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一年

お姉ちゃんの意地みたいなものです:this fall

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 それにしても追い出される?

 どういう事なんだ。

「ほら、今のでセオ様の警戒心が上がりましたよ。じわじわとライン様とユリシア様に庇うように近づいています」
「お、お主!」

 いや、だって、普通自分が建てた孤児院を追い出されないだろう。余程、酷いことをしてなければ。

 まぁ、酷いことをしたら創設者だろうと追い出せるような仕組みを作ったのはクラリスさんなんだろうがさ。

「待っておくれ。儂はあんな変態どもとは違う! 本当に違うのだ!」

 クラリスさんはライン兄さんとユリシア姉さんを後ろに庇う俺に叫ぶ。後ろの二人は何の事か分かってないないのかキョトンとしている。エドガー兄さんは一瞥したが、興味がなかったのか手元の書類を読んでいる。

「セオ、変態って何よ?」
「ユリシア姉さんは知らなくてもいいんだよ」

 ユリシア姉さんが俺に無垢に問いかけてきたので、俺は優しく言う。まぁ、九歳の女の子を後ろに庇う三歳の男っていう図なので、シュールでしかないんだが。

「何よそれ」

 ユリシア姉さんは俺の温かな答えを気にいらなかったらしい。少し不機嫌そうに頬を膨らませていた。数か月前ならここで俺の頭を叩いていたかもしれないが、最近は分かりやすい暴力が減って来た。

 うん、良いことである。

「で、セオ。クラリスさんが何か訴えてくる目で僕たちを見ているんだけど」

 ライン兄さんがこっちを見て言う。うん、柔らかな短い緑が混じった白髪とクリクリとした翡翠の瞳が可愛らしい。純真無垢だ。

 いや、やっぱり、男の子には見えないな。

 だからこそ、クラリスさんを警戒する。

「のう、お主。話を聞いておくれ。儂は悪くなのだ。ただ、子供たちの世話をしてただけなのだ」
「まぁ、確かにそうですね。私も短いながらそうでしたし」

 クラリスさんは弁解というか説明を始める。レモンが相槌を打つ。

「しかしの、しかしの、何故だか分からんのだが子供たち、男の子もそうなのだが、女の子もな、儂に、その、えっと――」
「――恋心ですね」

 クラリスさんが言い淀んでいた先をレモンがバッサリという。

「そう、そうなのだ。何故か儂が経営している孤児院で世話などをしてるとな、皆儂にな」
「ホント、不思議ですよね」
「そうなのだ、不思議なのだ。儂の孤児院は大抵七星教会と提携しているから、シスターや修道士などが基本的に世話しておるのだがの、若い子らもたくさんおるのだ。儂より可愛い子もいるし、カッコいい子もいる。なのに、何故か儂にだけ」

 ただの自慢にしか聞こえないが、性別問わず子供に好かれるらしい。しかも、恋愛感情まで抱かれるに。

「もちろん、子供たちの恋心は初々しくて可愛いものでの、まぁ、普通に流しておるのだがの、神父やシスター、あと孤児院組合の上層部がの、儂が世話した者たちの結婚率が低いとか何とか言ってな」
「それで、子供の情操教育とか将来に悪いので孤児院での子供たちの世話を禁止されたんですよ。まぁ、それだけじゃないですけどね」

 まぁ、エルフで美人なのだ。子供は妖精に惹かれるとも言うし、その妖精や精霊みたいな神聖な美しさをもってるクラリスさんに惚れるのも分からなくはない。

 が、たぶん、見た目だけじゃないんだろう。無意識にそういう行動をとっているのだろう。

 さっきのライン兄さんやユリシア姉さんを相手にしていた時も、妙に色気がある母性というか何というかが溢れ出ていたし。

 まぁ、それさえ無視すればその神秘的な容姿も相まって聖母と言われても信じるのだが。

「だから、儂はお主が考えるように人物ではない」

 クラリスさんはそう言い切った。

 けど。

「じゃあ、なんであんなだらしない顔をしてたの?」

 まぁ、普通の子供好きでもライン兄さんやユリシア姉さんと言った美少年や美少女に囲まれれば、多少顔は緩むだろう。

 けど、そうでない可能性もある。

「それはの……」

 言いづらそうにするクラリスさん。

「はぁ、なんでそういうところで言い淀みますかね。セオ様。クラリス様は長時間子供と触れあってないと、心にゆとりがもてないのですよ。先程聞いた話では、クラリス様厄介事に首を突っ込んだせいで、たぶん、一か月ほど子供たちと触れあってないんですよ。それで、久しぶりに子供たちと触れあって」
「やっぱり、そっちの人じゃないの」

 レモンのその言葉を聞いて思わず言う。いや、だって、禁断症状的な感じでしょ。子供ニウムとか言っちゃう感じでしょ。

「いえ、そういう訳ではないんですよ。私も昔は疑っていたんですけどね。まぁ、称号に“子供の守護者”っていうクロノス様たちから授かる称号をクラリス様は持っていらっしゃるので、今は疑っていないんですけどね」
「ならよかった」

 クロノス爺がそう認定したんだ。問題はないだろう。

「クラリスさん、疑ってごめんなさい」

 なので、疑ったことを素直に謝る。素直に謝ることは大事である。

「うむ、受け取った。まぁ、お主が疑うのも無理はない。儂も自分でそう思われても仕方ないと思ってるしの」

 クラリスさんも快く謝罪を受け取ってくれた。

「それで話は終わった?」

  と、今まで後ろで待機していたユリシア姉さんが俺に問いかける。

「うん、クラリスさんとの邪魔をしてごめんね」
「ふん、問題ないわ!」

 ユリシア姉さんはすっぽを向いて言った。

「ライン兄さんも」
「うん、大丈夫だよ」

 ライン兄さんは天使の笑顔で頷く。

 俺はそわそわしているライン兄さんとユリシア姉さんの前から、離脱する。

 すると、ライン兄さんとユリシア姉さんはクラリスさんの前に走り寄って、話をせがむ。けれど、先程とは違い、最初はライン兄さんが質問して、次にユリシア姉さんが質問して。と、交互に話をせがんでいた。

 俺とクラリスさんが話している時に二人で小声で、もしくは目で話し合っていたのだろう。

 それを微笑ましく尻目で見ていた俺は再びエドガー兄さんの隣に座る。

「な、クラリスさんは問題ねぇよ」

 すると、資料を読み込んでいたエドガー兄さんが手を止めて俺の方を見た。

「いや、なって言われても」

 急にな、と同意を求められても困る。

「そもそも、今日一日中、お前はクラリスさんと一緒にいたんだろ。その時なんともなかったんだろ。特に悪意とかそういうのにお前は敏感だから、あったら気づいてるだろうしな」
「まぁ、そうだけど」

 前世で小さいときにイカサマ師に憧れてから、人の表情や仕草から心情や思考を読む技術を特訓をしていた。他にもイカサマ、特にトランプのだがそういう特訓をしていた。

 まぁ、特訓は大学生の時にやめたのだが、それでも長年訓練していた技術はそう衰えるものでもなく、人の心情や思考をある程度読めるようになったりはする。と言っても、ある程度なので間違うこともあるが。

 まぁ、そういう技術が異世界でも通じたのは運がよかったとしか言いようがないのだが。生物としての成り立ちが違うため、表情や仕草が持つ意味だって変わってくる可能性があるのだ。

 だけど、そこまで前世の人類と大差はなかった。多少の違いはあったけど。

 まぁ、身体が変わったせいでトランプのイカサマ技術の前世と比べて結構レベルが低いものになってしまったが。

「それに俺やレモンが普通にしてんだ。心配し過ぎなんだよ、お前は。まぁ、最近はユリシアもそんなお前が嫌なのか、我が身を振り返ったりして、悪いところは直しているからいいだけどさ」
「へ? そうなの?」

 俺は突然の言葉に驚く。

「ああ、最近、大人しくなっただろう」
「まぁ」

 ホント、最近は口が悪いのは変わらないが、手を出したりすねたりすることが少なくなった。来年で十歳になるし、まぁ、女の子の成長の精神的成長は早いからな、と思っていたのだが。

「マリーさんに何かお前の事で言われたらしくてな。それからだ」
「何、その何かって!?」

 重要なところが省かれる。

「さぁ、何だろうな?」

 エドガー兄さんは楽しそうに笑っている。余裕の笑みだ。

 そして結局教えてくれなかった。ユリシア姉さんには何か気恥ずかしくて聞けなかった。

 そうして、その日は過ぎていった。
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