異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

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一年

自己紹介前編:this spring

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「さて、では会議を始めようか」

 俺が席に座ったのを確認して、ロイス父さんは号令をかけた。

「先ず、今日で慣習が終わった息子を紹介する」

 ロイス父さんは俺に自己紹介をするように手で促す。

 ……、聞いてない。こんな雰囲気がある人達の前で自己紹介するなんて、一言も聞いていない。いや、顔通しはするって言ってたけどさ。

 ほらあの筋肉ムキムキの老人。凄い目でこっちを睨んでいるんだけど。もの凄い殺気を放っているんだが。

 ……、まぁ、しょうがない。

 俺は椅子から立ち、ロイス父さんの目が示す場所に立った。そこはちょっとした舞台の様になっていた。たぶん、プレゼンをする人などがここに立つのだろう。

「初めまして。セオドラー・マキーナルトと申します。どうぞよろしくお願いします」

 それからとても無難な挨拶をした。このさい“研究室ラボ君”の力も使って超絶完璧な作法もプラスする。

 そして、心の中できっちり三秒数えた後、顔を上げる。

 ……、でも、空気が重い。沈黙が怖い。

 自己紹介が少なかったかな。確かに得意な事でも言えばよかったかな。でも苦手だし。小さい頃から苦手なんだよ。

 何しろ、みんな俺をジッと見つめている。拍手でもしてくれると嬉しいんだが。

 と、流石にこの空気を見かねたのかグレイブが拍手をしてくれた。それから徐々に拍手が周りに伝播した。

 ふぅ。

 よし。たぶん、これで終わりだろう。上手くいったとは思わないががよかった。

 あっ、ロイス父さんが苦笑いしている。しかも心底呆れている目で俺を見つめている。

 俺はそれから軽いお辞儀をして、自分の席へと戻った。

「ああー。えー。改めて、息子のセオドラーです。これから町によく来ると思いますが、その時はどうぞよろしくお願いします。あと、今分かった通りちょっとあれですが、気にしないでください」

 ん? 何の事だ。確かに無難な挨拶だったが、そこまでおかしなものではないだろう。

 と、俺が丁度そう思った時、ダンッと、机を叩く音が会議室に響いた。

「ロイスくん? どういう事かな? ねぇ、ボク聞いてないんだけど。ねぇ」

 子供のような、しかし聞いた者を震え上がらせるドスが効いた声がロイス父さんに問いかける。

 それに続いて、会議室にいた全員が一斉にうんうんと頷いた。

「アハハ。それは……」

 ロイス父さんが何か俺を睨み付けているが、そんなことは今はどうでもいい。

 それより大事な事がある。

「ソフィアってもしかして大人なの!?」

 机の上には、銀色の短髪と碧眼を持つ小学一年生くらいの幼女が仁王立ちで立っていた。

「……、もしかして、セオくん? 今までボクを子供だと思ってたの? というかその顔を見ると、そこに立った時にボクがいるに気が付いてなかったの?」

 そしてソフィアは青筋を浮かべていた顔を一転させ、俺に超絶素晴らしいジト目を向けていた。

「いや、そ、それは」
「なに?」
「ラリアさんの子供かと思ってたんだよ。俺やライン兄さんの遊び相手として、ラリアさんが仕事で屋敷に訊ねる時に連れてきてるのかと……」
「……、はぁ。それで、何でボクに気が付かなかったの?」
「他の人たちの印象が強すぎてさ。その、なんかパッとしないソフィアが影が薄かった。的な?」
「はぁーーー」

 俺が恐る恐るそう言うと、ソフィアは盛大な溜息を吐いた。それから、心底呆れた表情を見せて、ロイス父さんの方を見る。

「ロイスくん。セオくんはあれだね」
「僕も我が息子ながらそう思っているよ」

 そしてソフィアはロイス父さんと分かり合っている。

 てか、人を指さしてあれとはなんという言い草だろう。

「まぁ、いいや。それで? どう説明するの?」

 ソフィアは周りを見渡して、鋭くロイス父さんに問う。

「……、はぁ。わかったよ。でも、その前にみんなの自己紹介を先にしてもらっても良いかな?」

 何がわかったんだろう。まぁ、でも流石にここにいる人たちの名前くらいは知りたい。

「わかったよ。それじゃあ、誰からに――」
「――では儂からで」

 手を上げたのは、俺の右隣にいた長髪の白髪を後ろで結んだ老人だった。

「わかった。じゃあ、左回りで進めるよ」

 ソフィアがそう言うと、会議室にいた皆が頷いた。

「じゃ、フェーデ。一番手をよろしくね」

 そして、俺の隣にいたフェーデと呼ばれた老人が席を立ち、俺の方を向いた。

「初めまして、セオドラー様。儂はマキーナルト領支部七星教会神父をしておる、フェーデと申します。小さな悩み事から人生相談まで気軽に相談ください」

 好々とした顔で優しく話しかけるフェーデ爺さん。だが、フェーデ爺さんの行動一つ一つが神性さすら宿したものであり、見る者を圧倒させる。

「う、うん。こちらこそよろしくね。フェーデ爺さん」
「ええ、セオドラー様」

 そして、フェーデ爺さんは一礼して座った。

「私か」

 次も短髪の白髪を持つ老人が、その黒い瞳を鋭く光らせながら立ち上がった。

「セオ坊は知ってると思うが改めて。私はマキーナルト領農業統括長をしている、ロイドロンドと申す」

 言葉一つ一つが覇気を纏ってるように鋭い。でもそれは優しい意気である。

 ……、それにしてもロン爺はそんな大層な役割を持っていたのか。その役職だけで見たら、アランの上司にあたるのかな。

 まぁ、いいや。

「うん。よろしくね。ロン爺」

 そしてロン爺は座った。
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