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第3話 エドガー・マキーナルトの自慢(本人は否定)

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「流石ですな」

 五匹の紅森こうしんろうを流れるようにたおしたエドガーは、好々爺のごとく感心するガビドを見やる。

「馬車は?」
「心配しなくとも防犯用の結界を張ってあります」
「そうか」

 エドガーは右手に持っていた黒天斧を消す。

「それにしても相変わらず魔装はいいですな。魔法にも魔力実体化による武器創造がありますが、流石に魂と魔力によって発現する能力スキルの魔装には敵いません」
「……そうか」

 少しだけ顔をしかめたエドガーを見て、ガビドはふむ、と顎に手を当てる。どうやら、魔装については突っ込まない方がいいようだ。

 が、一つだけ忠告だけしておこうと考える。

「エドガー坊ちゃん。学園で魔装は使えませんぞ。目立ちたいならいいですが」
「……確かにそうだな。王都に着いたら斧を買っておくか」

 考えていなかったな、と呟いたエドガーはたおした紅森狼に近づく。〝水球〟と詠唱し、水魔法で大きな水の球を作り出して空中に浮かし、絶命している紅森狼を片手で持ち上げる。

 そして〝水球〟に持ち上げた紅森狼を突っ込み、血を抜く。

 ガビドが「私も手伝いましょう」と言って、無詠唱で同じく〝水球〟を四つ、作り出す。物を自由に動かせることができる無属性魔法の〝念動〟で、残り四体の紅森狼の死体を持ち上げ、〝水球〟に突っ込む。

 血抜きをして、エドガーもガビドもそれぞれ腰に差していた短剣を使って紅森狼の皮を剥ぐ。解体をする。

 ガビドがエドガーを見やる。

「王都で買うのでしたら、ちょうど私の知り合いに腕のいい武器職人がいますよ。性格は少々難がありますが、エドガー坊ちゃんなら大丈夫でしょう」
「金はそこまで出せないぞ」
「そこは大丈夫でしょう。そこの紅森狼の素材を冒険者ギルドで売ればいい。っというか、いつも魔物を狩ってるでしょう? そのお金は?」
「あるにはあるが、使う予定があってな」
「かなりの大金でしょう?」

 ガビドの視線を受け、エドガーは少し考えこんだ後、口を開く。

「いやな。父さんたちとの縁欲しさに、昔から婚約話だったりかなりが持ち上がっててな。特に歳が近い令嬢たちにな」
「それは羨ましい。より取り見取りでしょう」
「爺さんの癖に随分と元気じゃねぇか」

 ニヤニヤとするガビドにエドガーが睨む。ガビドは飄々ひょうひょうと笑った。

「それで?」
「今朝の話、聞いていただろ」
「というと、街の幼い娘たちを泣かしまくったという話ですかな? エドガー坊ちゃんはとんだ遊び人ですな。この老骨、慰謝料まみれにならないか、将来が心配です」
「おい」
「……分かってますよ。それと麗しの令嬢たちからモテまくっていたということと何の関係が? ただの自慢にしか聞こえませんが」

 「ケッ。私、金ランク冒険者なのに、モテたことすらなければ、告白しても毎回フラれてもうこの歳ですよ!」、とガビドは小声で叫ぶ。

 エドガーはツッコんだら面倒そうだなと感じ、無視する。

「昨日……というか、今日の夜だな」
「夜更かしした時ですか?」
「そうだ。その時にな、セオに言われたんだ、誠実じゃないってな」

 二体の紅森狼の解体を終えたガビドはなるほど、と頷いた。

「親たちは父さんたちとの繋がり目的だったしても、街の娘たちと同じで令嬢たち自身はそういうではない可能性もあり、社交辞令的に断ったのは悪かったと? そうセオドラー様に言われたのですか?」
「ああ、そうだ。俺としては全員、嫌々親に言われてだと思っているが、セオはそう思ってないようでな。社交辞令的に返されては可哀そうだって、説教してきてな」

 ガビドはエドガーの端正な顔と、逞しい体つきを見やって、呆れた表情をする。

(自己評価が低いのもあるでしょうけど、もともとマキーナルト領は多くの種族がいる分、見た目よりも強さや内面、あとは価値観の合致を高く評価する傾向にありますからな……。しかも、英雄の息子という肩書も、コンプレックスがあるようですし)

 本気で全員が嫌々だと思っているエドガーに、ガビドはそう考える。
 
「まぁ、だから、一応な。いないと思うが、いたら悪いだろう。それとなく誠実な謝罪というか、いや、こっちも向こうも立場があるし、蒸し返すのも無理だか直接謝罪というわけにはいかないが……」
「贈り物ですか?」
「ああ、それだな。基本入学時には上位貴族に対して贈り物するもんなんだが、それに色を加えるって感じだな。大抵伯爵以上だったからな。流石に、学園にいない令嬢に関しては難しいが……」
「だから、お金は手元に残らないと」
「そうだ」

 ガビドは微妙な表情になる。

 エドガーは何とかなるだろうと思っているが、十中八九、それで問題が起こるだろうと思われる。

 っというか、何故セオドラー様はそんなことを助言したのだろうと叫びたくなる。誠実も何も、社交辞令的に返すのが一般的だろう、と。一番、問題が起こらない。

 が、

「まぁ、でしたら私の方で少し口添えをして、斧の件、お安くさせておきますよ」
「いいのか?」
「ええ。エドガー坊ちゃんにはよくお世話になっておりますからね」
「そうか、助かる」

 ガビドは面白い話が聞けそうだと思ったため、確実にやらかすだろうエドガーを止めないでおく。

 それに貴族の子息子女が通う学園とはいえ、あくまで学園。子供たちの社会であり、一種の隔離空間モラトリアムでもある。失敗しても、人生を狂わすものではない。

 まぁ、知り合いが中等学園で教師をやっているので、口添えだけ頼もうと思う。金ランク冒険者の伝手はかなり広いのだ。

 それからエドガーとガビドは残りの紅森狼の解体をし、馬車に戻った。


 Φ


 一週間と少しが経ち、場所は既に王都の目の前だった。

「一般列でいいんですか?」
「ああ。ほら、英雄の息子が王都に入ったってなると、かなりの人が集まるんだ」

 御者の席に座りながら、エドガーは嫌なことを思い出した顔になる。

「前に、公爵家のパーティーの誘いがあって父さんと母さん抜きで王都に来たことがあるんだが、その時は貴族用の列で王都に入ったんだ。んで、囲まれた。昼前に王都に入ったのに、夜になるまで王都の屋敷に入れなくてな」
「なるほど。では、ロイス様たちは入学式には来ないのですか?」
「来るなって言ってある。それこそ、入学式をぶち壊す様が見えているからな」

 それほどまでに王都でのロイス達の人気は高いのだ。

 その人気ぶりに少し嫌気を覚えながら、エドガーはガビドに頭を下げる。

「それよりも一週間少し、御者をありがとうな」
「いえいえ。ちょうど王都に行く用事もあったので。エドガー坊ちゃんが王都に行くという話を聞いて、ロイス様に直談判して仕事を貰ったので、私の方が感謝していますよ。お金も入りますし」
「抜かりねぇな」
「当り前ですよ。老いぼれとはいえ、働けるのであれば働きます。仕事は自分で見つけるものですよ」

 そう言いながら、ガビドは失った右腕を見せる。エドガーは逞しいなと肩を竦めた。

「それで、王都に入ったらどうしますか? 少し早く着いたので入寮まで数日ありますが」
「ちょうどいい宿は知らないか? 口が固くて、詮索が少ねぇところ」
「ありますけど、それなりに値段がしますよ」
「……仕方なねぇ。王都の自由ギルドって冒険者ギルドもあったよな」
「ええ。あ、もしかして、冒険者ギルドカードでも作るのですか?」
「ああ」

 頷いたエドガーは懐から一枚の青白い金属プレートを取り出す。

「自由ギルドでの登録はエドガー・マキーナルトだからな。基本、大元の自由ギルドの登録カードがあれば、冒険者ギルドでも仕事はできるが」
「まぁ、その名前で活動するのは面倒でしょう。ランクだって相当高いでしょう?」
「ああ。銀ランクだ」
「齢十一で銅ランクは、いませんからね。マキーナルト領みたいなところでない限り」
「だろうな」

 そこら辺の常識はキチンとあるんだぞ、とエドガーはガビドを見やる。ガビドは分かってますよ、と好々爺然と笑った。

「おっと、次のようですよ」
「そのようだな」

 そして雑談をしている間に、順番が来て、エドガーたちは王都に入った。


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