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早春
魔物と迷宮と大魔境:glimpse
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「まず、瘴気についてね。……セオ。瘴気を解析していて、何か気が付いたことはあるかしら?」
アテナ母さんって、何を説明するにしてもこういう手法が好きなんだよな。まぁ何というか、前世の俺だったら少し嫌がってたかもしれないが、今世では結構好きなので、真剣に考える。
「……まず、治癒を阻害……いや、通常の魔力自体を阻害と侵蝕をする性質がある。それと、侵蝕は魔力だけじゃなくて肉体と、たぶんだけど魂魄もかな?」
「ええ、そうよ。因みに、何で魂魄もだと思ったのかしら? セオは視えてないでしょう?」
確かに俺は魂魄は視えないのだ。というか、魂魄という存在が未だどういうものなのか分かっていないのである。分かっていたら、“研究室”についても、もう少しうまくやれていただろう。
ただ、これは俺の問題でもあるし、変に弄ると後々面倒になるからロイス父さんたちも、“研究室”に手出ししていない。
と、それはおいておいて……勘ではないけど、それに近いんだよな。何というか、ライン兄さんからの反応から予測した感じだし。
「ライン兄さんの様子からかな」
「ラインの?」
「うん。何というか、あれって共鳴って感じがしたんだよ。なんとなくだけど。それにライン兄さんってハルレと、魂波だったけ? まぁ、魂魄の繋がりで会話をしていたよね」
未だに、何故会話できているのか不思議でならず、何度も会話しているところを解析させてもらったが、魂波という存在は未だ捉えられていない。
……こう考えると、魂魄魔法とか空間魔法とか、幻想級の魔法に近いのってライン兄さんなんだよな。意志の影響を増大させる勇者の卵が二人いたとはいえ、それでも概念で魔法を使ってたし。
「ライン兄さんがさ、俺やレモンが何も感じないのに、そこの白蛇と共鳴したかのように走ったんだよ」
魔力的な波動だったら、たぶん俺が気が付いている。レモンもそうだろう。だが、俺らは気が付かず、ライン兄さんだけが気が付いた。
「しかも、ライン兄さんがあれだけ熱を出すくらいには、精神的に負荷がかかっていた感じだし、魂が共鳴した際に、白蛇の魂魄状態がライン兄さんにも共鳴しちゃったんじゃないかって。まぁ理由としては弱いから、勘みたいなものなんだけど」
「……セオってぬぼっとしている割には、そういう勘は鋭いのね」
「こらこら、アテナ」
アテナ母さんの解説が始まったあたりから、ユナに持ってきてもらった書類と睨めっこしていたロイス父さんが、アテナ母さんを少しだけたしなめる。
という体で、なんかイチャイチャしだしたから、俺はムスッとした声で訊ねる。
「で、ライン兄さんが何で白蛇と共鳴したかを知りたいんだけど?」
「うーん。えっと、それは最後の方になるわね。順序良く言った方が分かりやすいから」
「じゃあ、瘴気について他には? どこから瘴気が現れるのとか……」
どこにいてもどんな状況でもこの夫婦はイチャイチャするからな。今夜くらいは控えてもらいたい。
「そうね。先ほどセオは、瘴気は肉体に魔力、魂魄を阻害、侵蝕するって言ったでしょう?」
「うん」
「でも、実際に阻害、侵蝕するのは魂魄だけなのよ。だけど、魂魄への影響が大きすぎて、それに付随する魔力、肉体が影響を受ける」
……うん? それだとしても、俺やレモンの治癒魔法が阻害されることはなかったように思うんだが。魂魄に付随するっていうことは、他人の魔力自体は阻害しないはずだし。
「そうね。瘴気自体は他人の魔力を阻害しないわ」
「ナチュラルに心を……」
「けど、侵蝕された魔力は、他者の魔力を阻害するのよ」
「ああ、なるほど」
俺の文句を無視して続けられた言葉に、俺は思わず納得する。瘴気という性質自体がなんとなく、侵して拒絶して、侵して拒絶してを繰り返す病気のように感じていたからだ。
「まぁ、それはおいておいてね。重要なのは魂魄に多大な影響を与えるってことなのよ」
「……もしかして、神聖魔力も魂魄に魔力で影響を与えるから、打ち消せあえるってこと?」
「そうよ。当たりだわ」
そして、勝手な想像だが神聖魔力はいい魔力で、瘴気は悪い魔力ってこと。そして両者は常に陽と陰の関係みたいな感じなのか。
「因みに、神聖魔力は一般的に聖気って呼ばれているわ。あと、瘴気は不浄魔力という別名があるわね」
「不浄魔力……ねぇ、なんとなくだけどさ、瘴気って自然魔力の澱みから生じている感じ?」
「……あら、今日は本当に鋭いわね」
アテナ母さんはとても驚いたように、エメラルドの瞳を見開いた。
驚き過ぎだろうと思う半分、たぶんライン兄さんがあんな状態になって俺の頭が最高潮に働いているんだなと思った。しっかりしなくてはと、緊急防衛みたいなのが働いているのだろう。
「けど、ちょっと惜しいわ。自然魔力の澱みと瘴気の間にいくつかの過程が入るのよ」
「過程?」
つまり、澱みが何かを創り出して、それが瘴気を創り出すって感じか?
「そうよ。……セオ。迷宮についてはどれくらい知っているかしら?」
「魔物が無限にポップして、宝箱っていう変な物質が顕現している……異空間だったけ?」
「まぁ、その認識でも間違いないわ。でも、そうね。もっと分かりやすく言えば迷宮は魔物なのよ」
迷宮が生き物っていうのはありえないから、多分。
「その、一度入ってしまえば逃げられないとかそんな感じの?」
「いいえ、違うわ。迷宮は、自分の意図した魔物を創り出し、世界を創り出し、アーティファクトや魔法薬などと言った物質までも創り出す、正真正銘の生きた魔物なの」
「……へぇー、マジか」
うん? じゃあ、迷宮探索者とかって魔物に食われている感じなのか。それで、迷宮の宝箱とかに誘われて深い階層へ入って、迷宮核の近くで養分……
「あ! 確か、魔物って肉体の魔力が過剰に溢れすぎて変な澱みを創り出して、それでが魔石になって……つまり、迷宮核も!」
「そうよ。迷宮核は、地脈、つまり大地を流れる自然魔力が長年に亘って詰まりに詰まり、そして迷宮核を創り出すのよ」
で、このタイミングで迷宮の話をしたということは。
「じゃあ、アダド森林も迷宮ってこと?」
「いいえ、違うわ。迷宮の場合は、大地の魔力が引き起こす重力的な魔力影響によって異空間を創り出すの。けれど、アダド森林は違うでしょ?」
「あ、確かに」
そういえば、そうだった。そもそもアダド森林は迷宮じゃなくて、魔境って……
「ッということは、魔境って存在は空気中の自然魔力の澱みによって発生した迷宮に似た感じの場所ってこと!?」
「ちょっと惜しいわね。一応、アダド森林は魔境じゃなくて大魔境と呼ばれていたでしょう?」
「……確か、自由ギルドが制定するんだよね。じゃあさ、魔境は普通に凶悪な魔物が跋扈する場所で、大魔境はその凶悪な魔物が無限にポップする場所ってこと?」
「間違いじゃないけど、間違いね。大魔境は迷宮ではないの。魔物が無限に創り出されるわけではないわ。けど、無理やり増殖させることができる」
増殖。魔物を増殖。
……やはり、今日の俺は冴えているのかもしれない。ただ、そのきっかけが嫌なものだからあまり手放しに喜べないが。
「もしかして、その増殖の手段が瘴気って事?」
「ええ、そうよ。そして、大魔境は、魔物同士の争いや版図拡大ね。そのために定期的に瘴気を発生させて、魔物を狂暴化と増殖化、後は周囲の動物や幻獣を魔物化して、一斉に大魔境外へ放出するのよ」
「……それが死之行進ってこと?」
「そうよ」
結構恐ろしいな。あ、でも、大魔境だって魔物と迷宮と同じ性質を持っているんだよな。ということはつまり。
「じゃあ、大魔境を構成している魔石みたいな核を壊せば、大魔境は消えるんじゃないの?」
「……それが、結構厄介なのよ。アダド森林の最奥にはね、神々に近しい力を持った守護者、もとい大魔境の核がいるの」
「じゃあ、それを倒せば。神々に近しい力を持っているって言っても、アテナ母さんたちなら……」
元々、アダド森林は産業として成り立ってはいるが、それでも大魔境ではなく、魔境という存在にしたほうがいい。それは確かである。
「……邪神って知っているわよね」
「確か、世界各地を一斉に襲った魔物の集団の王で、楽仙去優香で死んだっていう御伽噺に改竄された実話だったけ」
「ええ、クラリスとその勇者一行に倒された魔物ね」
「え!」
何それ、初耳なんだけど。
……うん? 楽仙去優香を創り出したのって、楽仙去っていう人だよな。ということはつまり、楽仙去ってクラリスさんの事か。
…………
いやいや、流石にそれは……
「そうよ。あの忌々しい楽仙去優香を創り出したのはクラリスなのよ」
「忌々しいって、あれでアテナは死なずに済んだんだ――いえ、なんでもありません」
拳を握りしめ、ドスの聞いた声で呟いたアテナ母さんに、ロイス父さんがにこやかに笑って突っ込もうとしたが、即刻で引き下がっていた。
まじか。アテナ母さん死にそうな時期があったのか。
「……まぁいいわ。そもそもクラリスほどの実力者が、寿命で死ぬなどおかしいと思わなかったの?」
「いや、まぁ寿命で死にたかったのかなっと」
「じゃあ、何で転生しているのよ」
まぁ、確かに。
「セオのような転生の仕方は置いといて、通常だと精神生命体になりかけていたのに無理やり肉体が滅んでしまったとか、あとは外的要因で魂魄自体を肉体から追い出されたとか、そういうことがなければ、転生はないのよ」
「その、無念とか怨念とかは……」
「そっちはアンデッドになるのが常ね」
ああ、確かにそんな感じだな。不死者ってそんなイメージだし。転生は不死とは違うしな。
「つまりね、クラリスは製作者なのに楽仙去優香の使用に失敗して、邪神諸共肉体が吹き飛んだのよ。それで、邪神の魂魄は楽仙去優香に耐性がなくて、クラリスにはあった。だから、クラリスの魂だけは生き延びて、転生したってわけよ」
「ふぅん。……あ、もしかしてさ、その邪神が、大魔境の守護者っていうこと?」
「そうよ。だから、大魔境の守護者を倒す、つまり大魔境の核を壊すということは、死之行進とは比較にならないほどの、瘴気を纏った魔物が一斉に外を侵攻し始めるのよ」
あれだな。丁度、俺が死ぬ以前にやったドラ……イレブンの最後みたいな感じか。魔物が超強くなって、しかもその狂暴化が伝播する感じで。
確かにそのリスクを考えると、数年に一度の死之行進を対処した方が楽か。
あ、でも、その邪神が現れて世界各地を侵略したって事は、誰かが守護者に手を出したって事だよな。
……クラリスさんって事はないか。その勇者の一行って事も。
「それに、その状態になるとエウ様の効力が届かなくなるのよ」
「エウの?」
「そう」
アテナ母さんって、何を説明するにしてもこういう手法が好きなんだよな。まぁ何というか、前世の俺だったら少し嫌がってたかもしれないが、今世では結構好きなので、真剣に考える。
「……まず、治癒を阻害……いや、通常の魔力自体を阻害と侵蝕をする性質がある。それと、侵蝕は魔力だけじゃなくて肉体と、たぶんだけど魂魄もかな?」
「ええ、そうよ。因みに、何で魂魄もだと思ったのかしら? セオは視えてないでしょう?」
確かに俺は魂魄は視えないのだ。というか、魂魄という存在が未だどういうものなのか分かっていないのである。分かっていたら、“研究室”についても、もう少しうまくやれていただろう。
ただ、これは俺の問題でもあるし、変に弄ると後々面倒になるからロイス父さんたちも、“研究室”に手出ししていない。
と、それはおいておいて……勘ではないけど、それに近いんだよな。何というか、ライン兄さんからの反応から予測した感じだし。
「ライン兄さんの様子からかな」
「ラインの?」
「うん。何というか、あれって共鳴って感じがしたんだよ。なんとなくだけど。それにライン兄さんってハルレと、魂波だったけ? まぁ、魂魄の繋がりで会話をしていたよね」
未だに、何故会話できているのか不思議でならず、何度も会話しているところを解析させてもらったが、魂波という存在は未だ捉えられていない。
……こう考えると、魂魄魔法とか空間魔法とか、幻想級の魔法に近いのってライン兄さんなんだよな。意志の影響を増大させる勇者の卵が二人いたとはいえ、それでも概念で魔法を使ってたし。
「ライン兄さんがさ、俺やレモンが何も感じないのに、そこの白蛇と共鳴したかのように走ったんだよ」
魔力的な波動だったら、たぶん俺が気が付いている。レモンもそうだろう。だが、俺らは気が付かず、ライン兄さんだけが気が付いた。
「しかも、ライン兄さんがあれだけ熱を出すくらいには、精神的に負荷がかかっていた感じだし、魂が共鳴した際に、白蛇の魂魄状態がライン兄さんにも共鳴しちゃったんじゃないかって。まぁ理由としては弱いから、勘みたいなものなんだけど」
「……セオってぬぼっとしている割には、そういう勘は鋭いのね」
「こらこら、アテナ」
アテナ母さんの解説が始まったあたりから、ユナに持ってきてもらった書類と睨めっこしていたロイス父さんが、アテナ母さんを少しだけたしなめる。
という体で、なんかイチャイチャしだしたから、俺はムスッとした声で訊ねる。
「で、ライン兄さんが何で白蛇と共鳴したかを知りたいんだけど?」
「うーん。えっと、それは最後の方になるわね。順序良く言った方が分かりやすいから」
「じゃあ、瘴気について他には? どこから瘴気が現れるのとか……」
どこにいてもどんな状況でもこの夫婦はイチャイチャするからな。今夜くらいは控えてもらいたい。
「そうね。先ほどセオは、瘴気は肉体に魔力、魂魄を阻害、侵蝕するって言ったでしょう?」
「うん」
「でも、実際に阻害、侵蝕するのは魂魄だけなのよ。だけど、魂魄への影響が大きすぎて、それに付随する魔力、肉体が影響を受ける」
……うん? それだとしても、俺やレモンの治癒魔法が阻害されることはなかったように思うんだが。魂魄に付随するっていうことは、他人の魔力自体は阻害しないはずだし。
「そうね。瘴気自体は他人の魔力を阻害しないわ」
「ナチュラルに心を……」
「けど、侵蝕された魔力は、他者の魔力を阻害するのよ」
「ああ、なるほど」
俺の文句を無視して続けられた言葉に、俺は思わず納得する。瘴気という性質自体がなんとなく、侵して拒絶して、侵して拒絶してを繰り返す病気のように感じていたからだ。
「まぁ、それはおいておいてね。重要なのは魂魄に多大な影響を与えるってことなのよ」
「……もしかして、神聖魔力も魂魄に魔力で影響を与えるから、打ち消せあえるってこと?」
「そうよ。当たりだわ」
そして、勝手な想像だが神聖魔力はいい魔力で、瘴気は悪い魔力ってこと。そして両者は常に陽と陰の関係みたいな感じなのか。
「因みに、神聖魔力は一般的に聖気って呼ばれているわ。あと、瘴気は不浄魔力という別名があるわね」
「不浄魔力……ねぇ、なんとなくだけどさ、瘴気って自然魔力の澱みから生じている感じ?」
「……あら、今日は本当に鋭いわね」
アテナ母さんはとても驚いたように、エメラルドの瞳を見開いた。
驚き過ぎだろうと思う半分、たぶんライン兄さんがあんな状態になって俺の頭が最高潮に働いているんだなと思った。しっかりしなくてはと、緊急防衛みたいなのが働いているのだろう。
「けど、ちょっと惜しいわ。自然魔力の澱みと瘴気の間にいくつかの過程が入るのよ」
「過程?」
つまり、澱みが何かを創り出して、それが瘴気を創り出すって感じか?
「そうよ。……セオ。迷宮についてはどれくらい知っているかしら?」
「魔物が無限にポップして、宝箱っていう変な物質が顕現している……異空間だったけ?」
「まぁ、その認識でも間違いないわ。でも、そうね。もっと分かりやすく言えば迷宮は魔物なのよ」
迷宮が生き物っていうのはありえないから、多分。
「その、一度入ってしまえば逃げられないとかそんな感じの?」
「いいえ、違うわ。迷宮は、自分の意図した魔物を創り出し、世界を創り出し、アーティファクトや魔法薬などと言った物質までも創り出す、正真正銘の生きた魔物なの」
「……へぇー、マジか」
うん? じゃあ、迷宮探索者とかって魔物に食われている感じなのか。それで、迷宮の宝箱とかに誘われて深い階層へ入って、迷宮核の近くで養分……
「あ! 確か、魔物って肉体の魔力が過剰に溢れすぎて変な澱みを創り出して、それでが魔石になって……つまり、迷宮核も!」
「そうよ。迷宮核は、地脈、つまり大地を流れる自然魔力が長年に亘って詰まりに詰まり、そして迷宮核を創り出すのよ」
で、このタイミングで迷宮の話をしたということは。
「じゃあ、アダド森林も迷宮ってこと?」
「いいえ、違うわ。迷宮の場合は、大地の魔力が引き起こす重力的な魔力影響によって異空間を創り出すの。けれど、アダド森林は違うでしょ?」
「あ、確かに」
そういえば、そうだった。そもそもアダド森林は迷宮じゃなくて、魔境って……
「ッということは、魔境って存在は空気中の自然魔力の澱みによって発生した迷宮に似た感じの場所ってこと!?」
「ちょっと惜しいわね。一応、アダド森林は魔境じゃなくて大魔境と呼ばれていたでしょう?」
「……確か、自由ギルドが制定するんだよね。じゃあさ、魔境は普通に凶悪な魔物が跋扈する場所で、大魔境はその凶悪な魔物が無限にポップする場所ってこと?」
「間違いじゃないけど、間違いね。大魔境は迷宮ではないの。魔物が無限に創り出されるわけではないわ。けど、無理やり増殖させることができる」
増殖。魔物を増殖。
……やはり、今日の俺は冴えているのかもしれない。ただ、そのきっかけが嫌なものだからあまり手放しに喜べないが。
「もしかして、その増殖の手段が瘴気って事?」
「ええ、そうよ。そして、大魔境は、魔物同士の争いや版図拡大ね。そのために定期的に瘴気を発生させて、魔物を狂暴化と増殖化、後は周囲の動物や幻獣を魔物化して、一斉に大魔境外へ放出するのよ」
「……それが死之行進ってこと?」
「そうよ」
結構恐ろしいな。あ、でも、大魔境だって魔物と迷宮と同じ性質を持っているんだよな。ということはつまり。
「じゃあ、大魔境を構成している魔石みたいな核を壊せば、大魔境は消えるんじゃないの?」
「……それが、結構厄介なのよ。アダド森林の最奥にはね、神々に近しい力を持った守護者、もとい大魔境の核がいるの」
「じゃあ、それを倒せば。神々に近しい力を持っているって言っても、アテナ母さんたちなら……」
元々、アダド森林は産業として成り立ってはいるが、それでも大魔境ではなく、魔境という存在にしたほうがいい。それは確かである。
「……邪神って知っているわよね」
「確か、世界各地を一斉に襲った魔物の集団の王で、楽仙去優香で死んだっていう御伽噺に改竄された実話だったけ」
「ええ、クラリスとその勇者一行に倒された魔物ね」
「え!」
何それ、初耳なんだけど。
……うん? 楽仙去優香を創り出したのって、楽仙去っていう人だよな。ということはつまり、楽仙去ってクラリスさんの事か。
…………
いやいや、流石にそれは……
「そうよ。あの忌々しい楽仙去優香を創り出したのはクラリスなのよ」
「忌々しいって、あれでアテナは死なずに済んだんだ――いえ、なんでもありません」
拳を握りしめ、ドスの聞いた声で呟いたアテナ母さんに、ロイス父さんがにこやかに笑って突っ込もうとしたが、即刻で引き下がっていた。
まじか。アテナ母さん死にそうな時期があったのか。
「……まぁいいわ。そもそもクラリスほどの実力者が、寿命で死ぬなどおかしいと思わなかったの?」
「いや、まぁ寿命で死にたかったのかなっと」
「じゃあ、何で転生しているのよ」
まぁ、確かに。
「セオのような転生の仕方は置いといて、通常だと精神生命体になりかけていたのに無理やり肉体が滅んでしまったとか、あとは外的要因で魂魄自体を肉体から追い出されたとか、そういうことがなければ、転生はないのよ」
「その、無念とか怨念とかは……」
「そっちはアンデッドになるのが常ね」
ああ、確かにそんな感じだな。不死者ってそんなイメージだし。転生は不死とは違うしな。
「つまりね、クラリスは製作者なのに楽仙去優香の使用に失敗して、邪神諸共肉体が吹き飛んだのよ。それで、邪神の魂魄は楽仙去優香に耐性がなくて、クラリスにはあった。だから、クラリスの魂だけは生き延びて、転生したってわけよ」
「ふぅん。……あ、もしかしてさ、その邪神が、大魔境の守護者っていうこと?」
「そうよ。だから、大魔境の守護者を倒す、つまり大魔境の核を壊すということは、死之行進とは比較にならないほどの、瘴気を纏った魔物が一斉に外を侵攻し始めるのよ」
あれだな。丁度、俺が死ぬ以前にやったドラ……イレブンの最後みたいな感じか。魔物が超強くなって、しかもその狂暴化が伝播する感じで。
確かにそのリスクを考えると、数年に一度の死之行進を対処した方が楽か。
あ、でも、その邪神が現れて世界各地を侵略したって事は、誰かが守護者に手を出したって事だよな。
……クラリスさんって事はないか。その勇者の一行って事も。
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台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
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