1 / 99
ドワーフの魔術師とエルフ
第1話 旅立ち
しおりを挟む
精悍なドワーフがいました。
そう、私です。
「〝我が月と花をその水面に映し給え――水鏡〟」
円形の幾何学模様、魔術陣を三つ浮かべて詠唱し、自分の前に水で作った姿見を作り出します。
自分の姿をマジマジと見ました。
「……威厳があるでしょうか?」
一五〇センチメートルの背丈はドワーフの中ではかなり長身な方ですが、他の種族からしてみれば短身でしかありません。
舐められないか心配です。
「でもガタイは良いですし、ヒューマンたちの社会はドワーフと同様にひげが威厳の象徴だったはずです」
ドワーフは生まれつきガタイがよく、そのうえで小さい頃から欠かさずトレーニングをしていたので、筋肉もあります。師匠いわく『お相撲さんっぽいガチムチ』だそうです。
それに、自慢のたっぷりと貯えられたひげがあります。毎日欠かさず手入れしているので、絹糸のようなエルフの御髪と引けを取らないほど艶やかです。
舐められる心配はない……はず?
「まだ少し威厳が足りないような……そういえば眼鏡は威厳の象徴のはず。前に読んだ小説の丸眼鏡のおじいさんがカッコよかったので間違いないでしょう」
トランクから丸眼鏡を取り出し、かけます。眼鏡の奥底で深緑の瞳が光ります。
「う~ん。丸眼鏡よりも師匠がよくかけていた片眼鏡の方がいいでしょうか?」
トランクから片眼鏡を取り出し、かけます。
「どちらも捨てがたいですね……」
両方とも威厳がありそうです。
「よし、決めました。丸眼鏡にしましょう。片眼鏡は少しかけにくいですし、師匠の真似ばかりしても駄目でしょう」
片眼鏡をトランクにしまいます。
すこしゴワゴワとした黒の髪を整え、ドワーフ特有の耳を覆う黒の金属、黒魔鉄を布で磨き上げます。
そして灰色のローブを羽織り、幾何学模様が彫られたエメラルドが先端で浮かぶ杖を持ちます。
「うん。立派な魔術師に見えるでしょう……」
姿見の前でジッと自分の姿を見やります。
「でも、見た目が立派でも口調が……私よりもオレの方がいいかもしれません。言葉遣いも変えて……」
コホンと咳払いします。
「オレはグフウ。大魔術師ヨシノの弟子だ」
…………むぅ。
「あまり慣れませんね」
小さい頃からずっとこの口調だったため、今更変えるのはむつかしいものです。
威厳を出すために四苦八苦していますと、突然目の前に魔術陣が八つ浮かび上がりました。
「はて? なんでしょうか?」
私が魔術を行使したわけではありません。首を傾げていると、魔術陣から一枚の手紙が落ちてきました。
手紙を受け取ります。私宛でした。読みます。
『グフウよ。威厳を出そうと悪あがきをしているのだろうが、お前には無理だ。似合ってない。口調はそのままの方がよいし、眼鏡はやめろ。ダサい』
師匠からでした。
私が威厳を出そうと姿見の前で四苦八苦するのを見越して、事前に魔術を仕込んでいたのでしょう。
流石、師匠です。その天眼通のごとき怜悧さに憧れます。
『お前はお前のままでいい。時間が経てばいずれ威厳はでる。そういうものだ』
「今、威厳が欲しいのですがね。師匠の弟子としてふさわしい威厳が」
苦笑いしました。
手紙の最後はこう締めくくられていました。
『グフウよ。世界を旅しろ。沢山の魔法に出会い、魔術を愛せ』
師匠らしい締めくくりでした。別れの言葉一つありません。けれど、それだけで十分なのです。
ふっと頬を緩め、眼鏡外したところで、もう一枚手紙が落ちてきました。これも師匠からのようです。
『PS 気が向いたらでいいのだが、私の故郷の山に咲く花を植えてくれると嬉しい』
「……PSってなんですか。というか、師匠の故郷を知らないのですが」
あまり過去話をしてくれなかったので、知らないのです。面倒そうな頼みです。
「……当分は師匠の故郷を探る旅になりそうですね」
二通の手紙と共にトランクにしまいました。
「さて」
トランクを手に石を削りだして作った小さな家を出ました。家は山の中にあり、周囲には高い木々が並んでいます。
振り返って数秒間、師匠と共に過ごした家を見つめました。静かに目を伏せ、杖を掲げます。魔力を練り上げ、周囲に七つの魔術陣を浮かべました。
「〝優しき緑の腕よ。安らぎの地を守り給え――墓樹〟」
そう呟けば、周囲の木々が家を覆うように伸び、枝や幹が絡み合います。そしていくつもの木々が連なってできた巨大な大樹によって、家はその姿を消しました。
大樹に向かって膝をつきます。
「我らが祖たる鍛治と技巧の神、我が祀りたる終りと流転の女神。その猛き焔と優しき灯火にて師を導き、太陽と星が輝きを失うその日まで静かなる安寧を」
これから何度もするであろう、たった一つの祈りを捧げ。
「行ってきます、師匠」
私はグフウ。
大魔術師ヨシノの弟子にして、ドワーフの魔術師、グフウ。
今日、師匠と共に過ごした家から旅立ちます。
Φ
晩年の師匠が人嫌いだったのもあり、私がいた家はヒメル大陸を縦断するシュトローム山脈にありました。
シュトローム山脈はヒメル大陸でも有数の高山が幾重にも連なってできた山脈であり、ドワーフの健脚でも簡単に降りることができません。
それでも山脈の比較的浅い部分に家は建っていたので、一週間くらいで降りられるかと思ったのですが。
「どこですか、ここ。平原があるはずなのですが……」
地図通り進んだのにも関わらず迷いました。
しかも、途中で地殻変動を起こし山を隆起させる力を持つ地竜などと出くわしてしまい、死闘を繰り広げる羽目になりました。頑張って逃げました。
そして一ヵ月以上山脈を歩き。
「……おお、ようやくですか」
ようやっとシュトローム山脈を抜け平原にたどり着きました。嬉しくて、喜びの舞いを踊ってしまいます。ずんちゃっちゃ、ずんちゃっちゃです。
「広いですね……」
目の前に広がる平原は思った以上に広かったです。
一夜で抜けることはできず、土魔術で作った小屋でひと眠りします。朝起きて、ひげと耳を覆う黒魔鉄の手入れをしたら、出発します。
途中で逆立ちで移動する巨大なサルの魔物の群れや、泥沼が入った器状の岩を背負った八本足の魔物などに襲われましたが、魔術で撃退しました。
両方とも他の魔物と争ったのか、怪我を負っていましたが、それでもかなり強かったです。危険な魔物が多いですね、この平原。
ともかく、撃退した魔物などを避けるために迂回をしながら、地図に書いてある町に向かって歩くこと、二週間近く。
「城壁……ということは、街。つまり人がいるのですね」
ヘトヘトになったところで、遠くに城壁が建っていることが魔力探知で分かりました。一時間以上歩くとようやく城壁の前にたどり着きます。
門を見つけました。街に入ろうとしました。
「おい、そこの老人! 待て」
ヒューマンの衛兵に何故か止められました。
「ろうじ……ん? お前、ドワーフか?」
衛兵は黒魔鉄に覆われた耳を見て、胡乱な目を向けました。
「はい」
私はひげを撫でました。一ヵ月以上のサバイバル生活でもひげの手入れは欠かしていません。この艶やかなひげを見れば、驚くでしょう。
「その杖、魔法使い、だよな。ドワーフの魔法使いとは見たことがないな……」
衛兵は私が杖を持っていることに驚き、ひげには驚きませんでした。それと私は魔法使いではなく魔術師です。
まったく、見る目がありませんね。
「まぁ、いいや。ドワーフ。ギルドカードを出せ」
「ギルドカード……? ああ」
聞き覚えのない言葉に少し首を傾げましたが、思い出しました。
確か、ヒメル大陸のヒューマンの国では、薬草の採取をしたり、魔物を討伐したり、様々な仕事をこなす何でも屋を冒険者として雇っているのでした。
そして彼らはギルドカードという身分証を持っているとか。その身分証はギルドがある国ならどこでも通用するらしく、師匠も旅をするなら冒険者になっておけと言っていました。
「私は冒険者ではありません」
「……セイランさんと同じタイプではないのか。なら、通行料を払え」
「え」
こんな辺鄙なところにある街になのに、通行料が必要なのですか?
「まさか金を持ってないとか言うんじゃないだろうな?」
「そのまさかですよ。三十年もシュトローム山脈で修行をしていたので」
「三十年もっ!? というか、シュトローム山脈でかっ!?」
衛兵は驚きました。門の奥から偉そうな衛兵が出てきました。
「おい、どうした」
「いや、衛兵長。コイツ、ギルドカードもお金ももっていないらしく」
衛兵は偉そうな衛兵、衛兵長にコソコソと耳打ちします。そして衛兵長はジロリと私を見下ろしました。
「書簡や身分を証明できる物は持っているか? ドワーフなら出身の証くらい持っているだろ」
「いえ、私特製の干し肉なら沢山持っていますが。いりますか?」
トランクから干し肉を十個ほど取り出し、衛兵長に渡します。彼は「……いい干し肉だな」と呟きました。
これは入れるのではないでしょうか?
「入れられん」
「え?」
「お前は町に入れられん。冒険者でもない、金もない。おまけに魔法使いのドワーフときた。犯罪者でなくとも、怪しいことこの上ない」
えぇ。干し肉返してください。賄賂のつもりで渡したのですよ。あと、私は魔法使いではなく魔術師です。
「まぁ、この干し肉の事もある。二週間だ。怪しいお前でも街に入れるよう、領主に掛け合い書類を用意してやる」
「二週間ですか」
「お前みたいな怪しいやつが街に入るためには、それくらいの時間が必要なのだ。いやならどっか行け」
二週間程度なら一瞬ですので、問題ありません。
「分かりました。待たせて頂きます」
私は三つの魔術陣を浮かべ、
「〝大地よ。ひと時の褥を与え給え――土居〟」
土魔術で門の近くに小屋を建てました。
「おい、何だこれはっ!?」
衛兵長が目をひん剥きました。
そう、私です。
「〝我が月と花をその水面に映し給え――水鏡〟」
円形の幾何学模様、魔術陣を三つ浮かべて詠唱し、自分の前に水で作った姿見を作り出します。
自分の姿をマジマジと見ました。
「……威厳があるでしょうか?」
一五〇センチメートルの背丈はドワーフの中ではかなり長身な方ですが、他の種族からしてみれば短身でしかありません。
舐められないか心配です。
「でもガタイは良いですし、ヒューマンたちの社会はドワーフと同様にひげが威厳の象徴だったはずです」
ドワーフは生まれつきガタイがよく、そのうえで小さい頃から欠かさずトレーニングをしていたので、筋肉もあります。師匠いわく『お相撲さんっぽいガチムチ』だそうです。
それに、自慢のたっぷりと貯えられたひげがあります。毎日欠かさず手入れしているので、絹糸のようなエルフの御髪と引けを取らないほど艶やかです。
舐められる心配はない……はず?
「まだ少し威厳が足りないような……そういえば眼鏡は威厳の象徴のはず。前に読んだ小説の丸眼鏡のおじいさんがカッコよかったので間違いないでしょう」
トランクから丸眼鏡を取り出し、かけます。眼鏡の奥底で深緑の瞳が光ります。
「う~ん。丸眼鏡よりも師匠がよくかけていた片眼鏡の方がいいでしょうか?」
トランクから片眼鏡を取り出し、かけます。
「どちらも捨てがたいですね……」
両方とも威厳がありそうです。
「よし、決めました。丸眼鏡にしましょう。片眼鏡は少しかけにくいですし、師匠の真似ばかりしても駄目でしょう」
片眼鏡をトランクにしまいます。
すこしゴワゴワとした黒の髪を整え、ドワーフ特有の耳を覆う黒の金属、黒魔鉄を布で磨き上げます。
そして灰色のローブを羽織り、幾何学模様が彫られたエメラルドが先端で浮かぶ杖を持ちます。
「うん。立派な魔術師に見えるでしょう……」
姿見の前でジッと自分の姿を見やります。
「でも、見た目が立派でも口調が……私よりもオレの方がいいかもしれません。言葉遣いも変えて……」
コホンと咳払いします。
「オレはグフウ。大魔術師ヨシノの弟子だ」
…………むぅ。
「あまり慣れませんね」
小さい頃からずっとこの口調だったため、今更変えるのはむつかしいものです。
威厳を出すために四苦八苦していますと、突然目の前に魔術陣が八つ浮かび上がりました。
「はて? なんでしょうか?」
私が魔術を行使したわけではありません。首を傾げていると、魔術陣から一枚の手紙が落ちてきました。
手紙を受け取ります。私宛でした。読みます。
『グフウよ。威厳を出そうと悪あがきをしているのだろうが、お前には無理だ。似合ってない。口調はそのままの方がよいし、眼鏡はやめろ。ダサい』
師匠からでした。
私が威厳を出そうと姿見の前で四苦八苦するのを見越して、事前に魔術を仕込んでいたのでしょう。
流石、師匠です。その天眼通のごとき怜悧さに憧れます。
『お前はお前のままでいい。時間が経てばいずれ威厳はでる。そういうものだ』
「今、威厳が欲しいのですがね。師匠の弟子としてふさわしい威厳が」
苦笑いしました。
手紙の最後はこう締めくくられていました。
『グフウよ。世界を旅しろ。沢山の魔法に出会い、魔術を愛せ』
師匠らしい締めくくりでした。別れの言葉一つありません。けれど、それだけで十分なのです。
ふっと頬を緩め、眼鏡外したところで、もう一枚手紙が落ちてきました。これも師匠からのようです。
『PS 気が向いたらでいいのだが、私の故郷の山に咲く花を植えてくれると嬉しい』
「……PSってなんですか。というか、師匠の故郷を知らないのですが」
あまり過去話をしてくれなかったので、知らないのです。面倒そうな頼みです。
「……当分は師匠の故郷を探る旅になりそうですね」
二通の手紙と共にトランクにしまいました。
「さて」
トランクを手に石を削りだして作った小さな家を出ました。家は山の中にあり、周囲には高い木々が並んでいます。
振り返って数秒間、師匠と共に過ごした家を見つめました。静かに目を伏せ、杖を掲げます。魔力を練り上げ、周囲に七つの魔術陣を浮かべました。
「〝優しき緑の腕よ。安らぎの地を守り給え――墓樹〟」
そう呟けば、周囲の木々が家を覆うように伸び、枝や幹が絡み合います。そしていくつもの木々が連なってできた巨大な大樹によって、家はその姿を消しました。
大樹に向かって膝をつきます。
「我らが祖たる鍛治と技巧の神、我が祀りたる終りと流転の女神。その猛き焔と優しき灯火にて師を導き、太陽と星が輝きを失うその日まで静かなる安寧を」
これから何度もするであろう、たった一つの祈りを捧げ。
「行ってきます、師匠」
私はグフウ。
大魔術師ヨシノの弟子にして、ドワーフの魔術師、グフウ。
今日、師匠と共に過ごした家から旅立ちます。
Φ
晩年の師匠が人嫌いだったのもあり、私がいた家はヒメル大陸を縦断するシュトローム山脈にありました。
シュトローム山脈はヒメル大陸でも有数の高山が幾重にも連なってできた山脈であり、ドワーフの健脚でも簡単に降りることができません。
それでも山脈の比較的浅い部分に家は建っていたので、一週間くらいで降りられるかと思ったのですが。
「どこですか、ここ。平原があるはずなのですが……」
地図通り進んだのにも関わらず迷いました。
しかも、途中で地殻変動を起こし山を隆起させる力を持つ地竜などと出くわしてしまい、死闘を繰り広げる羽目になりました。頑張って逃げました。
そして一ヵ月以上山脈を歩き。
「……おお、ようやくですか」
ようやっとシュトローム山脈を抜け平原にたどり着きました。嬉しくて、喜びの舞いを踊ってしまいます。ずんちゃっちゃ、ずんちゃっちゃです。
「広いですね……」
目の前に広がる平原は思った以上に広かったです。
一夜で抜けることはできず、土魔術で作った小屋でひと眠りします。朝起きて、ひげと耳を覆う黒魔鉄の手入れをしたら、出発します。
途中で逆立ちで移動する巨大なサルの魔物の群れや、泥沼が入った器状の岩を背負った八本足の魔物などに襲われましたが、魔術で撃退しました。
両方とも他の魔物と争ったのか、怪我を負っていましたが、それでもかなり強かったです。危険な魔物が多いですね、この平原。
ともかく、撃退した魔物などを避けるために迂回をしながら、地図に書いてある町に向かって歩くこと、二週間近く。
「城壁……ということは、街。つまり人がいるのですね」
ヘトヘトになったところで、遠くに城壁が建っていることが魔力探知で分かりました。一時間以上歩くとようやく城壁の前にたどり着きます。
門を見つけました。街に入ろうとしました。
「おい、そこの老人! 待て」
ヒューマンの衛兵に何故か止められました。
「ろうじ……ん? お前、ドワーフか?」
衛兵は黒魔鉄に覆われた耳を見て、胡乱な目を向けました。
「はい」
私はひげを撫でました。一ヵ月以上のサバイバル生活でもひげの手入れは欠かしていません。この艶やかなひげを見れば、驚くでしょう。
「その杖、魔法使い、だよな。ドワーフの魔法使いとは見たことがないな……」
衛兵は私が杖を持っていることに驚き、ひげには驚きませんでした。それと私は魔法使いではなく魔術師です。
まったく、見る目がありませんね。
「まぁ、いいや。ドワーフ。ギルドカードを出せ」
「ギルドカード……? ああ」
聞き覚えのない言葉に少し首を傾げましたが、思い出しました。
確か、ヒメル大陸のヒューマンの国では、薬草の採取をしたり、魔物を討伐したり、様々な仕事をこなす何でも屋を冒険者として雇っているのでした。
そして彼らはギルドカードという身分証を持っているとか。その身分証はギルドがある国ならどこでも通用するらしく、師匠も旅をするなら冒険者になっておけと言っていました。
「私は冒険者ではありません」
「……セイランさんと同じタイプではないのか。なら、通行料を払え」
「え」
こんな辺鄙なところにある街になのに、通行料が必要なのですか?
「まさか金を持ってないとか言うんじゃないだろうな?」
「そのまさかですよ。三十年もシュトローム山脈で修行をしていたので」
「三十年もっ!? というか、シュトローム山脈でかっ!?」
衛兵は驚きました。門の奥から偉そうな衛兵が出てきました。
「おい、どうした」
「いや、衛兵長。コイツ、ギルドカードもお金ももっていないらしく」
衛兵は偉そうな衛兵、衛兵長にコソコソと耳打ちします。そして衛兵長はジロリと私を見下ろしました。
「書簡や身分を証明できる物は持っているか? ドワーフなら出身の証くらい持っているだろ」
「いえ、私特製の干し肉なら沢山持っていますが。いりますか?」
トランクから干し肉を十個ほど取り出し、衛兵長に渡します。彼は「……いい干し肉だな」と呟きました。
これは入れるのではないでしょうか?
「入れられん」
「え?」
「お前は町に入れられん。冒険者でもない、金もない。おまけに魔法使いのドワーフときた。犯罪者でなくとも、怪しいことこの上ない」
えぇ。干し肉返してください。賄賂のつもりで渡したのですよ。あと、私は魔法使いではなく魔術師です。
「まぁ、この干し肉の事もある。二週間だ。怪しいお前でも街に入れるよう、領主に掛け合い書類を用意してやる」
「二週間ですか」
「お前みたいな怪しいやつが街に入るためには、それくらいの時間が必要なのだ。いやならどっか行け」
二週間程度なら一瞬ですので、問題ありません。
「分かりました。待たせて頂きます」
私は三つの魔術陣を浮かべ、
「〝大地よ。ひと時の褥を与え給え――土居〟」
土魔術で門の近くに小屋を建てました。
「おい、何だこれはっ!?」
衛兵長が目をひん剥きました。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる