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ドワーフの魔術師と弟子
第22話 ダンジョンの脱出と隠し部屋
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翌日。
「よし、出発するか」
男の子を抱えたセイランがそう言いました。
私たちはダンジョンを上ることにしました。ここが何階層かは分かっていませんが、転移妨害の魔法がかかっていない階層まで上るのです。
と、思ったのですが。
「グフウ様。これについて少し……」
「セイラン。少し待っていてください。どうかしたのですか?」
ナギが遠慮がちに眉を八の字にしながら複数の魔術陣を見せてきます。それは、転移妨害の魔法の解析の一部を写した魔術陣でした。
「転移妨害の魔法の魔力波長のここの部分。具体的な処理をしていないのであれですけれど、なんとなく特徴的なスペクトルが含まれているような気がするですわ……」
「そのなんとなくは重要ですよ。それで、どれ……」
ジーっとナギの魔法解析について吟味します。自分のと比べたりして、少しばかり考えたあと。
「ナギ! あなたは天才ですよ! 天才の私が言うのだから間違いありません!」
「ひゃ、ひゃあっ!」
「あ、ごめんなさい」
興奮してナギの手を掴んでしまいます。驚かせてしまったので謝ります。
それにしても、流石は私の弟子。素晴らしい観察眼です。
「セイラン、シマキ。少し待っていてください! 今すぐ、この転移妨害魔法を打ち破って見せます!」
「お、おう」
「打ち破る……?」
「る?」
セイランたちが首を傾げます。男の子も首を傾げています。
が、無視無視。
魔力の新たな法則について見出せそうなのです。これが分かれば、空間関係の魔術が更に進展するかもしれません!
ダンジョンは酔うのであまり好きではなかったですが、来てよかったです! セイランの言う通り素晴らしい魔法がありました!
ズキズキと酷い頭痛が襲ってきて鼻血も流れますが、興奮している私には関係ありません。
「〝斉唱〟・〝共振〟・〝高唱〟、〝探せ析け解け究めろ。森羅に理があれと信ずれば――魔究〟!!」
最大出力で解析魔術を行使して、一気に転移妨害の魔法を解析します。同時に、それに対応した魔術を構築してっ!!
「できました!! できましたよ!! ひゃっほーー!! うぇーーーい!」
「なにが。というか、興奮しすぎだ。顔色も悪いし休め」
「休めません! 今すぐにもでも魔術を――!」
「休め!」
「痛いっ。寒い」
セイランに頬をつねられ、魔法で創り出した氷水を頭からぶっかけられました。
「何するのですか!」
「お前が冷静じゃなかったから引き戻したまでだ。ダンジョンで冷静をかくのは危険だろう」
「う……あなたがいるから大丈夫だと思っていたのですよ。何かあればどうにかしてくれると信じてますし」
「そうか……まぁ、氷水をかけたのはやりすぎたな。乾かす」
セイランが魔法で温風を吹かせて、濡れた私の髪やひげを乾かしてくれます。興奮が冷めて頭がボーっとするのもあって、セイランに背を預けされるがままに乾かされました。
「何なのよ、あれ」
「いつものことですわ。それで、グフウ様。解析は?」
「はい。終わりました。落ち着いたら、転移妨害の魔法の妨害を組み込んだ魔術の準備をして地上に帰りましょう」
流石に転移妨害の魔法自体を解除することはできませんでした。しかし、その魔法を一時的に無効する手段は構築できたため、それをダンジョン脱出の魔術に組み込みます。
その内容を説明して、ナギと一緒にダンジョンに多くの魔術陣を刻んでいきます。一般化できれば、少ない魔術陣と詠唱で行使が可能となりますが、まだその段階ではないため、多くの魔術陣が必要となります。
そしてセイランと協力して、魔術陣に魔力を注いで詠唱をすれば。
「ち、地上だわ……」
「おひさまだ!!」
地上へと帰還できました。
すぐさま冒険者ギルドに直行します。私たちが捕縛した悪魔はあの後、自爆したようで冒険者ギルドはボロボロでした。
幸い、けが人もいないようで、男の子を本来の母親のもとに帰したあと、冒険者ギルドや領主と協力して悪魔の残党がいないか、街を調査することになりました。
一週間後、残党の悪魔を全て滅し、事件は一件落着となりました。
「ここをこうして……」
そして私たちは極彩百魔のダンジョンの二階層の隠し部屋前にいました。ナギが隠し部屋の前に立ち、魔術陣をいくつも展開しては消し手を繰り返しています。
シマキが首を傾げます。
「何をしているのよ?」
「罠の魔法を解除しているのです。ナギはこの中で誰よりも精密な魔力操作ができますからね。魔法解除は彼女の得意分野なのです」
「エルフやドワーフのアナタたちよりも魔力操作が得意なの?」
シマキが目を丸くします。
「闘気操作も得意だな。考えてみれば当たり前なのだ。ナギは日常的に魔力と闘気の放出をほぼ無の状態で維持できるているのだ」
「無? 昔、ある魔法使いの話を聞いた限りでは、一時的ならともかくずっと魔力放出を抑えるなど不可能だと聞いた覚えがあるわ」
「そうだな。実際、悪路を走りながら意匠の細やかなドレスを裁縫するようなものだ」
「それは……」
セイランの例えにシマキが絶句していました。
「……ふぅ。罠の解除、終わったですわ!」
しばらくしてナギがそういえば、扉がガチャコンと音を立てながら開きました。階段が現れます。
「お疲れ様です」
「ありがとうな」
「どういたしましてですわ!」
ナギがふふんと笑います。数年前までは感謝などを伝えても遠慮するか小さくはにかむことが多かったですが、今では素直に大きく喜ぶようになりました。いい変化だと思っています。
「……凄いわね、貴方」
「貴方、ではなくナギと読んでくださいですわ、シマキ様!」
「……分かったわ、ナギ」
シマキは少し恥ずかしそうにナギの名を呼びました。ナギは満足そうに頷き、メイド服を翻して、階段へと足を踏み入れました。私たちもそのあとを追って、足を踏み入れました。
ぼっぼっぼっ、と私たちが進むたびに、真っ暗だった階段に火が灯ります。
そして階段を登った先の大きな部屋には神々と聖霊の壁画が描かれていました。
「綺麗ですわ……」
「ええ、美しいわ……」
ナギとシマキが壁画を見て、感動していました。その様子に私たちは顔を見合わせて小さく微笑み合いました。
「それにしても……原初と天秤の神さまに祈りと豊穣の女神さまと戦いと慈悲の神さま。これは翼が強調されているから、自由と遊戯の女神さまか? こっちのカンテラを持っているのが終りと流転の女神さまに……残り四柱。つまり善神全てか」
「それに輪状の光の帽子をかぶっていますから、こっちは聖霊ですね」
私たちは首を捻ります。
「ここは貪りと冒涜の女神の領域であるダンジョンですよね? どうして神々と聖霊の絵が?」
「断定はできないが、たぶんここは元々神殿だったのだ。それが地下に埋まり瘴気が溜まって悪魔が手を加えダンジョンとなった。現存している物を下地としていいて尚且つ神性が宿っていたせいで、破壊できず隠し部屋に隠したのかもな」
「なるほど。じゃあもしかしたら、他の隠し部屋にもこうした神殿の遺物があるかもしれませんね」
「そうだな……」
「……」
私もセイランも顔を見合わせます。
「これはもっと具体的な調査が必要だな!」
「ですね! 古代ドワーフやエルフの遺物が見つかるかもしれません」
「ああ、それにだ! 詳しい物質の劣化具合を調べないと分からないが、もしかしたら神代の神殿の可能性もある! その時代の記録はとても貴重だ! 調査だ、調査! 今すぐ、全階層を見直すぞ!」
神々が現世暮らしていた時代の記録はとても重要です。
なにせ神代はずっと昔のこと。
詳細の情報が逸しているのはもちろん、伝わっている情報の多くも幾度も書物を介したことによって、歴史的な主観が入り混じってしまい、その確度がありません。
だからこそ、神代に創られたかもしれない神殿を目の前にして、私たちは興奮せずにはいられません。
「じゃあ、まずは一階層から行きますよ!」
「そうだな。壁一つ一つを念入りに調べて――」
「待ってくださいですわ!」
「「はっ」」
ナギが私たちの顔の前で大きく手をうちました。私たちは我に返ります。
「セイラン様、グフウ様。一つ聴きたいのですけれど、それって何年かかりそうですの?」
「そうですね……壁一つ一つを調べて、その奥に隠されている仕組みを見つけなきゃいけませんから――」
「端的に。何年かかるか聞いているですの?」
「じゅ、十年ほどでしょうか?」
「まぁ、そこまで長居はしないだろう」
そう私たちが返答すれば、ナギがスッと冷めた目で言いました。
「却下ですわ」
「「え」」
「十年は長すぎるですわ。却下も却下。大却下ですわ」
静かな言葉でしたが語気は強く、私たちはしまったと思いました。そうです。私たちとナギでは十年の価値が違うのです。
冷や水を浴びた気分です。あんなに悲しんだのに、忘れてしまっていたのです。
私はナギに頭を下げました。
「そうですね。十年は長い。早く、このダンジョンを攻略してしまいましょう」
「……そうだな。調査は仲間のエルフたちに任せよう。変な事を言って悪かった」
「い、いえ。わたしも少し言い過ぎたですわ」
ちょっと気まずい空気になります。
それをぶち壊したのはシマキでした。柱に寄りかかって座っていた彼女は欠伸をしながら口を開きます。
「ふぁ~あ。あ、話は終わったの? じゃあ、このまま下の階層に向かうってことでいいのかしら?」
「ああ、そうだな。三十七階層以降を探査する。今回は四十階層までいければいいだろう」
「分かったわ。じゃあ、よっこいせいっと……おっとっとっ」
シマキはグッと立ち上がり、少しよろけました。
そして壁に手をつき。
「「「「ん?」」」」
ガコン、という音が響きます。
同時にガガガガッと扉が閉まり、ドドドドドッと地鳴りが聞こえてきました。
そして数秒後。天井が大きく開いて、膨大な水が落ちてきました。
「シマキ様のバカ! バカすけ! ポンコツ! どうしてそう粗忽なのですの!」
「しょ、しょうがないじゃない! よろけちゃったんだもの!」
「言っている場合かっ! グフウ、どうにかならないか!」
「私の手を掴んでください! 水中呼吸の魔術をかけます!!」
水で部屋がいっぱいになる前に皆の手を掴み魔術陣を浮かべて水中でも呼吸ができる魔術をかけます。
それと同時に床が開き、私たちはそのまま流されました。
「よし、出発するか」
男の子を抱えたセイランがそう言いました。
私たちはダンジョンを上ることにしました。ここが何階層かは分かっていませんが、転移妨害の魔法がかかっていない階層まで上るのです。
と、思ったのですが。
「グフウ様。これについて少し……」
「セイラン。少し待っていてください。どうかしたのですか?」
ナギが遠慮がちに眉を八の字にしながら複数の魔術陣を見せてきます。それは、転移妨害の魔法の解析の一部を写した魔術陣でした。
「転移妨害の魔法の魔力波長のここの部分。具体的な処理をしていないのであれですけれど、なんとなく特徴的なスペクトルが含まれているような気がするですわ……」
「そのなんとなくは重要ですよ。それで、どれ……」
ジーっとナギの魔法解析について吟味します。自分のと比べたりして、少しばかり考えたあと。
「ナギ! あなたは天才ですよ! 天才の私が言うのだから間違いありません!」
「ひゃ、ひゃあっ!」
「あ、ごめんなさい」
興奮してナギの手を掴んでしまいます。驚かせてしまったので謝ります。
それにしても、流石は私の弟子。素晴らしい観察眼です。
「セイラン、シマキ。少し待っていてください! 今すぐ、この転移妨害魔法を打ち破って見せます!」
「お、おう」
「打ち破る……?」
「る?」
セイランたちが首を傾げます。男の子も首を傾げています。
が、無視無視。
魔力の新たな法則について見出せそうなのです。これが分かれば、空間関係の魔術が更に進展するかもしれません!
ダンジョンは酔うのであまり好きではなかったですが、来てよかったです! セイランの言う通り素晴らしい魔法がありました!
ズキズキと酷い頭痛が襲ってきて鼻血も流れますが、興奮している私には関係ありません。
「〝斉唱〟・〝共振〟・〝高唱〟、〝探せ析け解け究めろ。森羅に理があれと信ずれば――魔究〟!!」
最大出力で解析魔術を行使して、一気に転移妨害の魔法を解析します。同時に、それに対応した魔術を構築してっ!!
「できました!! できましたよ!! ひゃっほーー!! うぇーーーい!」
「なにが。というか、興奮しすぎだ。顔色も悪いし休め」
「休めません! 今すぐにもでも魔術を――!」
「休め!」
「痛いっ。寒い」
セイランに頬をつねられ、魔法で創り出した氷水を頭からぶっかけられました。
「何するのですか!」
「お前が冷静じゃなかったから引き戻したまでだ。ダンジョンで冷静をかくのは危険だろう」
「う……あなたがいるから大丈夫だと思っていたのですよ。何かあればどうにかしてくれると信じてますし」
「そうか……まぁ、氷水をかけたのはやりすぎたな。乾かす」
セイランが魔法で温風を吹かせて、濡れた私の髪やひげを乾かしてくれます。興奮が冷めて頭がボーっとするのもあって、セイランに背を預けされるがままに乾かされました。
「何なのよ、あれ」
「いつものことですわ。それで、グフウ様。解析は?」
「はい。終わりました。落ち着いたら、転移妨害の魔法の妨害を組み込んだ魔術の準備をして地上に帰りましょう」
流石に転移妨害の魔法自体を解除することはできませんでした。しかし、その魔法を一時的に無効する手段は構築できたため、それをダンジョン脱出の魔術に組み込みます。
その内容を説明して、ナギと一緒にダンジョンに多くの魔術陣を刻んでいきます。一般化できれば、少ない魔術陣と詠唱で行使が可能となりますが、まだその段階ではないため、多くの魔術陣が必要となります。
そしてセイランと協力して、魔術陣に魔力を注いで詠唱をすれば。
「ち、地上だわ……」
「おひさまだ!!」
地上へと帰還できました。
すぐさま冒険者ギルドに直行します。私たちが捕縛した悪魔はあの後、自爆したようで冒険者ギルドはボロボロでした。
幸い、けが人もいないようで、男の子を本来の母親のもとに帰したあと、冒険者ギルドや領主と協力して悪魔の残党がいないか、街を調査することになりました。
一週間後、残党の悪魔を全て滅し、事件は一件落着となりました。
「ここをこうして……」
そして私たちは極彩百魔のダンジョンの二階層の隠し部屋前にいました。ナギが隠し部屋の前に立ち、魔術陣をいくつも展開しては消し手を繰り返しています。
シマキが首を傾げます。
「何をしているのよ?」
「罠の魔法を解除しているのです。ナギはこの中で誰よりも精密な魔力操作ができますからね。魔法解除は彼女の得意分野なのです」
「エルフやドワーフのアナタたちよりも魔力操作が得意なの?」
シマキが目を丸くします。
「闘気操作も得意だな。考えてみれば当たり前なのだ。ナギは日常的に魔力と闘気の放出をほぼ無の状態で維持できるているのだ」
「無? 昔、ある魔法使いの話を聞いた限りでは、一時的ならともかくずっと魔力放出を抑えるなど不可能だと聞いた覚えがあるわ」
「そうだな。実際、悪路を走りながら意匠の細やかなドレスを裁縫するようなものだ」
「それは……」
セイランの例えにシマキが絶句していました。
「……ふぅ。罠の解除、終わったですわ!」
しばらくしてナギがそういえば、扉がガチャコンと音を立てながら開きました。階段が現れます。
「お疲れ様です」
「ありがとうな」
「どういたしましてですわ!」
ナギがふふんと笑います。数年前までは感謝などを伝えても遠慮するか小さくはにかむことが多かったですが、今では素直に大きく喜ぶようになりました。いい変化だと思っています。
「……凄いわね、貴方」
「貴方、ではなくナギと読んでくださいですわ、シマキ様!」
「……分かったわ、ナギ」
シマキは少し恥ずかしそうにナギの名を呼びました。ナギは満足そうに頷き、メイド服を翻して、階段へと足を踏み入れました。私たちもそのあとを追って、足を踏み入れました。
ぼっぼっぼっ、と私たちが進むたびに、真っ暗だった階段に火が灯ります。
そして階段を登った先の大きな部屋には神々と聖霊の壁画が描かれていました。
「綺麗ですわ……」
「ええ、美しいわ……」
ナギとシマキが壁画を見て、感動していました。その様子に私たちは顔を見合わせて小さく微笑み合いました。
「それにしても……原初と天秤の神さまに祈りと豊穣の女神さまと戦いと慈悲の神さま。これは翼が強調されているから、自由と遊戯の女神さまか? こっちのカンテラを持っているのが終りと流転の女神さまに……残り四柱。つまり善神全てか」
「それに輪状の光の帽子をかぶっていますから、こっちは聖霊ですね」
私たちは首を捻ります。
「ここは貪りと冒涜の女神の領域であるダンジョンですよね? どうして神々と聖霊の絵が?」
「断定はできないが、たぶんここは元々神殿だったのだ。それが地下に埋まり瘴気が溜まって悪魔が手を加えダンジョンとなった。現存している物を下地としていいて尚且つ神性が宿っていたせいで、破壊できず隠し部屋に隠したのかもな」
「なるほど。じゃあもしかしたら、他の隠し部屋にもこうした神殿の遺物があるかもしれませんね」
「そうだな……」
「……」
私もセイランも顔を見合わせます。
「これはもっと具体的な調査が必要だな!」
「ですね! 古代ドワーフやエルフの遺物が見つかるかもしれません」
「ああ、それにだ! 詳しい物質の劣化具合を調べないと分からないが、もしかしたら神代の神殿の可能性もある! その時代の記録はとても貴重だ! 調査だ、調査! 今すぐ、全階層を見直すぞ!」
神々が現世暮らしていた時代の記録はとても重要です。
なにせ神代はずっと昔のこと。
詳細の情報が逸しているのはもちろん、伝わっている情報の多くも幾度も書物を介したことによって、歴史的な主観が入り混じってしまい、その確度がありません。
だからこそ、神代に創られたかもしれない神殿を目の前にして、私たちは興奮せずにはいられません。
「じゃあ、まずは一階層から行きますよ!」
「そうだな。壁一つ一つを念入りに調べて――」
「待ってくださいですわ!」
「「はっ」」
ナギが私たちの顔の前で大きく手をうちました。私たちは我に返ります。
「セイラン様、グフウ様。一つ聴きたいのですけれど、それって何年かかりそうですの?」
「そうですね……壁一つ一つを調べて、その奥に隠されている仕組みを見つけなきゃいけませんから――」
「端的に。何年かかるか聞いているですの?」
「じゅ、十年ほどでしょうか?」
「まぁ、そこまで長居はしないだろう」
そう私たちが返答すれば、ナギがスッと冷めた目で言いました。
「却下ですわ」
「「え」」
「十年は長すぎるですわ。却下も却下。大却下ですわ」
静かな言葉でしたが語気は強く、私たちはしまったと思いました。そうです。私たちとナギでは十年の価値が違うのです。
冷や水を浴びた気分です。あんなに悲しんだのに、忘れてしまっていたのです。
私はナギに頭を下げました。
「そうですね。十年は長い。早く、このダンジョンを攻略してしまいましょう」
「……そうだな。調査は仲間のエルフたちに任せよう。変な事を言って悪かった」
「い、いえ。わたしも少し言い過ぎたですわ」
ちょっと気まずい空気になります。
それをぶち壊したのはシマキでした。柱に寄りかかって座っていた彼女は欠伸をしながら口を開きます。
「ふぁ~あ。あ、話は終わったの? じゃあ、このまま下の階層に向かうってことでいいのかしら?」
「ああ、そうだな。三十七階層以降を探査する。今回は四十階層までいければいいだろう」
「分かったわ。じゃあ、よっこいせいっと……おっとっとっ」
シマキはグッと立ち上がり、少しよろけました。
そして壁に手をつき。
「「「「ん?」」」」
ガコン、という音が響きます。
同時にガガガガッと扉が閉まり、ドドドドドッと地鳴りが聞こえてきました。
そして数秒後。天井が大きく開いて、膨大な水が落ちてきました。
「シマキ様のバカ! バカすけ! ポンコツ! どうしてそう粗忽なのですの!」
「しょ、しょうがないじゃない! よろけちゃったんだもの!」
「言っている場合かっ! グフウ、どうにかならないか!」
「私の手を掴んでください! 水中呼吸の魔術をかけます!!」
水で部屋がいっぱいになる前に皆の手を掴み魔術陣を浮かべて水中でも呼吸ができる魔術をかけます。
それと同時に床が開き、私たちはそのまま流されました。
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