど……セオは?」
「え、ちょっとな……」

 ライン兄さんが歌を歌うってなると、めっちゃ上手い歌が響き渡るって事なんだよな。

 なんというか、だったら歌うより聞いていたい。綺麗な歌声を堪能したい。

 だが、ブラウとの交流の……

「分かった。いいよ」
「そう。なら、何を歌う?」

 そういえば、三分ちょっとの歌だよな。何にしよう。

 リズムに乗りやすくて、今のブラウでも音が聴き取りやすい感じの……

「あ、こないだ吟遊詩人が歌ってたアレは? 精霊狼の舞踏会」
「三章のところ?」
「うん、丁度こんな光景でしょ?」
「確かに」

 精霊狼の舞踏会は、元々は神話がモデルとなった民話だ。その民話を親が子供たちに連綿と伝えていくうちに、いつしかお祭りなどで子供たちが歌う歌となったのだ。

 とはいえ、元が民話なのだ。結構長い。なので、大抵の親たちは二週間くらい掛けてその話を子供たちに伝えるのだ。

 ちょうど、三章は精霊狼の赤ん坊が植物や動物に囲まれて絆を育む場面で、四日目か五日目くらいに伝えられる。

 まぁどっちにしろ、ブラウとそれを取り囲むアルたちにぴったりの歌だ。

「じゃあ、セオ様、ライン様。ブラウ様の近くによってください。近くにいた方が、嬉しいですよ」
「うん、そうする」
「うん」

 俺たちはブラウとアルたちを取り囲み。

「じゃあ、ライン兄さん」
「うん」

 そして歌を歌った。
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