異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

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一年

夜会で裏話全編:this spring

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 夜空。

 限りなく無限に近い星々が天に輝くその瞬間。

 その下で少女、いや、それより幼い外見の幼女がいた。

 満点の星空を仰ぎ、片手には上品なワインが入ったグラスをあおる。見た目で判断すれば駄目だろうその光景は、まぁ、事情を知っていれば問題ない。

 なんせその幼女は齢百を超えているのだから。種族的にも幼女という見た目で成人なので、体も完成している。

 屋根の上で寂しげに酒を呷るそんな幼女に人の影が差した。

「やぁ、ソフィア。僕たちも一緒にいいかい?」

 金髪の美丈夫と緑が混じる金髪の美女。

「ああ、ロイスくんとアテナくんか」

 ロイスとアテナである。

 ロイスの片手にはこれまた年代物のワインボトルと、もう片方には二本の透き通った黒いグラスがあった。

「なんだい、ボクのグラスはないのか」

 それを見て幼女、つまりソフィアは大げさに溜息を吐く。

「ほら。もちろん、あるわよ」

 そんなソフィアにアテナは後ろに隠していた手を差し出す。もちろん手には黒のグラスがあった。

「もう。仲間外れなんかにするわけないでしょ。それに、このワインはこのグラスで飲むからおいしいのよ。私達だけおいしいのを飲むわけないでしょ」

 アテナは冗談そうに笑いながら、ソフィアの横に座った。またロイスはその彼女たちの斜め前に座る。

 因みにそのお酒は特殊な鉱石に触れて初めてとてもおいしくなるのだが、それをせずに飲めばとてもまずいお酒である。

 それからロイスはごく自然にアテナからグラスを受けとり、ワインをゆっくりと丁寧に注いだ。

「じゃあ、第……、ええっと、まぁ、いいか。では、第数百回目のマキーナルト領首脳会議という名の飲み会を始めます。乾杯」
「「乾杯」」

 ロイスは音頭を取り、二人がそれに続いた。それと同時に、グラスが共にぶつかり合い軽やかな音を響かせる。

「くぴ、くぴ、ぷはぁー」

 そしてソフィアが貴重なワインを一気飲みする。見た目が幼過ぎて背徳感が湧きそうである。

「もう、そんなに勢いよく飲んじゃって」
「いいんだよ。この酒はボクのじゃないんだし。それに味わって飲むのは二杯目からだ」

 アテナの小言にソフィアは謎の持論で返す。

 そんな二人の様子を苦笑しながら見ていたロイスは、しかしやがて、真剣な表情でソフィアを見る。

「なんだい、ロイスくん。そんな真剣な顔して」

 その様子に気が付いたソフィアが茶化すように言う。

 ロイスはそれを受けて、ますます真剣な眼差しでソフィアを見て。

「ソフィア。今日は無理な事をしてくれてありがとう」

 ソフィアに頭を下げた。

「ありがとう、ソフィア」

 続いてアテナも頭を下げる。

「へ? ……、ああ、いいよ、礼なんて。全然気にしてないってば」

 少し戸惑ったあと二人が今日の会議での事を言ってると察し、ソフィアはあっけらんと笑った。

「だが、僕が頼んだとはいえ、今日は嫌な立ち回りをさせてしまっただろう」
「いや、ホントに良いんだって。あれくらいだったら外部の自由ギルドの会議でもやってるし」

 ソフィアは本当に気にしてない様子であっけらんと笑う。実際、彼女は年に数回召集される自由ギルドの会合でもよく嫌な立ち回りをするので慣れているのだ。

 それは彼女が自由ギルドでも最上部には好かれ、それ以外の上部には嫌われている事に起因するのだが、関係ないので置いておく。

「それに自由ギルド総長や各ギルドの総長に話をつけてくれたし、色々と根回しもして貰った。それに僕たちは感謝したいんだ」
「ええ、それにこれからも色々してもらうつもりだから、それも含めてね」
「……うーん。まぁ、それなら素直に受け取っておこうかな。どうせ君たちのことだから、ここで受け取らなかったら変なサプライズとかして逆にトラブル起こしそうだし」

 苦笑しながら、ソフィアは語る。

「その言い草はひどいわ」

 アテナは失敬だと言わんばかりに顔を歪める。

「はぁ、四年前の事を覚えてる?」
「あ、……なんでもないわ」

 そんなアテナに対してソフィアは呆れの目を向け、アテナは引っ込む。ロイスはそれを苦笑しながら見守っている。

 いつもの関係である。

 と、そこでソフィアが何かを思い出したように告げる。

「あ、そう言えばロイスくん。たぶんだけど、アカサくんにはたぶん全てバレてると思うよ。ボクたちが芝居・・をうったこととか裏の計画とか」
「うん、それについては問題ないよ。そもそも彼女にバレることはキチンと計画にいれてるから」
「ああ、そうだったね」

 ソフィアは酔っていたせいで少し頭が回ってなかったらしい。それから、思い出したように呟く。

「演算予測系の特異能力ユニークスキル持ちだしね。それも計画とか頭脳戦で活躍しそうな」
「アカサ・サリアス商会もそれで立ち回って来たわけだし」
「それだけじゃないけど、彼女の力は大きいわよね」

 その呟きにロイスとアテナが同意する。
 
 そして、また、ソフィアが話題を振る。

「セオくんはあの後どうだった?」
「それはよく反省してたわよ。今まで口で言ってもあんまり警戒心はもたなかったから、良い薬だったわよ。といっても、今回はそのためにソフィアに頼んだようなものだけどね」
「まぁ、理由はそれだけじゃないけど……うん。何にしてもよかった。ボクも禁忌を堂々と破った甲斐があったよ」
「本当にありがとう。自由ギルドマスターが禁忌を堂々と破る事をしてくれて。面目もあるだろうに」
「どういたしまして。あと、面目はこの町においてそこまで関係ないから問題ないよ。それに堂々としなければ、相手の情報を探ることは別に禁止されてないしね。特に自由ギルドの会員に対してなら」

 そう、自由ギルドマスターや各ギルドマスターは冒険者や商人、職人に対してある程度の情報開示権限を持っている。それは裏からでも表からでも。

 それはそうだろう。流石に得体のしれない力で周りに被害を加えられても困る。結局、自由ギルドの下にいる者がそれを起こした場合、自由ギルドにも責任がいくからだ。

 といっても自由を謳う組織なので大っぴらにそれを許しているわけではないが。

「まぁ、一応、あそこにいたみんなはボクの行動に疑問を持った筈だから、個々で動くと思うよ」
「うん。なら、計画通りだね。これでセオも気負いなく話せるようになってほしいけど。まぁ、当分先かな」
「相変わらず、君たちは過保護だね」

 ソフィアはワインを飲みながら呆れた顔でロイスたちに言った。ついでにロイスたちが持ってきたワインは今、空っぽになった。
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