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一年

魔術の影響:this spring

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「なるほど、魔術ね」

 ソフィアが呟く。その顔は真剣であらゆる計算をしてる。

「まさかそのような技術があったとは……」
「革命よの。今までの常識がひっくり返るわい」

 続いてラリアさんとフェーデ爺さんが目を見開く。

 他に人たちも似たり寄ったりで眉間に皺を寄せて考え込んでいる。唯一アカサさんだけは気持ちよさそうに寝ている。

 さっきまでロイス父さんの話を聞いていたはずなんだが……。

「みんな、考え終わった?」

 と、アカサさんのマイペースさについて考えていたら、ソフィアが急にみんなに問いかけた。

 それからソフィアの問いにみんなが頷く。

「じゃあ、決議をとるよ」

 ん? 何の? ロイス父さんの話が終わったばかりで、みんな会話なんてしてないのに、いつの間に決議案が出ていたんだ?

 そんな俺の疑問とは関係なく、物事は進行していく。

「じゃあ、賛成の人」

 誰も手を上げない。

「次に、反対の人」

 誰も手を上げない。あれ?

「最後に、妥協案の人」

 すると、アカサさん以外の全員が手を上げた。ん? 妥協案?

「全員一致で妥協案に決定だね。じゃあ、計画の詳細はみんなの意見を集約して、アカサくんに設計してもらうよ。ってことで、アカサくんよろしくね。勿論自由ギルドは全力でバックアップするから」
「はーい。わかりやした~」

 寝ていたアカサさんが急に顔を上げて、眠たそうな顔で頷いた。そして直ぐに顔を伏せて、寝息を立て始めた。というか、全員一致?

「じゃ、みんなは来週までに意見をアカサくんかボクに伝えてね。よろしく」

 それから、みんなが多種多様に頷いた。

「ロイスくんもそれで問題ない?」
「ああ、問題ないよ」

 そして、ロイス父さんとソフィアは分かり合ったように頷いた。

 え、何の事、これ?

「……、ねぇ、さっきからみんな何の話をしてんの?」

 流石に訳が分からなくなってロイス父さんに訊ねる。

「あれ、分かってなかったの?」
「分かるわけないじゃん。ロイス父さんが俺の称号と魔術の話をし終わったら、急にみんな考え出して、そして決議だよ。案すら誰も言葉にしてないじゃん」
「ああ、確かにそうだね。……、魔術の普及の話をしてたんだよ」
「普及?」
「そう。もちろん開発したセオが――」
「――発見」

 そこは譲れないのだ。

「そうだね。発見したセオが全てを決める権利はあるけどね、セオが思っている以上に魔術という技術は世界を揺るがすものなんだよ」
「そんなに凄い物なの? だって、魔道具があるじゃん。それに〝絵魔〟が使えないと意味ないし」
「いや、そんなことを差し置いてもさ。戦闘技術は勿論のこと、社会構造や生活の構造、たぶんあらゆる事がひっくり返る。セオ、知ってるかい。能力スキルはものによってはとても強い。けれど、大抵強いものは使い勝手は悪いし、後天的に習得するのも時間がかかる。そして遺伝しないんだよ。だけど、魔法は才能さえあれば、能力スキル以上の応用と出力が安定して出せる。そしてそれは遺伝するんだ」
「つまり、魔法は社会で大きな力ってこと?」

 戦いの面でも生活の面でもあらゆる場面で引っ張りだこだろう。

「そう、そしてそれが貴族だ」
「え?」
「貴族が今の地位の築けてきるのはその代々培ってきた魔法の才能が強く、それが国を守るために使われているからだ」
「つまり、言い換えれば魔法が誰でも使えれば、貴族制度はいらなくなる?」
「簡単に言えばね。もちろん、貴族制度が存在している理由はそれだけじゃない。けど、貴族制度を支えている一つが魔術という存在で崩れ去るんだ。それは社会に大きな混乱を起こす」

 それから、ロイス父さんはソフィアたちの方を見て。

「だからソフィアたちはセオがその魔術を公表するかどうかは置いといても、もし公表したときのための基盤をつくる決議をしたんだ」
「基盤?」
「そう、魔術が公表されても大きな混乱を引き起こさない基盤。だから――」

 それから、そのロイス父さんの言葉の先はソフィアが繋ぐ。

「――だからセオくん。魔術の公表は今、控えてほしいんだ。公表だけじゃない、その技術を既に知っている者以外には見せないで欲しいんだ。この通りだ」

 そして、深々と頭を下げる。いつの間にか他のみんなも席を立って頭を下げる。

「え、いや、あの、え? 何なのみんな。急に頭なんか下げて……」

 それに、俺は動揺してしまった。ぶっちゃけ、魔術をそこまで大層なものだとは捉えてなかったので、こんな真剣な態度を取られても動揺するだけなのだ。

「セオくん。君はこれを発見したと言ったけど、そんなことはボクたちにとっては重要な事じゃない。そうではなくて、今、現時点でこの技術を好きにしていいのは君だけなんだ。セオくんが君の持てる才能と知識を使って生み出した財産なんだ。それをボクたち一時的にとは言え、君から取り上げようとしているんだ。だから、こうやって頭を下げるのは当たり前なんだ」

 特許みたいなものだろうか。あんまり、しっくりとは来ないがそんなに真剣にお願いされては断れない。

 公表するとか大そうなことは考えてなかったし、そもそも俺は前世の人たちが積み上げてきた知識とこの世界の人たちが知識をただ組み合わせたに過ぎない。

 魔術という技術を自由勝手に社会で使う気など一切なかったのだ。

 だから。

「うん。良いよ。というか、ソフィアにその権利譲渡する? ぶっちゃけ俺が持っててもしょうがないし。ねぇ、ロイス父さん」
「セオが良いなら僕は何にも言わないけど……」

 俺とロイス父さんのやり取り。

「……へ? ……、セオくん本気!? ロイスくんもそんな呑気に!?」
「いや、だってその権利って特許みたいなものでしょ? 俺権力闘争とか怖いし、のんびりと暮らしたいだけなんだよ。あ、でも魔術の研究は趣味でしたいな」
「僕は別段、その技術で金儲けしようとも、もっと高い地位を欲しいとも思ってないからね。貴族になったのはもお金や地位が欲しかったわけじゃないし」

 そうのたまう俺たちにソフィアはどうしようもなく呆れた顔をする。後ろのみんなも似たり寄ったりである。

「……はぁ。たぶん、アテナくんも同じことを言うんだろうな。はぁ。ひとまず、正式の誓約書とかができるまで、その話は一旦おいておくよ。まだ、話すことがあるからね」

 それから、ソフィアはみんなの方を向いて。

「はい。今日は解散。直ぐに解散。みんな、計画書の意見よろしくね」

 そして、みんなを強制的に転移させ。

「じゃ、セオくんが特異能力ユニークスキルを獲得できた理由をお願いね」

 無垢な笑顔で振り返ったのだった。
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