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異世界生活:赤ん坊
怪奇な幻想:accumulated
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廊下を二人の女性が優美に歩いている。
「今日ぐらい休んでも良かったのよ?」
薄い緑を帯びた金髪を靡かせる絶世の美女。
「いえ、アテナ様。この程度の風邪、半日もあれば十分です。それに、夜の仕事を休むわけにはいきませんから」
小麦色の髪を靡かせ、艶やかな尻尾をゆらす美少女。
「レモンの仕事を私が代わってあげても良いのよ?」
アテナ様と呼ばれた主人である美女が言う。
「やめてください。お給料が減ってしまいます。それにまだ、アテナ様は出産後の弱体化が治っておられません。その中、丸一日起きるなど……」
何か思いついたらしく、レモンと呼ばれたメイドの美少女は言葉を切り、ニヤッと笑い、
「いつもテオ様の可愛い寝顔を楽しませてもらい、すみませんねぇー」
意地悪そうにアテナに言った。
その言葉にアテナは頬を膨らませて、ハムスターになる。
「もーー。レモン!」
アテナがポカポカとレモンを叩く。
「あはは、すみません、すみません。今度、無属性魔法の“想起”で寝顔を撮るので許してください」
主人とメイドの関係としては不思議なやり取り。
「はぁ、わかったわ。ねぇ、それであとどれくらいだったかしら?」
「……あと一ヶ月ですね。本当は二ヶ月なのですが、アテナ様の精神状況を考慮してアランさんと話し合った結果、そうなりました」
レモンは少し考える素振りをして、答える。
「そう」
アテナはようやくといった面持ちで呟く。
「アテナ様。一ヶ月経った後でも、不眠不休は控えてください」
レモンが疑うように、念を押すように話す。
「え、ええ。わかってるわよ」
「本当に?」
「ええ、本当に」
「はぁ、分かりました。本当にやめてくだいね。大体、出産直後に不眠不休という阿呆なことをしたからこんなにも長引いたのですよ。わかってますか?」
「はいはい。わかってるわよ。そのお説教は何回も聞いたわ」
レモンは溜息を吐き、その話を切り上げる。
二人は階段を昇っていく。
二階に辿り着いて少し歩くと、レモンが懐からアンティークのカギを取り出し、小さな鉄の扉を開く。
レモンは一歩下がってアテナを先に通し、そして自身も通ってカギを閉める。そして二人は廊下を歩き始める。
点々と設置されている洋灯と窓から射す西日だけが廊下を昏く照らす。
「ランプを新しいのに替えようかしら」
「何故ですか?」
「夕方になるとここって不気味になるじゃない? それで最近、ユリシアとラインが怖がってるのよ。たぶん、セオも成長すれば怖がるはずよ」
「エドガー様は恐がらないのですか?」
「ええ、あの子はあの性格だから」
「ああ、確かにそうですね」
レモンはエドガーの無鉄砲な性格を思い出し、納得する。
「では、新しいランプはどういったものにするのですか?」
「思い切って“光灯”とかどうかしら。今年は小麦が豊作だし、先月のスタンピードのおかげでお金には結構余裕があるのよ」
「確かに余裕はありますが、“光灯”となると最新式の魔道具ですので、二階分だけでもかなり掛かりますよ」
「ええ、確かに買うのならばお金は結構掛かるでしょうけれども、私が作るのなら変わってくるでしょう?」
それを聞いてレモンは、最近、アテナが魔道具作りの勉強に精を出しているのを思い出す。
「確かに材料費だけで済みますし、なりより勉強の成果を出す良い機会ですからね」
「そうでしょう。まぁ、クラリスのよりは劣るでしょうけれどもね」
「クラリス様と比べたら誰だって劣りますよ。あの方は世界最高峰の錬金術師なのですから」
「それもそうね」
他愛もない会話をしながら廊下を歩く。
「あら?」
「ん?」
ある部屋の前に辿り着いた時、二人が疑問の声を上げる。
「いないわよね」
「はい。いないです」
ガチャリ。レモンが扉を開ける。
中にいたのは寝ている少女、ユナである。
レモンはユナの方へ、アテナは子供ベットの方へ駆け出す。
「ユナ、ユナ。起きてください」
レモンがユナの体を揺らす。
「ふぇ、……え。あれ、ここは?」
「しっかりしてください。……アテナ様、セオ様はどちらへ?」
「ちょっと待って。今探しているわ」
アテナが子供ベットに左手を当て、瞑想している。
「見つけた。あの子の固有能力せいで、気配や魔力が隠蔽されてて気づくのに時間がかかったわ」
アテナがユナの方へ向く。
「ユナ」
「は、はい!」
ユナは気が気でない。任された仕事を自分の怠慢によって果たせなかったのだ。叱責を待ってビクビクする。
「お説教は後。ユナはロイスに遅くなると伝えなさない」
「はい! わかりました!」
ホッとすることを脇において、ユナは直ぐに駆けて部屋を出ていく。ドタドタと大きなが鳴り響く。
「レモンは私と一緒に書斎室に向かうわよ」
「はい、わかりました」
二人も駆け足で部屋を出ていく。
バタン。
「で、何故書斎室に?」
「さぁ、わからないわ。でも、あの子は好奇心旺盛だからね」
「そうですね」
二人は廊下を走る。淑やかに、しかし素早く駆ける。
故に十数秒で書斎室の前に辿り着く。屋敷は意外と広いので、また、片方はドレス、もう片方はメイド服であることを留意すれば驚異的な俊足の持ち主であろう。
レモンによってドアノブがガチャリと音を立てて下がる。
「っ」
「ぇ」
そして二人は神話的、または悪魔的、もしくは幻想的、つまり人によって取り方が変わるであろう奇譚めいた光景に目を奪われる。
そう、黄く昏く夢現な黄昏に照らされた赤ん坊が書物を読んでいる光景に。空中に描かれた深緑に光る模様が浮かんでいる光景に。
目を、心を、魂を奪われるのは仕方ないことである。常識を疑わなければならないのだから。
流石というべきか、母アテナは直ぐに呆けた自分を立て直す。
アテナは赤ん坊に、つまりセオに近づこうとするが……。
しかし、
「ダーーダ」
「ッ」
赤ん坊の声によって立ち止まってしまう。
何故か。
それは、その声に合わせてセオが本を閉じ、また、空中の模様が消えたから。
そして、新たな模様が書斎を覆ったから。
その模様を一言で言えば魔法陣だ。円の中に幾何学模様が張り巡らされ、至る所に文字らしき記号が敷き詰められている。
「これはっ!」
毛が逆立つほどの膨大な魔力にレモンが驚愕の声を上げる。
「知らない魔道言語……」
アテナは困惑した様子。
二人の様子は目に入らないセオは次の行動に移る。
「ブーダ」
声が一つ。それに従い幾何学模様が動き出す。回転する。記号は上下に浮き出し、立体感を持つ。魔法陣全体が輝きだす。深緑色の輝きが森に包まれた温もりを想起させる。
そして、書斎はお伽噺の世界に迷い込む。
フッと魔法陣が数センチ程度に小さくなり、書斎が暗闇に包まれる。先ほどまで天井窓から零れていた光は嘘のように消え去り、部屋を照らすは魔法陣がただ一つ。
次にボッと火玉が現れる。それは、うねうねとぐねぐねと蠢き変えていく。そしてそれは鳥の容を成す。
それが始まりである。
次々に火の玉が現れ、鳥の容を成し、闊達に闇の内を飛ぶ。
それだけではない。
光る水球がいくつも現れる。煌めき煌めき容を変えていく。それらは魚に、イルカに、鳥となって飛び回る。
雷球が出現する。煌めく蝶となって華やかに舞い踊る。
氷球が登場。狼の群を成し空を翔け回る。
さらにさらに、氷の花が咲いたり、光の雪が降ったり。
色とりどりの魔法が咲き誇るその世界に、
「ふぁ」
「あぁ」
感嘆の声が漏れてしまうのも仕方がない。
しかも、
「これはアテナ様が……」
「えぇ……」
アテナが子供たちに見せるために開発した魔法だった。
二人はその世界に魅入る。そっと静かにその光景を楽しむ。
もちろん、彼女らはこれを一刻も止めなければならない。セオに聞かなければならない。しかし、彼女たちの直感はこれを邪魔してはならないと、警告を与える。
故に二人はその直感を信じ、セオの行動を邪魔しない。止めない。
「なっ! これはどういうことだい!」
そこに新たな観客が訪れた。
「ロイス、邪魔をしては駄目よ。詳しい事は後」
突然感じた膨大な魔力に驚き、慌ててきたロイスをアテナが嗜める。
「しかし……」
「今は駄目。これが終わってからでも遅くはないわ」
「……。わかった。アテナ、これは何なんだい?」
「解らないわ。私の知らない魔道言語を用いているのは分かるのだけれど……」
二人が小声で話し出す。
「アテナが解らない?」
「ええ、今、解析をしているのだけれども……、待って」
そう言ってアテナは瞑想しだす。目を瞑り、全身を静かに集中させる。
そして十秒後、目を見開き述べる。
「解ったわ。これは魔道言語を用いた魔法。命名、魔術といったところかしら」
「魔術? しかも魔道言語を用いた?」
ロイスが聞き返す。
「ええ、そう」
「けれど、魔道言語は魔道具を作るために使う刻印言語であって、しかも媒体なしに魔法を構築することができるのかい」
「できるわ。目の前の出来事がそれを表している。詳しい話は後にするわ。もうすぐ終わるから」
アテナがそういった直後、お伽噺の住人は次々に消えていく。儚く闇に溶けていく。
そして、闇自体が消え去り、書斎が再登場する。
セオの魔力切れである。
すっかり夜となり、月明かりが書斎を淡く照らす。
「セオ!」
魔力切れによって座る事すらままならなくなったセオにアテナとロイスが駆け寄る。
アテナがセオを抱きかかえる。セオは驚いたように目を見開いた。
「セ――」
アテナがセオに話しかけようとした瞬間、ある声が世界に告げた。
――確認しました。個体名:セオドラー・マキーナルトは称号:復刻の魔術師を獲得。これにより、特異能力:解明者を獲得しました――
天の声が響いたのだ。
「なっ!」
「これは!」
「ありえません!」
三者驚愕の声を上げる。
何故なら、
「魂が二つ、何故!」
今まで感じていた魂が二つに増えたから。
一同が動揺したとき、さらに衝撃的な事が起こる。
書斎の中心から光が溢れ、書斎を包み込んだのだ。
「今日ぐらい休んでも良かったのよ?」
薄い緑を帯びた金髪を靡かせる絶世の美女。
「いえ、アテナ様。この程度の風邪、半日もあれば十分です。それに、夜の仕事を休むわけにはいきませんから」
小麦色の髪を靡かせ、艶やかな尻尾をゆらす美少女。
「レモンの仕事を私が代わってあげても良いのよ?」
アテナ様と呼ばれた主人である美女が言う。
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何か思いついたらしく、レモンと呼ばれたメイドの美少女は言葉を切り、ニヤッと笑い、
「いつもテオ様の可愛い寝顔を楽しませてもらい、すみませんねぇー」
意地悪そうにアテナに言った。
その言葉にアテナは頬を膨らませて、ハムスターになる。
「もーー。レモン!」
アテナがポカポカとレモンを叩く。
「あはは、すみません、すみません。今度、無属性魔法の“想起”で寝顔を撮るので許してください」
主人とメイドの関係としては不思議なやり取り。
「はぁ、わかったわ。ねぇ、それであとどれくらいだったかしら?」
「……あと一ヶ月ですね。本当は二ヶ月なのですが、アテナ様の精神状況を考慮してアランさんと話し合った結果、そうなりました」
レモンは少し考える素振りをして、答える。
「そう」
アテナはようやくといった面持ちで呟く。
「アテナ様。一ヶ月経った後でも、不眠不休は控えてください」
レモンが疑うように、念を押すように話す。
「え、ええ。わかってるわよ」
「本当に?」
「ええ、本当に」
「はぁ、分かりました。本当にやめてくだいね。大体、出産直後に不眠不休という阿呆なことをしたからこんなにも長引いたのですよ。わかってますか?」
「はいはい。わかってるわよ。そのお説教は何回も聞いたわ」
レモンは溜息を吐き、その話を切り上げる。
二人は階段を昇っていく。
二階に辿り着いて少し歩くと、レモンが懐からアンティークのカギを取り出し、小さな鉄の扉を開く。
レモンは一歩下がってアテナを先に通し、そして自身も通ってカギを閉める。そして二人は廊下を歩き始める。
点々と設置されている洋灯と窓から射す西日だけが廊下を昏く照らす。
「ランプを新しいのに替えようかしら」
「何故ですか?」
「夕方になるとここって不気味になるじゃない? それで最近、ユリシアとラインが怖がってるのよ。たぶん、セオも成長すれば怖がるはずよ」
「エドガー様は恐がらないのですか?」
「ええ、あの子はあの性格だから」
「ああ、確かにそうですね」
レモンはエドガーの無鉄砲な性格を思い出し、納得する。
「では、新しいランプはどういったものにするのですか?」
「思い切って“光灯”とかどうかしら。今年は小麦が豊作だし、先月のスタンピードのおかげでお金には結構余裕があるのよ」
「確かに余裕はありますが、“光灯”となると最新式の魔道具ですので、二階分だけでもかなり掛かりますよ」
「ええ、確かに買うのならばお金は結構掛かるでしょうけれども、私が作るのなら変わってくるでしょう?」
それを聞いてレモンは、最近、アテナが魔道具作りの勉強に精を出しているのを思い出す。
「確かに材料費だけで済みますし、なりより勉強の成果を出す良い機会ですからね」
「そうでしょう。まぁ、クラリスのよりは劣るでしょうけれどもね」
「クラリス様と比べたら誰だって劣りますよ。あの方は世界最高峰の錬金術師なのですから」
「それもそうね」
他愛もない会話をしながら廊下を歩く。
「あら?」
「ん?」
ある部屋の前に辿り着いた時、二人が疑問の声を上げる。
「いないわよね」
「はい。いないです」
ガチャリ。レモンが扉を開ける。
中にいたのは寝ている少女、ユナである。
レモンはユナの方へ、アテナは子供ベットの方へ駆け出す。
「ユナ、ユナ。起きてください」
レモンがユナの体を揺らす。
「ふぇ、……え。あれ、ここは?」
「しっかりしてください。……アテナ様、セオ様はどちらへ?」
「ちょっと待って。今探しているわ」
アテナが子供ベットに左手を当て、瞑想している。
「見つけた。あの子の固有能力せいで、気配や魔力が隠蔽されてて気づくのに時間がかかったわ」
アテナがユナの方へ向く。
「ユナ」
「は、はい!」
ユナは気が気でない。任された仕事を自分の怠慢によって果たせなかったのだ。叱責を待ってビクビクする。
「お説教は後。ユナはロイスに遅くなると伝えなさない」
「はい! わかりました!」
ホッとすることを脇において、ユナは直ぐに駆けて部屋を出ていく。ドタドタと大きなが鳴り響く。
「レモンは私と一緒に書斎室に向かうわよ」
「はい、わかりました」
二人も駆け足で部屋を出ていく。
バタン。
「で、何故書斎室に?」
「さぁ、わからないわ。でも、あの子は好奇心旺盛だからね」
「そうですね」
二人は廊下を走る。淑やかに、しかし素早く駆ける。
故に十数秒で書斎室の前に辿り着く。屋敷は意外と広いので、また、片方はドレス、もう片方はメイド服であることを留意すれば驚異的な俊足の持ち主であろう。
レモンによってドアノブがガチャリと音を立てて下がる。
「っ」
「ぇ」
そして二人は神話的、または悪魔的、もしくは幻想的、つまり人によって取り方が変わるであろう奇譚めいた光景に目を奪われる。
そう、黄く昏く夢現な黄昏に照らされた赤ん坊が書物を読んでいる光景に。空中に描かれた深緑に光る模様が浮かんでいる光景に。
目を、心を、魂を奪われるのは仕方ないことである。常識を疑わなければならないのだから。
流石というべきか、母アテナは直ぐに呆けた自分を立て直す。
アテナは赤ん坊に、つまりセオに近づこうとするが……。
しかし、
「ダーーダ」
「ッ」
赤ん坊の声によって立ち止まってしまう。
何故か。
それは、その声に合わせてセオが本を閉じ、また、空中の模様が消えたから。
そして、新たな模様が書斎を覆ったから。
その模様を一言で言えば魔法陣だ。円の中に幾何学模様が張り巡らされ、至る所に文字らしき記号が敷き詰められている。
「これはっ!」
毛が逆立つほどの膨大な魔力にレモンが驚愕の声を上げる。
「知らない魔道言語……」
アテナは困惑した様子。
二人の様子は目に入らないセオは次の行動に移る。
「ブーダ」
声が一つ。それに従い幾何学模様が動き出す。回転する。記号は上下に浮き出し、立体感を持つ。魔法陣全体が輝きだす。深緑色の輝きが森に包まれた温もりを想起させる。
そして、書斎はお伽噺の世界に迷い込む。
フッと魔法陣が数センチ程度に小さくなり、書斎が暗闇に包まれる。先ほどまで天井窓から零れていた光は嘘のように消え去り、部屋を照らすは魔法陣がただ一つ。
次にボッと火玉が現れる。それは、うねうねとぐねぐねと蠢き変えていく。そしてそれは鳥の容を成す。
それが始まりである。
次々に火の玉が現れ、鳥の容を成し、闊達に闇の内を飛ぶ。
それだけではない。
光る水球がいくつも現れる。煌めき煌めき容を変えていく。それらは魚に、イルカに、鳥となって飛び回る。
雷球が出現する。煌めく蝶となって華やかに舞い踊る。
氷球が登場。狼の群を成し空を翔け回る。
さらにさらに、氷の花が咲いたり、光の雪が降ったり。
色とりどりの魔法が咲き誇るその世界に、
「ふぁ」
「あぁ」
感嘆の声が漏れてしまうのも仕方がない。
しかも、
「これはアテナ様が……」
「えぇ……」
アテナが子供たちに見せるために開発した魔法だった。
二人はその世界に魅入る。そっと静かにその光景を楽しむ。
もちろん、彼女らはこれを一刻も止めなければならない。セオに聞かなければならない。しかし、彼女たちの直感はこれを邪魔してはならないと、警告を与える。
故に二人はその直感を信じ、セオの行動を邪魔しない。止めない。
「なっ! これはどういうことだい!」
そこに新たな観客が訪れた。
「ロイス、邪魔をしては駄目よ。詳しい事は後」
突然感じた膨大な魔力に驚き、慌ててきたロイスをアテナが嗜める。
「しかし……」
「今は駄目。これが終わってからでも遅くはないわ」
「……。わかった。アテナ、これは何なんだい?」
「解らないわ。私の知らない魔道言語を用いているのは分かるのだけれど……」
二人が小声で話し出す。
「アテナが解らない?」
「ええ、今、解析をしているのだけれども……、待って」
そう言ってアテナは瞑想しだす。目を瞑り、全身を静かに集中させる。
そして十秒後、目を見開き述べる。
「解ったわ。これは魔道言語を用いた魔法。命名、魔術といったところかしら」
「魔術? しかも魔道言語を用いた?」
ロイスが聞き返す。
「ええ、そう」
「けれど、魔道言語は魔道具を作るために使う刻印言語であって、しかも媒体なしに魔法を構築することができるのかい」
「できるわ。目の前の出来事がそれを表している。詳しい話は後にするわ。もうすぐ終わるから」
アテナがそういった直後、お伽噺の住人は次々に消えていく。儚く闇に溶けていく。
そして、闇自体が消え去り、書斎が再登場する。
セオの魔力切れである。
すっかり夜となり、月明かりが書斎を淡く照らす。
「セオ!」
魔力切れによって座る事すらままならなくなったセオにアテナとロイスが駆け寄る。
アテナがセオを抱きかかえる。セオは驚いたように目を見開いた。
「セ――」
アテナがセオに話しかけようとした瞬間、ある声が世界に告げた。
――確認しました。個体名:セオドラー・マキーナルトは称号:復刻の魔術師を獲得。これにより、特異能力:解明者を獲得しました――
天の声が響いたのだ。
「なっ!」
「これは!」
「ありえません!」
三者驚愕の声を上げる。
何故なら、
「魂が二つ、何故!」
今まで感じていた魂が二つに増えたから。
一同が動揺したとき、さらに衝撃的な事が起こる。
書斎の中心から光が溢れ、書斎を包み込んだのだ。
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