異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

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ちょっとした激動の四か月

思い集む:Aruneken

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「セオ様、アテナ様」
「んぁ?」
「ぅぅん?」

 ゆさりゆさりと肩を揺すられた。その今までの揺りかごのような心地よい揺れと違ったため、俺はパチクリと目を開けた。

 閉じていたのだ。

「……あら。眠ってしまったのね」
「ええ。もうすぐ昼食のお時間です」
「そんな時間なの?」
「はい」

 それはアテナ母さんも同じで、しばしばと目を擦り後ろを向いた俺の視界には、眠たそうに頬を緩めているアテナ母さんがいた。

 ああ。やっぱりアテナ母さんから生まれていたからか、心臓や呼吸の揺れが気持ち良すぎたのだろう。

 そしてアテナ母さんは休息が必要なのだ。お腹に子供がいるということは、それだけエネルギーを消費することだし。集中力も使うのだろう。

 まして、太陽の光、“陽光球”だったかを……

 あ、あれ? 匂いがしない。っというか。

「……ねぇ、アテナ母さん。この泥団子が“陽光球”なの?」
 
 すり鉢の上には、それはそれは見事な泥団子があった。前世の幼いころに、家からタオルやらなんやらを持ち出してピカピカのを作ったな~、と現実逃避するくらいには、光沢のある泥団子だった。

 恐る恐る触ってみると、めっちゃ硬い。普通に金属球と言われても納得いきそうなほどだ。
 
 というか、ただただ放置していただけなのに何で丸くなっているんだ? え。どういうこと?

「ええ、そうよ。これに魔力を注いで、数時間日の光に当てれば光り輝くわ」
「……じゃあ、午後にこれを外に出しておけばいいの?」
「ええ。……それにしても馴染みが早かったわね。セオ、エウ様から祝福以外に何か授かっていないかしら? どうにもトリートエウの枝と小麦粉の馴染みが早かったのよ」

 何で枝と小麦粉なんだろう。結局、泥炭も小麦粉もどんな役割があったのか分からずじまいなんだよな。

 けど、それは後で確認しよう。というか、たぶんあとでそれ専用の本を渡してくれると思うし。それを読んでから分からないことを訊ねよ。

「いや、何も授かってないと思う……あ、そういえばまだ言ってなかったけど、エウが俺を嫌っていたっていうか、魔力が嫌だった理由を聞いたよ」
「……そうなの。それで何かされたかしら。頭に手を添えられたとか、額に口づけされたとか」
「あ、された。額に、口づけ、された。うん、された」

 口づけ、と口に出すのが小っ恥ずかしい。羞恥とは違う感じだが、なんというか照れるというか……

 だからか、少しだけどもってしまった。

「……なるほどね。ラインもそうだけど、アナタもアナタで好きものね」
「えっ、何それ!?」
「……なんでもないわ」
「何でもなくないよ! ライン兄さんは兎も角、俺は!?」

 俺はアテナ母さんに負担にならない程度にゆっさゆっさと肩を揺らす。いや、好きものとかないだろ。

 ライン兄さんは人外相手に色々とうつつを抜かしている感じだけど、俺は大体!

 っというか、ライン兄さんだってあれは趣味で、俺も趣味で、それだったらアテナ母さんだって!

 そもそも俺は専門外だって! エウは確かに綺麗だけど、それだけだし! 普通の女性が好みであって!

 そんな弁解の言葉は全くもって口に出ない。言おう言おうとしながらも、あまりの言葉に声がでないのだ。

 アテナ母さんはそれを見てまた何かを勘違いしたらしく、やれやれとため息を吐いた後、俺の頭を撫でて。

「大丈夫よ。ロンだって同じような――」
「――そうじゃないっ!」

 全くもって心外だ。本当に心外だ!

「……アテナ様。揶揄うのはそこまでにしてください」
「ええ、分かってるわ」
「……え?」

 アテナ母さんが俺の両脇に手を入れて持ち上げた。俺はほへ? と間抜けな顔を晒している。

 え? 揶揄い? 

「じゃあセオ。昼食に行くわよ。あ、それと“陽光球”は“宝物袋”に閉まっておきなさい」
「あ……うん」

 呆然としながらも俺は“宝物袋”を発動させたのだった。


 Φ


「ったく……はぁ」

 昼食を終え、俺は屋根の上で日向ぼっこをしていた。ここ一週間以上雨が降り注いでいたのに、たった半日の晴れで屋根はカラカラに乾いていた。それどころか、天日干しした布団のように優しく暖かな匂いがあった。

 ……あれって死んだダニの匂いだったはずだけど……

 たぶん、暖かさとそれによる優しさが天日干しした布団に似ていたから、脳が勝手に匂いまで作り出したのだろう。うん、よくあることだ。匂いは記憶と強く結びついているし。

「あ~あ、気持ちいい」

 まぁどっちにしろ、死んだダニが存在せずにあの心地の良い匂いが感じられるのだ。それに安らぎをもたらす暖かさと共に。

 なので、俺は手に持っていた本を胸の上に置き、大の字になった。強くもなく、弱くもない。甘雨のような優しい日の雨を浴びて、俺は夢見心地になり、瞼が自然と閉じようとする。

「って、危ない危ない。明日は雨なんだ」

 家が雇っている天占師は腕がよく、一週間ほどの天気を精度よく占うことができる。精度を落として大雑把にすると数か月は占える実力を持っている。

 ……こういう天職や適職があったりするから、たぶん気象学やらなんやらによる天気予報ができないんだよな、と思ったりする。

 いや、これはこれで一つの技術だし……そうだ、自由ギルドの連絡網を使って、ラジオや新聞のような天気予報を……

 あれ、新聞じゃないけどギルド会報……いや、あれは確か職員と上級冒険者たちに配られるやつか。つながりがなきゃ、一般市民にはいきわたらないし。

 ……いやいやいや。今は別のやつで手一杯だし、というか、これは俺が作るものではないからな。
 
 ……でも、そうだ。ライン兄さんにアイデアを丸投げするっていうのもいいな。どうせ、出版商会を作るつもりらしいし。……いや、あれは絵本専門だったけ。

 結局、あっちはほとんど丸投げしてるからな。ホント、活字はいいとしても、タイプライターの方だよな。早く片づけなきゃな。

 着地する場所はもう決まっているのだ。最初から決まっているのだ。こっちも向こうも。けど、向こうは向こうで感情がそれを許さないからな。

 こういうすり合わせってたいてい要件のすり合わせっていうよりは、感情のすり合わせだからな。だからこそ、時間を掛ければ予定した場所に着地はできるんだが、それだと時間がかかりすぎるんだよな。

 あと数か月以内には話を付けたいし……あ、そうか。出版自体はこっちでやるとして、ギルド会報みたいなやつを一般的に安く売って、ジャーナリスト的に向こうに権利を……

 いや、これはそもそも筆記ギルドの領域じゃないしな。今は保守として向こうは立っているし、新たな事業を噛ませることによってそれを緩和は……

「ってか、何でこんないい日にこんなこと考えなきゃいけないんだ。それより」

 俺は大いにそれてしまった思考をもとに戻し、“宝物袋”から“陽光球”を取り出した。ついでに、適当な浅い箱を取り出し、その中に入れる。

 ……転がったけど止まったな。アテナ母さんが言うには、前面に当てる必要はなくて、あくまで太陽の光を覚えさせるとか何とかだったし。

 結局、小麦粉と泥炭とか素材とかどうしてこんな丸い球になったのか教えてくれなかったんだよな。解析しても、分からないし。アーティファクトなんだろうが、アーティファクトって解析がむつかしんだよな。

 性能とかは分かるけど、材料とかその工程の意味とかさっぱりだし。

 ……あ、でも、小麦が太陽ってのは納得いくんだよな。太陽の恵みってイメージすると、小麦が一番に思い浮かぶし。

 前世だったら米と言うんだが、流石に四年もこっちで暮らせばこっちの習慣になじむしな。

 …………

「……米食いたいな。味噌汁のんで、醤油で刺身を食べたいな……」

 ポツリとそんな思いが出て、俺はやれやれとため息を吐いた。どうにも久しぶりに晴れたせいで、いい感じの心が彷徨っているのだろう。もしくは乾かされているか。

 どっちにしろ、こういう時は本を読むに限る。

 なので、胸の上に置いておいた本を手に取り、仰向けから横向きになりペラリペラリとインクと乾いた埃の匂いが漂うページをめくるのだった。

 
 みんな忙しくて暇だな……
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