異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

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一年

過去と今:this fall

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 そんな朝食が終わり、エドガー兄さんとユリシア姉さんは同年代の子たちと収穫祭を一緒に周るらしく、そうそうに家を出て行った。

 また、なんと珍しくライン兄さんも誰かと遊ぶらしい。友達の影などなかった気がするが、一昨日と昨日に知り合った子と仲良くなったらしい。

 なんでも、その子は絵を描いたり、あとは芸術品自体に興味があるらしく、天職が芸術家であるライン兄さんと息があったらしい。

 あれで天職が芸術家なんだよな、ライン兄さん。どちらかというと学者系の天職かと思ったのだが、本人の好きと才は違うらしい。まぁ、当たり前である。

 それにライン兄さんは別に絵をかいたりする事が嫌いではなく、むしろ好きな方だろう。多趣味なのだ。ライン兄さんは。

 なので、ライン兄さんは画材やら何やらも持って家を出て行った。

 そして俺はというと、リビングのソファーでゴロゴロとしている。今日、俺が行く予定のイベントは午後からなので、午前中は怠けるのだ。

 いつもなら、アテナ母さんやロイス父さんに小言を言われるので、ゴロゴロするのは自室だけなのだが、今は二人とも自室で一緒に寝ている。

 一睡もしてなかった様子だし、起きてくるのは夕方だろう。なので、問題はない筈だ。

 と、俺がはよ~んとソファーで伸びていたら、クラリスさんがやって来た。

「レモンとのお茶会は終わったの?」

 朝食が終わった後、クラリスさんとレモンは紅茶とクッキーを用意して、色々と話していた。二人は昔からの知り合いらしいし、積もる話もあるだろう。

「うむ。メイドの仕事があるらしくて、マリー殿に連れていかれたでの、強制的に終了になったのだ。まったく、あやつも変わったの。サボり魔になっておった」

 メイドの仕事を放り出してクラリスさんと話していたのか。あ、でも、客人をもてなすのもメイドの仕事と言って駄々を捏ねたかもしれないな。

 まぁ、いいか。

「……その言い方だと、昔はサボり魔じゃなかったの?」
「……はぁ、ここでは常にサボり魔というわけか」

 俺の問いにクラリスさんは溜息を吐く。俺が意外そうにしていたから、レモンが常にサボり魔だと思ったのだろう。

「うーん、いや、そうでもないんだけど。まぁ、殆ど? 俺が知らないところではキチンと働いているかもしれないし、そうでないかもしれないし、分かんない。けど、俺の前だと大抵サボろうと頑張っているよ」

 それを聞いてクラリスさんは少し呆れたような、けれど嬉しそうな顔をする。

「そうか、そうかの。うむ」

 そしてしきりに頷いている。

「……それで昔のレモンはどうだったの?」

 なんか、とっても気になる。あまり人の過去に興味はないのだが、クラリスさんがそんな表情をするとなると、なんかとっても気になってくる。

「昔か、昔はの、あやつは余裕がなくての。いつも必死に生きておった。まだ、幼子であるのにも関わらず、自分より大きな子供まで養って生きておった。まぁ、詳しいことは儂の口からは言えんが、あやつが齢十五にして覚醒個体に目覚めた要因として、幼いころに地獄すら生ぬるい環境を生き延びたのは確かにあるだろう」

 俺は自然と横たわっていた身体を起こし、キチンとソファーに座る。

「まぁ、儂がアテナたちとパーティーを組んでいた時にの、丁度レモンが住んでいた地域に寄ってな、色々あってレモンたちを儂の孤児院で引き取ったのだ。まぁ、あやつは一年も経たずに孤児院を出て冒険者となったがの。その後、各地を一人で周って、丁度お主、いや、ラインが生まれる前くらいだったかの、突然冒険者を引退して、メイドとなったわけだ」

 詳しい話はなかったけど、レモンって今、二十歳前半なんだよな。めっちゃ濃密な、波乱万丈な人生を送ってきていたんだろ。

 それくらいの感想しか出てこない。俺の実感も想像力も乏しいのが原因だろうが。

「そうなんだ」
「うむ、だから、あやつがああやってのんびりと暮らせているという事は儂にとっても嬉しいことなのだ」

 なんか、レモンの面白い過去を知りたくて聞いたけど、思わぬ話が返ってきて戸惑っている。

 それに何かこういう話は本人から直接聞いた方が良い気がする。

 なので、話題転換する。

「ねぇ、冒険者時代のロイス父さんとアテナ母さんって異名があったりしたの?」

 強い冒険者になると必然的に異名が付くのはガビドや知り合いの冒険者たちから聞いている。

 しかし、彼らにロイス父さんたちの異名を教えてもらおうとすると、何故か黙るのだ。そして、それはこの町にいる冒険者全員が黙ってしまうのだ。

 なんでも、ロイス父さんとアテナ母さん直々に口止めされているらしい。

「うむ、あるぞ。しかしの……」

 そしてそれはクラリスさんも同様らしい。言おうかどうか凄い迷っている。

「やっぱり無理?」

 なので、三歳児である俺の上目遣いをして訊ねる。俺は平凡な顔だが、しかし、子供は総じて可愛い顔である。しかも、俺の瞳は深緑色で自分でもめっちゃ優しい感じだと自負しているので、何とかなる。

「うむ……」

 おっと、クラリスさんの意識が言う方に傾いてきた気がする。さっきより、悩み方が弱い。

 なので、もう一押し、と思った瞬間。

「ッ」

 クラリスさんがビクッと身体を震わせた。

「む、無理だ。言う事はできん」

 そして焦ったように言った。

「アテナ母さんたち起きてるの?」

 たぶん、念話か何かで今、言われたのだろう。

「い、いや、起きてはおらぬ。というか、この話はやめだ。あとが怖い」

 という事で、ロイス父さんたちの異名は聞けなかった。少しがっかりである。

「ところで、お主に聞きたいことがあった。昨日、ガビド殿たちが付けていた義肢はお主が作成したものだろう」

 クラリスさんは少し焦りながらも話題転換をした。

「あ、やっぱり分かった」
「うむ、あの義肢の心臓部にお主の魔力残滓があっての。その年にしては、魔道具作製技術はあるようだが、しかしまだ甘いの。魔力残滓を残してしまうと、他の者が使用するときに能率が落ちてしまうだろう」
「あう」

 痛いところを突かれた。

 義肢の殆んどの部品は俺一人で作っている。どうしても今の俺じゃあ作れない超精密部分の部品はケーレス爺さんに任せているが、一応は機密ものである。

 そして、義肢に組み込んでいる魔道言語や魔法陣は全て俺が刻んでいる。ケーレス爺さんにすら任せていない。

 なのだが、ここで問題がある。それらを刻むときに少なからず、俺の魔力を部品に浸透させなければならない。これは“細工術”の技能による性質なのだが、ここで魔法陣などを刻んだ後に浸透させた自分の魔力を消さなければならない。

 そうしなければ、クラリスさんが言った通り、他の人がその魔道具を使う時に本来の力を発揮できないのだ。他の人がその魔道具に魔力を通すときに俺の魔力残滓が邪魔をしてしまうのだ。

 なので、魔力残滓を残さないことは重要なのだが、それが難しい。細工師の天職は他の錬金術師系と違って魔力操作に関する補助がない。そして他の錬金術師系の天職なら、自分の魔力を消すための能力スキルを持っているのだが、細工師は能力スキルでも技能アーツでもそれがないのだ。

 なので、とても苦労している。

「ふむ……お主、午前中は空いておるな」
「うん」
「なら、儂が能力スキル技能アーツに頼らないで魔力残滓を残さないコツを教えてやろう」

 ということで、午前中はみっちり修行となった。
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