異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
82 / 316
一年

お姉ちゃんの意地みたいなものです:this fall

しおりを挟む
 それにしても追い出される?

 どういう事なんだ。

「ほら、今のでセオ様の警戒心が上がりましたよ。じわじわとライン様とユリシア様に庇うように近づいています」
「お、お主!」

 いや、だって、普通自分が建てた孤児院を追い出されないだろう。余程、酷いことをしてなければ。

 まぁ、酷いことをしたら創設者だろうと追い出せるような仕組みを作ったのはクラリスさんなんだろうがさ。

「待っておくれ。儂はあんな変態どもとは違う! 本当に違うのだ!」

 クラリスさんはライン兄さんとユリシア姉さんを後ろに庇う俺に叫ぶ。後ろの二人は何の事か分かってないないのかキョトンとしている。エドガー兄さんは一瞥したが、興味がなかったのか手元の書類を読んでいる。

「セオ、変態って何よ?」
「ユリシア姉さんは知らなくてもいいんだよ」

 ユリシア姉さんが俺に無垢に問いかけてきたので、俺は優しく言う。まぁ、九歳の女の子を後ろに庇う三歳の男っていう図なので、シュールでしかないんだが。

「何よそれ」

 ユリシア姉さんは俺の温かな答えを気にいらなかったらしい。少し不機嫌そうに頬を膨らませていた。数か月前ならここで俺の頭を叩いていたかもしれないが、最近は分かりやすい暴力が減って来た。

 うん、良いことである。

「で、セオ。クラリスさんが何か訴えてくる目で僕たちを見ているんだけど」

 ライン兄さんがこっちを見て言う。うん、柔らかな短い緑が混じった白髪とクリクリとした翡翠の瞳が可愛らしい。純真無垢だ。

 いや、やっぱり、男の子には見えないな。

 だからこそ、クラリスさんを警戒する。

「のう、お主。話を聞いておくれ。儂は悪くなのだ。ただ、子供たちの世話をしてただけなのだ」
「まぁ、確かにそうですね。私も短いながらそうでしたし」

 クラリスさんは弁解というか説明を始める。レモンが相槌を打つ。

「しかしの、しかしの、何故だか分からんのだが子供たち、男の子もそうなのだが、女の子もな、儂に、その、えっと――」
「――恋心ですね」

 クラリスさんが言い淀んでいた先をレモンがバッサリという。

「そう、そうなのだ。何故か儂が経営している孤児院で世話などをしてるとな、皆儂にな」
「ホント、不思議ですよね」
「そうなのだ、不思議なのだ。儂の孤児院は大抵七星教会と提携しているから、シスターや修道士などが基本的に世話しておるのだがの、若い子らもたくさんおるのだ。儂より可愛い子もいるし、カッコいい子もいる。なのに、何故か儂にだけ」

 ただの自慢にしか聞こえないが、性別問わず子供に好かれるらしい。しかも、恋愛感情まで抱かれるに。

「もちろん、子供たちの恋心は初々しくて可愛いものでの、まぁ、普通に流しておるのだがの、神父やシスター、あと孤児院組合の上層部がの、儂が世話した者たちの結婚率が低いとか何とか言ってな」
「それで、子供の情操教育とか将来に悪いので孤児院での子供たちの世話を禁止されたんですよ。まぁ、それだけじゃないですけどね」

 まぁ、エルフで美人なのだ。子供は妖精に惹かれるとも言うし、その妖精や精霊みたいな神聖な美しさをもってるクラリスさんに惚れるのも分からなくはない。

 が、たぶん、見た目だけじゃないんだろう。無意識にそういう行動をとっているのだろう。

 さっきのライン兄さんやユリシア姉さんを相手にしていた時も、妙に色気がある母性というか何というかが溢れ出ていたし。

 まぁ、それさえ無視すればその神秘的な容姿も相まって聖母と言われても信じるのだが。

「だから、儂はお主が考えるように人物ではない」

 クラリスさんはそう言い切った。

 けど。

「じゃあ、なんであんなだらしない顔をしてたの?」

 まぁ、普通の子供好きでもライン兄さんやユリシア姉さんと言った美少年や美少女に囲まれれば、多少顔は緩むだろう。

 けど、そうでない可能性もある。

「それはの……」

 言いづらそうにするクラリスさん。

「はぁ、なんでそういうところで言い淀みますかね。セオ様。クラリス様は長時間子供と触れあってないと、心にゆとりがもてないのですよ。先程聞いた話では、クラリス様厄介事に首を突っ込んだせいで、たぶん、一か月ほど子供たちと触れあってないんですよ。それで、久しぶりに子供たちと触れあって」
「やっぱり、そっちの人じゃないの」

 レモンのその言葉を聞いて思わず言う。いや、だって、禁断症状的な感じでしょ。子供ニウムとか言っちゃう感じでしょ。

「いえ、そういう訳ではないんですよ。私も昔は疑っていたんですけどね。まぁ、称号に“子供の守護者”っていうクロノス様たちから授かる称号をクラリス様は持っていらっしゃるので、今は疑っていないんですけどね」
「ならよかった」

 クロノス爺がそう認定したんだ。問題はないだろう。

「クラリスさん、疑ってごめんなさい」

 なので、疑ったことを素直に謝る。素直に謝ることは大事である。

「うむ、受け取った。まぁ、お主が疑うのも無理はない。儂も自分でそう思われても仕方ないと思ってるしの」

 クラリスさんも快く謝罪を受け取ってくれた。

「それで話は終わった?」

  と、今まで後ろで待機していたユリシア姉さんが俺に問いかける。

「うん、クラリスさんとの邪魔をしてごめんね」
「ふん、問題ないわ!」

 ユリシア姉さんはすっぽを向いて言った。

「ライン兄さんも」
「うん、大丈夫だよ」

 ライン兄さんは天使の笑顔で頷く。

 俺はそわそわしているライン兄さんとユリシア姉さんの前から、離脱する。

 すると、ライン兄さんとユリシア姉さんはクラリスさんの前に走り寄って、話をせがむ。けれど、先程とは違い、最初はライン兄さんが質問して、次にユリシア姉さんが質問して。と、交互に話をせがんでいた。

 俺とクラリスさんが話している時に二人で小声で、もしくは目で話し合っていたのだろう。

 それを微笑ましく尻目で見ていた俺は再びエドガー兄さんの隣に座る。

「な、クラリスさんは問題ねぇよ」

 すると、資料を読み込んでいたエドガー兄さんが手を止めて俺の方を見た。

「いや、なって言われても」

 急にな、と同意を求められても困る。

「そもそも、今日一日中、お前はクラリスさんと一緒にいたんだろ。その時なんともなかったんだろ。特に悪意とかそういうのにお前は敏感だから、あったら気づいてるだろうしな」
「まぁ、そうだけど」

 前世で小さいときにイカサマ師に憧れてから、人の表情や仕草から心情や思考を読む技術を特訓をしていた。他にもイカサマ、特にトランプのだがそういう特訓をしていた。

 まぁ、特訓は大学生の時にやめたのだが、それでも長年訓練していた技術はそう衰えるものでもなく、人の心情や思考をある程度読めるようになったりはする。と言っても、ある程度なので間違うこともあるが。

 まぁ、そういう技術が異世界でも通じたのは運がよかったとしか言いようがないのだが。生物としての成り立ちが違うため、表情や仕草が持つ意味だって変わってくる可能性があるのだ。

 だけど、そこまで前世の人類と大差はなかった。多少の違いはあったけど。

 まぁ、身体が変わったせいでトランプのイカサマ技術の前世と比べて結構レベルが低いものになってしまったが。

「それに俺やレモンが普通にしてんだ。心配し過ぎなんだよ、お前は。まぁ、最近はユリシアもそんなお前が嫌なのか、我が身を振り返ったりして、悪いところは直しているからいいだけどさ」
「へ? そうなの?」

 俺は突然の言葉に驚く。

「ああ、最近、大人しくなっただろう」
「まぁ」

 ホント、最近は口が悪いのは変わらないが、手を出したりすねたりすることが少なくなった。来年で十歳になるし、まぁ、女の子の成長の精神的成長は早いからな、と思っていたのだが。

「マリーさんに何かお前の事で言われたらしくてな。それからだ」
「何、その何かって!?」

 重要なところが省かれる。

「さぁ、何だろうな?」

 エドガー兄さんは楽しそうに笑っている。余裕の笑みだ。

 そして結局教えてくれなかった。ユリシア姉さんには何か気恥ずかしくて聞けなかった。

 そうして、その日は過ぎていった。
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ
ファンタジー
デイビッド・デュロックは自他ともに認める醜男。 ついたあだ名は“黒豚”で、王都中の貴族子女に嫌われていた。 そんな彼がある日しぶしぶ参加した夜会にて、王族の理不尽な断崖劇に巻き込まれ、ひとりの令嬢と婚約することになってしまう。 始めは同情から保護するだけのつもりが、いつの間にか令嬢にも慕われ始め… ゆるゆるなファンタジー設定のお話を書きました。 誤字脱字お許しください。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...