異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
104 / 316
一年

ご都合主義のシステム:this winter

しおりを挟む
 ……えー、マジで。

「ねぇ、どんな感じに物価が高いの?」
「あーっと、王都で白パンが大体大銅貨十枚前後って言えばいいか」
「……つまり、三倍近い差じゃん」

 え、マジで。そんなに違うの。てか、一応同じ王国内だよね。何でそんなに。

「ああ、もしかして知らなかったのか」
「うん。え、なんでそんな高いの!?」

 俺はエドガー兄さんに顔をずいッと近づける。エドガー兄さんはウっと少しだけ呻いた後、溜息を吐いた。

「……そういえば、セオは領地経営に関わってねぇし、この街の外に出たこともねぇんだよな。当たり前っちゃあ当たり前か」

 そしてエドガー兄さんは書類を片手間で分別しながら話してくれた。

「まず何て言えばいいか、この領地の産業は大きく分けて二つある」
「アダド森林で取れる魔石や鉱石や植物っていった自由ギルドからのと、農業地帯で育ててる小麦や他の野菜だよね」
「ああ、そうだ。でだ、セオ。どっちの方が輸出額が大きいと思う?」

 マキーナルト領の領民は少ない。アテナ母さんの貴族関連の授業で聞いた限りだと、他領に比べて十分の一程度しかいない。

 領地ができて十年しか経っていないし、また元々マキーナルト領になる前のこの土地の人口は千もいかなかったはずだ。今もそこまで多くない。それに街もラート町一つしかないし、農業用拠点村だって村というよりは社宅に近かったような気がする。

 ただ、領民として籍を移していないだけで住みついている冒険者もまぁまぁ多い。つまり、ぶっちゃけ言えばマキーナルト領の働き手は領民よりも冒険者の方が多い筈だ。

 それにアダド森林で採れる鉱物や植物、また獲れる魔石や魔物の素材は魔道具の素材としても、またあらゆる武器や防具、薬といった様々な高価な品々の原料としての価値も高い。

「アダド森林の、冒険者関連の方かな」
「不正解」
「え」

 農業の方が輸出額が大きいだと。え、マジで。

 だって、広大な土地で多量の小麦や作物を作っているとはいえ、魔石や魔物の素材といったそもそもの価値が高い冒険者関連の素材だって、多く売っている筈だ。
 
 そもそも、農作物は普通領内で消費する分もあるし……

「ああ、やっぱりそこも知らないのか。まぁ、それも当たり前か」
「どういうことなの、エドガー兄さん?」
「ああ、まずな、この領地で作っている小麦や作物は品質がとても高い」
「そりゃあ、まぁアランやロン爺が責任者をやってるらしいし」

 二人は植物のスペシャリストである。特にロン爺はエウや天職もあって更に植物に関して詳しい。

「ああ、そうだ。だが、たぶんだがお前が思っているやり方とは違うシステムで農作物を作っている」
「ん? どういうこと?」
「なぁ、ここには農家はいないんだ」
「うん? とんち?」

 農作物を作っているんだよな。アランとロン爺が彼らのまとめ役をやっているって感じだと思うし、農作物を作るから農家の筈だ。

「他領でいう個々に畑を貸して、独自に育てるってことはさせていない。マキーナルト領にある畑は全てマキーナルト領が管理しているんだ」

 うん?

 普通、領地を農家っていう一族に貸して、そこで指定した作物を作らせて、作った作物を買い取る。そんな感じだよな。

 それに、結構前だが俺が始めて街に行った時に税収が如何とかって指示をロイス父さんが出してたし、違うのか?

「一から説明すると、まず、大体、育てる作物がない、秋が終わった直後のこの時期に、アランやロイドロイド爺さん、後は他のマキーナルト領農業部門の上役の人たちが会議をする。農業部門っていうのは、家の公共部門だ。守護兵団や放浪兵団と扱いは同じだ」
「うん、それで?」
「それでだ。彼らはその年の収穫量と他領や他国との収穫状況、そして貴族たちの流行りをアカサ・サリアス商会と自由ギルドの情報を元に、来年にどんな作物をどれくらい作るかを決めている。特に、貴族の流行りと今まで溜めてきた各作物の収穫量や魔物の討伐具合のデータから算出した天候予想が特に参考にされるんだ」

 魔物の討伐具合で気候が算出できるのが気になるが、それは放っておく。

「……気候は分かるけど、貴族の流行りって関係あるの? それに農家がいないって事と何が……」
「まぁ、待て。順番に話すから」

 丁度、散らかした書類の整理が終わったらしく、エドガー兄さんは丁寧に重ねて書類を脇に置いて、俺の前で胡坐を掻く。

「そして決めた後、彼らは農業設計を行う」
「農業設計?」
「ああ、どの作物をどの場所で育てるか、同じ作物を同じ場所で作ったりすると畑が駄目になるからな。それとこの作物はこの時期に苗を植えて、この時間帯に水をやってとか、そういう作物を育てるためのマニュアルみたいなものだ。まぁ、ここ十年でそのマニュアルも大分多くなったから、最近は作ってないらしいが」

 デザイナー的な感じか。服のパターンを作る感じの……、あれ。パータンだったけ。まぁいいや。詳しくないし。

「そしてそのマニュアルを作った後は、アランやロイドロイド爺さん以外の上役が自分の部下にそのマニュアルを元に作物を作らせる。というよりは、二人がトップで、上役も二人の部下って感じだが。まぁ、それでマニュアルを作る際に誰がどの作物の責任を持つかを決めておくんだ」

 分かってきた。部下という言葉で何となく分かってきた。

 領主って公共の方だと思ったが、そうか、ここは企業なのか。

 各農家が作ったものを税として取るのではなく、そもそも一定の給料を払って一年間でそれを作らせている。

 何てことはない、農業法人だ。完全に資本主義の方向に近いぞ。

 アランやロン爺が農業部門の一番お偉い人たちで、他の農業関連の天職や職業をもつ人たちが部長か係長って感じで、その下の部下が肉体労働をするって感じか。

 そして企業という視点ならば、貴族の流行りを注意したのも分かる。顧客を貴族だけにするなら、貴族がどんな食事を今好んでいるのかを知り、作るモノを変えた方がいい。

 まぁけど、たぶん小麦だけは一定以上毎年作っていると思うけど。

「ねぇ、家の作物ってエレガント王国の貴族や王族だけに売ってるの?」
「ああ、そうだ。よくここまで説明でそれが分かったな。だが、少しだけ間違いがある。エレガント王国だけじゃなくてエア大陸全土の貴族たちに輸出している」
「……ブランドだね」

 そうなのだ。ブランドである。

 品質の高いものを作れるからこそ、品質の高いものを欲しがる人たちに売りつける。そのためにブランドとしての価値を持たせた。

 たぶん。

 そしてだからこそ、品質を高いものをマキーナルト家が雇うという形にする事によって高い労働量で作っているから、価値が高くでき、それをブランドとして金を持っている貴族たちに売りつける。

 だから、輸出額が高いんだ。自給するために作っているわけじゃないから。

 それにこの町の物価が高いってことは、得ているお金も高いから、他領や他国からマキーナルト領地内での安い値段で、大量の作物が買える。

「ブランド? ……まぁいい。たぶん貴族に売ってるってわかったなら農産物をどうやって作ってるかは検討がついているんだろ」
「うん、つまり商会って事だよね。領民を領民として農作物を作らせるんじゃなくて、領民をマキーナルト家の農業部門で雇ってそこで作物を作らせる。だから、農作物関係の税金がない」
「ああ、そうだ。税の計算は面倒だからな。ただでさえ、王国に納める税の計算があるのに、それにプラスして家に納められる税を考慮した税の計算をしなきゃいけないなんて面倒だって話だそうだ」

 一年に一度、一定のお金と領地がどれだけ稼いだかのお金にかかる税を国に納めなければならない。
 
 しかも、稼いだお金の中に領地内での税収を控除したり、また、税収を物として徴収した場合でそれを売ってお金を稼いだ場合と王国に納める税収が変わる。場合によってめっちゃ変わる。

 その計算がとても面倒なのだ。だから手間を省いたんだろう。少しくらい、お金を多く納める事になっても、それがそもそものブランドになるし、またたぶんだが、その税計算をするための文官を数十人雇うよりは、そっちの方が手間が少なく、安定的なんだろう。

 でも、物価がめっちゃ高いとどういう関係があるんだ?
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転移したよ!

八田若忠
ファンタジー
日々鉄工所で働く中年男が地球の神様が企てた事故であっけなく死亡する。 主人公の死の真相は「軟弱者が嫌いだから」と神様が明かすが、地球の神様はパンチパーマで恐ろしい顔つきだったので、あっさりと了承する主人公。 「軟弱者」と罵られた原因である魔法を自由に行使する事が出来る世界にリストラされた主人公が、ここぞとばかりに魔法を使いまくるかと思えば、そこそこ平和でお人好しばかりが住むエンガルの町に流れ着いたばかりに、温泉を掘る程度でしか活躍出来ないばかりか、腕力に物を言わせる事に長けたドワーフの三姉妹が押しかけ女房になってしまったので、益々活躍の場が無くなりさあ大変。 基本三人の奥さんが荒事を片付けている間、後ろから主人公が応援する御近所大冒険物語。 この度アルファポリス様主催の第8回ファンタジー小説大賞にて特別賞を頂き、アルファポリス様から書籍化しました。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...