異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
62 / 316
一年

結局言い出せませんでした:this summer

しおりを挟む
「へぇー」

 連結方式と立体構造式、そして“オートドキュ”について説明した。もちろん、“オートドキュ”は補助魔道具として説明した。

 ライン兄さんは純粋に感心している。ロイス父さんとエドガー兄さんは何か、真剣に考え込んでいる。ロイス父さんのその顔は領主として何か考えている顔で、エドガー兄さんも同様である。

 最近になってエドガー兄さんはロイス父さんの仕事面で似てきたのだ。今年で九歳の筈なのに、何というか大人びている。

 同じ九歳のユリシア姉さんはとても元気に動き回っているのに。

「ねぇ、セオ。それで何ができるの?」

 ライン兄さんは、興味津々で聞いてくる。

「えーっと、手のひらサイズの魔道具で下級魔法が放てる」
「それって、凄い事なんだっけ?」

 ライン兄さんは魔道具にあまり明るくない。それはそうだ。植物や幻獣、動物については大人顔負けの知識などを持っているが、餅は餅屋である。

 いくら、賢いライン兄さんでも知らない事もある。

「ええ、とても凄い事なのよ!」

 と、今まで椅子で俺がまとめた研究ノートを熟読していたアテナ母さんが話に入って来た。

「いい、ライン。まだ教えていないけれど、戦闘時で重要な魔法は下級魔法なの。どんなに魔法の才能があって中級、上級が使えてもそれが二、三秒以内に放てないなら、戦闘においてそこまで意味がないのよ。そして下級はそれができる」
「どういうこと?」

 魔法史において重要な役割を果たしていたのは下級魔法である。

「戦闘は二種類あるの。人と魔物の二つよ。そして、その二つとも物理の方が速いのよ。ラインは前にセオに魔術を教えてもらったわよね」
「うん。あの時は中級だったけど……」
「あの時はノータイムだから、エドガーは手間取ったのよね。ねぇ、エドガー」

 考え込んでいたエドガー兄さんは急に話を振られて驚いている。

「あ、ああ。あの時は魔法の威力より、その手数の多さが問題だった。俺は父さんや母さんみたいに高位の魔力耐性をもっていないから、どんなに魔法の威力が弱くても、あれだけの数が一気に襲われると必ず防御を突破されてダメージを負うんだ。そしてダメージを負うと隙ができる。戦闘それが命取りになるんだ」

 そう、ロイス父さんやアテナ母さんくらいの実力者ならいざ知らず、普通の生物はどんなに頑張っても下級魔法で少なからずダメージを負ってしまう。防ぐ方法はあるが、それも長くはもたない。

 それは自分にとって有利な戦況を作れることができる。

「わかったよ。だから、誰でもノータイムで下級魔法を発動できることに大きな意味があるんだね」

 ライン兄さんは納得いったように頷く。

「そうよ。特に、冒険者は魔物相手に戦っているのよ。魔物は身体能力がとても高いの。だから、それに対抗するためには牽制を自由にできる下級魔法が重要なのよ。それができるのは熟練の魔法使いだけだけど、その魔道具があれば――」

 ライン兄さんがそのあとを引き継ぐ。

「――その魔法使いに頼りっきりにならない」

 魔法使いはまず、少ない。そして修練するのに時間が掛かる。故に、下級魔法がノータイムで放てる魔法使いは引く手数多なのだ。

 それこそ、中級魔法が使えない下級魔法使いでもそれさえできれば王宮勤めが可能になるほどである。

 そして、その魔法使いの賃金や保証は高くつく。しかし、立体構造式と連結方式を使えども、下級魔法が放てる魔道具を作るならば材料費はそれより安い。

 故にバランスが崩れるのだ。

「そうよ」

 アテナ母さんは満足げに頷く。が、そのあと、けどねと言って。

「それが当てはまるのは上級までなのよね。聖級以上になると話は変わってくるけどね」

 そう。聖級魔法は聖級魔法でしか防げない。なので、どんなに発動に時間がかかろうとも、発動さえしてしまえば、ほぼ勝確のなのだ。

 まぁ、ただ。

「その聖級魔法を使える人が殆どいないんだけどね」

 おいしい所は俺が引き継ぐ。

 まず、魔力量が単純に足らず、もしそれが足りてもエベレストより高い魔法の才能と努力の壁にぶつかる。

「そういう事よ。だから、魔術があり得ないほどのバランスブレーカーなるのよ」

 アテナ母さんはチラリと俺の方を見る。

 魔術はその聖級魔法の全てのハードルを下げるからな。上級魔法をある程度、使いこなせるなら使えるまでにいくのだ。

 分かりやすく言えば、魔術というブーストによって魔法の階級レベルが一段階上がるのだ。

 と、そうやって盛り上がっていたら、ずっと上を見て考え込んでいたロイス父さんがこっちを見た。

「セオ、これはアカサ・サリアス商会には卸す許可は出せないよ」

 少し苦い顔でロイス父さんは言った。ロイス父さんがそう言う理由が分かる。

「うん。分かってるよ。だから、アカサには無理って伝えてある」

 俺も流石に魔術の件で魔法についての世間一般的に認識を勉強した。特に魔法の歴史についての学問、魔法史についてはかなり力を入れたのだ。

 なので、完成しそうになった昨日あたりに分身体に正式に卸すことができないと契約みたいなものを交わしたのだ。アカサには設計図を見せているので念のためである。どこで何があるか分からないし。それはアカサも了承していた。バトラ爺にはまだ伝えていない。

 それからロイス父さんはアテナ母さんの方を見た。同時にアテナ母さんもロイス父さんの方を見ていた。

「アテナ」
「ええ、わかってるわ」

 そして二人は目だけでやり取りし、何か共通の考えを持ったらしい。

「父さんたち、明日は開けた方がいいか?」

 エドガー兄さんも何か、納得いったようだ。明日に用事があるのだろうか。

「ええ、そうね。そうだ、アラン達にも伝えてもらえるかしら」
「ああ、わかった。じゃあ、伝えてくるよ」

 そうして、エドガー兄さんは自然に執務室を出て行った。

「え、どうしたの?」

 ライン兄さんは突然の出来事に驚いている。俺も驚いている。

 そして、もしかして独立魔道具について切り出せないかもしれない。

「ああ、そうだね。ライン、ごめん。明日は忙しくなるから、ちょっとセオが見つけた種については今度にしてもらえないかい?」

 ライン兄さんは目を見開く。

「え、なんで」

 ロイス父さんがいつも、好奇心を殆ど制限することはない。なので、ライン兄さんもそこは分かっているのか、冷静に聞く。

「明日中に地下室を完成させる」

 ロイス父さんはそう宣言した。

「ええ、セオが作り出すものは色々と厄介なのよ。だから、専用の工房を持ってもらった方が良いのよ。それに、それはラインも同様なのよ」

 それを聞いたライン兄さんが驚愕の声を上げる。そして、俺はますます、独立魔道具について言い出せなくなった。

「もしかして、ボクの研究室を作ってくれるの!?」
「ええ、そうね。今の部屋は狭くて実験ができないってぼやいていたわよね」
「うん!」

 ライン兄さんって自分で屋根裏部屋が良いと言ってたはずなんだが。

「なら、喜びなさい。今の部屋とは比較にならない研究室が手に入るわよ!」

 アテナ母さんはそれに突っ込まず、気の良い事を言う。
 
 しかし、ライン兄さんはそれに疑問を持ったようだ。

「……ねぇ、母さん。話が美味すぎるんだけど。もしかして、何かあるの?」
「あら、鋭いわね」

 ライン兄さんの疑念にアテナ母さんは素直に頷く。ロイス父さんは執務机に座って急いで何かを書き始めていた。

「ライン。アナタに存分に働いてもらうわ」
「うん、それだけ? それは良いけど」

 きつい条件を言われるかと思って身構えていたライン兄さんは拍子抜けした表情を浮かべる。

 アテナ母さんはそれに嬉しそうに頷く。

「言質はとったわよ。ロイス」
「ああ、わかっているよ。ライン、こっちにきて」

 アテナ母さんの呼びかけに応じたロイス父さんは丁度、書き終えたらしく、執務机の近くにライン兄さんを呼ぶ。

「じゃあ、ライン。今日中にこれをよろしくね」
「え、う……、えっ! ちょ、無理だよ! 今日中にこれは無理だって!」

 何を見せられたんだ。ライン兄さんはとても動揺している。

「ライン、自分で言ったことは守りなさい」

 したり顔で言うアテナ母さん。 

「母さんの意地悪!」

 ライン兄さんは抗議の声を上げる。キッと釣り上げた瞳が可愛いです。

「ええ、そうね。だから――」
「――今日はこれだけの分で良いよ」

 ロイス父さんが更に追加してライン兄さんに紙を渡す。

「え、う、うん」

 ライン兄さんは何が何なのか分からず、呆然と頷く。

「ライン。アナタがどう抗おうとマキーナルト家の子として生まれたわ。そして、先日で貴族デビューもしたわ。アナタがどう嫌がろうと、成人するまではマキーナルト家の子として生きるのよ」
「う、うん」

 その言葉はライン兄さんだけでなく、俺にも向けられていた。

 生まれは変えられないし、それを恨んだところで意味はない。結局のところあるべきものを受け入れて、どう活用していくかが重要なのだ。それが難しいんだが。

「だから、アナタは海千山千の貴族を相手にすることが必ずあるのよ。あとは分かるわよね。セオもね」

 駄々は捏ねてもいいが、それでもやるべきことはやれよと言う言葉。そして、足元を掬われないように動けと言う言葉。しかし、そこに強制はない。アテナ母さんたちがそんなことはしない。

「「うん」」

 俺とライン兄さんは納得した感じで頷く。

 俺は前世があり、そこで色々な書物を読んでいたから理解ができているが、ライン兄さんがそれに納得できるのは凄いと思います。

 あと。こういうちょっとした部分で教育を混ぜてくるのは流石だと思います。

 俺たちの首肯に、アテナ母さんとロイス父さんは無言で頷いた。
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

処理中です...