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第5話 エドガー・マキーナルトの銅ランク昇格試験説明
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「銅ランクの昇格試験は、採取系が二十。討伐系が五十。その他の依頼で十。それら全部を達成するか、もしくは個別の指名依頼においての依頼者の評価ポイントが規定値を満たすか。それが条件だったと思うが?」
「石ランクとは思えないほど、よく知っているな?」
「そうか? 情報収集は冒険者として鉄則だろ?」
強面の大男についていくエドガー。その後ろをエドガーを担当した受付嬢が心配そうな表情で歩く。
そうしてしばらく歩くこと数分。
冒険者ギルドの地下にある訓練場に招かれた。
そこには粗末や新品な武具を纏った動きの拙い冒険者たちが訓練をしていた。
強面の大男が軽くエドガーに振り返る。
「俺はオーシュガルト。元銀ランクで、今は新人の教育をしている」
「教育? 躾の間違いじゃないか?」
「確かに、そうかもな」
新人と思われる冒険者たちが子分のように強面の大男、オーシュガルトに頭を下げている様を見て、エドガーが軽く冗談を言う。
オーシュガルトは呵々と笑う。
「俺はエドガー。石ランクで、つい先日王都にやってきた」
「おう、知っているぞ」
オーシュガルトが背負っていた無骨な大剣を抜いた。エドガーに向けて構える。
受付嬢が驚いた表情をする。新人の冒険者たちが「なんだなんだ」と騒ぎ出す。
「オーシュガルトさん! どういうことですか!? 銅ランク昇格試験で使用するのは木剣では!? せめて刃を潰したのでないと! いえ、そもそも昇格試験の条件すらっ!」
「ああ、そういえば、レイニー嬢は去年入ったばかり新人だったな。仕事の覚えが早いから忘れてたわ」
オーシュガルトとは受付嬢、レイニーに言った。
「銅ランクや鉄ランクの昇格試験を受ける条件にはいくつか特例があってな」
「特例ですか?」
「特例だと?」
レイニーだけでなく、エドガーも首をかしげる。
マキーナルト領にあった自由ギルドではそういった話を聞いたことがないからだ。
「そうだ。マキーナルト領……ラート街の冒険者ギルドは金ランクとか、聖金とか、高ランクの冒険者しかいねぇから、昇格試験自体が数年に一度しかないだろ。だから、知らなくて当然だろうな。それにあそこに冒険者ギルド支部長は規則にうるせぇし」
「ッ」
エドガーは息を飲み、背負っていた斧の柄に触れて腰を低くして構える。
そんなエドガーをレイニーは驚いた表情で見やった。
「えっ!? マキーナルト領ですか!?」
「そうだ。昨日、ガビドさんが王都に来たそうだ。その時、エドガーも一緒だった」
「チッ。耳が早いことで」
「お前も言っていただろ。情報収集は冒険者の鉄則だって。だいたい、元金ランク、実力的には神金にも近かったと言われているガビドさんの同行者の情報を得なくて、どうするんだ」
「ごもっともで」
エドガーは肩を竦めた。
新人の冒険者たちがガビドの名前を聞き、物凄く驚く。特に魔法使いと思われる冒険者たちは凄く興奮している。ガビドは王都ではかなり有名な魔法使いの冒険者だからだ。憧れなのだろう。
オーシュガルトは状況を掴めていないレイニーを見やる。
「数年に一度。マキーナルト領から王都に来る子供がいるんだがな。ぶっちゃけ言えば、そいつら全員鉄ランク以上の実力はあるんだ」
「え、どういうことですかっ?」
「あそこは数年に一度、死之行進にさらされる。だから、七歳か、八歳くらいの時には魔物から逃げる術、戦う術、森や草原を歩く術、情報を集める術。あとは、基礎的な植物や魔物、地形の知識を徹底的に叩き込むんだ」
「正確には五歳からだ」
「だ、そうだ」
エドガーの修正を聞いて、オーシュガルトは呆れた表情で肩をすくめた。レイニーは唖然とする。理解が追い付かないといった表情だ。
「しかも、あそこは一番弱い魔物でも鉄ランクほどだ。いくら安全になったとはいえ、どんな子供でもそれくらいの魔物は一人で斃せないといけないんだとよ」
「んなっ!!」
レイニーはあまりに常識とかけ離れたことを聞き、素っ頓狂な声を上げる。
王都に住む大人でも、一匹の鉄ランクの魔物を斃すのに数人がかりで挑まなければならない。しかも、それでも手傷を負うだろう。
そもそも、一般人でもそれなりに武力に優れているエレガント王国でそれなのだ。
他の国の大人は数人がかりでも鉄ランクの魔物を斃すことすら難しい。
なのに、子供が一人で斃す? どこの超人の子供だ?
「だから、特例が必要なんだ。マキーナルト領から来た者は、石ランクだろうと、速攻で昇格試験を受けさせる」
「なるほど、そういうことか」
エドガーは納得したように頷く。心の中で、金稼ぎを急ぐあまり情報収取を怠ったな、と反省する。
「っつうことで、試験を行う。内容は魔法、能力ありで俺と試合をすること。それと筆記試験だな」
「試験官と共に遠征依頼を受けるのもあったと思うが」
「言っただろ、特例だと。せいぜい、頑張れよ」
「分かったぜ」
ニィッと笑い、オーシュガルトもエドガーもそれぞれの武器を構える。
「おい、お前ら!」
「「「「「は、はひぃ!」」」」」
新人の冒険者たちが悲鳴を上げるようにオーシュガルトに敬礼する。
「いい勉強になる。よく、見ておけよ!」
「「「「「了解しましたぁ!!」」」」」
新人の冒険者たちが威勢よく頷いた。それに満足げのオーシュガルトはレイニーを見やる。
「レイニー、審判を頼む」
「え、あ……分かりました」
未だに状況を掴めていないが、しかし仕事。上司の命令には逆らえない。
ということで、レイニーは仕方なさそうに片手を上げる。
「両者、構え」
そしてレイニーは上げていた片手を降ろした。
「始め」
同時に、
「おっ」
「チッ」
エドガーの無骨な斧がいつの間にかオーシュガルトに振り降ろされ、オーシュガルトはそれを大剣で軽々と逸らしたのだ。
だが、それで終わらない。
「〝土貫弾〟」
「魔法名だけかよッ!」
逸らされた勢いのまま滑りながら、エドガーは詠唱。土魔法、〝土貫弾〟で土の弾丸を四つ作り出し、オーシュガルトに向かって放つ。
オーシュガルトは少し目を見開きつつも、危なげなく〝土貫弾〟を回避した。
それと同時にエドガーはオーシュガルトの後ろに回り込み、飛び上がる。斧を振り降ろす。
「ハッ!」
「戦い慣れてやがるなっ!」
回避した直後。呼吸をずらす様にエドガーの背後からの斧の振り降ろしにオーシュガルトは少し驚く。
逸らすことは叶わず、オーシュガルトは片足を軸に後ろに回転し、大剣で振り降ろされた斧を受け止めた。
斧と大剣がぶつかり、たわむ。
そしてオーシュガルトは力いっぱいに大剣を押し出し、空中にいたエドガーは飛ばされる。
「ふぅ」
滑りながらも、危なげなく着地した。
レイニーや新人の冒険者たちがどよめく。
(……流石に本気は出さねぇ方がいいな。マキーナルト領出身ってバレてるんだったら、同年代と同じくらいの実力を出せばいい)
小手調べを終えたエドガーはオーシュガルトと距離を取りながら、方針を考える。
(今の感じだと本気でやり合えば、能力や魔法のごり押しで俺が勝つと思う。だから、魔法は〝身体強化〟と下級の程度。能力は“気配感知”と“魔力感知”以外は使わないで、いいだろう)
エドガーはニィッと笑う。
(経験は向こうが上だ。学ばせてもらうぜ!)
斧を構えたエドガーはオーシュガルトに向かって一直線に飛び出した。
「石ランクとは思えないほど、よく知っているな?」
「そうか? 情報収集は冒険者として鉄則だろ?」
強面の大男についていくエドガー。その後ろをエドガーを担当した受付嬢が心配そうな表情で歩く。
そうしてしばらく歩くこと数分。
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そこには粗末や新品な武具を纏った動きの拙い冒険者たちが訓練をしていた。
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「俺はオーシュガルト。元銀ランクで、今は新人の教育をしている」
「教育? 躾の間違いじゃないか?」
「確かに、そうかもな」
新人と思われる冒険者たちが子分のように強面の大男、オーシュガルトに頭を下げている様を見て、エドガーが軽く冗談を言う。
オーシュガルトは呵々と笑う。
「俺はエドガー。石ランクで、つい先日王都にやってきた」
「おう、知っているぞ」
オーシュガルトが背負っていた無骨な大剣を抜いた。エドガーに向けて構える。
受付嬢が驚いた表情をする。新人の冒険者たちが「なんだなんだ」と騒ぎ出す。
「オーシュガルトさん! どういうことですか!? 銅ランク昇格試験で使用するのは木剣では!? せめて刃を潰したのでないと! いえ、そもそも昇格試験の条件すらっ!」
「ああ、そういえば、レイニー嬢は去年入ったばかり新人だったな。仕事の覚えが早いから忘れてたわ」
オーシュガルトとは受付嬢、レイニーに言った。
「銅ランクや鉄ランクの昇格試験を受ける条件にはいくつか特例があってな」
「特例ですか?」
「特例だと?」
レイニーだけでなく、エドガーも首をかしげる。
マキーナルト領にあった自由ギルドではそういった話を聞いたことがないからだ。
「そうだ。マキーナルト領……ラート街の冒険者ギルドは金ランクとか、聖金とか、高ランクの冒険者しかいねぇから、昇格試験自体が数年に一度しかないだろ。だから、知らなくて当然だろうな。それにあそこに冒険者ギルド支部長は規則にうるせぇし」
「ッ」
エドガーは息を飲み、背負っていた斧の柄に触れて腰を低くして構える。
そんなエドガーをレイニーは驚いた表情で見やった。
「えっ!? マキーナルト領ですか!?」
「そうだ。昨日、ガビドさんが王都に来たそうだ。その時、エドガーも一緒だった」
「チッ。耳が早いことで」
「お前も言っていただろ。情報収集は冒険者の鉄則だって。だいたい、元金ランク、実力的には神金にも近かったと言われているガビドさんの同行者の情報を得なくて、どうするんだ」
「ごもっともで」
エドガーは肩を竦めた。
新人の冒険者たちがガビドの名前を聞き、物凄く驚く。特に魔法使いと思われる冒険者たちは凄く興奮している。ガビドは王都ではかなり有名な魔法使いの冒険者だからだ。憧れなのだろう。
オーシュガルトは状況を掴めていないレイニーを見やる。
「数年に一度。マキーナルト領から王都に来る子供がいるんだがな。ぶっちゃけ言えば、そいつら全員鉄ランク以上の実力はあるんだ」
「え、どういうことですかっ?」
「あそこは数年に一度、死之行進にさらされる。だから、七歳か、八歳くらいの時には魔物から逃げる術、戦う術、森や草原を歩く術、情報を集める術。あとは、基礎的な植物や魔物、地形の知識を徹底的に叩き込むんだ」
「正確には五歳からだ」
「だ、そうだ」
エドガーの修正を聞いて、オーシュガルトは呆れた表情で肩をすくめた。レイニーは唖然とする。理解が追い付かないといった表情だ。
「しかも、あそこは一番弱い魔物でも鉄ランクほどだ。いくら安全になったとはいえ、どんな子供でもそれくらいの魔物は一人で斃せないといけないんだとよ」
「んなっ!!」
レイニーはあまりに常識とかけ離れたことを聞き、素っ頓狂な声を上げる。
王都に住む大人でも、一匹の鉄ランクの魔物を斃すのに数人がかりで挑まなければならない。しかも、それでも手傷を負うだろう。
そもそも、一般人でもそれなりに武力に優れているエレガント王国でそれなのだ。
他の国の大人は数人がかりでも鉄ランクの魔物を斃すことすら難しい。
なのに、子供が一人で斃す? どこの超人の子供だ?
「だから、特例が必要なんだ。マキーナルト領から来た者は、石ランクだろうと、速攻で昇格試験を受けさせる」
「なるほど、そういうことか」
エドガーは納得したように頷く。心の中で、金稼ぎを急ぐあまり情報収取を怠ったな、と反省する。
「っつうことで、試験を行う。内容は魔法、能力ありで俺と試合をすること。それと筆記試験だな」
「試験官と共に遠征依頼を受けるのもあったと思うが」
「言っただろ、特例だと。せいぜい、頑張れよ」
「分かったぜ」
ニィッと笑い、オーシュガルトもエドガーもそれぞれの武器を構える。
「おい、お前ら!」
「「「「「は、はひぃ!」」」」」
新人の冒険者たちが悲鳴を上げるようにオーシュガルトに敬礼する。
「いい勉強になる。よく、見ておけよ!」
「「「「「了解しましたぁ!!」」」」」
新人の冒険者たちが威勢よく頷いた。それに満足げのオーシュガルトはレイニーを見やる。
「レイニー、審判を頼む」
「え、あ……分かりました」
未だに状況を掴めていないが、しかし仕事。上司の命令には逆らえない。
ということで、レイニーは仕方なさそうに片手を上げる。
「両者、構え」
そしてレイニーは上げていた片手を降ろした。
「始め」
同時に、
「おっ」
「チッ」
エドガーの無骨な斧がいつの間にかオーシュガルトに振り降ろされ、オーシュガルトはそれを大剣で軽々と逸らしたのだ。
だが、それで終わらない。
「〝土貫弾〟」
「魔法名だけかよッ!」
逸らされた勢いのまま滑りながら、エドガーは詠唱。土魔法、〝土貫弾〟で土の弾丸を四つ作り出し、オーシュガルトに向かって放つ。
オーシュガルトは少し目を見開きつつも、危なげなく〝土貫弾〟を回避した。
それと同時にエドガーはオーシュガルトの後ろに回り込み、飛び上がる。斧を振り降ろす。
「ハッ!」
「戦い慣れてやがるなっ!」
回避した直後。呼吸をずらす様にエドガーの背後からの斧の振り降ろしにオーシュガルトは少し驚く。
逸らすことは叶わず、オーシュガルトは片足を軸に後ろに回転し、大剣で振り降ろされた斧を受け止めた。
斧と大剣がぶつかり、たわむ。
そしてオーシュガルトは力いっぱいに大剣を押し出し、空中にいたエドガーは飛ばされる。
「ふぅ」
滑りながらも、危なげなく着地した。
レイニーや新人の冒険者たちがどよめく。
(……流石に本気は出さねぇ方がいいな。マキーナルト領出身ってバレてるんだったら、同年代と同じくらいの実力を出せばいい)
小手調べを終えたエドガーはオーシュガルトと距離を取りながら、方針を考える。
(今の感じだと本気でやり合えば、能力や魔法のごり押しで俺が勝つと思う。だから、魔法は〝身体強化〟と下級の程度。能力は“気配感知”と“魔力感知”以外は使わないで、いいだろう)
エドガーはニィッと笑う。
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