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てんやわんやの新たな日常
結局そうなっちゃたか……:Younger sister
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「さて、と。どこに……ああ、なるほど」
自室の箪笥から寝間着を取り、部屋の中にアルたちがいないことを確認した後、俺は屋敷全体の気配と魔力を探る。
アルやリュネ、ケンは魂魄間につながりがあるから直ぐに分かった。そして同じところにミズチやユキもいた。
「さて、どうするかな」
屋根裏部屋の自室を出て二階の廊下を歩きながら、思案する。アルたちの居場所は把握したからもういいのだが、いる場所がいる場所だ。
少しだけ覗くべきか、と首を傾げると、ガチャリと扉が開き、そこからエドガー兄さんが出てくる。ちょうどエドガー兄さんの自室の前だったらしい。
「おう、セオ。そんな変な顔してどうしたんだ? もしかしてアルたちが見つからねぇのか?」
「いや、見つかったは見つかったんだけど、いる場所がね……」
「あん? いる場所? どこにいるんだ?」
「ブラウ……赤ちゃん専用の部屋」
「ああ、なるほど」
エドガー兄さんが納得いったように頷く。
「確かにな。アルとユキはまだしも、リュネ達って結構悪戯好きだしな。そうでなくとも、活発に動き回る」
「そうなんだよね。ブラウやアテナ母さんが起きないか……かといって見に行った事で起きてしまったらあれだし……」
う~んう~んと首を捻る。
……まぁけど。
「だとしても見に行った方がいいと思うぞ。それにお前なら“隠者”を使えば存在感すら消せるだろ?」
「……そうだね。ちょっと見に行ってくるよ。あ、エドガー兄さんも一緒に行く? 近くにいれば“隠者”の効果範囲内に入るよ」
「お、そうか。なら、一緒に行くか。寝顔を見たいし」
そんな会話を交わしながら俺とエドガー兄さんはブラウたちがいる部屋へと抜き足差し足で移動する。
そうして歩き、部屋の前にたどり着いた。
「じゃあ、開けるよ」
「おう」
“隠者”を発動しながら、うぐぐぐっとつま先立ちになりドアノブを掴む。こういう時、エドガー兄さんは手を出さない。
冷たいからというわけではなく、そういうのを邪魔しない様にしてくれているのだ。まぁ俺としては手伝ってほしいような気がするけど。
それは高望みというものだ。
ガチャリと少しだけ開き、ちょっとした隙間から薄暗い部屋の中を覗きこむ。魔力で視力を強化し、暗視する。
「あ、やっぱりいた」
気配から大まかな位置を把握し、そっちの方を見た。アルたち全員が一塊なっていた。
けど。
「ってか、ええ、駄目だよっ」
「ちょ、セオ。急に動くと――」
その状況があれだった。
俺は慌てて部屋の中にスルリと入り込む。
が、慌てて動いたのが俺だけだったため、エドガー兄さんが“隠者”の範囲から外れてしまった。
直ぐにエドガー兄さんは自ら気配や魔力を消したが、それでも間に合わなかった。
「アル? アルル!」
まず、アルがこっちを見た。“隠者”で隠れてても、エドガー兄さんの存在から俺に気が付いたのだ。
頭から伸びている一枚の新緑の葉っぱをピンと立て、根っこの両手を万歳する。気持ちよさそうに横になっているライン兄さんの頭の上で。
それにつづいて。
「リュネっ?」
「ケンっ?」
リュネとケンが俺を見た。それぞれ黄色の二枚の葉っぱと紅い三枚の葉っぱをピンと立ててャッキャッと飛び上がる。ライン兄さんのお腹の上で。
「……ぅん」
「シューー!」
そしてその振動でライン兄さんが目を覚まし、ミズチがライン兄さんの顔をペロペロと舐め始める。
「……ぅ……うん、え、ミズチっ?」
あ、ライン兄さんが完全に起きてしまった。
それから。
「ヌーヌー?」
アルたちの反応によって、抱き枕となっていたユキが引っ込めていた手と足と顔を甲羅から出す。
誰の抱き枕か。ブラウの抱き枕である。
ユキって亀だけど、産毛があって意外とふわふわなのだ。抱き心地がいい。
まぁ兎も角。
「し~、し~っな?」
「アル?」
「リュネ?」
「ケン?」
慌ててはしゃぐアルたちを静かにさせる。それからライン兄さんにだけ〝念話〟をつなぐ。
『ライン兄さん、ライン兄さん』
『……その声はセオ? アルたちがはしゃいでたし……ってか、何でここにミズチたちがいるの?』
『いいからミズチを静かにさせて。あと、ユキにもシーって言って。ブラウが、アテナ母さんたちが起きちゃう』
『わ、分かったっ』
寝起きなのに状況理解が早くて助かる。
ライン兄さんはすぐさますり寄るミズチを落ち着かせた後、ユキにシーと声を出さずにジェスチャーで伝える。
「ヌー? ヌーヌ」
ユキは賢い。だから、ライン兄さんのジェスチャーを直ぐに理解し、頭と手足を甲羅の中へと引っ込ませる。
寝息が止まり、ちょっと起きそうな気配があったブラウが再び寝息を立て始めた。
よかった。起きたのがライン兄さんだけで済んだ。
……さて。
「アル、リュネ、ケン。こっちおいで」
「アルっ」
「リュネっ」
「ケンっ」
アルたちはライン兄さんの体からピョーンと飛び降りると、俺に飛びつく。よし、これで“隠者”の効果に入った。
それから事態を把握したライン兄さんがミズチを首に巻きながら、そーっと起き上がる。
おお、凄い。音も振動も殆どない。
ベッドから降り、俺の方へと歩く。たぶん、アルたちの姿が消えた方に俺がいると分かっているのだろう。
ライン兄さんが俺の“隠者”の効果範囲に入る。
「セオ、これでいいんだよね」
「うん、まぁね」
俺はライン兄さんに頷く。“隠者”を発動しているから、声を出してもブラウたちに伝わることはない。
よし、ブラウとアテナ母さんが起きそうな要因はなくなったな。アルたちは俺の腕の中にいるし、ミズチはライン兄さんの首。
「これから風呂だけど、一緒に入る? エドガー兄さんも一緒だけど」
「うん、入る」
俺たちはそーっと扉のほうに歩き、部屋をでようとする。
一瞬ユキの事が頭を過ったが、ユキは大人しいし、賢いからブラウの抱き枕のままで――
「ヌー!」
と思ったのだが、俺たちがこの部屋から出ようとしたのが分かったのだろう。アルたちとよく一緒にいるため、離れ離れになるのが寂しいのか、ユキがバッと甲羅から顔を出し、声を上げてしまった。
すぐにしまった、とユキは自分で判断し、飛び出した顔を甲羅に引っ込めるが遅かった。
「……ぅ?」
パチクリ、とブラウの瞼が開いてしまった。
「ヌ」
幸い直ぐに泣き出すことはなかったが、ユキをギュッと抱きしめキョロキョロと辺りを見渡してる。
っといっても、首は座ってないのであんまり首は動いてないけど。
けど。
「うあっ、うあ」
「セオ、こっち見てるよ? “隠者”発動してるんじゃないの?」
「発動してるよ。え、どういうこと?」
手を可愛らしくわたわたと動かしながら、コテンとこっちを見た。
横になったのだが。
「あぶなっ」
「きゃ、きゃっ!」
今まで部屋の外で気配を殺しながら静観していたエドガー兄さんが一瞬で部屋の中へ。ユキを下に敷いてうつぶせになってしまったブラウを直ぐに抱きかかえる。ヌーヌ―とひっくり返ったユキもだ。
それが面白かったのか、ブラウはキャッキャと声を上げる。俺は慌てて遮音の結界を張る。
「……ふぅ。起きてないようだけど……」
「おい、セオ。ブラウ、寝そうにないし、ここに一人だけ置いてったら」
「うん、泣くよ」
首をしっかりと支え、少しゆっさゆっさと揺らしブラウを抱いているエドガー兄さんの言葉に俺は頷く。
っというか。
「一旦、ここを出よう」
「確かに」
そして俺たちは部屋を出た。
アテナ母さんとユリシア姉さんの寝息だけが部屋に響いていた。
自室の箪笥から寝間着を取り、部屋の中にアルたちがいないことを確認した後、俺は屋敷全体の気配と魔力を探る。
アルやリュネ、ケンは魂魄間につながりがあるから直ぐに分かった。そして同じところにミズチやユキもいた。
「さて、どうするかな」
屋根裏部屋の自室を出て二階の廊下を歩きながら、思案する。アルたちの居場所は把握したからもういいのだが、いる場所がいる場所だ。
少しだけ覗くべきか、と首を傾げると、ガチャリと扉が開き、そこからエドガー兄さんが出てくる。ちょうどエドガー兄さんの自室の前だったらしい。
「おう、セオ。そんな変な顔してどうしたんだ? もしかしてアルたちが見つからねぇのか?」
「いや、見つかったは見つかったんだけど、いる場所がね……」
「あん? いる場所? どこにいるんだ?」
「ブラウ……赤ちゃん専用の部屋」
「ああ、なるほど」
エドガー兄さんが納得いったように頷く。
「確かにな。アルとユキはまだしも、リュネ達って結構悪戯好きだしな。そうでなくとも、活発に動き回る」
「そうなんだよね。ブラウやアテナ母さんが起きないか……かといって見に行った事で起きてしまったらあれだし……」
う~んう~んと首を捻る。
……まぁけど。
「だとしても見に行った方がいいと思うぞ。それにお前なら“隠者”を使えば存在感すら消せるだろ?」
「……そうだね。ちょっと見に行ってくるよ。あ、エドガー兄さんも一緒に行く? 近くにいれば“隠者”の効果範囲内に入るよ」
「お、そうか。なら、一緒に行くか。寝顔を見たいし」
そんな会話を交わしながら俺とエドガー兄さんはブラウたちがいる部屋へと抜き足差し足で移動する。
そうして歩き、部屋の前にたどり着いた。
「じゃあ、開けるよ」
「おう」
“隠者”を発動しながら、うぐぐぐっとつま先立ちになりドアノブを掴む。こういう時、エドガー兄さんは手を出さない。
冷たいからというわけではなく、そういうのを邪魔しない様にしてくれているのだ。まぁ俺としては手伝ってほしいような気がするけど。
それは高望みというものだ。
ガチャリと少しだけ開き、ちょっとした隙間から薄暗い部屋の中を覗きこむ。魔力で視力を強化し、暗視する。
「あ、やっぱりいた」
気配から大まかな位置を把握し、そっちの方を見た。アルたち全員が一塊なっていた。
けど。
「ってか、ええ、駄目だよっ」
「ちょ、セオ。急に動くと――」
その状況があれだった。
俺は慌てて部屋の中にスルリと入り込む。
が、慌てて動いたのが俺だけだったため、エドガー兄さんが“隠者”の範囲から外れてしまった。
直ぐにエドガー兄さんは自ら気配や魔力を消したが、それでも間に合わなかった。
「アル? アルル!」
まず、アルがこっちを見た。“隠者”で隠れてても、エドガー兄さんの存在から俺に気が付いたのだ。
頭から伸びている一枚の新緑の葉っぱをピンと立て、根っこの両手を万歳する。気持ちよさそうに横になっているライン兄さんの頭の上で。
それにつづいて。
「リュネっ?」
「ケンっ?」
リュネとケンが俺を見た。それぞれ黄色の二枚の葉っぱと紅い三枚の葉っぱをピンと立ててャッキャッと飛び上がる。ライン兄さんのお腹の上で。
「……ぅん」
「シューー!」
そしてその振動でライン兄さんが目を覚まし、ミズチがライン兄さんの顔をペロペロと舐め始める。
「……ぅ……うん、え、ミズチっ?」
あ、ライン兄さんが完全に起きてしまった。
それから。
「ヌーヌー?」
アルたちの反応によって、抱き枕となっていたユキが引っ込めていた手と足と顔を甲羅から出す。
誰の抱き枕か。ブラウの抱き枕である。
ユキって亀だけど、産毛があって意外とふわふわなのだ。抱き心地がいい。
まぁ兎も角。
「し~、し~っな?」
「アル?」
「リュネ?」
「ケン?」
慌ててはしゃぐアルたちを静かにさせる。それからライン兄さんにだけ〝念話〟をつなぐ。
『ライン兄さん、ライン兄さん』
『……その声はセオ? アルたちがはしゃいでたし……ってか、何でここにミズチたちがいるの?』
『いいからミズチを静かにさせて。あと、ユキにもシーって言って。ブラウが、アテナ母さんたちが起きちゃう』
『わ、分かったっ』
寝起きなのに状況理解が早くて助かる。
ライン兄さんはすぐさますり寄るミズチを落ち着かせた後、ユキにシーと声を出さずにジェスチャーで伝える。
「ヌー? ヌーヌ」
ユキは賢い。だから、ライン兄さんのジェスチャーを直ぐに理解し、頭と手足を甲羅の中へと引っ込ませる。
寝息が止まり、ちょっと起きそうな気配があったブラウが再び寝息を立て始めた。
よかった。起きたのがライン兄さんだけで済んだ。
……さて。
「アル、リュネ、ケン。こっちおいで」
「アルっ」
「リュネっ」
「ケンっ」
アルたちはライン兄さんの体からピョーンと飛び降りると、俺に飛びつく。よし、これで“隠者”の効果に入った。
それから事態を把握したライン兄さんがミズチを首に巻きながら、そーっと起き上がる。
おお、凄い。音も振動も殆どない。
ベッドから降り、俺の方へと歩く。たぶん、アルたちの姿が消えた方に俺がいると分かっているのだろう。
ライン兄さんが俺の“隠者”の効果範囲に入る。
「セオ、これでいいんだよね」
「うん、まぁね」
俺はライン兄さんに頷く。“隠者”を発動しているから、声を出してもブラウたちに伝わることはない。
よし、ブラウとアテナ母さんが起きそうな要因はなくなったな。アルたちは俺の腕の中にいるし、ミズチはライン兄さんの首。
「これから風呂だけど、一緒に入る? エドガー兄さんも一緒だけど」
「うん、入る」
俺たちはそーっと扉のほうに歩き、部屋をでようとする。
一瞬ユキの事が頭を過ったが、ユキは大人しいし、賢いからブラウの抱き枕のままで――
「ヌー!」
と思ったのだが、俺たちがこの部屋から出ようとしたのが分かったのだろう。アルたちとよく一緒にいるため、離れ離れになるのが寂しいのか、ユキがバッと甲羅から顔を出し、声を上げてしまった。
すぐにしまった、とユキは自分で判断し、飛び出した顔を甲羅に引っ込めるが遅かった。
「……ぅ?」
パチクリ、とブラウの瞼が開いてしまった。
「ヌ」
幸い直ぐに泣き出すことはなかったが、ユキをギュッと抱きしめキョロキョロと辺りを見渡してる。
っといっても、首は座ってないのであんまり首は動いてないけど。
けど。
「うあっ、うあ」
「セオ、こっち見てるよ? “隠者”発動してるんじゃないの?」
「発動してるよ。え、どういうこと?」
手を可愛らしくわたわたと動かしながら、コテンとこっちを見た。
横になったのだが。
「あぶなっ」
「きゃ、きゃっ!」
今まで部屋の外で気配を殺しながら静観していたエドガー兄さんが一瞬で部屋の中へ。ユキを下に敷いてうつぶせになってしまったブラウを直ぐに抱きかかえる。ヌーヌ―とひっくり返ったユキもだ。
それが面白かったのか、ブラウはキャッキャと声を上げる。俺は慌てて遮音の結界を張る。
「……ふぅ。起きてないようだけど……」
「おい、セオ。ブラウ、寝そうにないし、ここに一人だけ置いてったら」
「うん、泣くよ」
首をしっかりと支え、少しゆっさゆっさと揺らしブラウを抱いているエドガー兄さんの言葉に俺は頷く。
っというか。
「一旦、ここを出よう」
「確かに」
そして俺たちは部屋を出た。
アテナ母さんとユリシア姉さんの寝息だけが部屋に響いていた。
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