50 / 63
ドワーフの魔術師と弟子
第19話 へっぽこシマキとナギの叫び
しおりを挟む
罠を解除したナギはへたりこんでいるシマキに手を差し出します。
「大丈夫ですの?」
「感謝する……っ」
小さく礼を言いながら恐る恐るナギの手を掴もうとしたシマキは、しかし我に戻ったのかキッと両目を吊り上げて。
「余計なことするんじゃないわよ!」
「え」
ナギの手を払いのけました。ふらつきながらもゆっくりと立ち上がり、ナギを睨みつけます。
「わたくし一人でも罠から抜け出せたのよ!」
「っ! ああ、そうですの! なっさけない悲鳴をあげて涙をちょちょぎらせていたのは演技だったのですわね! 大した役者ですわ! 聖女なんてやらずに女優になった方がよろしいんじゃないですの?」
「っ! 言わせておけば――」
「はい、そこまでです」
喧嘩しそうになったので、二人の間に割って入ります。
やはりナギはシマキと相性が悪いようです。普段は煽るような真似などしないのですが。
いーとするナギをセイランに任せ、私はシマキに尋ねます。
「お付きの聖騎士たちはどうしたのですか?」
「……ふん。置いてきたわよ」
「置いてきたって、そんな危険な」
「危険? それがどうかしたのよ。そもそも彼らはお付きでもなんでもないわ。聖女のわたくしには助けもお付きも必要ないのよ。もちろん、あなたたちのもいらないわ」
「あ、ちょっと」
シマキはずんずんと歩き出してしまいました。
「グフウ様。もういいじゃないですの。一人で大丈夫なら大丈夫なのですわ」
「そうはいってもですね……」
私としてはここで彼女を放っておきたくはありません。彼女は戦いの実力は全くないのです。みすみす見殺しにはできません。
ふと、魔力探知に反応がありました。
「セイラン。彼らって」
「聖騎士たちだな」
十九階層に降りてきたのでしょう。
数十秒もすれば、聖騎士たちが慌てた様子でこちらに向かってきていました。
「聖女なら向こうにいきましたよ」
「……そうか」
彼らはシマキが進んでいった方向に走っていきました。
「今回のところは彼らに任せていいでしょう」
「だな」
「……なんか、今後も同じような事が起こる気がするですわ」
ナギのその予感は当たっていました。
「もがもがもが……」
「〝魔の光よ。翔りて穿て――魔弾〟、ですわ!」
巨大なカエルの魔物に頭からゆっくりと飲みこまれていたり。
「ひ、ひぃぃぃっっ!」
「……〝大地の楔よ。彼の者を解き放て――浮遊〟、ですわ」
マグマに満たされた穴に落ちかけていたり。
「もきゅぅ……」
「〝魔の光よ。翔りて穿て――魔弾〟、ですわ」
巨大な浮遊クラゲの魔物に取り込まれていたり。
「食べられない、食べられないわよっ!」
「……グフウ様。魔力を貸してくださいですわ」
「はい」
「……〝絵のまやかしよ。妄執を捨て去れ。解き放て――絵鎖〟、ですわ」
呪いの絵画の中に閉じ込められて悪しき竜に生肉を口に押し込まれていたりと、遭遇するたびにシマキは何らかのピンチに陥っていました。
途中までは聖騎士たちは彼女を追いかけていたようですが、流石に何度も自分たちの傍から離れて勝手に行動する彼女に嫌気がさしたのか、別行動をするようになりました。
それでもめげずにシマキはずっと一人でダンジョンに潜り続けていました。
Φ
その日は最前線の三十八階層まで探索して地上に戻り、冒険者ギルドに併設された酒場で夕食をとっていました。
「どうしてシマキ様は学ばないのですのっ!」
十四歳になったナギはオレンジジュースの入った木ジョッキを机に叩きつけ、大声で叫びました。
どんちゃん騒いでいた他の冒険者たちが、殺気のこもった叫びに一斉に黙り込みます。
それに気が付かず、酔っぱらったかのように顔を赤くしてナギは叫び続けます。
「一年ですわよ! 何度も何度もピンチになってはわたしたちが助けて! なのに懲りずに一人でダンジョン探索とか馬鹿ですのっ!? 馬鹿ですわぁ! バカちくりんのばか山ばか子ですわぁ!」
「せ、セイラン。お酒入ってますか……?」
「いや、ただのオレンジジュースのはずだが……」
「きゅりきゅり……」
クンクンと匂いを嗅ぐセイランとショウリョウ。
「きゅり」
「ああ。わずかだが酒の匂いがするな、これ」
「じゃあ、酔っぱらったんですね」
まったく。忙しくなると冒険者ギルドの酒場は杜撰な仕事をしますね。あとで抗議しないと。
心の中で溜息を吐きながら、ナギにしらふにする魔術をかけようとして、その前に酔っぱらっている二人の冒険者が千鳥足で近づき、ナギの肩に手を置きます。
「だよなぁ、無音の嬢ちゃん! あの聖女は本当に間抜けでな!こないだなんて、紅蓮蟷螂に一人で挑んで食われかけていてな。あの時の悲鳴ったらキャンキャン鳴く子犬みたいに情けなかったぜぇっ!」
「だなだな! っというか、知っているかっ? アイツは聖女になる前は隣国で無能公女なんて呼ばれててな! あまりの無能さに王子と婚約破棄された――」
「貴方たちがシマキ様を馬鹿にするな、ですわ!」
「「ごふっ」」
ナギが冒険者二人をラリアットしました。
「シマキ様を馬鹿にしていいのはわたしだけですわ!」
「いや、ナギも駄目でしょう」
「いや、ナギも駄目だろう」
「きゅり」
思わずツッコんでしまいます。聞こえていないのか、ナギは無視して冒険者二人の胸倉をつかみます。
「だいたい、シマキ様はへっぽこのバカ山ばか子だけど、一人で三十五階層に到達しているのですわよ! 何度やられてもへこたれない凄い人なのですわ! それすらできない貴方たちが馬鹿にできる道理なんてないですわ!」
「そうだそうだ! 聖女様はいい人なんだぞ! 前に『辻ヒール』してもらったんだぞ!」
「アタイなんて呪いを『辻解呪』して貰ったんだぞ! 恩人を馬鹿にするな!」
「俺は焚きだして美味い飯を食わせてもらったぜ! あの人はへっぽこで傲慢なところもあるが、いい人なんだぞ!」
シマキを擁護する声があがります。
「はん! 聖女を傘にきて威張っているだけだろ!」
「あんな才能だけのぽっと出生意気小娘にほだされやがって!」
「軟弱もの! 軟弱もの!」
反対にシマキを馬鹿にする声もあがります。
「やるんですの、こらぁっ!」
「やんのか、ごらぁ!」
対立構造が出来上がり、両者が睨み合います。今にも喧嘩が始まりそうです。もちろん、ナギもやる気満々です。冒険者同士の喧嘩はご法度なのに。
「ナギがあんな乱暴なことを。早く止めないと」
「そう慌てるな。冒険者なんてこんなものだ。この程度の荒事で大したことない。少しくらいいいだろう」
「よくないですよ! まったく、貴方がそうだからナギが真似したんですよ!」
「はぁっ? アタシのせいだっていうのかっ?」
きつく言えばセイランがガンを飛ばしてきます。私も相応するようにガンを飛ばしました。
「きゅりきゅり! きゅうりきゅりきゅり!」
「ご、ごめんなさい」
「す、すまない」
ショウリョウに「お前ら二人のせいだ。今の自分たちを見ろ」叱られました。
「っというか、早く止めないと」
ナギともう一人の冒険者が拳を振り上げていました。他の冒険者たちも拳を握りしめています。
なので。
「〝斉唱〟、〝聖なる光は鎖となりて彼の者を封じ給え――聖鎖〟」
「きゃあっ!」
「う、動けねぇ!」
「なんだこれっ!」
多くの魔術陣を展開して、光の鎖を放ちます。全員を拘束しました。
「〝酒は飲んでも飲まれるな。暴れる者は等しく咎人――酒滅〟、〝冷や水浴びせて心を沈めよ。我を見つめろ――冷心〟」
そして三つと四つの魔術陣を展開して。
「落ち着きましたか?」
「「「「……はい。ごめんなさい」」」」
この場にいる全員の酔いなどを覚まさせました。セイランみたいに魔力抵抗が高くなくて助かりました。
ナギも含めて、全員が正座してシュンと頭をさげています。
あとはナギも含めて全員、喧嘩をしようとした罪を冒険者ギルドの方で罰してもらえればと思った矢先。
「だ、誰か助けてください!」
ヒューマンの女性が冒険者ギルドに飛び込んできました。顔は青く、痩せています。
ここまで全力で走ってきたのか、息は酷く上がっており、膝から崩れ落ちてしまいそうになります。セイランが支えました。
「落ち着け。何があったのだ?」
「そ、その。息子がダンジョンに行ってしまったんです!」
「ダンジョンにだと?」
「た、たぶんですけど……けど、息子がいつの間にかいなくてっ!」
「そうか……」
セイランはゆっくりと立ち上がって大剣に手をかけ。
「一先ず、お前から子供の居場所を聞き出すか」
「えっ。あ、がぁっ!?」
座り込んだ女性の足に向かって大剣を突き刺しました。
女性は驚愕に目を見開き、しかし次の瞬間、全身が黒の靄に覆われて本当の姿を表しました。
とぐろを巻いたおどろおどろしい角を生やした人型の異形です。悪魔です。
冒険者ギルドの空気が一気に張り詰めました。私が光の鎖の魔術を解除すると同時に、全員が武器を手に取って戦闘態勢に入ります。流石はプロの冒険者たちです。
「どうして、わかったっ!」
「お前らは独特なぷんぷん臭がするからな。すぐにわかる。それより何を企んでいる?」
「ぎゃああああっ!!」
冷酷な目をしたセイランは、ぐりぐりと足に突き刺した大剣を動かします。闘気がこもっているため、悪魔は酷く痛がります。
セイランが私を見やりました。
「グフウ。どうせ口は割らない。読心の魔術を頼む」
「分かりまし――」
「グフウ様! それはわたしにやらせてくださいですわ!」
ナギがそう願い出たので、頷きました。いい訓練になるでしょう。
そしてナギは悪魔の頭に手を当て、読心の魔術を行使して悪魔の記憶を読み取り。
「っ! シマキ様っ!」
冒険者ギルドを飛び出していきました。
「けけっ。どうせもう手遅れよ」
「っ! 待ってください、ナギ!」
「お前らはコイツの処理をしておいてくれっ!」
私たちは慌ててナギを追いかけました。
「大丈夫ですの?」
「感謝する……っ」
小さく礼を言いながら恐る恐るナギの手を掴もうとしたシマキは、しかし我に戻ったのかキッと両目を吊り上げて。
「余計なことするんじゃないわよ!」
「え」
ナギの手を払いのけました。ふらつきながらもゆっくりと立ち上がり、ナギを睨みつけます。
「わたくし一人でも罠から抜け出せたのよ!」
「っ! ああ、そうですの! なっさけない悲鳴をあげて涙をちょちょぎらせていたのは演技だったのですわね! 大した役者ですわ! 聖女なんてやらずに女優になった方がよろしいんじゃないですの?」
「っ! 言わせておけば――」
「はい、そこまでです」
喧嘩しそうになったので、二人の間に割って入ります。
やはりナギはシマキと相性が悪いようです。普段は煽るような真似などしないのですが。
いーとするナギをセイランに任せ、私はシマキに尋ねます。
「お付きの聖騎士たちはどうしたのですか?」
「……ふん。置いてきたわよ」
「置いてきたって、そんな危険な」
「危険? それがどうかしたのよ。そもそも彼らはお付きでもなんでもないわ。聖女のわたくしには助けもお付きも必要ないのよ。もちろん、あなたたちのもいらないわ」
「あ、ちょっと」
シマキはずんずんと歩き出してしまいました。
「グフウ様。もういいじゃないですの。一人で大丈夫なら大丈夫なのですわ」
「そうはいってもですね……」
私としてはここで彼女を放っておきたくはありません。彼女は戦いの実力は全くないのです。みすみす見殺しにはできません。
ふと、魔力探知に反応がありました。
「セイラン。彼らって」
「聖騎士たちだな」
十九階層に降りてきたのでしょう。
数十秒もすれば、聖騎士たちが慌てた様子でこちらに向かってきていました。
「聖女なら向こうにいきましたよ」
「……そうか」
彼らはシマキが進んでいった方向に走っていきました。
「今回のところは彼らに任せていいでしょう」
「だな」
「……なんか、今後も同じような事が起こる気がするですわ」
ナギのその予感は当たっていました。
「もがもがもが……」
「〝魔の光よ。翔りて穿て――魔弾〟、ですわ!」
巨大なカエルの魔物に頭からゆっくりと飲みこまれていたり。
「ひ、ひぃぃぃっっ!」
「……〝大地の楔よ。彼の者を解き放て――浮遊〟、ですわ」
マグマに満たされた穴に落ちかけていたり。
「もきゅぅ……」
「〝魔の光よ。翔りて穿て――魔弾〟、ですわ」
巨大な浮遊クラゲの魔物に取り込まれていたり。
「食べられない、食べられないわよっ!」
「……グフウ様。魔力を貸してくださいですわ」
「はい」
「……〝絵のまやかしよ。妄執を捨て去れ。解き放て――絵鎖〟、ですわ」
呪いの絵画の中に閉じ込められて悪しき竜に生肉を口に押し込まれていたりと、遭遇するたびにシマキは何らかのピンチに陥っていました。
途中までは聖騎士たちは彼女を追いかけていたようですが、流石に何度も自分たちの傍から離れて勝手に行動する彼女に嫌気がさしたのか、別行動をするようになりました。
それでもめげずにシマキはずっと一人でダンジョンに潜り続けていました。
Φ
その日は最前線の三十八階層まで探索して地上に戻り、冒険者ギルドに併設された酒場で夕食をとっていました。
「どうしてシマキ様は学ばないのですのっ!」
十四歳になったナギはオレンジジュースの入った木ジョッキを机に叩きつけ、大声で叫びました。
どんちゃん騒いでいた他の冒険者たちが、殺気のこもった叫びに一斉に黙り込みます。
それに気が付かず、酔っぱらったかのように顔を赤くしてナギは叫び続けます。
「一年ですわよ! 何度も何度もピンチになってはわたしたちが助けて! なのに懲りずに一人でダンジョン探索とか馬鹿ですのっ!? 馬鹿ですわぁ! バカちくりんのばか山ばか子ですわぁ!」
「せ、セイラン。お酒入ってますか……?」
「いや、ただのオレンジジュースのはずだが……」
「きゅりきゅり……」
クンクンと匂いを嗅ぐセイランとショウリョウ。
「きゅり」
「ああ。わずかだが酒の匂いがするな、これ」
「じゃあ、酔っぱらったんですね」
まったく。忙しくなると冒険者ギルドの酒場は杜撰な仕事をしますね。あとで抗議しないと。
心の中で溜息を吐きながら、ナギにしらふにする魔術をかけようとして、その前に酔っぱらっている二人の冒険者が千鳥足で近づき、ナギの肩に手を置きます。
「だよなぁ、無音の嬢ちゃん! あの聖女は本当に間抜けでな!こないだなんて、紅蓮蟷螂に一人で挑んで食われかけていてな。あの時の悲鳴ったらキャンキャン鳴く子犬みたいに情けなかったぜぇっ!」
「だなだな! っというか、知っているかっ? アイツは聖女になる前は隣国で無能公女なんて呼ばれててな! あまりの無能さに王子と婚約破棄された――」
「貴方たちがシマキ様を馬鹿にするな、ですわ!」
「「ごふっ」」
ナギが冒険者二人をラリアットしました。
「シマキ様を馬鹿にしていいのはわたしだけですわ!」
「いや、ナギも駄目でしょう」
「いや、ナギも駄目だろう」
「きゅり」
思わずツッコんでしまいます。聞こえていないのか、ナギは無視して冒険者二人の胸倉をつかみます。
「だいたい、シマキ様はへっぽこのバカ山ばか子だけど、一人で三十五階層に到達しているのですわよ! 何度やられてもへこたれない凄い人なのですわ! それすらできない貴方たちが馬鹿にできる道理なんてないですわ!」
「そうだそうだ! 聖女様はいい人なんだぞ! 前に『辻ヒール』してもらったんだぞ!」
「アタイなんて呪いを『辻解呪』して貰ったんだぞ! 恩人を馬鹿にするな!」
「俺は焚きだして美味い飯を食わせてもらったぜ! あの人はへっぽこで傲慢なところもあるが、いい人なんだぞ!」
シマキを擁護する声があがります。
「はん! 聖女を傘にきて威張っているだけだろ!」
「あんな才能だけのぽっと出生意気小娘にほだされやがって!」
「軟弱もの! 軟弱もの!」
反対にシマキを馬鹿にする声もあがります。
「やるんですの、こらぁっ!」
「やんのか、ごらぁ!」
対立構造が出来上がり、両者が睨み合います。今にも喧嘩が始まりそうです。もちろん、ナギもやる気満々です。冒険者同士の喧嘩はご法度なのに。
「ナギがあんな乱暴なことを。早く止めないと」
「そう慌てるな。冒険者なんてこんなものだ。この程度の荒事で大したことない。少しくらいいいだろう」
「よくないですよ! まったく、貴方がそうだからナギが真似したんですよ!」
「はぁっ? アタシのせいだっていうのかっ?」
きつく言えばセイランがガンを飛ばしてきます。私も相応するようにガンを飛ばしました。
「きゅりきゅり! きゅうりきゅりきゅり!」
「ご、ごめんなさい」
「す、すまない」
ショウリョウに「お前ら二人のせいだ。今の自分たちを見ろ」叱られました。
「っというか、早く止めないと」
ナギともう一人の冒険者が拳を振り上げていました。他の冒険者たちも拳を握りしめています。
なので。
「〝斉唱〟、〝聖なる光は鎖となりて彼の者を封じ給え――聖鎖〟」
「きゃあっ!」
「う、動けねぇ!」
「なんだこれっ!」
多くの魔術陣を展開して、光の鎖を放ちます。全員を拘束しました。
「〝酒は飲んでも飲まれるな。暴れる者は等しく咎人――酒滅〟、〝冷や水浴びせて心を沈めよ。我を見つめろ――冷心〟」
そして三つと四つの魔術陣を展開して。
「落ち着きましたか?」
「「「「……はい。ごめんなさい」」」」
この場にいる全員の酔いなどを覚まさせました。セイランみたいに魔力抵抗が高くなくて助かりました。
ナギも含めて、全員が正座してシュンと頭をさげています。
あとはナギも含めて全員、喧嘩をしようとした罪を冒険者ギルドの方で罰してもらえればと思った矢先。
「だ、誰か助けてください!」
ヒューマンの女性が冒険者ギルドに飛び込んできました。顔は青く、痩せています。
ここまで全力で走ってきたのか、息は酷く上がっており、膝から崩れ落ちてしまいそうになります。セイランが支えました。
「落ち着け。何があったのだ?」
「そ、その。息子がダンジョンに行ってしまったんです!」
「ダンジョンにだと?」
「た、たぶんですけど……けど、息子がいつの間にかいなくてっ!」
「そうか……」
セイランはゆっくりと立ち上がって大剣に手をかけ。
「一先ず、お前から子供の居場所を聞き出すか」
「えっ。あ、がぁっ!?」
座り込んだ女性の足に向かって大剣を突き刺しました。
女性は驚愕に目を見開き、しかし次の瞬間、全身が黒の靄に覆われて本当の姿を表しました。
とぐろを巻いたおどろおどろしい角を生やした人型の異形です。悪魔です。
冒険者ギルドの空気が一気に張り詰めました。私が光の鎖の魔術を解除すると同時に、全員が武器を手に取って戦闘態勢に入ります。流石はプロの冒険者たちです。
「どうして、わかったっ!」
「お前らは独特なぷんぷん臭がするからな。すぐにわかる。それより何を企んでいる?」
「ぎゃああああっ!!」
冷酷な目をしたセイランは、ぐりぐりと足に突き刺した大剣を動かします。闘気がこもっているため、悪魔は酷く痛がります。
セイランが私を見やりました。
「グフウ。どうせ口は割らない。読心の魔術を頼む」
「分かりまし――」
「グフウ様! それはわたしにやらせてくださいですわ!」
ナギがそう願い出たので、頷きました。いい訓練になるでしょう。
そしてナギは悪魔の頭に手を当て、読心の魔術を行使して悪魔の記憶を読み取り。
「っ! シマキ様っ!」
冒険者ギルドを飛び出していきました。
「けけっ。どうせもう手遅れよ」
「っ! 待ってください、ナギ!」
「お前らはコイツの処理をしておいてくれっ!」
私たちは慌ててナギを追いかけました。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
遥かなる物語
うなぎ太郎
ファンタジー
スラーレン帝国の首都、エラルトはこの世界最大の都市。この街に貴族の令息や令嬢達が通う学園、スラーレン中央学園があった。
この学園にある一人の男子生徒がいた。彼の名は、シャルル・ベルタン。ノア・ベルタン伯爵の息子だ。
彼と友人達はこの学園で、様々なことを学び、成長していく。
だが彼が帝国の歴史を変える英雄になろうとは、誰も想像もしていなかったのであった…彼は日々動き続ける世界で何を失い、何を手に入れるのか?
ーーーーーーーー
序盤はほのぼのとした学園小説にしようと思います。中盤以降は戦闘や魔法、政争がメインで異世界ファンタジー的要素も強いです。
※作者独自の世界観です。
※甘々ご都合主義では無いですが、一応ハッピーエンドです。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる