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ドワーフの魔術師とエルフ
第7話 水路掃除と昼食
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薬屋の裏手には畑が広がっていました。街中だというのに、それなりに広いです。
「薬草を育てているのですか?」
「ああ。師匠……先代が作った畑なんだ」
畑には多種多様な薬草が植えられています。そのため、畑もそれなりの種類があり、水を浅く引いた畑もありました。
その近くの水路を指さします。
「水路の掃除はあれですか?」
「ああ。収穫はこないだ終わった。畑に繋がる水路に泥がつまっているからどけて欲しい。ただ――」
私は水路に近づきました。
「あ、待てっ。下手に近づくと――」
泥が溜まった水路から、大根のように先端が尖った茶色い根っこが私めがけて飛んできました。
魔力探知でいるのが分かっていたので、杖を持っていない方の手で掴み取ります。
「どうかしましたか?」
「つ、掴みやがった……」
ヤクは少し驚いていました。
「というか、この根っこなんですか。根っこ型の魔物?」
ビチビチと手の中で暴れまわる根っこを魔力探知してみれば、体内に特殊な魔力の結晶、魔石があることが分かります。つまり、魔物です。
「泳泥根の一種だ。育てている薬草の根っこなんだよ」
「つまり薬草自体が魔物なのですか?」
「ああ。薬用部位が花でな。以前は花を収穫した際にそのまま倒していたんだが、いつのまにか花を咲かせる時期になると、畑の外に花だけ落として逃げるようになったんだ」
「どうやって種族繁栄しているんですか……」
花がなければ種はできず子孫を残せないでしょうに、と思ったのですが、セイランが補足を入れます。
「子球、つまり百合牡丹と同じだ。植物型の魔物は種子繁栄をあまりしない」
「どこが球根なのですか。大根でしょ」
泳泥根をよくよく見てみると、いくつか抉られた痕がありました。もともとそこにあった何かがもぎ取られたかのような痕です。
畑の方を見やると、僅かながら魔物の反応がありました。土の下を泳いでいるようでした。
ヤクが肩をすくめます。
「子供だ。時期になると勝手に規則的に並んで芽を出すんだ。それまでは適当に泥の中を泳いで畑を耕す。可笑しな話だろ?」
「共生しているといえば聞こえはいいですけど、変に進化してませんか?」
「まぁ冒険者ギルドにも一応調査してもらった。結果、問題なしだ。許可ももらってある」
セイランを見やります。「結界も張ってある」と言って彼女も問題ないと頷きました。
なるほど。薬屋周辺に張ってある強力な結界は魔物が暴走した時のためですか。
「ともかく近年、子供を産み落とした親が水路に逃げ込み泥を生成してつまらせるんだ。何故だか知らんがな」
「つまり魔物の駆除と泥の掃除でいいのですね」
「ああ。頼む」
さて、どうしましょうか。普通に魔術を使って泳泥根を排除し、泥を掃除することはできます。
よし、決めました。
杖を地面に刺し、ローブをその上にかけました。袖をまくり、靴を脱ぎます。
「魔術でやらないのか?」
「はい」
この程度であれば魔術を使用する必要もありません。それにこっちの方が楽しそうですし。
私は水路へと近づきます。すれば、十匹の泳泥根が私に向かって飛び出してきました。まるで矢のようです。
顔を両手で隠し、防ぎます。
「あまり痛くないですね」
ドワーフの肉体は頑強です。泳泥根が体にぶつかりますが、大した痛みもありません。
「失礼。〝土は我が想いに応えその意思を示す――土操〟」
魔術陣を四つ浮かべて近くの土を操作し、簡単な檻を作ります。
「あ~ほいっほいっ。よっそれっとほいほいっ!」
そして次々と矢のように飛んでくる泳泥根を掴んでは檻に放り込むを繰り返します。
「セイランも手伝ってください。約束でしょう」
「あ、ああ」
セイランも泳泥根を掴んでは檻に放り込みます。
それなりに知能があるのか、泳泥根は途中で私たちに向かって飛び出すのを止めて水路の奥に隠れるようになりました。
「私から逃げられるとお思いですか!」
水路に足を踏み入れ、泥の中に手を突っ込み隠れている泳泥根を掴み取ります。
泳泥根は慌てて魔法で泥を操り逃げようとしますが、その前に檻に放り投げます。
「えいさっさほいさー! えいさっさほいさー! 鍛えよ鍛えよ! えいさほいさ、トンカンカン!」
泥ですが、土に近いです。そのため穴倉に住むドワーフの性を刺激され、故郷の鍛冶場から聞こえていた歌を歌ってしまうほどに気分が高揚しました。
テンポよく泳泥根を掴んでは檻に放り投げます。
「な、なんなんだよ、あのドワーフ」
「気にするな」
そして五分ほどで全てを捕まえきりました。合計六十匹でした。
「ふぅ。終わりました」
水魔術で手足を洗い、靴を履いてローブを身に纏います。杖を握り、その先端を泥でつまっている水路に向けます。
「泥は水と土の複合で……〝泥は我が想いに応えその意思を示す――泥操〟」
先ほど泳泥根が使っていた魔法を解析し、魔術に落とし込みました。魔術陣を四つ展開し、水路の泥を全て操って球体状にし、宙に浮かべます。
「これはどうすればいいですか?」
「ええっと、そこにおいておいてくれ。良い肥料になるんだ」
指定された場所に泥を置きます。ついでに土魔術でちょっとした壁を作り、泥が広がらないようにしました。
「これで依頼は達成ですか?」
「ああ。ちょっと待ってろ。今報酬を持ってくる」
「あ、その前に一つお願いなのですが――」
私はヤクに頼みごとをしました。
Φ
「な、何してるのよっ!?」
「どちら様ですか?」
赤紫の髪と瞳の可愛らしい女性に首を傾げます。
「いや、それこっちの台詞! 貴方、誰っ? 私の畑で何をしているのよ!?」
「何って、泳泥根をしめています」
土魔術で畑に作った台所で、私は泳泥根の体内にある魔石を、特殊な金属でできた極細の針を刺して貫いていました。
そうすると体内にあった魔石だけが消えて、ビチビチと暴れていた泳泥根の動きが止まりました。死んだのです。
魔物を倒す方法は二種類あります。魔石を破壊するか、普通の生物として殺すか。後者はつまり出血死や窒息死などのことで、普通の動植物を殺す手順となんら変わりはありません。
ともかく、体を傷つけずに魔石だけを破壊すると鮮度や味が良くなるのです。
私は次々と泳泥根をしめ、包丁でかつらむきをしようとして。
「いや、意味わかんないから! 出てって! 不審者は畑から出てって!」
「あ、ちょっと。危ないですよ」
赤紫の髪と瞳の可愛らしい女性に追い出されそうになります。包丁を持っているのに危ないです。
「お、ソヨウ! 城から帰ってたのか!」
「あ、ヤクちゃん!」
セイランに車いすを押されながら、ヤクが報酬の魔法書とお金を持って戻ってきました。
「ヤクちゃん! 不審者のおっさんがいるから、今すぐ衛兵の人を呼んできて!」
「その人、おっさんじゃなくてドワーフのグフウさん。水路掃除の仕事を受けた冒険者だ」
「え」
赤紫の髪と瞳の可愛らしい女性、ソヨウは一瞬呆然した後、私を見ました。また、ヤクの車いすを押していたセイランにも気が付きます。
慌てて頭を下げてきました。
「そ、そのすみませんでした! 私、リーリエ薬屋の店主をしているソヨウです」
「私は魔術師のグフウと申します。それより、これから昼食にするのですが、ご一緒にいかがですか?」
「昼食?」
「はい。泳泥根のフルコースをと思いまして」
奪った命は食らい血肉とせよ。ドワーフの掟です。とはいえ、泳泥根六十匹を食すのは流石に無理なので、残った泳泥根は冒険者ギルドに卸します。
「セイラン。料理を手伝ってください。掃除も殆ど手伝っていませんでしたし」
「え。や、料理は……」
「もしかしてできないのですか?」
「で、できるぞ!」
できませんでした。
「どうしてこんなになるんですかっ?」
「そ、そうは言うがな、刃物は獲物をぶった切るためにあるのだぞ!」
「台所ごとぶった切る人がどこにいますか!」
力加減が下手なのか、泳泥根をまともに切ることすらできません。いえ、正確にはまな板や台所までもを切ってしまうのです。
訳が分かりません。
「ほ、包丁を使わない料理ならできる!」
「なら、泳泥根を焼いていてください」
借りたフライパンと油を渡します。厚切りにした泳泥根をステーキみたいに焼いてもらいましょう。
「ほら! キチンとできているだろう?」
きつね色の焦げ目がついた泳泥根ステーキを見せてきました。かなり美味しそうです。
……たしかに包丁を使わなければ料理はできるようです。
「グフウさん。私も手伝うけど、何すればいい?」
「そうですね。他の野菜やお肉などはありますか?」
「あるよ。家の台所に案内するよ」
ソヨウたちの台所でお肉や野菜などを拝借して、色々と料理をしました。泳泥根を使った料理が十五品完成しました。
「いただきます」
「森羅の恵みに感謝を。我らは自然の一部となりて命を享受する」
「「神々よ。願わくば我らを祝し、また御恵みによりて食す賜物に慈悲と祝福をお与えください」」
土魔術で作った机を囲んで、昼食をとります。途中で、ヤクから魔法書を受け取りました。
「あ、そうだ。これが今回の報酬だ」
「おお、魔法書!!」
お金はセイランに放り投げ、魔法書をペラリペラリとめくります。
「この魔法書はお二人のどちらかが書いたのですか?」
ヤクさんが小さく首を横に振りました。
「……いや。先代……私の師匠でソヨウの爺さんが書いたものだ」
「そのお爺さんはどちらに?」
「一昨年、急逝した。いい歳して花街通いしてたからな。ロクでもない爺だったんだ」
そういいながらも、ヤクは寂しそうに目を細めていました。ソヨウも同様に寂しそうな微笑みを浮かべていました。
「……いただいてもよろしいのですか?」
「すでに薬屋を、薬師としての技術を貰ってる。それにアタシもソヨウも魔法の才能がないし、どんな魔法が書かれているかもわかっていないんだ。だぶん、薬に関する魔法のはずなんだが、あの爺の事だし変な魔法かもしれない」
「つまり、私たちには無用の長物なんです。もらってください」
「……分かりました」
ヤクとソヨウの言葉に私は静かに微笑みました。
それから、ソヨウとドワーフの料理について話していると、突然ヤクが尋ねてきました。
「その突然で悪いんだが、二人は薬を美味しくする薬草を知っているか?」
「薬を美味しくですか?」
「ああ。どんなに苦い薬でも美味しくする薬草があるはずなんだ。エルフやドワーフなら知っているかと思って」
私とセイランは顔を見合わせます。そんなすごい薬草があればドワーフの私はともかく、エルフの彼女が知らないはずはありません。
けれど、セイランは首を横に振りました。
「……そうか。変なことをきいて悪かった。忘れてくれ」
ヤクは少し落ち込んだように目を伏せました。横で話を聞いていたソヨウも少し暗い顔をしていました。
ですので、魔術で咲かせた花をプレゼントしました。
「薬草を育てているのですか?」
「ああ。師匠……先代が作った畑なんだ」
畑には多種多様な薬草が植えられています。そのため、畑もそれなりの種類があり、水を浅く引いた畑もありました。
その近くの水路を指さします。
「水路の掃除はあれですか?」
「ああ。収穫はこないだ終わった。畑に繋がる水路に泥がつまっているからどけて欲しい。ただ――」
私は水路に近づきました。
「あ、待てっ。下手に近づくと――」
泥が溜まった水路から、大根のように先端が尖った茶色い根っこが私めがけて飛んできました。
魔力探知でいるのが分かっていたので、杖を持っていない方の手で掴み取ります。
「どうかしましたか?」
「つ、掴みやがった……」
ヤクは少し驚いていました。
「というか、この根っこなんですか。根っこ型の魔物?」
ビチビチと手の中で暴れまわる根っこを魔力探知してみれば、体内に特殊な魔力の結晶、魔石があることが分かります。つまり、魔物です。
「泳泥根の一種だ。育てている薬草の根っこなんだよ」
「つまり薬草自体が魔物なのですか?」
「ああ。薬用部位が花でな。以前は花を収穫した際にそのまま倒していたんだが、いつのまにか花を咲かせる時期になると、畑の外に花だけ落として逃げるようになったんだ」
「どうやって種族繁栄しているんですか……」
花がなければ種はできず子孫を残せないでしょうに、と思ったのですが、セイランが補足を入れます。
「子球、つまり百合牡丹と同じだ。植物型の魔物は種子繁栄をあまりしない」
「どこが球根なのですか。大根でしょ」
泳泥根をよくよく見てみると、いくつか抉られた痕がありました。もともとそこにあった何かがもぎ取られたかのような痕です。
畑の方を見やると、僅かながら魔物の反応がありました。土の下を泳いでいるようでした。
ヤクが肩をすくめます。
「子供だ。時期になると勝手に規則的に並んで芽を出すんだ。それまでは適当に泥の中を泳いで畑を耕す。可笑しな話だろ?」
「共生しているといえば聞こえはいいですけど、変に進化してませんか?」
「まぁ冒険者ギルドにも一応調査してもらった。結果、問題なしだ。許可ももらってある」
セイランを見やります。「結界も張ってある」と言って彼女も問題ないと頷きました。
なるほど。薬屋周辺に張ってある強力な結界は魔物が暴走した時のためですか。
「ともかく近年、子供を産み落とした親が水路に逃げ込み泥を生成してつまらせるんだ。何故だか知らんがな」
「つまり魔物の駆除と泥の掃除でいいのですね」
「ああ。頼む」
さて、どうしましょうか。普通に魔術を使って泳泥根を排除し、泥を掃除することはできます。
よし、決めました。
杖を地面に刺し、ローブをその上にかけました。袖をまくり、靴を脱ぎます。
「魔術でやらないのか?」
「はい」
この程度であれば魔術を使用する必要もありません。それにこっちの方が楽しそうですし。
私は水路へと近づきます。すれば、十匹の泳泥根が私に向かって飛び出してきました。まるで矢のようです。
顔を両手で隠し、防ぎます。
「あまり痛くないですね」
ドワーフの肉体は頑強です。泳泥根が体にぶつかりますが、大した痛みもありません。
「失礼。〝土は我が想いに応えその意思を示す――土操〟」
魔術陣を四つ浮かべて近くの土を操作し、簡単な檻を作ります。
「あ~ほいっほいっ。よっそれっとほいほいっ!」
そして次々と矢のように飛んでくる泳泥根を掴んでは檻に放り込むを繰り返します。
「セイランも手伝ってください。約束でしょう」
「あ、ああ」
セイランも泳泥根を掴んでは檻に放り込みます。
それなりに知能があるのか、泳泥根は途中で私たちに向かって飛び出すのを止めて水路の奥に隠れるようになりました。
「私から逃げられるとお思いですか!」
水路に足を踏み入れ、泥の中に手を突っ込み隠れている泳泥根を掴み取ります。
泳泥根は慌てて魔法で泥を操り逃げようとしますが、その前に檻に放り投げます。
「えいさっさほいさー! えいさっさほいさー! 鍛えよ鍛えよ! えいさほいさ、トンカンカン!」
泥ですが、土に近いです。そのため穴倉に住むドワーフの性を刺激され、故郷の鍛冶場から聞こえていた歌を歌ってしまうほどに気分が高揚しました。
テンポよく泳泥根を掴んでは檻に放り投げます。
「な、なんなんだよ、あのドワーフ」
「気にするな」
そして五分ほどで全てを捕まえきりました。合計六十匹でした。
「ふぅ。終わりました」
水魔術で手足を洗い、靴を履いてローブを身に纏います。杖を握り、その先端を泥でつまっている水路に向けます。
「泥は水と土の複合で……〝泥は我が想いに応えその意思を示す――泥操〟」
先ほど泳泥根が使っていた魔法を解析し、魔術に落とし込みました。魔術陣を四つ展開し、水路の泥を全て操って球体状にし、宙に浮かべます。
「これはどうすればいいですか?」
「ええっと、そこにおいておいてくれ。良い肥料になるんだ」
指定された場所に泥を置きます。ついでに土魔術でちょっとした壁を作り、泥が広がらないようにしました。
「これで依頼は達成ですか?」
「ああ。ちょっと待ってろ。今報酬を持ってくる」
「あ、その前に一つお願いなのですが――」
私はヤクに頼みごとをしました。
Φ
「な、何してるのよっ!?」
「どちら様ですか?」
赤紫の髪と瞳の可愛らしい女性に首を傾げます。
「いや、それこっちの台詞! 貴方、誰っ? 私の畑で何をしているのよ!?」
「何って、泳泥根をしめています」
土魔術で畑に作った台所で、私は泳泥根の体内にある魔石を、特殊な金属でできた極細の針を刺して貫いていました。
そうすると体内にあった魔石だけが消えて、ビチビチと暴れていた泳泥根の動きが止まりました。死んだのです。
魔物を倒す方法は二種類あります。魔石を破壊するか、普通の生物として殺すか。後者はつまり出血死や窒息死などのことで、普通の動植物を殺す手順となんら変わりはありません。
ともかく、体を傷つけずに魔石だけを破壊すると鮮度や味が良くなるのです。
私は次々と泳泥根をしめ、包丁でかつらむきをしようとして。
「いや、意味わかんないから! 出てって! 不審者は畑から出てって!」
「あ、ちょっと。危ないですよ」
赤紫の髪と瞳の可愛らしい女性に追い出されそうになります。包丁を持っているのに危ないです。
「お、ソヨウ! 城から帰ってたのか!」
「あ、ヤクちゃん!」
セイランに車いすを押されながら、ヤクが報酬の魔法書とお金を持って戻ってきました。
「ヤクちゃん! 不審者のおっさんがいるから、今すぐ衛兵の人を呼んできて!」
「その人、おっさんじゃなくてドワーフのグフウさん。水路掃除の仕事を受けた冒険者だ」
「え」
赤紫の髪と瞳の可愛らしい女性、ソヨウは一瞬呆然した後、私を見ました。また、ヤクの車いすを押していたセイランにも気が付きます。
慌てて頭を下げてきました。
「そ、そのすみませんでした! 私、リーリエ薬屋の店主をしているソヨウです」
「私は魔術師のグフウと申します。それより、これから昼食にするのですが、ご一緒にいかがですか?」
「昼食?」
「はい。泳泥根のフルコースをと思いまして」
奪った命は食らい血肉とせよ。ドワーフの掟です。とはいえ、泳泥根六十匹を食すのは流石に無理なので、残った泳泥根は冒険者ギルドに卸します。
「セイラン。料理を手伝ってください。掃除も殆ど手伝っていませんでしたし」
「え。や、料理は……」
「もしかしてできないのですか?」
「で、できるぞ!」
できませんでした。
「どうしてこんなになるんですかっ?」
「そ、そうは言うがな、刃物は獲物をぶった切るためにあるのだぞ!」
「台所ごとぶった切る人がどこにいますか!」
力加減が下手なのか、泳泥根をまともに切ることすらできません。いえ、正確にはまな板や台所までもを切ってしまうのです。
訳が分かりません。
「ほ、包丁を使わない料理ならできる!」
「なら、泳泥根を焼いていてください」
借りたフライパンと油を渡します。厚切りにした泳泥根をステーキみたいに焼いてもらいましょう。
「ほら! キチンとできているだろう?」
きつね色の焦げ目がついた泳泥根ステーキを見せてきました。かなり美味しそうです。
……たしかに包丁を使わなければ料理はできるようです。
「グフウさん。私も手伝うけど、何すればいい?」
「そうですね。他の野菜やお肉などはありますか?」
「あるよ。家の台所に案内するよ」
ソヨウたちの台所でお肉や野菜などを拝借して、色々と料理をしました。泳泥根を使った料理が十五品完成しました。
「いただきます」
「森羅の恵みに感謝を。我らは自然の一部となりて命を享受する」
「「神々よ。願わくば我らを祝し、また御恵みによりて食す賜物に慈悲と祝福をお与えください」」
土魔術で作った机を囲んで、昼食をとります。途中で、ヤクから魔法書を受け取りました。
「あ、そうだ。これが今回の報酬だ」
「おお、魔法書!!」
お金はセイランに放り投げ、魔法書をペラリペラリとめくります。
「この魔法書はお二人のどちらかが書いたのですか?」
ヤクさんが小さく首を横に振りました。
「……いや。先代……私の師匠でソヨウの爺さんが書いたものだ」
「そのお爺さんはどちらに?」
「一昨年、急逝した。いい歳して花街通いしてたからな。ロクでもない爺だったんだ」
そういいながらも、ヤクは寂しそうに目を細めていました。ソヨウも同様に寂しそうな微笑みを浮かべていました。
「……いただいてもよろしいのですか?」
「すでに薬屋を、薬師としての技術を貰ってる。それにアタシもソヨウも魔法の才能がないし、どんな魔法が書かれているかもわかっていないんだ。だぶん、薬に関する魔法のはずなんだが、あの爺の事だし変な魔法かもしれない」
「つまり、私たちには無用の長物なんです。もらってください」
「……分かりました」
ヤクとソヨウの言葉に私は静かに微笑みました。
それから、ソヨウとドワーフの料理について話していると、突然ヤクが尋ねてきました。
「その突然で悪いんだが、二人は薬を美味しくする薬草を知っているか?」
「薬を美味しくですか?」
「ああ。どんなに苦い薬でも美味しくする薬草があるはずなんだ。エルフやドワーフなら知っているかと思って」
私とセイランは顔を見合わせます。そんなすごい薬草があればドワーフの私はともかく、エルフの彼女が知らないはずはありません。
けれど、セイランは首を横に振りました。
「……そうか。変なことをきいて悪かった。忘れてくれ」
ヤクは少し落ち込んだように目を伏せました。横で話を聞いていたソヨウも少し暗い顔をしていました。
ですので、魔術で咲かせた花をプレゼントしました。
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