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ドワーフの魔術師とエルフ
第16話 都市に入り
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昼過ぎにヘルム都市に入りました。
「では、これで。またいつか会いましょう」
「おい、待て!」
セイランにガッとインターセプトされました。
「そんなにアタシと一緒にいるのが嫌か!?」
「貴方とではなく、エルフと一緒にいるのが嫌です」
「差別だっ!」
青筋を浮かべるセイランにジト目を向けます。
「貴方だってドワーフと一緒にいるのは嫌でしょう?」
「そんなことは……」
首を横に振ろうとしたセイランは、しかし私の視線に耐えられなかったのか。
「………………まぁ」
渋々頷きました。
仕方ありません。
ドワーフを創った鍛治と技巧の神とエルフを創った自然と享受の女神の仲の悪さが反映されているため、私たちは文字通り生まれた頃から仲が悪いのです。
言葉も理解していない生まれたばかりの両者の赤子を合わせれば、必ず喧嘩してしまう話は有名です。魂に刻まれた神々の因子によって喧嘩してしまうのです。
全く。共に善神なのですから、仲良くすればいいのに。子供たちに自分たちの感情を押し付けるなど、はた迷惑すぎます。
「だ、だが、それはドワーフであって、お前を嫌っているわけではない!」
「私だって貴方を嫌っているわけではないですよ? むしろ立派な戦士であると尊敬しています」
「なら、いいではないかっ?」
セイランはどこか必死です。何か理由があるのでしょう。
……セイランには数々の恩がありますしね。
「魔術の研究や情報を集めるためにも、数ヵ月はこの都市にいる予定です。魔法書も山ほどあるでしょうし! ……それまでなら協力しますよ」
その間に私を説得してください、と視線をやります。
「感謝する! アタシの鎧の修復もそれくらいかかるし、十分だ!」
セイランは嬉しそうに頷きました。
私たちは教会で神々に感謝をささげたあと、不動産屋に向かいます。
「宿屋ではないのですか?」
「数ヵ月も都市にいるのだろう? 家を借りた方が早い。都会だからちょうどいいアパートも多いのだ」
「なるほど」
ということで、セイランが事前に調べていた不動産屋に。
「……あの三十年ほどしか契約できませんが、それでもよろしいですか?」
不動産屋に入ると、赤毛のお姉さんが申し訳なさそうに顔を歪めました。
この人は私たちがそんな事で怒ると思っているのでしょうか?
「問題ない。アタシたちは冒険者で冬越しまでの間、家を借りたいだけだ」
ギルドカードを見せます。
「あ、ああ! 申し訳ありません!」
不動産屋の赤毛のお姉さんは私たちの要望を聞いたのち、数枚の紙を取り出しました。紙には、間取りや家賃などが書かれていました。
「お二方の希望に合うアパートとしてはこの三つがお勧めですね。一つずつご案内いたします」
内見しました。二つ目に紹介されたアパートに決めました。私とセイランはアパートのそれぞれ契約した部屋に行きました。
「いい部屋ですね」
寝室とリビング、それに魔法具のキッチンや風呂があり、家具も一通り備え付けられています。内装もよく、とても過ごしやすい間取りになっています。
家賃はそれなりにしましたが、ボルボルゼンの討伐で潤っているので、問題ありませんでした。
窓から茜色に染まった空を見ました。
「夕食はどうしましょうか」
手持ちの食料はほぼ底をついてきます。一人で飯屋でも探しに行きますかね、と思った矢先、ドンドンと玄関の扉が叩かれました。
玄関の扉を開ければ、セイランが立っていました。
「知り合いの冒険者に美味しい店を教えてもらっていたのだ。酒も品数が揃っているらしい。一緒にどうだ?」
「奢りですか?」
「奢りだ」
「今直ぐ行きましょう」
ということで、夕食はセイランのおごりで飯とお酒を沢山いただきました。美味しかったです。大変満足しました。
帰り道、セイランが少し睨んできました。
「……アタシを破産させる気か」
「たくさん貯金があるでしょうに」
「これも説得のため」と溜息を吐いたセイランは、咳ばらいをします。
「こほん。それで明日、鍛冶屋に鎧の修理をしにいくのだが、一緒にどうだ?」
「えぇ……」
ヒューマンたちの鍛冶屋にはあまり行きたくないんですよね。昔の記憶が蘇ります。
とはいえ、セイランがロクでもない鍛冶屋につかまされるのは嫌なので、ドワーフの私が同行するべきでしょう。
それに、セイランの外套を作る際に気が付いたのですが、経年劣化の影響で物差しの精度が落ちたので買い換えたいんですよね。定規や他の計測器なども手に入れたいですし。
鍛冶屋ならもしかしたら取り扱っているかもしれません。
「明日、着ているその鎧を脱いでくるならいいですよ」
「……何故だ?」
「修理に出す鎧を着ていくバカがどこにいますか? 都市の中なのですから、鎧が無くてもいいでしょう」
「……分かった。文句を言うなよ」
文句? まぁいいです。
「では、また明日。おやすみなさい」
「ああ、また明日。十の鐘の時に。それと、頼むぞ」
何を頼まれるのですか、と疑問に思いましたが、それを尋ねる前にセイランは自分の部屋に消えました。
「まぁ、武具の目利きとかについてでしょう」
そう納得し、私も玄関の扉をあけて自分の部屋に入りました。
Φ
翌日。
いつも通り日の出前にランニングや魔力制御、魔術の訓練などを行い、朝食を済ませました。
そして約束した時間に近づいたので、髪やひげを結んで家を出ました。アパートの前でセイランを待ちます。
「……来ない」
三十分経ってもセイランが来ません。魔力探知で探った限り、まだ部屋の一室にいるようです。
「というか、殆ど移動していない? もしかしなくても寝ているのではないですか、これ」
私はアパートに戻り、ドンドン、とセイランの部屋の玄関扉を叩きます。
「……動く気配がない」
ドンドンドン、と玄関の扉を叩きます。動きません。ドンドン! と強めに玄関の扉を叩きました。……動かない。
「セイラン! 時間ですよ!! 出てきなさい!!」
ドンドンドンドンドンドン! と叩きますが、魔力探知で探った限り、ピクリとも動いていません。
「……帰りましょうか」
あっちが言い出したのに約束の時間に来ないどころか、ぐっすり寝ているとか、帰っても文句は言われないでしょう……
「そういえば、文句を言うなとか言ってました」
頼むぞとも言われました。
「……はぁ」
溜息を吐いた私は杖の先端を扉の鍵穴に向けます。
「物理的な鍵ですから……〝閉じる物よ、番の形を示せ。魔の光よ、開けられぬ物が無いと示せ――開錠〟」
魔術で鍵穴の形を調べてそれを元に魔力を実体化させた鍵を作り、開錠しました。
「失礼します」
私はセイランが寝ている寝室に向かいます。一度、寝室の扉の前で立ち、扉を叩きます。
「セイラン! 起きてください! セイラン!」
……起きる気配がありません。ドンドンドン! と何度も扉を叩きますが、起きません。
「……はぁ、仕方ありません」
顔をしかめて扉を開けました。
「酷い寝相ですね……」
薄着のセイランは、上半身を床に、下半身をベッドの上に載せた状態で寝ていました。掛け布団も枕も寝室の隅で追いやられていました。
大きく口をあけてよだれを垂らしたその寝顔にため息を吐いたあと、すぅっと息を吸って。
「セイラン。起きてください!」
叫びます。
「……ぅぅん~あと五時間……」
「おやつの時間になってしまいますよ!」
「きのこたくさん~~しあわせ~~」
むにゃむにゃと幸せそうな笑みを浮かべるセイラン。色々とムカつきます。こうなったら最終手段です。
「〝魔の光よ。翔りて――」
殺気を込めながら、〝魔弾〟を撃とうとすれば。
「ッ!! ハァアア!!」
「うおっ!?」
セイランは飛び起き、闘気を全身に纏いながら殴りかかってきました。
飛び起きるのは予想していましたが、殴りかかってくるとは思いもしませんでした。ギリギリのところで拳を避けます。
「チッ、避けられ……って、グフウではないか。殺気まで飛ばしてきてどうしたのだ。夜這いか?」
「昼ですよ! 貴方が起きないから起こしに来たのです!」
「……ん? ああ、もうこんな時間か。すまん、寝過ごした」
「知ってますよ!」
私の怒鳴りを気にすることなく、セイランはベッドに飛び込みました。
「あと三時間くらい寝る。そのあと起こしてくれ……じゃあ」
「おい、何寝てるんですか、このアホ葉っぱッ!」
叩き起こしました。もうやだこの人。勝手すぎる。
「では、これで。またいつか会いましょう」
「おい、待て!」
セイランにガッとインターセプトされました。
「そんなにアタシと一緒にいるのが嫌か!?」
「貴方とではなく、エルフと一緒にいるのが嫌です」
「差別だっ!」
青筋を浮かべるセイランにジト目を向けます。
「貴方だってドワーフと一緒にいるのは嫌でしょう?」
「そんなことは……」
首を横に振ろうとしたセイランは、しかし私の視線に耐えられなかったのか。
「………………まぁ」
渋々頷きました。
仕方ありません。
ドワーフを創った鍛治と技巧の神とエルフを創った自然と享受の女神の仲の悪さが反映されているため、私たちは文字通り生まれた頃から仲が悪いのです。
言葉も理解していない生まれたばかりの両者の赤子を合わせれば、必ず喧嘩してしまう話は有名です。魂に刻まれた神々の因子によって喧嘩してしまうのです。
全く。共に善神なのですから、仲良くすればいいのに。子供たちに自分たちの感情を押し付けるなど、はた迷惑すぎます。
「だ、だが、それはドワーフであって、お前を嫌っているわけではない!」
「私だって貴方を嫌っているわけではないですよ? むしろ立派な戦士であると尊敬しています」
「なら、いいではないかっ?」
セイランはどこか必死です。何か理由があるのでしょう。
……セイランには数々の恩がありますしね。
「魔術の研究や情報を集めるためにも、数ヵ月はこの都市にいる予定です。魔法書も山ほどあるでしょうし! ……それまでなら協力しますよ」
その間に私を説得してください、と視線をやります。
「感謝する! アタシの鎧の修復もそれくらいかかるし、十分だ!」
セイランは嬉しそうに頷きました。
私たちは教会で神々に感謝をささげたあと、不動産屋に向かいます。
「宿屋ではないのですか?」
「数ヵ月も都市にいるのだろう? 家を借りた方が早い。都会だからちょうどいいアパートも多いのだ」
「なるほど」
ということで、セイランが事前に調べていた不動産屋に。
「……あの三十年ほどしか契約できませんが、それでもよろしいですか?」
不動産屋に入ると、赤毛のお姉さんが申し訳なさそうに顔を歪めました。
この人は私たちがそんな事で怒ると思っているのでしょうか?
「問題ない。アタシたちは冒険者で冬越しまでの間、家を借りたいだけだ」
ギルドカードを見せます。
「あ、ああ! 申し訳ありません!」
不動産屋の赤毛のお姉さんは私たちの要望を聞いたのち、数枚の紙を取り出しました。紙には、間取りや家賃などが書かれていました。
「お二方の希望に合うアパートとしてはこの三つがお勧めですね。一つずつご案内いたします」
内見しました。二つ目に紹介されたアパートに決めました。私とセイランはアパートのそれぞれ契約した部屋に行きました。
「いい部屋ですね」
寝室とリビング、それに魔法具のキッチンや風呂があり、家具も一通り備え付けられています。内装もよく、とても過ごしやすい間取りになっています。
家賃はそれなりにしましたが、ボルボルゼンの討伐で潤っているので、問題ありませんでした。
窓から茜色に染まった空を見ました。
「夕食はどうしましょうか」
手持ちの食料はほぼ底をついてきます。一人で飯屋でも探しに行きますかね、と思った矢先、ドンドンと玄関の扉が叩かれました。
玄関の扉を開ければ、セイランが立っていました。
「知り合いの冒険者に美味しい店を教えてもらっていたのだ。酒も品数が揃っているらしい。一緒にどうだ?」
「奢りですか?」
「奢りだ」
「今直ぐ行きましょう」
ということで、夕食はセイランのおごりで飯とお酒を沢山いただきました。美味しかったです。大変満足しました。
帰り道、セイランが少し睨んできました。
「……アタシを破産させる気か」
「たくさん貯金があるでしょうに」
「これも説得のため」と溜息を吐いたセイランは、咳ばらいをします。
「こほん。それで明日、鍛冶屋に鎧の修理をしにいくのだが、一緒にどうだ?」
「えぇ……」
ヒューマンたちの鍛冶屋にはあまり行きたくないんですよね。昔の記憶が蘇ります。
とはいえ、セイランがロクでもない鍛冶屋につかまされるのは嫌なので、ドワーフの私が同行するべきでしょう。
それに、セイランの外套を作る際に気が付いたのですが、経年劣化の影響で物差しの精度が落ちたので買い換えたいんですよね。定規や他の計測器なども手に入れたいですし。
鍛冶屋ならもしかしたら取り扱っているかもしれません。
「明日、着ているその鎧を脱いでくるならいいですよ」
「……何故だ?」
「修理に出す鎧を着ていくバカがどこにいますか? 都市の中なのですから、鎧が無くてもいいでしょう」
「……分かった。文句を言うなよ」
文句? まぁいいです。
「では、また明日。おやすみなさい」
「ああ、また明日。十の鐘の時に。それと、頼むぞ」
何を頼まれるのですか、と疑問に思いましたが、それを尋ねる前にセイランは自分の部屋に消えました。
「まぁ、武具の目利きとかについてでしょう」
そう納得し、私も玄関の扉をあけて自分の部屋に入りました。
Φ
翌日。
いつも通り日の出前にランニングや魔力制御、魔術の訓練などを行い、朝食を済ませました。
そして約束した時間に近づいたので、髪やひげを結んで家を出ました。アパートの前でセイランを待ちます。
「……来ない」
三十分経ってもセイランが来ません。魔力探知で探った限り、まだ部屋の一室にいるようです。
「というか、殆ど移動していない? もしかしなくても寝ているのではないですか、これ」
私はアパートに戻り、ドンドン、とセイランの部屋の玄関扉を叩きます。
「……動く気配がない」
ドンドンドン、と玄関の扉を叩きます。動きません。ドンドン! と強めに玄関の扉を叩きました。……動かない。
「セイラン! 時間ですよ!! 出てきなさい!!」
ドンドンドンドンドンドン! と叩きますが、魔力探知で探った限り、ピクリとも動いていません。
「……帰りましょうか」
あっちが言い出したのに約束の時間に来ないどころか、ぐっすり寝ているとか、帰っても文句は言われないでしょう……
「そういえば、文句を言うなとか言ってました」
頼むぞとも言われました。
「……はぁ」
溜息を吐いた私は杖の先端を扉の鍵穴に向けます。
「物理的な鍵ですから……〝閉じる物よ、番の形を示せ。魔の光よ、開けられぬ物が無いと示せ――開錠〟」
魔術で鍵穴の形を調べてそれを元に魔力を実体化させた鍵を作り、開錠しました。
「失礼します」
私はセイランが寝ている寝室に向かいます。一度、寝室の扉の前で立ち、扉を叩きます。
「セイラン! 起きてください! セイラン!」
……起きる気配がありません。ドンドンドン! と何度も扉を叩きますが、起きません。
「……はぁ、仕方ありません」
顔をしかめて扉を開けました。
「酷い寝相ですね……」
薄着のセイランは、上半身を床に、下半身をベッドの上に載せた状態で寝ていました。掛け布団も枕も寝室の隅で追いやられていました。
大きく口をあけてよだれを垂らしたその寝顔にため息を吐いたあと、すぅっと息を吸って。
「セイラン。起きてください!」
叫びます。
「……ぅぅん~あと五時間……」
「おやつの時間になってしまいますよ!」
「きのこたくさん~~しあわせ~~」
むにゃむにゃと幸せそうな笑みを浮かべるセイラン。色々とムカつきます。こうなったら最終手段です。
「〝魔の光よ。翔りて――」
殺気を込めながら、〝魔弾〟を撃とうとすれば。
「ッ!! ハァアア!!」
「うおっ!?」
セイランは飛び起き、闘気を全身に纏いながら殴りかかってきました。
飛び起きるのは予想していましたが、殴りかかってくるとは思いもしませんでした。ギリギリのところで拳を避けます。
「チッ、避けられ……って、グフウではないか。殺気まで飛ばしてきてどうしたのだ。夜這いか?」
「昼ですよ! 貴方が起きないから起こしに来たのです!」
「……ん? ああ、もうこんな時間か。すまん、寝過ごした」
「知ってますよ!」
私の怒鳴りを気にすることなく、セイランはベッドに飛び込みました。
「あと三時間くらい寝る。そのあと起こしてくれ……じゃあ」
「おい、何寝てるんですか、このアホ葉っぱッ!」
叩き起こしました。もうやだこの人。勝手すぎる。
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