異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
上 下
49 / 316
一年

アカサ:this summer

しおりを挟む
「ということだから、午後は町に行ってくるよ」

 一緒に昼食をとっていたユリシア姉さんやアラン達に午後の予定を伝えた。

 因みにマキーナルト家では外部からの客がいない限り、使用人も同じ席について食事をとることになっている。勿論、普通の貴族は一切そういうことをしないが、ロイス父さんとアテナ母さんは落ち着かないらしいので、一緒の席に着いている。

 冒険者パーティーで一緒だったアランと別々に食事をとるのは嫌らしいし、仕事上以外ではあまり上下関係をつけたくはないそうだ。食事は仕事上には含まれないとのことである。

 もちろん、貴族なので体裁とかはあるが、それでも必要以上のことはしたくないそうである。何というか、である。

「わかった。日が暮れるまでには帰って来いよ」

 アランがみんなの総意を言う。

「ふん。何しに行くのよ」

 ユリシア姉さんは眉を少しひそめながら、不満げに言う。今日の授業が手間取り、午後も勉強で埋め尽くされてしまったから不機嫌なのだ。

「アカサに材料の発注とケーレス爺さんにアポを取りに」
「ふーん」

 俺がそう言うと、ユリシア姉さんはつまらなそうに鼻を鳴らす。が、直ぐに何か思いついたようで。

「お金を出すから面白そうな武具魔道具を買ってきなさい!」
「……あったらね」

 武具の収集を趣味としているユリシア姉さんであるが、武具の目利きがそこまで上手ではない。いや、普通の武具なら目利きはいいのだが、それが魔道具やアーティファクトとなると、ただ、見ただけではあまり分からず、また、魔道具の知識もそこまでないので武具魔道具とかは大抵俺に買わせにいくのだ。

 因みに、ユリシア姉さんは魔物の討伐を守護兵団の人たちと一緒に行っているので、お金は自分で稼いだものである。普通にお守りではなく戦力として役に立ってはいるらしい。

 そんな様子をニコニコと見ていたバトラ爺がふと思い出し。

「もしかして、あの魔道具の件でございましょうか」
「うん。そうだよ」

 少し申し訳なさそうに聞いてきた。

「それで昨夜創った魔道具の具合はどうだった?」

 俺はそれを敢えて無視する。

「大変助かっております。あの魔道具のお陰で作業スピードが格段に向上しております。ですから、それ以上はいりませんよ」

 どうも家の使用人たちは俺たちから何か貰う事を避けているんだよな。嫌がってはいない。むしろとても喜んでいるのだが、何故か受け取ろうとはしない。

「遠慮しなくていいよ。俺の趣味のついでだからさ」

 なので、大抵は俺たちの我が侭であるという。ロイス父さんやアテナ母さんもそうしている。そうでもしなきゃ、あんまり受け取ってくれない。

 まぁ、向こうもそれは分かっていて何というか一種の体裁みたいなものである。

「そうよ! どうせ、セオのくだらない趣味の延長なんだから!」

 ユリシア姉さんが援護なのか貶しているのか分からないことを言う。それにしても、くだらない趣味とはなんだ。アテナ母さんが聞いたら凄い怒りそうだ。

「ありがとうございます。セオドラー様」

 そんなユリシア姉さんはやはり、にこやかに見たバトラ爺は恭しく頭を下げた。


 Φ


「ピョートル、開けて!」

 俺はフォート川と町の扉を管理するピョートルに声をかける。他にも管理している人はいるが、運が悪い事に俺はまだ会っていない。そもそも日中のほとんどはピョートルが担当している。

「ああ、セオさまですか。わかりました。ちょっと待ってください」

 そうして少しすると、鉄門についている小さな扉が開いた。

「ありがとう、ピョートル」
「いえいえ、これも仕事ですから」
「帰りは夕方らへんになると思うから、よろしくね」
「わかりました」

 町とフォート川を繋ぐ鉄門はアダド森林やバラサリア山脈から魔物が進行してきたときの最後の砦である。なので、気軽に門の全開はできないらしい。

 魔物の中には超高速で移動するものもいるので、もし門を全開にしていたら、門を閉める間に、魔物が町に入ってきてしまう少なからず可能性がある。極力そのような可能性は排除したいので、鉄門は開放していないのだ。

 あと、鉄門は閉じている事によって特別な効果を発揮するアーティファクトでもあるのも一つの理由である。

 そんなことを考えながら、すれ違う町人や顔見知りの冒険者たちに会釈しながら歩いていたら、いつの間にか広場に出た。

 やはり、そこは喧噪にに満ち溢れていて、活気があった。

 昼下がりの事もあって依頼を終えた冒険者がどんちゃん飲んだり、ちょっとした賭け事をしたりしている一角。

 おばさまたちが夕食の買い物ついでに、おしゃべりに花を咲かせている一角。

 商人が声を張り上げて物を売り買いしている一角。

 色々と騒がしいが、見ていてとても嬉しい気分になる。まぁ、前世の影響で人酔いが激しい俺はそこに混ざるのは無理だが。

 俺はそんな喧噪を脇目に、ちょっとした裏道に入る。もちろん、俺がいることが広場の人たちに見つかると、担ぎ出されるので“隠者”を全力で使い、気配どころか存在感すらも消す。

 そうして、少し行った先の建物の裏口の扉をあける。そして、直ぐ近くにあった細い階段をゆっくりとした足取りで登っていく。疲れたくないので、身体強化はしている。

 それから、数分。その建物の最上階にやってきた。狭い廊下に小さな木製の扉が一つだけ。

 俺はその扉を無遠慮にノックもせずに開けた。家主には許可を貰っている。

「おー、いらっしゃい、セオ様」

 そこには寝っ転がっている家主、アカサがいた。

「お邪魔するよ、アカサ」

 俺はそれを一瞥しながら、慎重に歩き、近くにあった椅子に座る。

 そして、ようやく寝っ転がっているアカサを直視した。ついでに部屋の惨状も。

 そこには、下着姿で鍛えられたスレンダーボディを躊躇なく晒している駄目な女性がいた。ぐでんぐでんと高級そうなソファーに寝っ転がり、お菓子とジュースを飲み食いしている。部屋には衣服やゴミが散乱していて、その駄目っぷりを加速させている。ゴミ屋敷みたいである。

「ねぇ、アカサ。いい加減に片づけたら?」

 俺は呆れながら、目の前で子供には見せてはいけない駄目っぷりを晒している、まるで駄目な女、マダオに言う。

 これを見るとレモンの方がよっぽどましに思えてくるから不思議だ。

「いいんだよ。数日後には、あたいの愛しいサリアスが来てくれるんだからさ」
「はぁ。だから、片づけた方が良いと思うんだけど。サリアスに愛想尽かされるんじゃないの?」

 サリアスはアカサの彼氏というか、ほぼ旦那である。彼はこの地の出身で、今はアカサ・サリアス商会の外部担当として動いている。二人は幼馴染なのである。

 因みに二人とも猫人で五十年来の付き合いだそう。

 ここで断っておくが、猫人の寿命は人族と同じ、八十年前後である。ただ、二人は色々あり、猫人の中でも特殊な種族に進化したので寿命が長い。二百年くらい。

 まぁ、それは置いといてアカサは商会の内側を管理して、サリアスは仕入れや売りなどといった外側を管理している。

 そして、サリアスは数週間に一度、本部であるアカサ雑貨店にやってくる。普段はエレガント王国の王都にある支部にいる。

 アカサ雑貨店は本部ではあるが、エレガント王国の支部の方が人もこなしている仕事も大きいのが実情である。

 なので、サリアスはとても忙しいのだが、必ず、アカサに会いに来る良い人である。しかも、部屋に散乱している物の中にアカサ宛の私情の手紙が多くあり、数日に一度、手紙を送ってくるらしい。

 そして、本部に訪れたら、アカサの部屋をいつも文句も言わず片す。

 そんなサリアスもアカサの駄目さは理解しているが、何故、と思わなくない。

「セオ様。サリアスどう思おうが、あたいが逃がさないから大丈夫だよ」

 そんな事を思っていたら、さっきの怠け具合はどこへ行ったのか。とても美しく、恐ろしい笑顔でアカサはそう言った。魔王みたいである。

 サリアスが駄目な女に捕まったみたいである。

「でも、子供にそんな姿を晒していたら、いくらアカサに甘いサリアスでも怒ると思うんだけど。情操教育に凄い悪いよ」

 そんなアカサが少しムカついたので、痛いところをつく。サリアスにアカサの惨状を手紙で教えることができるしな。

「……セオ様は転生者だから情操教育は関係ないと思うんだけど」
「なら、愛している男がいる身でその姿を晒しているのはどうかと思うんだが」
「……」

 アカサは流石にそれには何も言い返せない。上機嫌に揺らしていた尻尾がだらんと垂れ下がる。

 因みに、アカサは俺が転生者であることを誰からも教えて貰うことなく、自分で導いたのだが、その話はまた置いておく。

「で、セオ様。何か用があったんじゃないの?」

 アカサは話をそらした。ついでに、まずいと思ったのか炎魔法を使ってゴミを燃やし、無魔法の〝念動〟で衣類やゴミを燃やしてできた灰をを片付けていく。

「あ、そうだった。アカサの部屋の酷さで忘れてたよ」

 それが終わるのをゆっくりと眺めていた俺は“宝物袋”から、ある筒を取り出しながらそう言った。
しおりを挟む
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

処理中です...