異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
61 / 316
一年

専門性のあるなしは難しい:this summer

しおりを挟む
「どうしたの、ロイス?」

 あまりの慌ただしさに、扉の前で立っているロイス父さんの後ろからアテナ母さんがやってきた。っていうか、タイミングが良すぎる気がする。

 エドガー兄さんとライン兄さんは面白いこと予測したのか、また、ソファーに戻った。

「どうもこうもないよ! あの魔道具はなんだい? セオが作ったのだろう!?」
「一旦、落ち着きなさい」

 興奮するロイス父さんの肩に手を置いて、ソファーまで引っ張るアテナ母さん。とても呆れた表情を浮かべていらっしゃる。

 ロイス父さんはそれを見てようやく自分を取り戻したのか、素直にアテナ母さんの誘導に従う。仕事関連になると見境がなくなる。

「で、結局どうしたのよ?」

 ロイス父さんがエドガー兄さんたちの隣に腰を下ろし、アテナ母さんは近くにあった椅子に座った。

「ああ、いやね。溜まっている仕事を片付けようと執務室に行ったらね、見たことない魔道具があったんだよ。で、込められている魔力からセオが作ったのは分かったんだ。しかも、使われている素材が尋常ではないほど珍しい素材でね」
「あら、そうなの」

 アテナ母さんは俺を見る。そこには冷静な表情と好奇心が溢れ出る翡翠の瞳があった。アテナ母さんは根っからの研究好きだからな。抑え切れないのだろう。

「なら、早速見に行きましょう。セオには執務室で説明して貰えばいいわ」

 そう言って、アテナ母さんはロイス父さんの手を掴み、そして俺に着いてこいといった感じの瞳を向ける。
 
 俺はそれに快く従う。そもそもそれが楽しみであったし。狙い通りである。

 ソファーに戻っていたエドガー兄さんたちもそれにくっついてくる。二人とも楽しそうである。

 リビングの隅で片付けなどを行なっていたレモンはまだ、仕事があるらしく、ついてこないらしい。もったいない。これからロイス父さんとアテナ母さんの間抜け面がみれるのに。

 それから、五人で廊下を歩いて執務室に向かう。流石に狭いので縦列である。

「セオったら、ボクたちがいない間に色々とやってたみたいだね。後で、聞かせてよ」
「ん? 分かったよ、ライン兄さん」

 ライン兄さんは宝箱がそこにあるような表情を浮かべている。ライン兄さんってアテナ母さんの子だよな。

「あ、それとあの子達に問題はなかった?」

 ライン兄さんが変なことを聞いてきた。ライン兄さんが「子」と言う存在なんていたっけ。エドガー兄さんも首を傾げている。

「あの子た……」
 
 だが、ライン兄さんの顔を見て、思い当たった。

「ああ、問題なかったよ。きちんと水やりと日光には当ててたし、きちんと世話をしたよ。ただ、色々あって成長速度は伸びたかも……」

 あの子達とはライン兄さんが育てている植物のことであった。自分が育てている植物を子と呼ぶその心意気はなんというか、すごいと思う。

「何それ」

 ただ、ライン兄さんは成長速度が伸びたことを気にしているみたいである。

 その疑念に俺が答えようとしたら、前を歩いていたロイス父さんが振り返った。

「ああ、それはセオがエウ様の祝福を授かったからだね」
「あれ、気づいてたの?」

 "隠者"である程度、祝福を隠している筈である。驚かせようと思ってたし。

「まぁね。色々あったから、祝福や加護に敏感になってね」

 ああ、なるほど。それに振り回されてきたからか。

「でも、セオってエウ様に嫌われてたよね。魔力の色波の相性が合わなかった筈だから。でも、どうして急に祝福を授かったの?」

 なるほど。ロイス父さんはエウが魔力が嫌いとか言ってた理由がわかるのか。後で詳しく聞こう。

「いや、二週間前くらいに鉱石を取りに分身体をアダト森林へ向かわせたんだけどね。その時に分身体がとってきた鉱石の一つの中に絶滅した植物の種が埋もれててね。何か、そのお礼らしい」
「それはまた……」

 それにロイス父さんは驚いていて、ライン兄さんは少し拗ねていた。

「なるほどね。エウ様ったら、素直じゃないんだから」

 そして、今まで静観を決めていたアテナ母さんが話に入ってくる。嬉しそうな秘密を抱えて、楽しそうな思いを声に乗せている。

「……ああ、なるほど。確かにそうだね」

 それにロイス父さんも同意する。何がなるほどなのだろう。意味がわからない。

 が、こう言うのはよくあるので、放っておく。いくら追求してもはぐらかされるし。

「セオ、後でその種を見せてよ。絶対だよ!」

 ライン兄さんが後ろから俺の肩を掴み、ゆっさゆっさと揺する。

「わ、分かったから! 揺らさないで!」
「あ、ごめん」

 ライン兄さんは申し訳なさそうに手を離す。エドガー兄さんは隣でやれやれと溜息を吐いている。

「種は明日見せるからさ、ねぇ」
「わかったよ」

 ライン兄さんは素直にひいた。

「ついたわよ」

 と、そんなやり取りをしていたら、どうやら執務室の扉の前に着いたらしい。

 ロイス父さんがさり気なく開けた扉を通り、執務室に入る。

 そこは書類の山々が連なっていた。

「ねぇ、ロイス父さん。ロイス父さんが帰ってくるまで執務室はもっと整頓されてたはずなんだけど。どういうこと?」

 なんせ、執務室を“オートドキュ”を使って整頓したのは俺なのだから。

「ん? セオったら何を言ってるの? 整頓されてるよ」
「ふぁ?」

 おかしなことを言っている。どう見てもぐちゃぐちゃの書類の山なのだが。

「エドガー、ライン、セオ。そこを突っ込んではいけないわよ。そういうものだと捉えておきなさい」

 不思議に首を傾げていた俺たちにアテナ母さんが諭す。俺たちは納得したように無言で頷く。ロイス父さんは逆に不思議そうに首を傾げる。

 なるほど。ロイス父さんはいわゆる、天然とか天才とかそんなイメージがもたれるタイプなのか。初めて知った。バトラ爺が書類の整理に戸惑るわけだ。

「まぁ、それはいいわ。で、あれがロイスがいってた魔道具ね。ふぅん」

 アテナ母さんは乱雑に散らかっている書類を軽やかに避けて、部屋の中央に立ち、四隅に置かれている“オートドキュ”を見渡す。

「……早速、立体構造式を取り入れたのね。しかもこれは……」

 アテナ母さんは言葉に詰まり、瞳を驚愕の色に染めている。それにロイス父さんが少し心配そうに聞く。 

「どうしたんだい、アテナ?」

 俺の後ろではエドガー兄さんとライン兄さんが自分の立つ場所を確保するために、せっせと書類を整理している。

「連結方式だわ! セオ、どうやって連結方式を確立させたの!?」

 しかし、それを無に還すのがアテナ母さん。疾風の如き速さで俺の肩につかみかかってくる。疾風によって書類が宙を舞う。

「もう、母さん! せっかく整理したのに!」

 エドガー兄さんがアテナ母さんに声を荒げる。ライン兄さんがそれにうんうんと頷いて同意する。

「あら、ごめんなさい」

 アテナ母さんは申し訳なさそうに顔を歪め、そして、俺の肩から手を放し、指を軽く振る。

 そうすると、散らかっていた書類がふわふわと浮き出し、そして躍り出した。それは乱れていた紙々が軍隊のように整列していく。

 そしてそれらは部屋の端々においてある書類入れに入っていく。

「よし、これでいいわね」

 綺麗に整った執務室を見て、アテナ母さんは満足げに頷いている。ロイス父さんはえぇーと少し項垂れている。

「さて、セオ。詳しく教えて貰えるかしら」

 振り返ったアテナ母さんは俺を見て言う。その翡翠の瞳は抑えきれない好奇心と研究心を宿していた。

「……それは良いけどさ、先にロイス父さんたちに連結方式とか立体構造式とか、魔道具の効果を説明した方が良いと思うんだけど? 専門性の話を聞かせてもさ」

 さっきまで項垂れていたロイス父さんや、エドガー兄さんたちはそもそも立体構造式や連結方式を理解していなさそうだし。

「確かにそうね」
「うん。だから、はい。これ」

 俺は“宝物袋”により虚空からある一冊のノートを取り出した。

「一応、連結方式についてある程度の情報は纏めてあるから」
「あら、ありがとう」

 アテナ母さんはそれを受け取り、そして近くに置いてあった椅子に座った。

「じゃあ、説明していくね」

 俺はロイス父さんたちの方を見てそう言った。

 因みに、アテナ母さんがいると話が進まなそうだったので、少し話から退いてもらった。意外と専門性がある人とない人が混ざると面倒だしな。
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

処理中です...