異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
130 / 316
ちょっとした激動の四か月

引っこ抜かれずにアナタについていく:Aruneken

しおりを挟む
 “陽光球”を作ってから二週間が経った。

 仮称、トリートエウの子は順調に成長している……らしい。

 らしいとは、ぶっちゃけ俺の目から見れば成長どころか異常しかないからだ。

 トリートエウの子は三つの植木鉢から生えている。しかしながら、その一つ一つの成長がすでに違っている。

 成長具合の話ではなく、分かりやすく言えば、同じ見た目だった子猫が虎とライオンとヤマネコになった感じだ。全くもって別種に成長している。

 一つ目の植木鉢のトリートエウの子は、新緑の葉っぱが一枚。一枚しか生えていないが、葉っぱの大きさだけは成長している。

 二つ目の植木鉢のトリートエウの子は、紅い葉っぱが二枚。一つ目よりも葉っぱ自体の大きさは小さいが、全体でみれば同じくらい。

 三つ目の植木鉢のトリートエウの子は、黄色の葉っぱが三枚。二つ目と同様、一つ目よりお葉っぱの大きさは小さいが、全体でみれば同じくらい。

 茎の色は全て葉っぱの色と同じだ。

 どう考えてもおかしいことこの上ない。

 最初は仲良く若芽の色だったのだ。それが、一週間前くらいから徐々に色が変わりだして、一晩にして葉っぱの枚数が増えたりして。

 慌ててアテナ母さんやロイス父さんはもちろんのこと、レモンやユナ、エウなどにも泣きついたほどだ。失敗してしまったのではないか、取り返しのつかないことをしてしまったのではないか。

 思い返すと、とても恥ずかしいくらいには取り乱した。それをコッソリ、ライン兄さんやユナが〝想起〟を使って、その時の俺の形相を写真として撮っていたらしく、今やアテナ母さんのアルバムの中に入っているらしい。

 普段、あんなに慌てることがないから珍しいと、アテナ母さんやロイス父さんは満足しているらしい。

 ……ったく。こっちは本当に慌ててたのに……

「はぁ」

 まぁエウにまで確認しに行って、問題ないと言われたので問題ないのだろう。

 それどころか、エウからは問題がなさすぎると褒められ……いや、あきれられたのか?
 
 どっちにしろ、笑われた。それはもう、小さな子供のやんちゃを見るような微笑みを向けられて、なんかモニュとするような気持ちを抱いたが……問題がないならよかったと割り切りことにした。

 どうせ、経過を観測した精神年齢は、いくら中年以上だと言えど、混じったこの子の魂と肉体に引っ張られていて、知識と経験だけが高い子供みたいな感じだし、そもそもエウは千年以上は生きているはずだ。

 子供扱いなのは仕方がない。

 うん、だからさ。

「……これ、本当にどんな状況だろう?」

 丁度昨日、長雨の時期が終わり、俺は久しぶりに屋根の上で日向ぼっこをしていた。

 ここ二週間は、トリートエウの子の世話に、それと新しく生まれてくる妹のための玩具や絵本などもある程度作り終えた。

 教科書とかはまだだが、それは二歳以降になるだろうから後回しでいい。それよりも、クラリスさんから定期的に送られてくるデータ、主に意見などだが、それを元にタイプライターを改良したり、点字自体に工夫を付けたりと色々していた。

 クラリスさんが未だ誰を受け持っているのか、貴族社会の情報はあまり手に入らず、アテナ母さんたちはもちろん、ソフィアたちに訊ねても要領を得ない回答ばかりだった。

 ユリシア姉さんやライン兄さんは、そもそも興味がなかったらしく、どんな貴族の子供がいるか聞いても、知らない、で済まされた。エドガー兄さんだけは何か思い当たったような様子だったが、結局言葉を濁された。

 ……いや、その子がどんな貴族の子とかそういうことはどうでもいいのだ。

 ただ、手紙のやり取りの際にちょっと困っているのだ。

 名前が分からなくて、向こうは月銀の妖精とでも呼んでくださいと言っていたが、マリーさんから貴族常識について多少学んでいる俺は知っている。

 その言葉は侮辱を意味するとか。アテナ母さんやクラリスさんの話では、妖精は悪戯こそすれど、クロノス爺たちに逆らったりとかしないし、するとしても天使と悪魔くらいだとか言っていた。

 ……いや向こうがいいと言っているのだし、と迷ったりしていて、結構面倒なのだ。数少ない可能性だけど、向こうは侮辱で使われていることを知らないかもしれないし。

 なので、データの手紙とは別の、個人的なちょっとしたやり取りをする手紙を書く際に困っていたのだ。

 クラリスさんが提案したことなのだが、分かりやすいデータ意見だけでなく、ちょっとした世間話からの方が、日常的でいいアイデアが浮かぶのでは? と言われたため、確かに、と思って直接手紙のやり取りをしている。

 俺はここ最近新たに作り出した、点字と文字を同時に打ち込む魔道具式のタイプライターを使い、向こうは通常のタイプライターを使う。

 最初は、俺が薄い金属板に点字を掘り込んでいたのだが、それも面倒だなと思い、そういえば前世で点字専用のタイプライターがあったよなと、ヤンキーな君と白杖のガールの漫画を思い出した。

 ただ、仕組みやらなんやらが全くもって覚えていなかったので、通常のタイプライターに、紙に無理やり点字の凸を作り出すような形にした。

 そのために、結構面倒な魔道言語やらを用いたので、ぶっちゃけ連結方式や立体構造を使っても、ちょっとした大きさの、分かりやすく言えば持ち運びできなくなったのだ。

 めっちゃ重いし、あれだ、めっちゃ昔のデスクトップコンピューターみたいな。いや、初代の日本語ワープロみたいな大きさだ。あれで、クラリスさんが昔に作った印刷機の構造を利用して、文字と点字を同時に打ち込む形にしている。

 ……めちゃくちゃ消費魔力がでかすぎて、たぶん常識的に考えてもめっちゃ魔力量の多い俺でも、千文字近く打ち込めば魔力が尽きてしまうほどだ。

 最近まで魔力量が上がりすぎてめっきり枯渇による成長がなかったのだが、今はぐんぐんと上昇している。

 それに魔道具だけではなく、使っている紙もアカサ・サリアス商会に頼んで発注してもらった特注のため、まぁ実用には向いていない。

 俺専用の魔道具となっている。

「……いや、いやさ、現実逃避はやめようかな」

 まぁそんなことはどうでもいい。どうでもよくはないが、目の前のことに比べたら些細な問題だ。改良していけばいい話なのだから。

 ……やっぱり疲れているのかな。

 ここ二週間はずっと雨だったけど、色々と動いていたし。疲れていたのは確かなのだ。

 それで久しぶりの気持ちのよう晴天だったので、丁度いいと思い、植木鉢三つと一緒に屋根で日向ぼっこしていたのだ。

 そして少しだけ寝入ったのだ。

「アルー、アルー」
「リュネー、リュネ―」
「ケンー、ケンー」

 起きた今、やっぱり疲れているのかなと、何度も目をこすった。うん、夢なんだろう、と思って何度も目を瞑って横になった。

 けど、けど、結局変わらなかった。

 胡坐をかきながら呆然としている俺の膝や肩、手の上ではしゃいでいる謎の生物は全くもって消えなかった。い続けたままだった。

 横に置いてあった三つの植木鉢から、トリートエウの子が消えているのも変わらなかった。

「……えっとさ、ピク〇ン?」
「アル?」
「リュネ?」
「ケン?」

 いや、引っこ抜かれないし、戦わないと思うんだが……

 丁度手のひらサイズ。

 体は人参とか大根とか……つまり、根っこの体があって、根っこの腕と足もある。色は少し茶色がかった白。

 そんな体に子供が絵具かクレヨンで塗りつぶしたような、グルグルとした感じの深緑の目と、深緑の一本の線――口。

 特に口は、アニメのようにスルスルと線が動いたりしていて、また開くと、中は塗りつぶした深緑のグルグルが見える。マジで塗りつぶした感じなのだ。 

 アル? といった子は、普通体型で、葉っぱは緑。一枚。

 リュネ? といった子は、先細った少しだけ痩せ気味で、葉っぱは黄色。二枚。

 ケン? といった子は、カブのような丸い感じで、葉っぱは紅い。三枚。

 どう考えても仮称、トリートエウの子だったであろう、不思議生物が俺の体を使ってはしゃいでいたのだった。

 ……アテナ母さんたちが驚くって言ってたけど……

 これのことだったのか。
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

処理中です...