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ちょっとした激動の四か月
予想だにしていなかった事態:アイラ
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「おお、アイラ。よいところにおった」
ハティアとのお茶会を済ませ、自室へと戻ろうとした道中で、クラリスと出会った。両手には十冊を超える本を抱えていて、周りにも二十冊近くの書物を浮かせている。
いつもの光景だ。
アイラはそれらの書物に込められている膨大な魔力に、いつも通り嘆息しながら尋ねる。全てが全て、高名な魔導士が記した逸品の書物なのだから。
クラリスはそれを王城が有する特別書館から持ち出しているのだ。普通なら許されないが、最高ランクの冒険者であるクラリスなら許される。
「……クラリス様、何か用でも?」
「うむ、そうなんだがの。……何かあったかの?」
そんなクラリスは心配そうに尋ねる。魔力であっても顔の表情そのものがハッキリと見えるクラリスと半年近く接したことにより、アイラは心配そうな表情というのが分かるようになってきた。
声や魔力である程度の感情を読み取れるが、それが表情と一致するということは七年間の人生において、大きな進歩ともいえる。
「……ええ、まぁ。確かにありましたが大丈夫です。これから周りの力を借りながら解決していくつもりです」
「そうか。ならよいのだが」
クラリスはそうか、そうか、と頷きながら歩みを進める。アイラもリーナに一瞬だけ魔力により目配せをした後、〝念動〟で車いすを進める。
ここはプライベートエリアに近く、外様の者がいたとしても、とても口が堅い。見たものを無視する事もできる。それができなければ、そもそもこの近くに入ることはできないのだが。
それもあって、アイラはリーナの力を借りず移動する。ちょっと前まではどんな場所でも自力で移動していた。煌びやかな光を纏って。
なのだが、色々と内密で苦情等々が寄こされ、父親であるオリバーが禁止したのだ。アイラのその行動にOKサインを出したクラリスは、情報操作等々でアイラが自力移動できる事を公けにはしなかった。
っというか、多くの者がそもそもその話を信じなかったし、見た者も、アイラではなくリーナの仕業だと思っていたのもある。
「それで私に何の御用でしょうか?」
「そうだ、そうだ。これだの」
「……薄い本でしょうか? ……ツクル様が作った?」
いつもながらにどこから取り出したのか不思議に思うが、クラリスの目の前には薄い本が浮いていた。決していやらしい本ではない。厚さが薄いだけの本だ。
その薄い本に込められた魔力には見覚えがあった。
「うむ。魔力でわかるかの」
「はい。とても温かで豊かで優しい色ですから。深く深く抱きしめてくれるような感じのです」
「そうかの」
クラリスは、そういうもんかの、と首を捻りながら頷いた。クラリスにとってはただの深緑色の魔力にしか思えないし、優しいという感触は分からなくもないが、そのあとの深く~の部分はちょっと理解しがたい。
そう思ってリーナを見れば、いつもの事です。と微かに頷いていた。
ふむ。これはよい傾向かの、とクラリスはふんわり笑った。
「それでその本がどうかしたのでしょうか?」
「その前に部屋に入ってしまおう」
「それもそうですね」
ちょうど、クラリスの部屋の前に来たのでアイラは部屋に入る。相変わらず多すぎる本に囲まれた広い部屋だが、ここ最近は本棚が増えたことで整理整頓はされていた。
そしてそんな部屋の中央に移動し、そこにあったちょっと大き目の机のところでクラリスはその薄い本を広げた。
「これは……」
「まぁ!」
その薄い本を覗き込んで、アイラとリーナは感嘆の声を上げた。特にリーナはただただ感動している様子で、アイラは少しだけ訝し気だ。銀の瞳を見開き、その薄い本を見つめている。
そんなアイラの様子を知りながら、リーナはクラリスに尋ねる。こういう場合は邪魔をしてはいけない。
「クラリス様、これは画集でしょうか?」
「違うぞ。ほれ」
クラリスはパラパラとページを捲る。ゆっくりゆっくりリーナとアイラの目に焼き付けさせるように捲る。
「……文字が書かれて……物語が……これは絵で語られる本なのでしょうか?」
「そうだの。絵本という。ツクルとガンサクの合作だの」
「ツクル様と、ガンサク様……ですか?」
リーナは聞き覚えのない名前に首を傾げた。いや、どこかで聞いたことがあるような名前なのだが、大した印象は……
「主に絵を描いているのがガンサク。物語を作っておるのがツクルだの。ドルック商会の名を聞いたことはないかの?」
「あっ、確か、ここ半年近くで立ち上がった書物系の商会でしたか? アカサ・サリアス商会が援助しているというのもあって、一時期話題にはなっていましたが」
そうだ、そうだとリーナは思い出す。それを尻目にアイラは左手で絵本のページを捲り始めた。クラリスはさり気なくそれを見守る。
「その商会長をしておるのがガンサクだの。ツクルも名義としていれておったか」
「……商会長をしているのであれば、覚えていてもおかしくはないのですが……」
「まぁ色々とした事情で、本人たちは表舞台に立っておらんからの。そもそもその商会長になった理由も、訳アリだし」
「そうなのですか」
リーナはなるほどと頷きながら、アイラが捲っている絵本を見る。
「それにしても美しい絵ですね。それ一ページが一つの絵と言われても違和感がありませんし、美術品としての価値も結構高いと思いますよ。これ。王室、とはいきませんが、公爵家に献上されてもおかしくない程です」
「うむ。儂もそう思う。本人が絵を描き始めて五年も経っておらんが、数々の技法が駆使されておる」
「……五年も経っていないのですか? てっきり、隠居した高名な画家かと」
リーナは驚く。元侯爵令嬢であるリーナはそれなりの目をもっている。使われている技術等々は決して五年程度で習得できるものではないのだが……
「いや、これから高名になる天才だの」
「……そうですか。そういえば、ツクル様が物語を担当されているのですよね」
「うむ。この話は七星教会の聖典の一つ、『灯の狼』を元に作られておるが」
「……言葉の表現が、とても丁寧といいますか、子供でも分かりやすく、大人でも楽しめるような言葉選びをされていらっしゃいます。アイラ様との手紙のやり取りでも思いましたが、ツクル様は多芸でございますね。普通、モノづくり等々をする人はぶっきらぼうで、口下手なイメージがあるのですが」
クラリスは、そうかの? と首を捻る。大体の知り合いだと色々な文学に通じている者も多いし、口下手かの? と思ったが、ああ、けど鍛冶師などは口下手が多いなと思う。
「そうだの。ぶっきらぼうではないが、突飛な者とは言っておく。この絵本というものを考案したのもツクル……いや、ガンサク……まぁ両方だからの」
「そうですか」
と、リーナは頷き、丁度絵本の最後のページを捲り終えたアイラを見た。驚く。
「あ、アイラ様! 大丈夫ですかっ? 先ほどのルーシー様の事ですかっ?」
アイラが泣いていたのだ。声も出さず、ひっそりと銀の両目から涙を流していたのだ。息をするのすら忘れて、ここではないどこかを見つめている。
リーナは慌ててハンカチを取り出し、拭く。ついでに氷魔法でハンカチを冷やし、腫れない様にする。
そうして数秒もすると、アイラがハッと大きく息を吸い、大声で泣いた。
「ひっ、ひぐっ……あ゛あ゛あ゛~~~!」
「あ、アイラ様」
リーナはアイラの背中をゆっくりさする。クラリスは静観している。
「りっ、ひぐっ、リーナぁあ゛~!」
「な、何でしょうか。アイラ様!」
アイラは泣きながら、左手で絵本を捲る。そしてあるページを開き、指を差す。
「空の゛、空の色はごれっ~!」
「そ、そ……は、はい。その色です。その色です! ……えっ!」
アイラが差したのは、空色で塗られた鞄だった。リーナはそのページに書かれている文字を見た。文章を読んだ。
鞄の色の説明など一切していない。
「ちょ、えっ、失礼します、アイラ様っ!」
リーナは驚き、慌てて他のページも捲る。薄いので直ぐに前ページをさらい終わった。
どのページにも先ほどアイラが差した鞄の色を追及する文章がなかった。いや、そも何で文章を読めて……魔力が多分に含まれていれば……けどっ、色は!? アイラ様は空の色の共有などっ!
インクが同じだからっ? それもありえない。そうだったら、もうとっくのとうに教えている。共有できている。
同じインクを使っても魔力の色にむらがあるのは分かっているし、けどっ!
そんなリーナの混乱を他所に、アイラは違うページをめくる。そこには紺碧で塗られている狼がいた。
「グラリズざまっ、ハティアおね゛えざまの魔力の色は、ごれっ?」
「……そうだ。そうだ、その色だのっ!」
「じゃあ、これがツクル様の魔力のっ! 深緑っ!?」
「うむっ、うむっ!」
アイラは自分が見ている魔力の色を、一般的な言葉として表せない。
一つの赤いリンゴがあったとして、一般人にはそれが赤に見えていてもアイラには違う色に見えている。しかも、同じリンゴの種で同じ赤を持っている別のリンゴを見せれば、一つ目とは違う色として映ることも多々ある。
リンゴ一個一個に籠る魔力の色には、大きな違いがあるのだ。
だからこそ、アイラは決して言葉として表すことができない。
そのはずだった。
なのに、先ほどからアイラは通常の人間が持つ色を当てる。絵本に書かれている文字から予測しているのではなく、本当に視覚情報として。
それにクラリスは驚いていた。そもそもこの絵本を見せたのは、ツクルたちが送ってきたものだし、渡そうと思っていただけだ。絵本自体を楽しめるとは全くもって思っていなかった。
同じインクを使っても、インクの劣化や保管場所、空気にどれくらい触れたかで魔力の色が変わってしまうからだ。アイラの目にはぐちゃぐちゃな色しか視えないだろうと思っていた。
なのに!?
クラリスは己が持つ能力の全てを発動し、その絵本を視た。
「……絵の具の色と魔力の色が一致しておる。何故だ? 通常インクの……いや、これはライ――ガンサクの魔力……セ――ツクルのも混ざって……どういうことかのっ!?」
ここ数十年で最も驚いているかもしれない。クラリスは思わず大声を上げてしまう。混乱する。
そしてここから一時間近く、アイラは泣き、リーナは呆然とし、クラリスはブツブツと早口で何かを話しながら、部屋を行ったり来たりしていた。
これはクラリスも、セオもラインも意図していない結果だった。色々と計画していたロイスやアイラも全くもって予想外の展開だった。
ハティアとのお茶会を済ませ、自室へと戻ろうとした道中で、クラリスと出会った。両手には十冊を超える本を抱えていて、周りにも二十冊近くの書物を浮かせている。
いつもの光景だ。
アイラはそれらの書物に込められている膨大な魔力に、いつも通り嘆息しながら尋ねる。全てが全て、高名な魔導士が記した逸品の書物なのだから。
クラリスはそれを王城が有する特別書館から持ち出しているのだ。普通なら許されないが、最高ランクの冒険者であるクラリスなら許される。
「……クラリス様、何か用でも?」
「うむ、そうなんだがの。……何かあったかの?」
そんなクラリスは心配そうに尋ねる。魔力であっても顔の表情そのものがハッキリと見えるクラリスと半年近く接したことにより、アイラは心配そうな表情というのが分かるようになってきた。
声や魔力である程度の感情を読み取れるが、それが表情と一致するということは七年間の人生において、大きな進歩ともいえる。
「……ええ、まぁ。確かにありましたが大丈夫です。これから周りの力を借りながら解決していくつもりです」
「そうか。ならよいのだが」
クラリスはそうか、そうか、と頷きながら歩みを進める。アイラもリーナに一瞬だけ魔力により目配せをした後、〝念動〟で車いすを進める。
ここはプライベートエリアに近く、外様の者がいたとしても、とても口が堅い。見たものを無視する事もできる。それができなければ、そもそもこの近くに入ることはできないのだが。
それもあって、アイラはリーナの力を借りず移動する。ちょっと前まではどんな場所でも自力で移動していた。煌びやかな光を纏って。
なのだが、色々と内密で苦情等々が寄こされ、父親であるオリバーが禁止したのだ。アイラのその行動にOKサインを出したクラリスは、情報操作等々でアイラが自力移動できる事を公けにはしなかった。
っというか、多くの者がそもそもその話を信じなかったし、見た者も、アイラではなくリーナの仕業だと思っていたのもある。
「それで私に何の御用でしょうか?」
「そうだ、そうだ。これだの」
「……薄い本でしょうか? ……ツクル様が作った?」
いつもながらにどこから取り出したのか不思議に思うが、クラリスの目の前には薄い本が浮いていた。決していやらしい本ではない。厚さが薄いだけの本だ。
その薄い本に込められた魔力には見覚えがあった。
「うむ。魔力でわかるかの」
「はい。とても温かで豊かで優しい色ですから。深く深く抱きしめてくれるような感じのです」
「そうかの」
クラリスは、そういうもんかの、と首を捻りながら頷いた。クラリスにとってはただの深緑色の魔力にしか思えないし、優しいという感触は分からなくもないが、そのあとの深く~の部分はちょっと理解しがたい。
そう思ってリーナを見れば、いつもの事です。と微かに頷いていた。
ふむ。これはよい傾向かの、とクラリスはふんわり笑った。
「それでその本がどうかしたのでしょうか?」
「その前に部屋に入ってしまおう」
「それもそうですね」
ちょうど、クラリスの部屋の前に来たのでアイラは部屋に入る。相変わらず多すぎる本に囲まれた広い部屋だが、ここ最近は本棚が増えたことで整理整頓はされていた。
そしてそんな部屋の中央に移動し、そこにあったちょっと大き目の机のところでクラリスはその薄い本を広げた。
「これは……」
「まぁ!」
その薄い本を覗き込んで、アイラとリーナは感嘆の声を上げた。特にリーナはただただ感動している様子で、アイラは少しだけ訝し気だ。銀の瞳を見開き、その薄い本を見つめている。
そんなアイラの様子を知りながら、リーナはクラリスに尋ねる。こういう場合は邪魔をしてはいけない。
「クラリス様、これは画集でしょうか?」
「違うぞ。ほれ」
クラリスはパラパラとページを捲る。ゆっくりゆっくりリーナとアイラの目に焼き付けさせるように捲る。
「……文字が書かれて……物語が……これは絵で語られる本なのでしょうか?」
「そうだの。絵本という。ツクルとガンサクの合作だの」
「ツクル様と、ガンサク様……ですか?」
リーナは聞き覚えのない名前に首を傾げた。いや、どこかで聞いたことがあるような名前なのだが、大した印象は……
「主に絵を描いているのがガンサク。物語を作っておるのがツクルだの。ドルック商会の名を聞いたことはないかの?」
「あっ、確か、ここ半年近くで立ち上がった書物系の商会でしたか? アカサ・サリアス商会が援助しているというのもあって、一時期話題にはなっていましたが」
そうだ、そうだとリーナは思い出す。それを尻目にアイラは左手で絵本のページを捲り始めた。クラリスはさり気なくそれを見守る。
「その商会長をしておるのがガンサクだの。ツクルも名義としていれておったか」
「……商会長をしているのであれば、覚えていてもおかしくはないのですが……」
「まぁ色々とした事情で、本人たちは表舞台に立っておらんからの。そもそもその商会長になった理由も、訳アリだし」
「そうなのですか」
リーナはなるほどと頷きながら、アイラが捲っている絵本を見る。
「それにしても美しい絵ですね。それ一ページが一つの絵と言われても違和感がありませんし、美術品としての価値も結構高いと思いますよ。これ。王室、とはいきませんが、公爵家に献上されてもおかしくない程です」
「うむ。儂もそう思う。本人が絵を描き始めて五年も経っておらんが、数々の技法が駆使されておる」
「……五年も経っていないのですか? てっきり、隠居した高名な画家かと」
リーナは驚く。元侯爵令嬢であるリーナはそれなりの目をもっている。使われている技術等々は決して五年程度で習得できるものではないのだが……
「いや、これから高名になる天才だの」
「……そうですか。そういえば、ツクル様が物語を担当されているのですよね」
「うむ。この話は七星教会の聖典の一つ、『灯の狼』を元に作られておるが」
「……言葉の表現が、とても丁寧といいますか、子供でも分かりやすく、大人でも楽しめるような言葉選びをされていらっしゃいます。アイラ様との手紙のやり取りでも思いましたが、ツクル様は多芸でございますね。普通、モノづくり等々をする人はぶっきらぼうで、口下手なイメージがあるのですが」
クラリスは、そうかの? と首を捻る。大体の知り合いだと色々な文学に通じている者も多いし、口下手かの? と思ったが、ああ、けど鍛冶師などは口下手が多いなと思う。
「そうだの。ぶっきらぼうではないが、突飛な者とは言っておく。この絵本というものを考案したのもツクル……いや、ガンサク……まぁ両方だからの」
「そうですか」
と、リーナは頷き、丁度絵本の最後のページを捲り終えたアイラを見た。驚く。
「あ、アイラ様! 大丈夫ですかっ? 先ほどのルーシー様の事ですかっ?」
アイラが泣いていたのだ。声も出さず、ひっそりと銀の両目から涙を流していたのだ。息をするのすら忘れて、ここではないどこかを見つめている。
リーナは慌ててハンカチを取り出し、拭く。ついでに氷魔法でハンカチを冷やし、腫れない様にする。
そうして数秒もすると、アイラがハッと大きく息を吸い、大声で泣いた。
「ひっ、ひぐっ……あ゛あ゛あ゛~~~!」
「あ、アイラ様」
リーナはアイラの背中をゆっくりさする。クラリスは静観している。
「りっ、ひぐっ、リーナぁあ゛~!」
「な、何でしょうか。アイラ様!」
アイラは泣きながら、左手で絵本を捲る。そしてあるページを開き、指を差す。
「空の゛、空の色はごれっ~!」
「そ、そ……は、はい。その色です。その色です! ……えっ!」
アイラが差したのは、空色で塗られた鞄だった。リーナはそのページに書かれている文字を見た。文章を読んだ。
鞄の色の説明など一切していない。
「ちょ、えっ、失礼します、アイラ様っ!」
リーナは驚き、慌てて他のページも捲る。薄いので直ぐに前ページをさらい終わった。
どのページにも先ほどアイラが差した鞄の色を追及する文章がなかった。いや、そも何で文章を読めて……魔力が多分に含まれていれば……けどっ、色は!? アイラ様は空の色の共有などっ!
インクが同じだからっ? それもありえない。そうだったら、もうとっくのとうに教えている。共有できている。
同じインクを使っても魔力の色にむらがあるのは分かっているし、けどっ!
そんなリーナの混乱を他所に、アイラは違うページをめくる。そこには紺碧で塗られている狼がいた。
「グラリズざまっ、ハティアおね゛えざまの魔力の色は、ごれっ?」
「……そうだ。そうだ、その色だのっ!」
「じゃあ、これがツクル様の魔力のっ! 深緑っ!?」
「うむっ、うむっ!」
アイラは自分が見ている魔力の色を、一般的な言葉として表せない。
一つの赤いリンゴがあったとして、一般人にはそれが赤に見えていてもアイラには違う色に見えている。しかも、同じリンゴの種で同じ赤を持っている別のリンゴを見せれば、一つ目とは違う色として映ることも多々ある。
リンゴ一個一個に籠る魔力の色には、大きな違いがあるのだ。
だからこそ、アイラは決して言葉として表すことができない。
そのはずだった。
なのに、先ほどからアイラは通常の人間が持つ色を当てる。絵本に書かれている文字から予測しているのではなく、本当に視覚情報として。
それにクラリスは驚いていた。そもそもこの絵本を見せたのは、ツクルたちが送ってきたものだし、渡そうと思っていただけだ。絵本自体を楽しめるとは全くもって思っていなかった。
同じインクを使っても、インクの劣化や保管場所、空気にどれくらい触れたかで魔力の色が変わってしまうからだ。アイラの目にはぐちゃぐちゃな色しか視えないだろうと思っていた。
なのに!?
クラリスは己が持つ能力の全てを発動し、その絵本を視た。
「……絵の具の色と魔力の色が一致しておる。何故だ? 通常インクの……いや、これはライ――ガンサクの魔力……セ――ツクルのも混ざって……どういうことかのっ!?」
ここ数十年で最も驚いているかもしれない。クラリスは思わず大声を上げてしまう。混乱する。
そしてここから一時間近く、アイラは泣き、リーナは呆然とし、クラリスはブツブツと早口で何かを話しながら、部屋を行ったり来たりしていた。
これはクラリスも、セオもラインも意図していない結果だった。色々と計画していたロイスやアイラも全くもって予想外の展開だった。
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