異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

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ちょっとした激動の四か月

頼りになる兄:Birth

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 顔を歪めて痛みを露にするアテナ母さんの様子に俺は慌てる。紅茶を優雅に啜っていたレモンはテキパキと動き始める。

「セオ様。分娩が始まった可能性があります。ロイス様とソフィア様等々に分身で連絡を。あと、助産してくださるおばさま方が下の方で控えています。彼女たちにも連絡を」
「わ、分かったっ!」

 俺はすぐさま分身を使って連絡を取り始める。また、先ほど取り出した魔道具を練習通りに配置していく。

 レモンはアテナ母さんにゆっくりと声をかけながら、準備していた出産専用の清潔結界を張り、結界内の洗浄の魔法を行う。

「ねぇ、母さんは大丈夫なのっ!」
「だ、大丈夫だって。それより魔法でお湯を入れて。はい、これ」

 突然の出来事にユリシア姉さんはあたふたする。近くにいた俺の肩を掴み揺さぶる。なので、優しく手を握った後、“宝物袋”から桶を取り出す。また清潔なタオルもだ。

 ユリシア姉さんは不安だし、言葉でいってもそれは解消されない。体を動かしてもらえばどうにか安心できるだろう。

「どういうこと?」
「これからいっぱい汗かくし、清潔は保っておきたいから。ほら、アテナ母さんの手を握って、拭いてあげて」
「わ、わかったわ」

 あまり状況は飲み込めていないものの、ユリシア姉さんは大きく頷いた。桶と清潔なタオルを持ってアテナ母さんの側に駆け寄る。放出系の魔法が苦手なユリシア姉さんでも、水を出したり、温めたりするのは問題なくできる。

 アテナ母さんがみっちり教えたからだ。

 だからワタワタと焦りながらも、お湯を桶に入れ、清潔なタオルをそれに浸し、絞る。額に当てたりする。

「ありがとう、ユリシア」
「それより、母さん大丈夫っ?」
「ええ、大丈夫よ。けど、手を握ってくれると嬉しいわ」
「分かったっ!」

 よし、あっちは大丈夫だな。

 ……。

 助産を手伝ってくれるおばさま方には連絡を終えた。ロイス父さんやソフィア、アランたちにも伝えたけど……

「タイミングの悪い」

 突如としてアダド草原に魔物が転移で出現した。四体。全て天災級、つまりロイス父さんやソフィアたち並みでなければ倒す事ができない魔物だ。

 これまで、というより通例だと天災級は一体づつしか出現しないはずなのに、四体。しかも、昨日ロイス父さんたちの話を聞く限り、その天災級を転移で出現させている魔物がいるらしい。

 強いのだとか。詳しいことは分からない。けど、とても面倒な相手だとか。

 どっちにしろ、ロイス父さんたちがこっちに来ることはできない。それどころか、多くの町人、冒険者たちもだ。四体も現れたため、ロイス父さんたちが一体一体を倒すのを可能にするため、抑え込みをするらしい。

「レモン、ロイス父さんたち無理だってっ!」
「時間はっ?」
「最低でも四時間かかるって。全体耐久型で削るのに時間がかかるっ!」
「分かりました。セオ様、念のため多重防衛結界を起動させてください」
「分かったっ! けど、魔力が四時間も魔力が持たないよっ!」
「そこは何とかします!」

 何とかするなら、何とかできるのだろう。レモンを信頼している俺は、事前に戦いの余波を防ぐために事前に用意していたアーティファクトに魔力を注ぐ。

 レモンが張った清潔結界に重ねるようにして、魔力と物理両方を防ぐ超硬度の結界を幾重にも張っていく。

 と、丁度六枚目の結界を張り終えた時、下から物凄い勢いで上がってくる気配を捉える。

「母さんっ!」
「アテナ様っ」
「ちょ、落ち着けライン、ユナ」

 切羽詰まった様子でダダダダッと上がってきたのはライン兄さんとユナ。エドガー兄さんがそんな二人を諫めながら上がってくる。

 アーティファクトで結界を操作して、ライン兄さんたちを結界内にいれる。その時、エドガー兄さんがもう一度諫める。

 ユナはあ、と冷静を取り戻した。

 こんな時、エドガー兄さんは頼りになる。冷静沈着だし。けど、結構脳筋っぽい、いや無鉄砲なところも……

 いや、そんな事はいいや。

「ライン兄さんもユナも落ち着いて。慌てても意味ないって」
「で、でも」
「破水までももう少し時間はあるだろうし、実際に俺たちができるのは少ないからさ。ユリシア姉さんの――あ、ヴァレオさん、ジェラリエさん!」

 エドガー兄さんの静止を振り切って、アテナ母さんのところに突っ込もうとしたライン兄さんを抑える。

 それでも不安が晴れないようだったので、ユリシア姉さんと同じく体を動かして貰おうとしたら、茶髪のヴァレオさんと紺髪のジュラリエさんがこちらに来た。

 助産を手伝ってくれるおば様たちだ。ヴァレオさんは普通に六十超えているが、おば様だ。

 俺はアーティファクトで結界を操作してヴァレオさんたちを結界内にいれる。

「レモン様、状況は?」
「かなり我慢してたみたいで、強い陣痛が四分間に規則的にです」

 レモンは正確に状況を伝えていく。それを聞きながらヴァレオさんはアテナ母さんのお腹に手を当てる。

 一瞬だけ眉を顰めた後、ゆっくりと呟く

「……二、三時間以内ね」
「……どうか致しましたか?」

 時間よりも、ヴァレオさんの反応が気になったらしい。レモンは真剣に問いかける。取り出した魔道具を操作していた俺も何事かと目を向ける。

「……アテナ様に解析はしにくいの。だからハッキリとした事はいえないけど……本当はソフィア様に最終確認をお願い――」
「結果を教えてください」
「……長丁場になる。破水してからかなりの長丁場。最悪執刀」
「逆子……ですか? ですが、事前にソフィア様が……」

 なんだか物凄く雲行きが怪しくなってきた。

 マジで、え、どういうこと? 執刀、え。お腹切る? けど、レモンが言う通り逆子等々の検査は、ソフィアの力で……

 いや、そんな事よりもアテナ母さんの体力が持つかどうか。子供を産む際、母親は大幅に弱体化するのだ。出産後だけでなく、出産中もだ。

 だからこそ、体力の譲渡や維持、色々としなけらば――

「セ、セ、セオっ!」

 と、ヤバいヤバいとレモンたちと準備していた万が一の手順をとしようとしたら、ウルウルと涙を一杯に溜めたライン兄さんが俺の手を掴んだ。

 ってか。

「母さん、母さんっ、大丈夫なのっ!」
「う、ぁ、わぁ~~~ん」

 その話を一番近くで聞いていたユリシア姉さんが、それはもう泣き出してしまう。それに釣られてライン兄さんも大声で泣き出してしまう。

 ああ、どうすればっ。

 ってか、ユリシア姉さんっ、アテナ母さんの体を揺らすのはっ!

 俺も慌てる。いっぱいいっぱいになってしまう。

 けど。

「ユリシア、ライン、大丈夫よ」

 苦痛に震えながらも、凛とした声が響いた。ユリシア姉さんとライン兄さんは一瞬泣き止む。

 その瞬間、エドガー兄さんとレモンがササッと動いた。

「ライン。こっちへ来い」
「ユリシア様、さぁこちらへ」

 優しくそれぞれの手を掴み、ゆっくりと誘導していく。二人はされるがままに移動させられる。

 レモンがユナを見た。

「ユナ、ユリシア様とライン様をよろしくお願いします。今、ロイス様はこちらに来ることができません。アナタが支えになるんです。……エドガー様。よろしくお願いいたします」
「は、はい」
「ああ、こっちは任せておけ。……それとレモンとセオ。母さんをよろしくな」

 ユリシアを任されたユナは、エドガー兄さんと一緒に結界の外へと出ていく。ライン兄さんの手を引くエドガー兄さんはとても頼もしい。ユナもだ。

 普通はロイス父さんがその役目を果たすのだが、今は天災級の魔物で手一杯だ。さっきから爆発音がめちゃくちゃ響いているし、魔物の叫びも轟いている。

 問題なく倒せているようだが、このペースだと結構時間がかかる。

「ふぅ」

 エドガー兄さんたちがいなくなった後、俺は深呼吸する。パンッと顔を叩き、俺はレモンやヴァレオさんたちの指示に従う。


 そして二時間がたち、破水が起きた。出産が始まった。

 けど、出産は上手く進まなかった。
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