17 / 316
一年
シロポポ講義1:this spring
しおりを挟む
「じゃあ、始めるよ!」
ライン兄さんは、目を輝かせて意気揚々と声を張り上げる。
「ごめん、ライン兄さん。その前に、その後ろのやつ何?」
そんなライン兄さんに水を差すようで悪いが、聞かなければならない物がライン兄さんの後ろに浮いていた。
「もう、しょうがないな。これは携行可変式黒板。ほら、前にセオがさ、母さんの授業で黒板があれば楽だ、って言ってたでしょ。それで先日、自由ギルドに行ったら浮遊石が偶々あったから、母さんに頼んで携行式のを作って貰ったんだよね。ああ、授業用の黒板は作り終わってたよ。来週から運用するんじゃない?」
まじかよ。それ俺知らない。仲間外れかよ。
にしても、自由ギルドか。
「いいな。俺もさっさと町に行きたい」
「しきたりが終わるまでもう少しでしょ。それまでは我慢。しきたりだって横暴なものでもないし」
「分かってるよ。でも、やっぱ移動距離が制限されているのは嫌なもんだよ。っと、話の腰を折ってごめん。始めていいよ」
「うん」
頷いたライン兄さんは、片手に持ったチョークを動かして黒板に絵を描く。
それから、一分後。
「ふぅ」
描きおわったらしい。黒板には一つの花の全体像と部位別が描かれていた。
「最初にあらかた説明して、最後に実物を見て確認って流れで良い?」
「問題ない」
それにライン兄さんの絵は実物より分かりやすいんだよな。
「っと、その前に……」
ライン兄さんは何かを思い出したらしく、ウエストポーチから小さな四角い物体を取り出した。次にそれを空中に放り投げる。
そうすれば、四角い物体はカシュンッカシュンッ、と音を立てて変形し、黒板の形を成した。
「では、先ず、シロポポの大まかな環境別受粉方法の違いだけどね……」
ライン兄さんは新たな黒板に、寒冷・温暖・熱帯・砂漠・海・etc……、と縦に書いていく。また、その横に赤、青、黄、といった具合に色別の丸を書いていく。
そして右上に媒と書き、その下に色別で、動物・虫・風・水・魔物と書いていく。
「セオ。見ての通り、大まかな環境別の受粉媒体の違い。方法は媒体によって変わるからね。それで、これは大まかなもので地域別に違いがあるから、それはこれを見て、確認して」
そういって、ライン兄さんはウエストポーチから数枚の紙を出し、俺に渡す。
そこにはびっしりと文字が詰まっていて、大陸や国、地域別のシロポポの分布具合と詳細な媒体が書かれていた。しかも、受粉だけではなく、種子の媒体の違いまで書かれていた。
「それは自由ギルドの資料や冒険者の人たちから集めた情報をまとめたものだよ。一応、間違いがないか多くの人に確認して精査したけど、間違いがあったらごめん。現地には行ってないから、確実ではないんだよね」
なるほど。それでもこれはすごい。情報収集能力と分別能力の高さがうかがえる。しかも、これって一週間前に始めたはずなんだよな。
やばい。単純にやばい。色々と凄い。
ただ、一つ疑問が……。
「ねぇ、こんな詳しく調べる必要あった? 種子についてもあるし。アテナ母さんからは平原・森林・温暖・寒冷・荒野の五つで良いって言ってたじゃん。それに、これが本題ってわけじゃないし」
そう。あくまで環境別受粉方法の違いは本題を解くヒントでしかない。
そう言うとライン兄さんは、溜息を吐いてやれやれと頭を横に振る。
「セオ。材料は多い方が良い。もちろん、材料の正確さは必要だけど。それに、これくらい集めないと今回の問題に対して答えがでないと思う。その五つじゃ水や風が含まれないし。たぶん、母さんは答えが間違えるように中途半端にヒントを出したんだと思う」
そう言われると、納得できる部分がある。
アテナ母さんは知識を教えるってよりは学ぶって方に比重をかけているからな。日本の教育の感覚がこういう時、邪魔をするよな。
つまり、アテナ母さんが出したヒントは、ヒントのヒントだったわけか。
「わかった。ありがとう」
「どういたしまして」
ライン兄さんはにこやかに頷く。
「じゃぁ、続けるよ」
「お願いします」
ライン兄さんはウエストポーチから細い棒を取り出し、黒板を指す。
「さっき渡した紙を見て分かるように、シロポポはあらゆる環境に存在する。通常なら植物が存在できないような環境にまで。それを可能にしている要因に一旦は、受粉方法の豊富さだ。
で、だ。では、何故、それほど多くの受粉方法を持つことができるのか。ボクは、それが本題に対しての答えになるのだと考える。
まず、シロポポは普通の植物と違う所がある。はい、セオ」
ライン兄さんが質問を交える。
「魔法植物であること」
「そう。そして、あらゆる魔法薬に絶対に必要な植物なんだよ」
「まぁ、その詳細がアテナ母さんからの課題だけどね」
一ヶ月に一回程度、アテナ母さんから課題が出される。
ただ、今回の課題はいつもより難しい。ライン兄さんが課題をクリアするのに、一週間もかかってるからな。いつもは二日程度なのだ。
「で、だ。シロポポは魔法植物であるがゆえに、魔力を多分に含み、それによって特性を持っている」
特性とは物体が魔力による影響によって持つ能力的な力の事を指す。
「“治癒”だね」
だから、即効で怪我や病気を回復させる魔法薬の材料として使われる。
「そう。けれど、“治癒”っていうのはボクたちが魔法薬に使うから、そう言われているけど、実際は治癒ではなく、改変といった方が正しいとボクは考えている」
「つまり、それが課題の答え?」
「最終的には」
なるほど。“改変”か。
「じゃあ、“改変”の特質について詳しく教えて下さい。根拠も一緒に」
「あい。わかった」
ライン兄さんは待ってましたとばかりに大きく頷き、自らの胸を叩いた。
ライン兄さんは、目を輝かせて意気揚々と声を張り上げる。
「ごめん、ライン兄さん。その前に、その後ろのやつ何?」
そんなライン兄さんに水を差すようで悪いが、聞かなければならない物がライン兄さんの後ろに浮いていた。
「もう、しょうがないな。これは携行可変式黒板。ほら、前にセオがさ、母さんの授業で黒板があれば楽だ、って言ってたでしょ。それで先日、自由ギルドに行ったら浮遊石が偶々あったから、母さんに頼んで携行式のを作って貰ったんだよね。ああ、授業用の黒板は作り終わってたよ。来週から運用するんじゃない?」
まじかよ。それ俺知らない。仲間外れかよ。
にしても、自由ギルドか。
「いいな。俺もさっさと町に行きたい」
「しきたりが終わるまでもう少しでしょ。それまでは我慢。しきたりだって横暴なものでもないし」
「分かってるよ。でも、やっぱ移動距離が制限されているのは嫌なもんだよ。っと、話の腰を折ってごめん。始めていいよ」
「うん」
頷いたライン兄さんは、片手に持ったチョークを動かして黒板に絵を描く。
それから、一分後。
「ふぅ」
描きおわったらしい。黒板には一つの花の全体像と部位別が描かれていた。
「最初にあらかた説明して、最後に実物を見て確認って流れで良い?」
「問題ない」
それにライン兄さんの絵は実物より分かりやすいんだよな。
「っと、その前に……」
ライン兄さんは何かを思い出したらしく、ウエストポーチから小さな四角い物体を取り出した。次にそれを空中に放り投げる。
そうすれば、四角い物体はカシュンッカシュンッ、と音を立てて変形し、黒板の形を成した。
「では、先ず、シロポポの大まかな環境別受粉方法の違いだけどね……」
ライン兄さんは新たな黒板に、寒冷・温暖・熱帯・砂漠・海・etc……、と縦に書いていく。また、その横に赤、青、黄、といった具合に色別の丸を書いていく。
そして右上に媒と書き、その下に色別で、動物・虫・風・水・魔物と書いていく。
「セオ。見ての通り、大まかな環境別の受粉媒体の違い。方法は媒体によって変わるからね。それで、これは大まかなもので地域別に違いがあるから、それはこれを見て、確認して」
そういって、ライン兄さんはウエストポーチから数枚の紙を出し、俺に渡す。
そこにはびっしりと文字が詰まっていて、大陸や国、地域別のシロポポの分布具合と詳細な媒体が書かれていた。しかも、受粉だけではなく、種子の媒体の違いまで書かれていた。
「それは自由ギルドの資料や冒険者の人たちから集めた情報をまとめたものだよ。一応、間違いがないか多くの人に確認して精査したけど、間違いがあったらごめん。現地には行ってないから、確実ではないんだよね」
なるほど。それでもこれはすごい。情報収集能力と分別能力の高さがうかがえる。しかも、これって一週間前に始めたはずなんだよな。
やばい。単純にやばい。色々と凄い。
ただ、一つ疑問が……。
「ねぇ、こんな詳しく調べる必要あった? 種子についてもあるし。アテナ母さんからは平原・森林・温暖・寒冷・荒野の五つで良いって言ってたじゃん。それに、これが本題ってわけじゃないし」
そう。あくまで環境別受粉方法の違いは本題を解くヒントでしかない。
そう言うとライン兄さんは、溜息を吐いてやれやれと頭を横に振る。
「セオ。材料は多い方が良い。もちろん、材料の正確さは必要だけど。それに、これくらい集めないと今回の問題に対して答えがでないと思う。その五つじゃ水や風が含まれないし。たぶん、母さんは答えが間違えるように中途半端にヒントを出したんだと思う」
そう言われると、納得できる部分がある。
アテナ母さんは知識を教えるってよりは学ぶって方に比重をかけているからな。日本の教育の感覚がこういう時、邪魔をするよな。
つまり、アテナ母さんが出したヒントは、ヒントのヒントだったわけか。
「わかった。ありがとう」
「どういたしまして」
ライン兄さんはにこやかに頷く。
「じゃぁ、続けるよ」
「お願いします」
ライン兄さんはウエストポーチから細い棒を取り出し、黒板を指す。
「さっき渡した紙を見て分かるように、シロポポはあらゆる環境に存在する。通常なら植物が存在できないような環境にまで。それを可能にしている要因に一旦は、受粉方法の豊富さだ。
で、だ。では、何故、それほど多くの受粉方法を持つことができるのか。ボクは、それが本題に対しての答えになるのだと考える。
まず、シロポポは普通の植物と違う所がある。はい、セオ」
ライン兄さんが質問を交える。
「魔法植物であること」
「そう。そして、あらゆる魔法薬に絶対に必要な植物なんだよ」
「まぁ、その詳細がアテナ母さんからの課題だけどね」
一ヶ月に一回程度、アテナ母さんから課題が出される。
ただ、今回の課題はいつもより難しい。ライン兄さんが課題をクリアするのに、一週間もかかってるからな。いつもは二日程度なのだ。
「で、だ。シロポポは魔法植物であるがゆえに、魔力を多分に含み、それによって特性を持っている」
特性とは物体が魔力による影響によって持つ能力的な力の事を指す。
「“治癒”だね」
だから、即効で怪我や病気を回復させる魔法薬の材料として使われる。
「そう。けれど、“治癒”っていうのはボクたちが魔法薬に使うから、そう言われているけど、実際は治癒ではなく、改変といった方が正しいとボクは考えている」
「つまり、それが課題の答え?」
「最終的には」
なるほど。“改変”か。
「じゃあ、“改変”の特質について詳しく教えて下さい。根拠も一緒に」
「あい。わかった」
ライン兄さんは待ってましたとばかりに大きく頷き、自らの胸を叩いた。
110
読んでくださりありがとうございます!!少しでも面白いと思われたら、お気に入り登録や感想をよろしくお願いします!!また、エールで動画を見てくださると投稿継続につながりますのでよろしくお願いします。
お気に入りに追加
951
あなたにおすすめの小説

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました
おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。
※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。
※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・)
更新はめっちゃ不定期です。
※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。
亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。
さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。
南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。
ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?
後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。
目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。
日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。
そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。
さて、新しい人生はどんな人生になるのかな?
※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします!
◇◇◇◇◇◇◇◇
お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。
執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。
◇◇◇◇◇◇◇◇
9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます!
9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる