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ちょっとした激動の四か月
どんな状況でもやるべきことはやる:Land god
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そういえばロン爺がずっと言っていた。エウは俺が嫌いなのではなく、俺の魔力が嫌いなのだと。
俺の感覚的には、魔力はちょっとした波長と色くらいにしか違いはなく、結構あいまいだ。
ぶっちゃけ、俺とライン兄さんの魔力は結構似ていると思うし。
けれど、実際は違うらしい。明確に差がある事をロイス父さんたちから確認している。俺には分からないが、そういう差異があるのだとか。
そしてその差異に一番敏感なのが精霊や妖精らしい。ロイス父さんたちはそれに準じた肉体と精神を持っているから、気が付くらしいが、それでも大本には負けるのだとか。
どっちにしろ、魔王城にいる邪神を刺激した青年と俺の魔力の差異が全くもってなかったのは確かなのだろう。
どんな確率でそれが起こったのかは分からないが。
「……ミコチは私と違って優しくて、人を慈しんでた」
ポツリとエウが言った。
「……四百年前、丁度今日みたいな雨の日。私たち七人は久しぶりに集まってお茶会をしてた」
「うん」
「……そこに、魔物に攫われた少年が魔王城にやってきた」
……攫う、か。魔物は人は捕食するのが一般的だ。けど、ゴブリンといった人間の血を欲する魔物や、確か知能の高い魔物だと人間を奴隷にするために攫うっていう事をアテナ母さんから聞いたことがある。
たぶん、その少年もそうだったんだろう。
「……もちろん、ミコチが助けた。けど、少年は身寄りがなかったし、それに魔王城の周りには人間は住んでない」
「うん」
「……私たちは一定以上トリートエウから離れられない。だから、仕方なくその少年に戦う術と生き残る術を覚えさせた」
俺は、パチンと将棋を打ちながら、相槌を打つ。
けれど、頭では別のことを考えていた。トリートエウから一定以上離れなれない。
……たぶん、これだろう。
「……そして少年が青年になるころには、魔王城周辺を突破できる力と技術を身に着けた。だから、ミコチは青年を追い出そうとした」
「……けど、たぶんその青年はミコチさんと一緒に居たかったんだよね」
「……そう。それでどういうわけか、ミコチがトリートエウから離れられない理由を知った」
「それで、魔王城の核である守護者に手を出したっていう事?」
「……そう」
陳腐な話だ、と思ってしまうのは仕方ないのだろうか。そんな事を思いながら、俺は不躾な、エウにとって酷い質問をする。
「大魔境が暴走すると、神霊は滅ぶの?」
「……真っ先に狙われる」
「そうなんだ」
けど、そんな酷い質問にエウは答えてくれた。ついでに、強烈な一手をパチンと打った。
その一手に俺は唸りながらも、首を傾げた。
「ねぇ、何で急にそれを?」
「……この子がね」
「ミズチが?」
エウの首元でスースーと寝息を立てているミズチをエウは優しく撫でた。
けど、ミズチがどうかしたんだろうか。確かに幻獣だし、いつの間にかライン兄さんと強いつながりを得ていたけど、それが何で理由になるんだろう。
「……そっくりだったの。魂も魄も共に姿形が」
「そうなんだ」
誰にそっくりだったかは、聞かない。ぶっちゃけ、俺は察しが悪いため、この想像があっているかどうかなんて分からない。
けど、それはどうでもいいのだ。
ということで。
「王手」
始めての王手である。空気が読めないことに定評のある俺だ。こんな時でもやるべきことはキチンとやる。
「……驚いた。二か月前、ラインちゃんと一緒にこの子が来た時驚いた」
けど、それはエウも同じで淡々と事情を述べながらも、難なく王手を避けた。というか、上手い具合にエウの駒を動かせなかったな。
「……けど、それでも私はあの青年が許せなかった。それにアナタへの逆恨みも」
「別に気にしてないよ」
「……知ってる。だからセオドラーはいい」
「何が?」
何がいいのか。しかし、その質問にエウが答えることはなかった。
「……気づいてる? ラインちゃんほどではないけど、アナタにもこの子と繋がりができているのに」
「えっ」
繋がりなんてある? え、俺に?
いや、でもライン兄さん的な心が繋がっているっていう感じはなかったし……
「え?」
「……たぶん、セオドラーの魂魄は強い。それに、他の魂核も混じってる」
魂核ってなんだと思うが、たぶん“研究室”の事だろう。ロイス父さんたちが混じっているとかそんな事も言っていたし。それに自我あるし。
「……だから気づかなかった。けど、やっぱりこの子と繋がりがある」
「へー」
「……私たちはトリートエウ間の移動はできるけど、それ以外はできない。だから、第二指定古代大魔境、通称魔王城のトリートエウが滅んだことは分かったけど、ミコチの最後は知らない」
何そのかっこいい言い方。第二指定古代大魔境……ってことは、第一があったり、古代じゃない大魔境が在ったりするってことか。
……やっぱり、どうにもシリアスな話は苦手だ。
「……青年は許せない。けど、アナタは許されたと思った」
「へー」
だからエウが真剣に話していても、ちょっとしか感慨深い気持ちが湧かない。そもそもエウに嫌われていたことだって、面倒だなとは思ってたけど嫌だなとはあまり思ってなかったんだよな。
罵倒されて喜ぶとかそうじゃなくて、生理的に受け付けないとかそういうのって普通の人間同士でもあるだろうし、エウは俺を嫌っていても会話には応じてくれていたし。
関わろうとする努力は見えていたからな。嫌悪を向けられても大して嫌とは思わなかった。たぶん、この感覚は一般的に見れば外れているんだろうな。
「王手」
「……それにあの子たちを見つけた時点から、私はアナタを嫌ってはなかった」
「うん?」
ということで、二回目の王手を打った。だが、エウから発せられた言葉に首を傾げた。
あの子たちって、俺が今育てている植物だよな。名前とかまだ分かっていないのだが、育て方だけは教えてもらったのでその通りにやっている。
やっているのだが、芽があんまり出ない。ロン爺に聞いたところ、魔法植物でもあるため、通常の育成環境にプラスして、魔力的な因子の起爆が必要らしい。
その起爆は、どうも運というか時間というか、こっち側では操作できないらしい。いやロン爺みたいなどんな環境からでも植物を育てられるような魔法や能力を持っている場合は違うだろうが、一般的にはそうだとか。
まぁ気長に待つということだ。
「……ただ」
「ただ、気まずかったとかそんな感じ?」
「……そう」
へぇー。エウの気まずいって思うことあるんだ。妙齢の美女だし、いつもクールというか無表情だし、神霊だし、そういうのに捉われるとは思わなかったんだが、俺の押し付けか。
まぁ感情だって持ってるんだし、時間間隔とか多少違うところあるけど、そういうもんか。
けど、間違えてもエウが許してくれると思うし、何度も間違えるか。それくらいお相子だろう。
「む」
そんな事を思っていたら、エウがまたまたいい手を返してきた。これは結構悩むぞ、と思ったのだが。
「うん」
「……王手」
「だよね」
結末がなんとなく分かってきてしまった。マジか、ここまでやって、最適に打つとあれだし、かといってブラフが通じる段階すぎてるしな。
エウだってなんとなく察しているだろうし。
「はい」
「……次」
そう思いながらも、一応他に戦略を変えられるかと思いながら、打っているのだが……
「王手」
「……ねぇ」
「うん」
引き分けになるんだよな。このまま打てば千日手になるんだよな。しかも、それを避けたら王が入玉して、詰みできないし……
「……チッ。引き分け。初めて負けた」
「えっ、ロン爺ってエウに勝ったことないの!?」
エウがやさぐれたように将棋盤に突っ伏した事より、それに驚いてミズチが白い光を放ったことより、あんなに将棋好きで町ではよく老人会の人たちと将棋を打っているロン爺が勝ったことがないことに驚いた。
ロン爺って結構強いし、一度や二度勝ったことはあると思ったんだけど。
「……最初はいい勝負だった。けど、何度かやっているうちに」
「エウがロン爺の癖を覚えちゃったの? けど、それだってロン爺が……」
「……それも直ぐに。そもそもあの子は私が小さい時から見てた子。皺の数から何まで知ってる。驚いたことも何度かあるけど、それでも」
「読めちゃうと。……ねぇ、ロン爺の子供時代ってどんな感じだったの? 教えてよ!」
「……いいよ」
いつも飄々としているロン爺の恥ずかしい話などを聞けると思い、俺はササっと“宝物袋”から紅茶の茶葉やケルト、カップ、クッキーやらを取り出す。どんな時でもお茶が飲めるように色々と突っ込んでいるのだ。
そして、水魔術と火魔術でお湯を創り出し、紅茶を作っていたら。
「いつの間に仲良くなったんだ?」
ロン爺が帰ってきた。
俺の感覚的には、魔力はちょっとした波長と色くらいにしか違いはなく、結構あいまいだ。
ぶっちゃけ、俺とライン兄さんの魔力は結構似ていると思うし。
けれど、実際は違うらしい。明確に差がある事をロイス父さんたちから確認している。俺には分からないが、そういう差異があるのだとか。
そしてその差異に一番敏感なのが精霊や妖精らしい。ロイス父さんたちはそれに準じた肉体と精神を持っているから、気が付くらしいが、それでも大本には負けるのだとか。
どっちにしろ、魔王城にいる邪神を刺激した青年と俺の魔力の差異が全くもってなかったのは確かなのだろう。
どんな確率でそれが起こったのかは分からないが。
「……ミコチは私と違って優しくて、人を慈しんでた」
ポツリとエウが言った。
「……四百年前、丁度今日みたいな雨の日。私たち七人は久しぶりに集まってお茶会をしてた」
「うん」
「……そこに、魔物に攫われた少年が魔王城にやってきた」
……攫う、か。魔物は人は捕食するのが一般的だ。けど、ゴブリンといった人間の血を欲する魔物や、確か知能の高い魔物だと人間を奴隷にするために攫うっていう事をアテナ母さんから聞いたことがある。
たぶん、その少年もそうだったんだろう。
「……もちろん、ミコチが助けた。けど、少年は身寄りがなかったし、それに魔王城の周りには人間は住んでない」
「うん」
「……私たちは一定以上トリートエウから離れられない。だから、仕方なくその少年に戦う術と生き残る術を覚えさせた」
俺は、パチンと将棋を打ちながら、相槌を打つ。
けれど、頭では別のことを考えていた。トリートエウから一定以上離れなれない。
……たぶん、これだろう。
「……そして少年が青年になるころには、魔王城周辺を突破できる力と技術を身に着けた。だから、ミコチは青年を追い出そうとした」
「……けど、たぶんその青年はミコチさんと一緒に居たかったんだよね」
「……そう。それでどういうわけか、ミコチがトリートエウから離れられない理由を知った」
「それで、魔王城の核である守護者に手を出したっていう事?」
「……そう」
陳腐な話だ、と思ってしまうのは仕方ないのだろうか。そんな事を思いながら、俺は不躾な、エウにとって酷い質問をする。
「大魔境が暴走すると、神霊は滅ぶの?」
「……真っ先に狙われる」
「そうなんだ」
けど、そんな酷い質問にエウは答えてくれた。ついでに、強烈な一手をパチンと打った。
その一手に俺は唸りながらも、首を傾げた。
「ねぇ、何で急にそれを?」
「……この子がね」
「ミズチが?」
エウの首元でスースーと寝息を立てているミズチをエウは優しく撫でた。
けど、ミズチがどうかしたんだろうか。確かに幻獣だし、いつの間にかライン兄さんと強いつながりを得ていたけど、それが何で理由になるんだろう。
「……そっくりだったの。魂も魄も共に姿形が」
「そうなんだ」
誰にそっくりだったかは、聞かない。ぶっちゃけ、俺は察しが悪いため、この想像があっているかどうかなんて分からない。
けど、それはどうでもいいのだ。
ということで。
「王手」
始めての王手である。空気が読めないことに定評のある俺だ。こんな時でもやるべきことはキチンとやる。
「……驚いた。二か月前、ラインちゃんと一緒にこの子が来た時驚いた」
けど、それはエウも同じで淡々と事情を述べながらも、難なく王手を避けた。というか、上手い具合にエウの駒を動かせなかったな。
「……けど、それでも私はあの青年が許せなかった。それにアナタへの逆恨みも」
「別に気にしてないよ」
「……知ってる。だからセオドラーはいい」
「何が?」
何がいいのか。しかし、その質問にエウが答えることはなかった。
「……気づいてる? ラインちゃんほどではないけど、アナタにもこの子と繋がりができているのに」
「えっ」
繋がりなんてある? え、俺に?
いや、でもライン兄さん的な心が繋がっているっていう感じはなかったし……
「え?」
「……たぶん、セオドラーの魂魄は強い。それに、他の魂核も混じってる」
魂核ってなんだと思うが、たぶん“研究室”の事だろう。ロイス父さんたちが混じっているとかそんな事も言っていたし。それに自我あるし。
「……だから気づかなかった。けど、やっぱりこの子と繋がりがある」
「へー」
「……私たちはトリートエウ間の移動はできるけど、それ以外はできない。だから、第二指定古代大魔境、通称魔王城のトリートエウが滅んだことは分かったけど、ミコチの最後は知らない」
何そのかっこいい言い方。第二指定古代大魔境……ってことは、第一があったり、古代じゃない大魔境が在ったりするってことか。
……やっぱり、どうにもシリアスな話は苦手だ。
「……青年は許せない。けど、アナタは許されたと思った」
「へー」
だからエウが真剣に話していても、ちょっとしか感慨深い気持ちが湧かない。そもそもエウに嫌われていたことだって、面倒だなとは思ってたけど嫌だなとはあまり思ってなかったんだよな。
罵倒されて喜ぶとかそうじゃなくて、生理的に受け付けないとかそういうのって普通の人間同士でもあるだろうし、エウは俺を嫌っていても会話には応じてくれていたし。
関わろうとする努力は見えていたからな。嫌悪を向けられても大して嫌とは思わなかった。たぶん、この感覚は一般的に見れば外れているんだろうな。
「王手」
「……それにあの子たちを見つけた時点から、私はアナタを嫌ってはなかった」
「うん?」
ということで、二回目の王手を打った。だが、エウから発せられた言葉に首を傾げた。
あの子たちって、俺が今育てている植物だよな。名前とかまだ分かっていないのだが、育て方だけは教えてもらったのでその通りにやっている。
やっているのだが、芽があんまり出ない。ロン爺に聞いたところ、魔法植物でもあるため、通常の育成環境にプラスして、魔力的な因子の起爆が必要らしい。
その起爆は、どうも運というか時間というか、こっち側では操作できないらしい。いやロン爺みたいなどんな環境からでも植物を育てられるような魔法や能力を持っている場合は違うだろうが、一般的にはそうだとか。
まぁ気長に待つということだ。
「……ただ」
「ただ、気まずかったとかそんな感じ?」
「……そう」
へぇー。エウの気まずいって思うことあるんだ。妙齢の美女だし、いつもクールというか無表情だし、神霊だし、そういうのに捉われるとは思わなかったんだが、俺の押し付けか。
まぁ感情だって持ってるんだし、時間間隔とか多少違うところあるけど、そういうもんか。
けど、間違えてもエウが許してくれると思うし、何度も間違えるか。それくらいお相子だろう。
「む」
そんな事を思っていたら、エウがまたまたいい手を返してきた。これは結構悩むぞ、と思ったのだが。
「うん」
「……王手」
「だよね」
結末がなんとなく分かってきてしまった。マジか、ここまでやって、最適に打つとあれだし、かといってブラフが通じる段階すぎてるしな。
エウだってなんとなく察しているだろうし。
「はい」
「……次」
そう思いながらも、一応他に戦略を変えられるかと思いながら、打っているのだが……
「王手」
「……ねぇ」
「うん」
引き分けになるんだよな。このまま打てば千日手になるんだよな。しかも、それを避けたら王が入玉して、詰みできないし……
「……チッ。引き分け。初めて負けた」
「えっ、ロン爺ってエウに勝ったことないの!?」
エウがやさぐれたように将棋盤に突っ伏した事より、それに驚いてミズチが白い光を放ったことより、あんなに将棋好きで町ではよく老人会の人たちと将棋を打っているロン爺が勝ったことがないことに驚いた。
ロン爺って結構強いし、一度や二度勝ったことはあると思ったんだけど。
「……最初はいい勝負だった。けど、何度かやっているうちに」
「エウがロン爺の癖を覚えちゃったの? けど、それだってロン爺が……」
「……それも直ぐに。そもそもあの子は私が小さい時から見てた子。皺の数から何まで知ってる。驚いたことも何度かあるけど、それでも」
「読めちゃうと。……ねぇ、ロン爺の子供時代ってどんな感じだったの? 教えてよ!」
「……いいよ」
いつも飄々としているロン爺の恥ずかしい話などを聞けると思い、俺はササっと“宝物袋”から紅茶の茶葉やケルト、カップ、クッキーやらを取り出す。どんな時でもお茶が飲めるように色々と突っ込んでいるのだ。
そして、水魔術と火魔術でお湯を創り出し、紅茶を作っていたら。
「いつの間に仲良くなったんだ?」
ロン爺が帰ってきた。
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