異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

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ちょっとした激動の四か月

夢だけど、夢じゃなかった。的な喜び:Aruneken

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「……ぅん」

 ……太陽?

「……久しぶりだな」

 俺は、顔に差し掛かる太陽の光に目を覚ます。布団をもう一度被ろうかと思ったが、しかしながら久しぶりの太陽に、ゆっくりと瞼を開けた。

 ここ最近はずっと雨だったからな。

 ベッドの直ぐ斜め上についている天井窓から見える白み始めた朝日を見て、俺は体を伸ばした。まだ寝ぼけているが、朝露が窓に濡れていて、反射がまぶしい。

 目を細める気持ちのいい朝だ。

 ……このまま二度寝するのもいいが、今日は稽古だったけ。ここ最近は忙しいから、家族みんながそろうのって朝稽古だけなんだよな。朝稽古はどんなに忙しくてもキッチリと行われるし。

 クラリスさんとの手紙のやり取りや、昨日のエウの報告など、色々話したいこともあるし、頑張って起きますか。

 こう、起きるのが楽しくなる朝はいいな。

「よっと」

 そう思って体を起こし、布団を放り投げて服がしまってある階段式の箪笥に目を動かした瞬間。

「えっ!」

 歓喜に叫んだ。

 元々階段式の箪笥はベッドの反対側にあり、そこに一番日が届きにくい場所だった。そこが、あの俺が見つけた魔法植物を育てるうえで一番重要な場所らしい。

 まぁつまり、箪笥の上に魔法植物の種を植えた三つの植木鉢を置いておいたのだ。三つなのは、あれだけの種の量でも三つほどにしか分けられなかったのだ。

 どうやら、トリートエウもそうなのだが、十数個の種を同じ場所に植えて、ようやく一つの芽が出るらしい。あと、芽が出るまでは決して日の光に当ててはいけないとか。当てると、全てがやり直しなのだとか。

 なので、日の光が決して当たらない箪笥の上で世話をしていた。

 地下室の工房の方でもよかったのだが、あっちは魔道具やアーティファクトがおいてあり、それによる魔力影響があるかと思ったので、それを避けるために、ここで世話をしていた。

 それと、俺の魔力が充溢している場所で育てた方が、後々楽になるとかロン爺が教えてくれたためだ。

 と、そんなことはどうでもいい。今はその三つの植木鉢だ。

「芽が出てるっ!!」

 俺は思わず〝念動〟で三つの植木鉢を浮かして、手元に持ってくる。もう芽が出たため、日の光に当てても大丈夫なのだ。

「わぁっ!」

 よっしゃ! 一年だ。一年近く毎日毎日水を注いで、魔力を注いで、温度調整の魔道具が取り付けてある植木鉢を揃えて、植えてからの期間によって土の成分を変えて……

 手を尽くして、手を尽くして、それでも決して芽が出ることがなかったこれが!

「芽が出てる……」

 ……そういえば、これって結局なんの植物なんだろう?

 感慨に耽っていたが、どうにも芽が出たことで急にそれが気になり始めた。ロン爺に聞いたり、エウに訊ねたり、ソフィアや自由ギルドの方で確かめたりしたのだが、結局分からなかったんだよな。

 エウはもちろんのこと、クラリスさんやロイス父さんたちは何か知っている感じだったが、教えてくれなかったし。なんでも、知らない方が面白いと、後でびっくりすると言っていたんだよな。

 何がびっくりするんだろう?

 まぁいっか。今は芽が出ていることを喜ぼう。

「よし! じゃあ早速次の環境に移して……あ、今日はいいけど明日はどうしよう。この時期に芽が出ちゃったからな。一日に五時間は太陽の光が必要らしいし」

 と、思ったのだが、この子たち、芽を出す時期を間違えたのではないかと思ってしまう。いや、そもそも一切日の光を浴びずに芽を出さなきゃいけないのに、出したら出したで日の光が必要って、結構特殊な環境だよな。

 魔法植物って言ってたし……あれかなユキと同じかな。神聖魔力が近くにあった瞬間に生むとか、そういう冬雪亀的な特殊な種なのか……

 まぁいいや。

 今のところは、ベッドの上においておくか。そこが一番日の光があたるし。

 そこにおいておいて、稽古の時にロイス父さんたちに相談しよう。なんかいい手でもあるかもしれないし。

 ということで、さっさと箪笥から稽古用の服を取り出して着替えるとするか。魔力反応から、ロイス父さんたちがリビングに集まって食事しているのも分かるし。

 あ、ユナがこっちに来た。


 Φ


「ねぇ、どんな感じっ!?」
「え、普通って感じの芽だったよ! 小さくて可愛らしい若葉だった!」

 まず、稽古はストレッチから始まる。ただ、ストレッチには二種類あり、稽古を始めるときのストレッチは、体を伸ばすというよりは温めるに近い。基本立って行い、ちょっと息切れする程度には体全体を動かすのだ。

 それから次に、稽古場の周りを十周する。これが結構な距離だ。稽古場はサッカーグラウンド程度の広さだ。そこを十周するから、結構な距離になるのだ。

 …………二キロ半くらいだ。

 俺はまだ幼児であるから、直接的な訓練はない。肉体を鍛えることはなく、主に体力やらを鍛えることに重きをおいている。

 だが、俺は身体強化が使える。これが使えるせいで、俺は身体強化ありで二キロ半も走らされたりしているのだ。

 許すまじ。

「特徴は!? 少しだけとげとげがあるとか、背が低いとか、大きさは!?」
「ちょっと待って。それ今言わなきゃダメ!?」
「うん!」

 ただ、さらに許すまじなのはライン兄さんである。そんな二キロ半のジョギングで、こんなことを聞いていくるのだ。

 いくら身体強化が使えるからといって、あくまで最大出力は肉体のスペックに準ずる。大人になって、筋肉が付いたりすれば別らしいが、小さな子供からだでは限界があるのだ。

 それに力はあっても呼吸が乱れる。普通に歩きながら話していても、疲れる時は疲れるのだ。それも、今は走っているから大声を出さなくてはならない。

 じゃないと、風を切る音で聞こえなくなるからだ。

 疲れるのだ。そのはずなのだ。

 なのに、ライン兄さんはその翡翠の瞳を輝かせている。俺と並走しながら、口早にぐいぐいと訊ねてくるのだ。

 朝からそのテンションは困る。芽が出てある程度上がっているとはいえ、俺はそのテンションについていけない。

 と。

「お前ら。きちんと走んないと父さんたちにどやされるぞ!」
「分かってる!」

 一周遅れの俺たちに、エドガー兄さんが呆れたように声をかけた。

「それとライン。後で見せてもらった方が早いだろ。それにセオは結構抜けてるから、あんまり信用できないだろ」
「あ、確かに」
「何それ!」

 俺はスイーっと俺たちの前に躍り出たエドガー兄さんに食いつく。よこではライン兄さんが手を打っている。

「よくユリシアのことを言ってるが、お前だって感覚派だってことだ。じゃあな」

 ただ、そんな俺たちに構うことなくエドガー兄さんは先に行ってしまった。そして、後ろから迫ってくるロイス父さんから睨みを感じたので、俺とライン兄さんは黙って走る。
 
 そうして、ようやく走り終えた俺は、だいぶお腹が大きくなったアテナ母さんから水筒を受け取った。

 アテナ母さんの傍にはレモンが控えていて、ここ最近は全く稽古に参加していない。万が一があったときに、レモンが真っ先に対応するからだ。そのために、アランから色々教わっているらしい。

 アランはアランで、アダド森林の調査や死之行進デスマーチによる農地影響の軽減などに忙しく、この場にいない。

 それでいて、朝食などといった食事を作ったり仕入れやらなんやらをしているのだから、恐れ入る。

「それでセオ。本当に芽が出たのかしら?」
「うん。それで今って梅雨の時期でしょ。だから、この後どうすれいいかなって。ロン爺が言うには一日に五時間程度、日の光を当てなきゃいけないらしくて、それが一日でも欠けたら枯れちゃうって話なんだよ」

 俺はまだ五歳になっていないから、木剣を使った素振りはそこまでやらない。そもそも俺が使う木剣って木剣っていうより、紙剣だし。それくらい軽いやつだし。

 あくまで最低限の型だけ覚えさせるのが先で、その型にあった体作りはまだまだ先なんだそうだ。だから、木剣を振るう際は身体強化するように言われているし。

 まぁそれでも体力は削られるのだが。

「……ああ、そうだったわね。……と、ライン。アナタは素振りがあるでしょう。行ってらっしゃい」

 ライン兄さんはもう直ぐ六歳になるため、木剣も本物の木剣だ。つまり、素振りは結構な数をこなさなければならない。

 なのだが、ライン兄さんは一応インドア派だ。体力はあるかもしれないが、体を動かすのは得意ではない。素振りは嫌いなのだ。

 しかも植物についての話をしていたため、給水を無理やり引き延ばしていたのだが、流石に長かったらしい。アテナ母さんが、素振りを始めているロイス父さんたちの方にライン兄さんを押し出す。

「……チッ。は~い」

 ……こんな時だけ、ライン兄さんってアレだよな。どうとは言えないが、アレだよな。

「はぁ。あの子ったら、誰に似たのかしら」

 アテナ母さんですよ、とは言わない。魔法の研究に勤しんでいる際に仕事で呼び出された時のアテナ母さんと同じ表情をしているが、決して言わない。

 言ったら、恐ろしい目に合うからだ。

 こういう時は話題逸らしに限る。

「それで、どうすればいいと思う? 流石に魔法で光は作れても、太陽は作れないんだよね」
「……できないことはないわ。というか、昔はできたようだし」
「え。太陽を作るのがっ!?」

 あの魔法植物――仮称、トリートエウの子――が滅ぶ前って、魔法で太陽作ってたの!? マジか。魔法で太陽作れるのか。

 え、マジで。

「いや、流石に太陽を作ってないわよ」

 アテナ母さんは、俺の驚愕した様子にコロコロと苦笑していた。おっとりとした眉尻などが機敏に動く。

 ……にしても、無理とは言わないんだな。太陽を作るの。

「太陽の光を作るのよ」
「太陽の光?」

 なんか、とんちがアテナ母さんの口から飛び出してきた。ついでに、レモンがカクンと首を傾げていた。

 狐耳と尻尾も同じ動きをしていて、なごんだ。
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