異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
78 / 316
一年

弱者が弱者であり続ける労働体系は少しでも無くす:this fall

しおりを挟む
「実はの、来年から儂が家庭教師を依頼されたのを知っておろう」
「うん」

 俺は知らないんだが。クラリスさんって冒険者ランク最高の神金級だよな。そんなランクの人を家庭教師として依頼だと。それってかなり王族でも、依頼すること自体が難しいと思うんだが。

「それで、受けようとは思ったのだが、その前に事前調査はした方がよいだろう」
「それは当たり前だね。うん? ……もしかして、エレガント王と揉めたの!?」

 と、そこまで話をニコニコとした表情でうんうんと頷いていたソフィアが、驚いたようにクラリスさんに問うた。

 てか、依頼したのはエレガント王国の王族なのか。確かに内の王族なら他国よりも強いとは聞いていたし、それなりにお金もあると思うんだけど、誰の家庭教師だろう。
 
 王族と関わることはないと思ってたから、聞き流していたんだよな。ぶっちゃけ、国王様のフルネームも知らない。なんせ、長いんだもん。

「い、いや。流石にそれはない。オー坊も儂と事を構えようとは思わんだろう」
「まぁ、キミは娘の恩人だし、賢王と呼ばれる御方だからね。あと、ボクの前ではいいけど、その呼び方はやめなよ。聞かれたら面倒になるからね。ほら、セオくんだって固まってるじゃん」

 ……クラリスさん。今、国王様を愛称で呼んだのか。しかも、坊って。マジか。

 流石に国王を愛称で呼ぶクラリスさんには度肝を抜かれる。

「ぬ、言う時と場所はきちんとわきまえておる。だがの、小さいころから見てきたから、賢王だのなんだのと呼ばれているオー坊に慣れなくての。まぁ、聞かれなければよいことだ」

 小さいころから見てきたって、クラリスさんって幾つだろう。

「まぁ、いいや。それで、エレガント王と揉めたのでなかったら、誰と揉めたのさ?」
「……王族だ」
「……ん? 王族とは揉めてないんだよね」

 クラリスさんが小さく呟いた一言に、ソフィアは勘違いであってほしいと問い返した。いや、俺も耳を疑ったのだが。

「いや、王族と揉めたのだ。ほれ、隣国の――」
「――グラフト王国と揉めたの!?」

 今まで驚きがあったものの楽しみながら聞いていたソフィアが、ここにきて一変、焦燥を浮かべて立ち上がった。

「それ本当なの!? 何かの間違いじゃなくて!?」

 そしてローテーブルに飛び乗り、向かいに座っていたクラリスさんの肩を掴んで、ガンガンと揺らす。
 
 俺としてはあまりのスケールの大きい揉め事にマジかという感想しか浮かばない。というか、いっそのこと関心すらしてしまう。

「う、うむ。この目でハッキリと首にかけてある王族の紋章を見たから間違いない。だが、儂は悪くないぞ。向こうが悪いのだ」

 犯罪者はみんなそう言う。俺は悪くない。悪いのはアイツだと。

「……ふぅ」

 それを聞いてソフィアは一旦ソファーに戻り、深く座り天を仰いだ。

「……それで、どういう経緯で、グラウト王族の誰と揉めたのさ」

 そしてゆっくりと子供特有の甲高い声で訊ねる。そこには底知れぬ迫力がある。

「依頼されていた家庭教師の仕事について、儂は古くからの知り合いを伝って調べておったのじゃ。と言っても、家庭教師をする子は儂もよく知っておるから、正確にはその子をとりまく状況を調べておったのだ」
「まぁ、王族の家庭教師ともなるとそこら辺の折り合いも教えなくてはいけないからね」
「うむ。儂が主に担当するのは魔法関連だが、教養のほうもとオー坊に頼まれておったからの」

 錬金術師なのに魔法方面? いや、確かに錬金術師は総じて魔力の扱いに長けているから、必然的に魔法も得意になるけど、それでも魔法使いに頼んだ方がいいと思うんだが。

 まぁ、そこを俺が考えてもしょうがない。

「それで、他国での彼女の評判を探っておったのだがの、途中で別の事件を知っていしまっての。いや、彼女も関係しておったのだから、無関係ではないのだが」

 クラリスさんが担当する子は女の子なのか。

 というと、第一王女はないから、第二王女か、第三王女のどちらかか。ああ、けど、第三王女はライン兄さんの一つ上で幼く、それでいて病気がちと聞いてるから、たぶん第二王女の方だろう。

 流石に病人に魔法を教えるって事はないだろうし。魔法は使うのにかなりの集中力を使う。それは体力も簡単に奪うので病人がするべきことじゃない。

 ……いや、だからこそクラリスさんに頼んだっていう線もあるな。

 まぁ、いいか。

「事件?」

 ソフィアは事件と聞いて、さらに真剣な眼差しでクラリスさんに聞いた。なんか、とってもカッコいい。

「うむ、エア大陸は儂が作った連合協会もあって奴隷は禁止されておるだろう」

 エア大陸は奴隷制が禁止されている。他大陸の一部ではあったりするが、それでもごく一部である。

 三百年ほど前まではそうでもなかったが、ルール・エドガリスさんが作った孤児連盟組合と精霊十字組合が主導となり、七星教会や自由ギルドを含んだ奴隷解放連合協会がここ三百年近く地道に交渉し、それが成功した。

 だが、それはルール・エドガリスさんであって、クラリスさんとは……あれ、さっき前世とか言ってたような。

 あれ?

「……もしかして、グラフト現国王の甥が?」

 いや、疑問は後でいい。それよりも話を聞かなくては。

「やはり、ソフィアも知っておったのか」
「まぁ、自由ギルドの上層部だけだよ。普通のギルドマスターでも知らない。これが世に出回ること自体が秩序の崩壊になってしまからね。だから、秘密裏に事をすすめたかったんだけど、決定的証拠がなかったんだよね。それで、こちらも手をこまねいていたんだけど……」
「……うむ、それは自由ギルド総裁から聞きだしたから、知っておる」

 ソフィアはそれを聞いて、哀れと呟いた。誰が哀れかは容易に想像がつくが、クラリスさんは何をしたんだろう。

「故に儂は儂の方で揺さぶりをかけようと思っての。というのも、奴隷がいたら問題だし、それに儂が担当する彼女も狙われているという情報があっての。真偽を確かめようと思ったのだ」

 おい、王族を奴隷って戦争でもする気か。あ、もしかしてクラリスさんが家庭教師って秘密裏の護衛か、もしくは牽制が目的なのか。

「……その情報ホント?」
「うむ、儂の能力スキルで確かめたから、間違いないの。まぁ、結局、分かったのはそれだけでの。その代償があれとは少し痛いのだが」

 クラリスさんが苦々し気に言った。悔しさも滲み出ていた。

 クラリスさんほどの人物がとりかかってそれだけとは、何というかだな。そのグラフト現国王の甥だったけ。そいつが、首謀者なのか、それとも組織の一員なのかは分からないけど、やっぱりこの世界って甘くない。

 だけどそう思ったのは俺だけで、それを聞いた瞬間、ソフィアはまたソファーから飛び上がった。何回、ソファーを立ったり座ったりするんだろう。

「いや、大きな進展だよ!」

 と、叫び、しかし、直ぐに落ち着きを取り戻す。

「……いや、けど、その情報は既に総裁に渡してるんだよね」
「うむ」
「けど、ボクに連絡がないってことは、その情報だけじゃ辿れなかったのか」

 ソフィアはがっくりと俯いて、ソファーに座る。

 と、思っていたら、急に執務室のドアが勢いよく開いた。

「マスター、本部から極秘の緊急連絡が!」

 入って来たのはラリアさんである。手にはタブレット型の箱を持っている。このタイミングで考えると、さっきのか。

 それを聞いてソフィアは再び飛び上がり、高速で移動した。

「ラリアくん。今すぐ、ロイスくんの所に行って! それとクラリスくん。今回はキミに非がないから、というよりよくやった! アテナくんには今すぐ、状況を伝えるから、隠し立てする必要はなくなるよ!」

 そして、ラリアさんからタブレット型の箱を受け取り、それに魔力を通した瞬間、そう叫んだ。

 ラリアさんはソフィアの要望に躊躇いもなく動いた。つまり、直ぐに転移した。

「存外早かったの。まだ、半日も経っておらんのだが」

 クラリスさんはその叫びに、意外そうに呟いた。

 あれ、問題を起こしたのって、昨夜の話なの? いや、情報を渡したのが半日前で、問題自体は数日前に起こしたってこともあるな。たぶん、その問題の陰に隠れて動いたっていうことか。

「流石は総裁だよ! 本拠地まで突き止めたって!」

 だが、興奮したソフィアにはその言葉は聞こえなかったらしく、さらに叫ぶ。

「で、それは何の本拠地なのかしら。それとクラリスはどうしてここにいるのかしら。ねぇ?」

 そして、ソフィアから放たれる熱気を冷ますように、いや、一気に部屋を凍らせる冷たい声が響いた。

 お、恐ろしい。
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

処理中です...