114 / 316
早春
決着と芽吹き:sprout
しおりを挟む
俺が積極的に動き始めて三十分。三十分間も決着がついていない。
というのも、向こうの大将が張っている結界が頑丈なのだ。
俺は分身体を自爆させる技を使い、死兵と化した分身体を結界まで突っ込ませ、何度も自爆させているのだが、結界に罅すら入らないのだ。
それどころか、俺がポンポン分身体を召喚して爆発させているせいで、直感なのかもしくは魔力の流れを追っているのかは分からないが、“隠者”を使っていてもユリシア姉さんに見つかるようになった。
それとエイダンとカーターが膠着する雪合戦にしびれを切らしたのか、好き勝手に動き始めたせいでおっさんたちも好き勝手動き始めた。ユリシア姉さんたちも思い勝手に動き始めた。
完全な混戦である。秩序もクソもない、俺達が来る前の罵り合いをしている雪合戦と同様だ。
俺の分身体が自爆しながら突撃し、クラリスさんとハイターがそれを援護する様に忍者の如く木々の上を走りながら応戦する。
しかし向こうは使い捨ての道具とばかりにおっさんたちを肉壁にして、子供たちが俺の分身体やクラリスさんたちを狙う。おっさんたちの怨嗟の汚い声が気持悪く、またユリシア姉さんたちは容赦なく肉壁にする。
特にカーターは魔法を、ユリシア姉さんは野性的な物理を使って雪玉を豪速で射出しているので、意外にも精度高くクラリスさんを追い詰めている。
そうして何か知らないが、両者が一斉に引く瞬間が訪れた。仕切り直しなのか、それともこれで決着を付ける為なのか、誰もが木々の影に隠れ、雪玉を投げなかった。
それが数分続いた。
「のお、セオ。ちょいとお願いがあるんだがいいかの?」
「なに、本気を出してないクラリスさん?」
太い木の影に身体を丸めて潜んでいる俺にクラリスさんが話しかけてくる。穏やかな笑顔のクラリスさんは普通に余裕があるように見えていて、実際手加減しているのだろう。
この雪合戦で“研究室”にお願いしてクラリスさんの動きなどを解析してもらった結果、クラリスさんがそもそも魔法生命体みたいなものであることが分かった。
いやハイエルフだとかそんな話も聞いていたし、予想はしていたが分からいやすく言えば肉体的スペックは己の意志一つで変えられる存在だ。
つまりやろうと思えば魔法も使わずに音速の壁すら突破して向こうの大将が張っている結界を破壊することができるだろう。
「お主、争いごとが嫌いではなかったのかの? ……まぁよい。それより、儂の事解析したおったの?」
「うん、駄目だった?」
するなとは一言も言われてない。けど、やっぱりバレてたか。データ自体は欲しかったからな。もしかしたら魔道具の研究にも役に立つかと思ったし。
それにここ最近は義肢の魔道具で出力調整に戸惑っているのだ。クラリスさんのような意志一つで己の肉体的スペックを左右できる原理が分かれば、もしかしたら自由に義肢の出力を調整できるかもしれない。
まぁその前に平行軸や交差軸などといった歯車の課題もあるんだよな。結局、この世界ではガタガタした歯車はあるのだが、滑らかに動く歯車の技術は少ないし。
この世界には時計が普通にあるが、それでも時計はガタガタ動いても正確に寸分のずれなく動けば問題はない。離散的、つまりデジタル的な動きであっても問題ないのだ。
だが身体の動きなどは滑らかに動く必要がある。もしくは極限までに離散的な動きにしてそれが連続的な動きと見分けが付かないようにしなければならない。
難しい。
「ふむ、駄目ではないの」
クラリスさんは落ち着いた様子で頷いた。だが、それから剣呑な黄金の瞳を俺に向けてくる。
「だが敵対行動と捉えられるぞ。お主はこの街しか見ないからわからんだろうが、普通相手を調べるという事はやましい事を考えていると伝えているようなものだの。もちろんバレなければいいが、それでも高ランク冒険者や貴族相手には下手に動かない方がよい」
「……確かに。ありがとうクラリスさん」
ロイス父さんがそんな事言ってたような気がするな。いや、言っていたんだろうたぶん。クラリスさんは身内みたいなものだし、甘えていたのか。
……にしても、バレなければいいんだよな。バレないで解析するのを鍛えてみるか。“隠者”もあるし、クラリスさんにすらバレない程の解析を目指してみるか。
「あ、それでお願い事って何?」
「うむ。お主が作っていた点字やらタイプライターについてなのだが――」
とその時、遠くでユリシア姉さんの怒り声が聞こえた。数分間も誰も動かず静かな雪合戦にしびれを切らしたのだろう。
偵察のために配置している分身体から送られてくる視覚情報によれば、いつの間にか二本の木剣を手に、地面に積もっている雪を切り裂いていた。
そしてそれを合図に一斉に相手さんが動き始めた。
「――セオ、行くぞ」
「はいはい」
という事で俺とクラリスさんは隠れていた木の幹から飛び出し、敵に突っ込んでいく。向こうの大将は短期決戦を望んでいるのか、結界を張って引きこもっては居らず、こっちに向かって来ている。
と、上に気配は感じて視線を送ればハイターが天狗のような足取りで木々を飛び移っていた。向こうも幾人かのおっさんが木から木へ飛び移っている。
何というか、馬鹿らしい最後になった。
策もなく、互いに正面衝突など。
ただ、突っ込むのはこっちである。向こうは防衛的な正面衝突を選ぶらしい。まぁ人数が多いし、使える手も多いからな。それに人数が少ない相手を責めるのは意外にもリスクだしな。
突っ込んできたところをボコボコにした方がいいだろう。
「で、何なの?」
「可能ならばでいいのだがの、お主が作っていた試作品のタイプライターやら、あと点字?だったかの、あれを譲ってほしいのだ」
俺とクラリスさんは、魔法などで作り射出しているマシンガンの如く襲ってくる数々の雪玉を紙一重で躱しながら、会話をする。
分身体を咄嗟に召喚して盾にしたり、はたまた雪の中に埋もれさせて自爆させ、雪の壁を作ったり。魔法で雪玉を作れないので、“宝物袋”に補充しまくった雪玉で応戦する。
「譲る? なんでまた」
「お主は儂がこの国に来た理由は知っておるだろう?」
「確か……家庭教師とか何とかだっけ?」
飛び掛かってきたおっさんをスライディングして躱しながら、雪玉を当てて一時的に戦闘不能にする。魔力だけはあるので、分身体を召喚しては自爆をさせているため、意外に切り抜けやすい。
クラリスさんは猫と見間違うほどの柔らかく変則的な動きで雪玉を躱し、一瞬で手に取った雪を強力な握力で握りしめ、鋼鉄と化した雪玉を投げて相手を戦闘不能にしている。
ルール的だけでなく物理的に。ドスンってめっちゃ低い轟音とともにおっさんがくの字に折れ曲がってるんだも。
大丈夫か?
まぁいいや。
「うむ。それで儂が受け持つ子にお主が作ったものを使わせてやりたいんだ。ほれ、実験データは必要だろう?」
「……そういう事か」
クラリスさんが受け持つ子を俺は知らない。王族が依頼した事は知っているが、それ以上は知らない。
だが、何となくどういう子か何となくだが、勘でしかないが分かった。というか、点字をいう時点で分かる。
目が見えないか、もしくは弱視なんだ。
点字は、今度生まれる子がもしかしたらそういう子かもしれないと、俺は少しだけ不安だったから、金属活字を作るついでに共通言語の文字に対応したのを作ったのだ。
この世界で初めての点字で、俺のオリジナルである。前世で点字というものどういうのかはがある程度知っていたが、一文字一文字に配列は覚えていなかった。なので俺が幾つかの試作品を作って、指先で分かりやすい感じに決めていった。
だが、それでも俺は目が見える存在だ。本当に使いやすいかは分からない。それにタイプライターだってあれは目が見えない人でも文字が打てるようにするために作られた道具であったはずだ。
ならば、精度やらを考えても実際にそういう人に使って貰って実験データを取った方がいい。幾つか試作品はできたんだし、今度は改良に乗り出すべきだ。
「フッ、っと。……分かった。いいよ。ハッ。でも、ロイス父さんが事業として進めてるから、そこらへんはっ?」
敵の攻撃が激しくなった。分身体で対処しているが、木剣を振り回し、俺が投げる雪玉などを全て叩ききっているユリシア姉さんと、水魔法と氷魔法で雪玉を阿保みたいに操っているカーターには手が焼ける。
エイダンは早々に戦闘不能になった。
「既に話を通しておる。だが、作り手はお主だし、自由ギルドへの商標登録などもお主らしいからのっ」
「そういう事っ。ッ、よっと。ならデータの提供契約とかはっ?」
「問題ないっ!」
大将を除いたおっさんたちが全員戦闘不能になった。最初にヤった奴が戦闘開始になるまであと二十秒、それまでにカーターとユリシア姉さんを避けて、堂々と佇んでいる大将のおっさんに雪玉を当てるだけ!
「セオ、クラリス! 何さっきから余裕そうにゴチャゴチャしゃべってんのよ!」
「確かに、眼中にないって感じだ」
俺達の前にユリシア姉さんとカーターが立ち塞がる。その後ろで雪玉を浮かした大将のおっさんが、ニヤリと笑っている。子供に守られてるのに何かムカつくな。
にしても、ハイターは相打ちになって使えないし。
「クラリスさん!」
「うむ!」
俺は目の前に、四体の分身体を降り積もった雪から頭だけ顔を出すような感じに召喚し、自爆させる。何か、目の前で自分が自爆するってすげぇ嫌だな。
だが、それによって雪が暴風となって飛び散り、両者の間に壁ができる。その瞬間、クラリスさんは俺を両手に抱えて、そして空へと放り投げる。
「ひょえーー。メッチャこえぇ!」
だが、クラリスさんがあまりの馬鹿力で放り投げたせいで俺は弾丸の如く空へと飛び出す。
が、頑張って我慢し、周囲を警戒しているおっさんを見定める。
そして“宝物袋”を発動する。
「んなぁ!?」
分身体の自爆による雪の暴風がユリシア姉さんとカーターによって晴らされる。
だが、冬の太陽は公園に射さない。大将のおっさんの周りに巨大な丸い影が二つできる。ユリシア姉さんたち全員が馬鹿なといった感じに大口を開けている。
「クラリスさん!」
「うむ!」
俺の掛け声と同時にクラリスさんが一瞬で空へと飛び出してきた。そして反転して、それを見る。
「おい、魔法は反則だ――」
「――残念。始めからコツコツと作ってきた雪だるまです! あと、これを召喚したのは“宝物袋”っていう能力です!」
俺は久ぶりにですます調を使って煽る。ついでに一緒に俺と落ちている巨大な雪だるまを見る。
ついでにちまちまと雪だるまを作っていたクラリスさんを見る。丹精込めて作った雪だるまを握るクラリスさんを見る。
そして。
「せいっ!」
クラリスさんが空中の上なのに雪だるまを掴み、地面へ叩きつけた。
雪合戦はそれで終わった。それと地面で寝そべっていた皆は巨大な雪だるまに襲われたが、怪我はしていなかった。
あと、咄嗟に大将のおっさんが張った結界に叩きつけられた雪だるまの轟音を聞きつけ、ロイス父さんたちがやってきた。
事情聴衆され、雪合戦に参加してた俺達はもの凄く怒られた。
そして次の日。俺が渡した幾つかの試作品を持ってクラリスさんはマキーナルト領を出ていった。
手紙のやり取りはするし、やろうと思えば王都と簡単に行き来はできるらしいから、アテナ母さんたちは落ち着いていたが、ライン兄さんたちは突然のことに珍しくゴネていた。
まぁ毎晩暖炉の前で面白い話をいっぱい聞かせて貰ってたからな。急にいなくなるんは堪えるのだろう。というか、ライン兄さんたちは普通に子供だし、会えるといっても別れるのは寂しいのだろう。
というのも、向こうの大将が張っている結界が頑丈なのだ。
俺は分身体を自爆させる技を使い、死兵と化した分身体を結界まで突っ込ませ、何度も自爆させているのだが、結界に罅すら入らないのだ。
それどころか、俺がポンポン分身体を召喚して爆発させているせいで、直感なのかもしくは魔力の流れを追っているのかは分からないが、“隠者”を使っていてもユリシア姉さんに見つかるようになった。
それとエイダンとカーターが膠着する雪合戦にしびれを切らしたのか、好き勝手に動き始めたせいでおっさんたちも好き勝手動き始めた。ユリシア姉さんたちも思い勝手に動き始めた。
完全な混戦である。秩序もクソもない、俺達が来る前の罵り合いをしている雪合戦と同様だ。
俺の分身体が自爆しながら突撃し、クラリスさんとハイターがそれを援護する様に忍者の如く木々の上を走りながら応戦する。
しかし向こうは使い捨ての道具とばかりにおっさんたちを肉壁にして、子供たちが俺の分身体やクラリスさんたちを狙う。おっさんたちの怨嗟の汚い声が気持悪く、またユリシア姉さんたちは容赦なく肉壁にする。
特にカーターは魔法を、ユリシア姉さんは野性的な物理を使って雪玉を豪速で射出しているので、意外にも精度高くクラリスさんを追い詰めている。
そうして何か知らないが、両者が一斉に引く瞬間が訪れた。仕切り直しなのか、それともこれで決着を付ける為なのか、誰もが木々の影に隠れ、雪玉を投げなかった。
それが数分続いた。
「のお、セオ。ちょいとお願いがあるんだがいいかの?」
「なに、本気を出してないクラリスさん?」
太い木の影に身体を丸めて潜んでいる俺にクラリスさんが話しかけてくる。穏やかな笑顔のクラリスさんは普通に余裕があるように見えていて、実際手加減しているのだろう。
この雪合戦で“研究室”にお願いしてクラリスさんの動きなどを解析してもらった結果、クラリスさんがそもそも魔法生命体みたいなものであることが分かった。
いやハイエルフだとかそんな話も聞いていたし、予想はしていたが分からいやすく言えば肉体的スペックは己の意志一つで変えられる存在だ。
つまりやろうと思えば魔法も使わずに音速の壁すら突破して向こうの大将が張っている結界を破壊することができるだろう。
「お主、争いごとが嫌いではなかったのかの? ……まぁよい。それより、儂の事解析したおったの?」
「うん、駄目だった?」
するなとは一言も言われてない。けど、やっぱりバレてたか。データ自体は欲しかったからな。もしかしたら魔道具の研究にも役に立つかと思ったし。
それにここ最近は義肢の魔道具で出力調整に戸惑っているのだ。クラリスさんのような意志一つで己の肉体的スペックを左右できる原理が分かれば、もしかしたら自由に義肢の出力を調整できるかもしれない。
まぁその前に平行軸や交差軸などといった歯車の課題もあるんだよな。結局、この世界ではガタガタした歯車はあるのだが、滑らかに動く歯車の技術は少ないし。
この世界には時計が普通にあるが、それでも時計はガタガタ動いても正確に寸分のずれなく動けば問題はない。離散的、つまりデジタル的な動きであっても問題ないのだ。
だが身体の動きなどは滑らかに動く必要がある。もしくは極限までに離散的な動きにしてそれが連続的な動きと見分けが付かないようにしなければならない。
難しい。
「ふむ、駄目ではないの」
クラリスさんは落ち着いた様子で頷いた。だが、それから剣呑な黄金の瞳を俺に向けてくる。
「だが敵対行動と捉えられるぞ。お主はこの街しか見ないからわからんだろうが、普通相手を調べるという事はやましい事を考えていると伝えているようなものだの。もちろんバレなければいいが、それでも高ランク冒険者や貴族相手には下手に動かない方がよい」
「……確かに。ありがとうクラリスさん」
ロイス父さんがそんな事言ってたような気がするな。いや、言っていたんだろうたぶん。クラリスさんは身内みたいなものだし、甘えていたのか。
……にしても、バレなければいいんだよな。バレないで解析するのを鍛えてみるか。“隠者”もあるし、クラリスさんにすらバレない程の解析を目指してみるか。
「あ、それでお願い事って何?」
「うむ。お主が作っていた点字やらタイプライターについてなのだが――」
とその時、遠くでユリシア姉さんの怒り声が聞こえた。数分間も誰も動かず静かな雪合戦にしびれを切らしたのだろう。
偵察のために配置している分身体から送られてくる視覚情報によれば、いつの間にか二本の木剣を手に、地面に積もっている雪を切り裂いていた。
そしてそれを合図に一斉に相手さんが動き始めた。
「――セオ、行くぞ」
「はいはい」
という事で俺とクラリスさんは隠れていた木の幹から飛び出し、敵に突っ込んでいく。向こうの大将は短期決戦を望んでいるのか、結界を張って引きこもっては居らず、こっちに向かって来ている。
と、上に気配は感じて視線を送ればハイターが天狗のような足取りで木々を飛び移っていた。向こうも幾人かのおっさんが木から木へ飛び移っている。
何というか、馬鹿らしい最後になった。
策もなく、互いに正面衝突など。
ただ、突っ込むのはこっちである。向こうは防衛的な正面衝突を選ぶらしい。まぁ人数が多いし、使える手も多いからな。それに人数が少ない相手を責めるのは意外にもリスクだしな。
突っ込んできたところをボコボコにした方がいいだろう。
「で、何なの?」
「可能ならばでいいのだがの、お主が作っていた試作品のタイプライターやら、あと点字?だったかの、あれを譲ってほしいのだ」
俺とクラリスさんは、魔法などで作り射出しているマシンガンの如く襲ってくる数々の雪玉を紙一重で躱しながら、会話をする。
分身体を咄嗟に召喚して盾にしたり、はたまた雪の中に埋もれさせて自爆させ、雪の壁を作ったり。魔法で雪玉を作れないので、“宝物袋”に補充しまくった雪玉で応戦する。
「譲る? なんでまた」
「お主は儂がこの国に来た理由は知っておるだろう?」
「確か……家庭教師とか何とかだっけ?」
飛び掛かってきたおっさんをスライディングして躱しながら、雪玉を当てて一時的に戦闘不能にする。魔力だけはあるので、分身体を召喚しては自爆をさせているため、意外に切り抜けやすい。
クラリスさんは猫と見間違うほどの柔らかく変則的な動きで雪玉を躱し、一瞬で手に取った雪を強力な握力で握りしめ、鋼鉄と化した雪玉を投げて相手を戦闘不能にしている。
ルール的だけでなく物理的に。ドスンってめっちゃ低い轟音とともにおっさんがくの字に折れ曲がってるんだも。
大丈夫か?
まぁいいや。
「うむ。それで儂が受け持つ子にお主が作ったものを使わせてやりたいんだ。ほれ、実験データは必要だろう?」
「……そういう事か」
クラリスさんが受け持つ子を俺は知らない。王族が依頼した事は知っているが、それ以上は知らない。
だが、何となくどういう子か何となくだが、勘でしかないが分かった。というか、点字をいう時点で分かる。
目が見えないか、もしくは弱視なんだ。
点字は、今度生まれる子がもしかしたらそういう子かもしれないと、俺は少しだけ不安だったから、金属活字を作るついでに共通言語の文字に対応したのを作ったのだ。
この世界で初めての点字で、俺のオリジナルである。前世で点字というものどういうのかはがある程度知っていたが、一文字一文字に配列は覚えていなかった。なので俺が幾つかの試作品を作って、指先で分かりやすい感じに決めていった。
だが、それでも俺は目が見える存在だ。本当に使いやすいかは分からない。それにタイプライターだってあれは目が見えない人でも文字が打てるようにするために作られた道具であったはずだ。
ならば、精度やらを考えても実際にそういう人に使って貰って実験データを取った方がいい。幾つか試作品はできたんだし、今度は改良に乗り出すべきだ。
「フッ、っと。……分かった。いいよ。ハッ。でも、ロイス父さんが事業として進めてるから、そこらへんはっ?」
敵の攻撃が激しくなった。分身体で対処しているが、木剣を振り回し、俺が投げる雪玉などを全て叩ききっているユリシア姉さんと、水魔法と氷魔法で雪玉を阿保みたいに操っているカーターには手が焼ける。
エイダンは早々に戦闘不能になった。
「既に話を通しておる。だが、作り手はお主だし、自由ギルドへの商標登録などもお主らしいからのっ」
「そういう事っ。ッ、よっと。ならデータの提供契約とかはっ?」
「問題ないっ!」
大将を除いたおっさんたちが全員戦闘不能になった。最初にヤった奴が戦闘開始になるまであと二十秒、それまでにカーターとユリシア姉さんを避けて、堂々と佇んでいる大将のおっさんに雪玉を当てるだけ!
「セオ、クラリス! 何さっきから余裕そうにゴチャゴチャしゃべってんのよ!」
「確かに、眼中にないって感じだ」
俺達の前にユリシア姉さんとカーターが立ち塞がる。その後ろで雪玉を浮かした大将のおっさんが、ニヤリと笑っている。子供に守られてるのに何かムカつくな。
にしても、ハイターは相打ちになって使えないし。
「クラリスさん!」
「うむ!」
俺は目の前に、四体の分身体を降り積もった雪から頭だけ顔を出すような感じに召喚し、自爆させる。何か、目の前で自分が自爆するってすげぇ嫌だな。
だが、それによって雪が暴風となって飛び散り、両者の間に壁ができる。その瞬間、クラリスさんは俺を両手に抱えて、そして空へと放り投げる。
「ひょえーー。メッチャこえぇ!」
だが、クラリスさんがあまりの馬鹿力で放り投げたせいで俺は弾丸の如く空へと飛び出す。
が、頑張って我慢し、周囲を警戒しているおっさんを見定める。
そして“宝物袋”を発動する。
「んなぁ!?」
分身体の自爆による雪の暴風がユリシア姉さんとカーターによって晴らされる。
だが、冬の太陽は公園に射さない。大将のおっさんの周りに巨大な丸い影が二つできる。ユリシア姉さんたち全員が馬鹿なといった感じに大口を開けている。
「クラリスさん!」
「うむ!」
俺の掛け声と同時にクラリスさんが一瞬で空へと飛び出してきた。そして反転して、それを見る。
「おい、魔法は反則だ――」
「――残念。始めからコツコツと作ってきた雪だるまです! あと、これを召喚したのは“宝物袋”っていう能力です!」
俺は久ぶりにですます調を使って煽る。ついでに一緒に俺と落ちている巨大な雪だるまを見る。
ついでにちまちまと雪だるまを作っていたクラリスさんを見る。丹精込めて作った雪だるまを握るクラリスさんを見る。
そして。
「せいっ!」
クラリスさんが空中の上なのに雪だるまを掴み、地面へ叩きつけた。
雪合戦はそれで終わった。それと地面で寝そべっていた皆は巨大な雪だるまに襲われたが、怪我はしていなかった。
あと、咄嗟に大将のおっさんが張った結界に叩きつけられた雪だるまの轟音を聞きつけ、ロイス父さんたちがやってきた。
事情聴衆され、雪合戦に参加してた俺達はもの凄く怒られた。
そして次の日。俺が渡した幾つかの試作品を持ってクラリスさんはマキーナルト領を出ていった。
手紙のやり取りはするし、やろうと思えば王都と簡単に行き来はできるらしいから、アテナ母さんたちは落ち着いていたが、ライン兄さんたちは突然のことに珍しくゴネていた。
まぁ毎晩暖炉の前で面白い話をいっぱい聞かせて貰ってたからな。急にいなくなるんは堪えるのだろう。というか、ライン兄さんたちは普通に子供だし、会えるといっても別れるのは寂しいのだろう。
22
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
お気に入りに追加
951
あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました
おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。
※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。
※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・)
更新はめっちゃ不定期です。
※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。
亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。
さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。
南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。
ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。
転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!
小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。
しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。
チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。
研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。
ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。
新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。
しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。
もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。
実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。
結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。
すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。
主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる