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ドワーフの魔術師と弟子
第21話 『聖女』シマキの役割と強引なナギ
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夕食の後片付けを終えた頃。
「この子を助けたこと、感謝するわ」
お腹いっぱいになって安心したのか、柔らかな寝息を立てている男の子の頭を優しく撫で、シマキは深々と私たちに頭を下げました。
上から目線のそれに、しかし私たちは少し唖然とします。
なにせ彼女はここ一年間、何度、ピンチのところを助けても一度も私たちに礼を言わなかったからです。
それは彼女のプライドの高さ故なのだと思っていたのですが、どうにも僅かな違和感を感じてしまいます。
それを解消したのはナギでした。
「わたしたちはシマキ様も助けたつもりですわ」
「別に助けて欲しいなんて頼んだ覚えはないわよ。聖女のわたくしを助けるなど、あなたには許されていないの」
「っ」
シマキは自分が誰かに助けられることをとても嫌っているのです。
「じゃあ、何ですのっ! シマキ様はご自分を見捨てろと言いたいですのっ!」
「不遜よ。わたくしは聖女なの。人々を守り、助け、悪を祓う。わたくしを助けていいのは、勇者様のみ。聖典にそう記されているわ」
聖人や聖女は神籬の一つ。それは神々を宿せるかどうかだけで、生まれの素質で決まります。
確かに十五歳の時に神々から恩寵法と膨大な聖気を授かりますが、だからといって聖女が人々を守り助け、悪を祓う義務はないのです。
優しき善なる神々が人の行く道を生まれ持ったもののみで限定することはないのです。人を守り、助け、悪を祓うのに資格はいらない。逆も然り。
つまり、その聖典の内容がおかしいということになります。
「あの、聖典の内容について――」
「グフウ。ここは黙っておけ」
「セイラン……」
エルフはなるべく、自然の、神々の道理に従おうとします。それが善であると考えています。
ですから、彼女だって聖典とやらのおかしさに気が付いているはず。なのに、首を横に振り、見守るように視線で言ってきました。
私は見守ることにしました。
シマキはそんな私たちに気にすることなく、続けます。
「そういうことでは、最初に会った時、あなたをメイドの分際と言ったこと、そしてあなた方を従者としてダンジョン攻略に同行させようとしたこと。あれはわたくしが間違っていたわ。深く謝罪するわ」
「なっ」
「言い訳になるけれど、あの時は聖女になったばかりでよく理解していなかったのよ。貴族と同じく、民草の上に立ち守り従えるものだと思っていたわ。身分は絶対だと。そうではなかった。守り助ける者にかける言葉としては大変不味いものだったわ」
再び頭を下げてきました。
シマキは役目に忠実な人なのでしょう。
聖女の役目はこうあるべきだと定めたら、何が何でもそれを曲げない。その役目に強い責任感を持っている。
だから、今まで私たちが助けても一切礼を言わず、役目を邪魔したことに文句を言ってきた。また、どんなに痛手を負おうと、ダンジョン攻略をやめることはなかった。
「ともかく、わたくしを助ける必要はないわ。今後一切手出しは無用よ」
「そ、それは無謀ですわ! 今回だってそうですわ! シマキ様一人ではこのダンジョンの魔物に勝てない! 癒し守る力はあれど、戦う力はないですわ! この一年で十分自覚しているはずですわよね!」
「それがなんだというの。貪りと冒涜の女神が創り出した邪悪なるダンジョンの核。わたくしに戦う力があろうがなかろうが、聖女ならば悪を祓うべきなの。その行動をするべきなの」
強い意志が彼女の声音に宿っていました。
罠にかかったり魔物に食われかけたりして「ひーひー」と悲鳴をあげていた彼女と似ても似つきません。
「それにわたくしは死ななければ致命傷であろうと癒せるわ。手足の一本や二本を犠牲にして殴り続ければ、どんな魔物であろうと倒せるのよ。気にすることはないわ」
「っ! 治るとしてもとても痛いはずですわ!」
「だから? 先ほどもいったけど、そんな痛み程度でわたくしが止まる理由はないのよ」
「……」
ナギは悔しそうに口を噤んでしまいました。
シマキの言い分を理解できてしまうからでしょう。ナギも、己の痛みも苦しみも全て置き去りにして、目的のために邁進したことがあるからです。
そんな彼女にシマキは優しく微笑んで言います。
「大丈夫よ。わたくしはコチ・リヒトヴェーク、あなたの姉ではないわ」
「っ!!」
ナギが大きく息を飲みました。それが事実だったからです。
ナギはずっとこの一年間、シマキを姉と重ね、何かと理由をつけては彼女のあとをつけて彼女がピンチに陥ったら助けるようなことをしていました。
私たちはナギの心の傷が少しでも癒えるならと、それに協力していました。
「名前を聞いて思い出したわ。大天才魔法使いの侯爵令嬢。わたくしも何度か話したことがあるわ。あの天才性と人柄は強烈だった。そんな彼女に顔が似ているとは言われたのも、そんな彼女が亡くなった衝撃も今でも覚えているわ。妹がいたのは初めて知ったけれど、たぶんメイドの子なのでしょうね」
遠いことを思い出すように語るシマキ。
「けど、わたくしは他人よ。その心配は嬉しいけれど、わたくしに向けられるべきものではない。無用なの。安心しなさい」
シマキが立ち上がり、私たちに背を向けます。
「どこにいくのですか?」
「ダンジョンの奥よ。今回は母親の病気を治すためにダンジョンに潜ってしまったその子の捜索をしたけれど、本来は少しでも早く最下層の核を浄化するのがわたくしの役目。あなたたちにその役目を奪われるわけにもいかないわ」
「核の浄化は人類の役目だと思うが? あと、食料はどうするのだ? 傷は癒せど、空腹は無理だろう。自分の聖気で生き永らえることはできない」
「あ……それは」
セイランに言われてハッと思い出したのか、シマキは口ごもります。
カッコよく去ろうとしていましたけど、短慮でポンコツな部分が出てしまったようですね。
そして何かを思いついたのか、ポンッと手を叩きます。
「そ、それはあれよ。あなたたちみたいにその……生きた魔物を食べれば……いいのよ」
「随分と嫌そうな顔をしているが」
「……聖女の役目を果たすためなら、嫌なことでもする……わ」
どうしてダンジョンの魔物を食べるのがそんなに嫌なことなのか理解に苦しみますが、彼女は少し歯切れが悪そうでした。
ふいにナギが口を開きます。
「シマキ様は誰の言葉なら従うのですの?」
「従う? ……神々か、勇者様だけよ」
「そうですの……」
不審に眉をひそめるシマキの答えを聞いて、ナギは小さく息を吸い込みました。それはまるで覚悟を決めているかのようでした。
ナギが考えていることに想像がつき、私はセイランを見やりました。彼女は首を横に振りました。
そうですね。
私たちは彼女の師匠。守り、導き、約束を果たすために全力をつくすだけ。彼女が覚悟して決めたことを支えるのが私たちの役目です。
そしてナギはシマキに言います。
「なら、わたくしは勇者ですわ」
「………………は? いやいやいや。あなたは勇者では――」
「勇者ですわ! わたくしは近い未来、焔禍竜エルドエルガーが討つ。たった一人で、その首に刃を突き立てるですわ!」
「なっ……」
シマキが大きく目を見開きました。
「そんな無謀なっ。人では災害の竜に敵わないのよ!」
「わたしは敵う! なら、人ではなく、勇者ですわ! そも、災害の化身を討ち取りしは、古来より勇者だけと決まっているですわ。ここにいるセイラン様とグフウ様も、その勇者の一人ですわ!」
「「……え」」
「ですわよね! ね!」
「あ、はい。そうです」
「そ、そうだな。古竜も討ったし、実質勇者だな。うんうん」
ナギに睨まれ、私たちはコクコクと頷いてしまいます。いつの間にこんな威圧を覚えたのでしょう。ちょっと怖いです。
「つまり、わたしたちはシマキ様と協力できる。そして、シマキ様はわたしたちの言葉を聞かなくてはいけないのですわ!」
「なるほど……あなたたちは勇者だったの……」
この子、大丈夫ですか? ちょっと心配になります。変な詐欺にもで引っ掛かりそうで怖いです。
「ん? いや、おかしいわよ。そこのエルドワはともかく、あなたはまだ神々に誓いを立てて加護を授かれる歳じゃないでしょう! 勇者ではないわ!」
「正真正銘十五歳ですわ!」
十四歳になったばかりです。神々に誓いを立ててもいないので、恩寵法を授かっていません。
「そういえば、セイランって恩寵法が使えないんでしたっけ?」
「まぁ、ロクな誓いを立ててないからな。確か自然と享受の女神さまにキノコを沢山食べるとかって誓ったのだ」
「……貴方って人は本当に」
呆れかえります。
「そ、そういうお前はどんな誓いを立てたのだ?」
「貴方よりもマシですよ。師匠の意志をついで魔術を発展させると誓いました」
「……まともだな」
「まともですよ」
私は誰かさんと違って常識人なのです。
「こほん!」
ナギの咳払いが響き、私たちは口を噤みます。
「ともかくですわ! わたしは焔禍竜を討つ! つまり、勇者なのですわ! だいたい、聖典の第三十二章は勇者の子供時代の話ですわよね! つまり、加護を授かっていなくとも、未来で偉業を為すなら勇者ですわ!」
「……それもそうかも。いや……でも、勇者様はその時代で一人のはずのような……いや、二人の記述もあったかしら……」
深く悩むシマキの手を、ナギは勢いよく掴みます。
「ともかく、シマキ様はわたしたちと協力してダンジョンを攻略する。約束してくださいですわ!」
「え、でも……」
「約束ですわ! ほら、ゆびきりげんまん!」
「ゆ、指切りげんまん……」
ナギは強引にシマキと小指をからめ手指切りをしました。
そしてニッコリと目が笑っていない笑みを浮かべて言います。
「まさか、聖女様が約束を反故にすることはないですわよね?」
「え、ええ。もちろんよ」
「じゃあ、最初の協力ですわ。わたしたちと一緒にこの子を地上に送り届けるですわよ。いいですわね?」
「……はい」
シマキはおずおずと頷きました。
「この子を助けたこと、感謝するわ」
お腹いっぱいになって安心したのか、柔らかな寝息を立てている男の子の頭を優しく撫で、シマキは深々と私たちに頭を下げました。
上から目線のそれに、しかし私たちは少し唖然とします。
なにせ彼女はここ一年間、何度、ピンチのところを助けても一度も私たちに礼を言わなかったからです。
それは彼女のプライドの高さ故なのだと思っていたのですが、どうにも僅かな違和感を感じてしまいます。
それを解消したのはナギでした。
「わたしたちはシマキ様も助けたつもりですわ」
「別に助けて欲しいなんて頼んだ覚えはないわよ。聖女のわたくしを助けるなど、あなたには許されていないの」
「っ」
シマキは自分が誰かに助けられることをとても嫌っているのです。
「じゃあ、何ですのっ! シマキ様はご自分を見捨てろと言いたいですのっ!」
「不遜よ。わたくしは聖女なの。人々を守り、助け、悪を祓う。わたくしを助けていいのは、勇者様のみ。聖典にそう記されているわ」
聖人や聖女は神籬の一つ。それは神々を宿せるかどうかだけで、生まれの素質で決まります。
確かに十五歳の時に神々から恩寵法と膨大な聖気を授かりますが、だからといって聖女が人々を守り助け、悪を祓う義務はないのです。
優しき善なる神々が人の行く道を生まれ持ったもののみで限定することはないのです。人を守り、助け、悪を祓うのに資格はいらない。逆も然り。
つまり、その聖典の内容がおかしいということになります。
「あの、聖典の内容について――」
「グフウ。ここは黙っておけ」
「セイラン……」
エルフはなるべく、自然の、神々の道理に従おうとします。それが善であると考えています。
ですから、彼女だって聖典とやらのおかしさに気が付いているはず。なのに、首を横に振り、見守るように視線で言ってきました。
私は見守ることにしました。
シマキはそんな私たちに気にすることなく、続けます。
「そういうことでは、最初に会った時、あなたをメイドの分際と言ったこと、そしてあなた方を従者としてダンジョン攻略に同行させようとしたこと。あれはわたくしが間違っていたわ。深く謝罪するわ」
「なっ」
「言い訳になるけれど、あの時は聖女になったばかりでよく理解していなかったのよ。貴族と同じく、民草の上に立ち守り従えるものだと思っていたわ。身分は絶対だと。そうではなかった。守り助ける者にかける言葉としては大変不味いものだったわ」
再び頭を下げてきました。
シマキは役目に忠実な人なのでしょう。
聖女の役目はこうあるべきだと定めたら、何が何でもそれを曲げない。その役目に強い責任感を持っている。
だから、今まで私たちが助けても一切礼を言わず、役目を邪魔したことに文句を言ってきた。また、どんなに痛手を負おうと、ダンジョン攻略をやめることはなかった。
「ともかく、わたくしを助ける必要はないわ。今後一切手出しは無用よ」
「そ、それは無謀ですわ! 今回だってそうですわ! シマキ様一人ではこのダンジョンの魔物に勝てない! 癒し守る力はあれど、戦う力はないですわ! この一年で十分自覚しているはずですわよね!」
「それがなんだというの。貪りと冒涜の女神が創り出した邪悪なるダンジョンの核。わたくしに戦う力があろうがなかろうが、聖女ならば悪を祓うべきなの。その行動をするべきなの」
強い意志が彼女の声音に宿っていました。
罠にかかったり魔物に食われかけたりして「ひーひー」と悲鳴をあげていた彼女と似ても似つきません。
「それにわたくしは死ななければ致命傷であろうと癒せるわ。手足の一本や二本を犠牲にして殴り続ければ、どんな魔物であろうと倒せるのよ。気にすることはないわ」
「っ! 治るとしてもとても痛いはずですわ!」
「だから? 先ほどもいったけど、そんな痛み程度でわたくしが止まる理由はないのよ」
「……」
ナギは悔しそうに口を噤んでしまいました。
シマキの言い分を理解できてしまうからでしょう。ナギも、己の痛みも苦しみも全て置き去りにして、目的のために邁進したことがあるからです。
そんな彼女にシマキは優しく微笑んで言います。
「大丈夫よ。わたくしはコチ・リヒトヴェーク、あなたの姉ではないわ」
「っ!!」
ナギが大きく息を飲みました。それが事実だったからです。
ナギはずっとこの一年間、シマキを姉と重ね、何かと理由をつけては彼女のあとをつけて彼女がピンチに陥ったら助けるようなことをしていました。
私たちはナギの心の傷が少しでも癒えるならと、それに協力していました。
「名前を聞いて思い出したわ。大天才魔法使いの侯爵令嬢。わたくしも何度か話したことがあるわ。あの天才性と人柄は強烈だった。そんな彼女に顔が似ているとは言われたのも、そんな彼女が亡くなった衝撃も今でも覚えているわ。妹がいたのは初めて知ったけれど、たぶんメイドの子なのでしょうね」
遠いことを思い出すように語るシマキ。
「けど、わたくしは他人よ。その心配は嬉しいけれど、わたくしに向けられるべきものではない。無用なの。安心しなさい」
シマキが立ち上がり、私たちに背を向けます。
「どこにいくのですか?」
「ダンジョンの奥よ。今回は母親の病気を治すためにダンジョンに潜ってしまったその子の捜索をしたけれど、本来は少しでも早く最下層の核を浄化するのがわたくしの役目。あなたたちにその役目を奪われるわけにもいかないわ」
「核の浄化は人類の役目だと思うが? あと、食料はどうするのだ? 傷は癒せど、空腹は無理だろう。自分の聖気で生き永らえることはできない」
「あ……それは」
セイランに言われてハッと思い出したのか、シマキは口ごもります。
カッコよく去ろうとしていましたけど、短慮でポンコツな部分が出てしまったようですね。
そして何かを思いついたのか、ポンッと手を叩きます。
「そ、それはあれよ。あなたたちみたいにその……生きた魔物を食べれば……いいのよ」
「随分と嫌そうな顔をしているが」
「……聖女の役目を果たすためなら、嫌なことでもする……わ」
どうしてダンジョンの魔物を食べるのがそんなに嫌なことなのか理解に苦しみますが、彼女は少し歯切れが悪そうでした。
ふいにナギが口を開きます。
「シマキ様は誰の言葉なら従うのですの?」
「従う? ……神々か、勇者様だけよ」
「そうですの……」
不審に眉をひそめるシマキの答えを聞いて、ナギは小さく息を吸い込みました。それはまるで覚悟を決めているかのようでした。
ナギが考えていることに想像がつき、私はセイランを見やりました。彼女は首を横に振りました。
そうですね。
私たちは彼女の師匠。守り、導き、約束を果たすために全力をつくすだけ。彼女が覚悟して決めたことを支えるのが私たちの役目です。
そしてナギはシマキに言います。
「なら、わたくしは勇者ですわ」
「………………は? いやいやいや。あなたは勇者では――」
「勇者ですわ! わたくしは近い未来、焔禍竜エルドエルガーが討つ。たった一人で、その首に刃を突き立てるですわ!」
「なっ……」
シマキが大きく目を見開きました。
「そんな無謀なっ。人では災害の竜に敵わないのよ!」
「わたしは敵う! なら、人ではなく、勇者ですわ! そも、災害の化身を討ち取りしは、古来より勇者だけと決まっているですわ。ここにいるセイラン様とグフウ様も、その勇者の一人ですわ!」
「「……え」」
「ですわよね! ね!」
「あ、はい。そうです」
「そ、そうだな。古竜も討ったし、実質勇者だな。うんうん」
ナギに睨まれ、私たちはコクコクと頷いてしまいます。いつの間にこんな威圧を覚えたのでしょう。ちょっと怖いです。
「つまり、わたしたちはシマキ様と協力できる。そして、シマキ様はわたしたちの言葉を聞かなくてはいけないのですわ!」
「なるほど……あなたたちは勇者だったの……」
この子、大丈夫ですか? ちょっと心配になります。変な詐欺にもで引っ掛かりそうで怖いです。
「ん? いや、おかしいわよ。そこのエルドワはともかく、あなたはまだ神々に誓いを立てて加護を授かれる歳じゃないでしょう! 勇者ではないわ!」
「正真正銘十五歳ですわ!」
十四歳になったばかりです。神々に誓いを立ててもいないので、恩寵法を授かっていません。
「そういえば、セイランって恩寵法が使えないんでしたっけ?」
「まぁ、ロクな誓いを立ててないからな。確か自然と享受の女神さまにキノコを沢山食べるとかって誓ったのだ」
「……貴方って人は本当に」
呆れかえります。
「そ、そういうお前はどんな誓いを立てたのだ?」
「貴方よりもマシですよ。師匠の意志をついで魔術を発展させると誓いました」
「……まともだな」
「まともですよ」
私は誰かさんと違って常識人なのです。
「こほん!」
ナギの咳払いが響き、私たちは口を噤みます。
「ともかくですわ! わたしは焔禍竜を討つ! つまり、勇者なのですわ! だいたい、聖典の第三十二章は勇者の子供時代の話ですわよね! つまり、加護を授かっていなくとも、未来で偉業を為すなら勇者ですわ!」
「……それもそうかも。いや……でも、勇者様はその時代で一人のはずのような……いや、二人の記述もあったかしら……」
深く悩むシマキの手を、ナギは勢いよく掴みます。
「ともかく、シマキ様はわたしたちと協力してダンジョンを攻略する。約束してくださいですわ!」
「え、でも……」
「約束ですわ! ほら、ゆびきりげんまん!」
「ゆ、指切りげんまん……」
ナギは強引にシマキと小指をからめ手指切りをしました。
そしてニッコリと目が笑っていない笑みを浮かべて言います。
「まさか、聖女様が約束を反故にすることはないですわよね?」
「え、ええ。もちろんよ」
「じゃあ、最初の協力ですわ。わたしたちと一緒にこの子を地上に送り届けるですわよ。いいですわね?」
「……はい」
シマキはおずおずと頷きました。
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