異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

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一年

ラブレター:this summer

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「ん?」

 ライン兄さんたちがいるであろうリビングに向かっている途中、レモンが手に多くの紙を抱えている姿を見た。

 気になったので話しかける。

「レモン」
「きゃあ!」

 後ろから呼びかけたせいか、レモンはビクッと尻尾を尖らせ、ピコピコと耳を動かす。可愛い。

 けど、レモンほどの実力者が俺の気配を見逃すか?

「あ、セオ様でしたか」

 ようやく、後ろを振り向いて俺を見たレモンは安堵の表情を浮かべた。

「あの、セオ様。“隠者”を切ってくれませんか。未だに存在感が捉えられなくて困るんですが」

 レモンは蜃気楼を捕らえるように狐耳がピコピコと動かし、目を凝らしている。

「ん? あれ? 発動してる?」
「ええ、しています」

 うちを注視してみるち確かに“隠者”が発動していた。いつの間に。

「これでどう?」
「はい、大丈夫ですよ」

 発動していた“隠者”を切る。問題なく切れたらしい。

 そして考え込む。

「どうされました?」

 レモンが俺の顔を覗き込んでくる。レモンが抱えていたのは手紙であった。

「いや、何で“隠者”が発動してたんだろうなって。それと、レモンが持っているその山の様な手紙は何だろうなって」

 どうやら疑問が顔に出ていたようだ。にしても、気になる事が色々とあり困る。

「えーと、先ず、“隠者”が発動した理由はここ最近、セオ様が能力スキルを常に使っていたからだと思います。たぶん、その影響で発動できる能力スキルを無意識に常時発動しているのではと」
「え、何で?」

 確かに、魔道具制作のために使う能力スキルは常時発動していた。必要だったし、慣らすのには常に使っている事が一番慣れる。

 それに、エウに感知系の能力スキルについて言われてから、意識して常時発動をするようにもなった。肉体に染み込ませるために意識して発動していたのだ。

 ただ、それが、“隠者”が無意識に発動していた理由にはならない。それにユナと話していた時は何もなかったわけだし。

「すみません。はっきりした理由は分からないのです。ただ、昔から冒険者界隈では、一つの能力スキルを常に使っていたら、別の能力スキルがいつの間にか発動していたっていう事はよく言われていてて」
「ふぅーん」

 原因は何だろう。能力スキルの連動性とか、後は何だろう。

 とても気になるが、これは後回しにした方がよさそうだ。先に興味を持ったことがまだ、幾つかあるしな。

 明日に回そう。

「それで、その手紙は?」

 なので、今満たせる興味を先に満たしておく。

「あ、ああ。これですか? これはエドガー様とライン様に宛てられた手紙ですね。それと、そのお返事のための用紙です」
「何それ?」

 今日の今日までそんな手紙が家に届けられた記憶はないんだが。

「ええっと、リビングに行ってからお話ししましょうか。そっちの方が手間がないですし」

 つまり、その手紙がエドガー兄さんとライン兄さんの様子に関係があるという事かな。何だろう。嫌な予感がする。

「うん。分かった」

 微かに嫌な未来を感じながら、俺は頷き、レモンと一緒に歩き出した。


 Φ


「あら、二人とも手紙を持ってきてくれてありがとう」

 大量の手紙を抱えた俺とレモンがリビングに入って来た時、アテナ母さんが振り返ってそう言った。リビングに向かっている途中、俺だけ手ぶらなのも何か嫌で、レモンから半分手紙を奪ったのだ。

 短い距離だったので“宝物袋”は使わない。

「ああ、それと荷物運びもありがとうね」
「僕からもありがとう」

 それから、手紙を素朴で、しかし上品な木製のローテーブルに置いた後、アテナ母さんは思い出したように言った。それに続いて、ソファーにもたれかかっているエドガー兄さんとライン兄さんを見ていたロイス父さんが礼を言った。

「どういたしまして」
「仕事ですので」

 それに俺は満面の笑みを浮かべて答え、レモンは当然だと言わんばかりに物静かな一礼をした。やはり、行動だけはとても様になっているレモンである。

「で、結局何なのその手紙?」

 ローテーブルの上にある手紙を指さし聞いた。手紙っという言葉を言った瞬間、ソファーで溶けているエドガー兄さんたちがビクッと跳ねた。

 アテナ母さんはそれを一瞥した後、俺たちを見た。

「その前にユリシアはどこにいるの?」

 あ、そう言えばユリシア姉さんがいない。すっかり忘れていた。

「ユリシア様は、守護兵団の皆さまと一緒にアダド森林の上層の見回りに行っています。帰ってくるのは夕方かと」
「あと、一刻二時間ほどね。なら、ユリシアには個別で話しましょう」

 へぇ、知らなかった。朝からいないなとは思っていたが、“オートドキュ”の制作に忙しくて忘れていた。

 一緒に暮らしていると、家族の動きとかが意外と気にならなくなってしまう。

 そんな事を思っていたら、アテナ母さんがジッと俺を見た。

「セオは今日何をしていたの?」

 ふむ。久しぶりに見た我が子の事が気になるのだろうか。だが、詳しい内容は後で驚かせるために言わない。

「ほら、こないだの魔道具を弄ってたんだよ」

 嘘は言っていない。二週間前にアテナ母さんと話し合っていた魔道具は“オートドキュ”の一部に使われている。

「そう」

 少し納得いかない表情をしながらも、アテナ母さんは頷いた。

「で、それよりその手紙はなんなのさ」

 さっきから話をお預けされまくっている。早く知りたい。

「はいはい、これね」

 アテナ母さんはローテーブルの上に置いてある手紙を一つ取り、手で弄ぶ。

「これはそうね、ラブレターかしら」
「ん?」

 俺の耳がおかしくなったのだろうか。少なくともローテーブルの上にある手紙は目算でも五十通は下らない。もしかしたらそれ以上。

 それら全てがラブレター? 有り得ん。

「ここにある手紙全て、エドガーとラインとユリシアに宛てられたラブレターなのよ」

 レモンよ。ユリシア姉さんの分も入っているじゃないか。俺はそう思いながら、レモンの方を見たら、レモンは忘れたっていう顔をしていた。

「で、どこまで本当なの?」

 でも、流石に冗談であろう。一人十五通以上のラブレターを貰っているっていうのは流石に吹かしすぎである。

「本当も何もすべて本当よ。特にエドガーとラインには二十通以上もあってね。二人とも読みたくないって駄々をこねているのよ。まぁ、気持ちは分かるけど」

 ふむ。そんなにモテるのか。やはり顔だろうか。我が兄ながら二人とも美形だしな。エドガー兄さんはワイルド系で、ライン兄さんは可愛いが成長すれば女たらしの王子様系になるだろう。

 確かに、モテる要素はある。二人とも礼儀正しいし、好感度も良い筈だ。いい子だし。いい子だし。自慢の兄たちだ。

「ユリシア姉さんはなんで少ないの?」

 でも、ユリシア姉さんもアテナ母さんの子供である。容姿も良い。黙っていれば超絶な美少女である。礼儀作法もやればできるし。

「ユリシアはねぇ」

 その俺の問いにアテナ母さんは困ったように首を傾げた。その代り、何やらエドガー兄さんたちに言っていたロイス父さんが答えた。

「ユリシアは去年、貴族のパーティーに行ったときにちょっとやらかしてね。それ以降、一部を除いた貴族から怖がられているんだよ。まぁ、あの程度で怖がる奴らに渡すつもりはないが」

 おっと、何か漏れています。ロイス父さんの父親らしい部分が漏れています。口調が少し荒れている。

 まぁ、それは置いといて、やらかした? 何だろう、暴れたのかな。

 うん。容易に想像がつく。たぶん、誰かを殴ったんだろう。

「セオが考えていることではないよ。ただ、王国騎士団団長と模擬戦をしただけだよ。まぁ、模擬戦までの経緯はちょっとあれだったけど」
「模擬戦? 何、勝ったの?」

 俺がそう言うと、ロイス父さんは苦笑して、アテナ母さんは頭を抱えた。

「流石にそれはないよ。エレガント王国の騎士団はエア大陸でも強い部類でね。その団長だから、ユリシアも簡単に勝てはしないよ。ただ……」
「ただ?」
「ただ、彼に傷を負わせてね。まぁ、ユリシアの実力というよりは単なる事故なんだけどね」
「へぇー」

 国内でも随一の強さを誇る人に傷をつけたのか。

「ただ、それを見ていた人たちは戦闘職ではないから、事故だとは気づかなくてね。根も葉もない噂だけが広がったんだよ」
「ふーん。あ、ねぇ、さっき言ってた一部ってもしかして騎士系とかの?」
「うん。そうだね」

 ほー。そうか。確かに強い女性は欲しいのだろう。あんまり分からんが。

 まぁ、それはそうとして。

「ユリシア姉さんがあんまりラブレターを貰ってない理由は分かったよ。でも、何でエドガー兄さんたちはそんなに貰ってるの? 二人とも可愛いしカッコいいし、褒めるところしかないし、モテるのは当たり前だけど、それでもそんなに貰う? エレガント王国の貴族ってそんなにいるの? てか、なんでそんなにぐったりしてるの? ふつう喜ばない?」

 怒涛に流れた俺の疑問にロイス父さんとアテナ母さんは苦笑して、そして今まで虚ろだったエドガー兄さんたちが急に俺を睨みだしたのだった。

「え?」
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