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第二部 九章:雨降った
一話 落ちていたのを拾った
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「ふぅ。ようやくだね」
「……ええ、そうですね。ライゼ様が途中で正規ルートをワザと外れなければ数日は早く攻略完了していたのですが」
神殿の様な黒い石材で作られた建物の前に、顔ほどの大きさもある魔石にキラキラと目を輝かせているライゼとそんなライゼに対して呆れた視線を向けたトレーネがいた。
ライゼが興奮する魔石の周囲には黒い煙が立ち昇っていて、ついでに青白い光の球がその周りを回っていた。
「ライゼ様。早く魔石を回収してください」
「……分かったよ。その前に〝視界を写す魔法〟で記念の絵を撮っとかないと」
「……はぁ、早くしてください」
清楚で物静かな雰囲気から想像もしないほど、酷く呆れた、もしくは苛立った様子のトレーネは、しかしそれ以上に魔石の周りを回っている光の球がライゼを急かすようにピカピカと光る。
魔物が突然現れても困るので、安全が確認できるまでライゼたちの後で待機していた俺ですら、その光の球が放つ魔力に込められた苛立ちに気付くのだが、ライゼは全くもって気にしない。
ここ半年間レーラーと会ってもいないのに、何故かレーラーの駄目な部分がとても似てきたライゼに、俺は背負ってるライゼの荷物を置けば少しは自重するかなと思うが、流石に実行はしない。
しかし、〝思念を伝える魔法〟で一応急かしはする。
そして〝魔石を仕舞う魔法〟を組み込んだ魔石専用の魔道具“魔石袋”の中にダンジョンマスターの魔石を無造作に突っ込んだライゼは、何度か警戒の魔法を使った後、点滅が激しくなった光の球へ顔を向ける。
光の球は強い閃光を放った後、ふらふらと神殿へと移動する。
ライゼとトレーネは黙ったままそれについて行く。
俺もできる限りの感知能力を最大にして注意しながら、その後ろをついて行く。カルガモの親子みたいである。
そして光の球が神殿の扉の前に立つと、ダンジョンであるからか魔力すら感じずに大きな扉が自ら徐に開き、俺達を招く。
光の球を筆頭に順番に神殿内へと入っていく。
そこで目にする。
「……綺麗」
「……大金貨六枚……かな?」
大いなる自然に圧倒されたような呟きを漏らしたのはトレーネ。そして目の前の光景をお金に換算したのはライゼ。
回り込めばライゼの感動した表情を見る事はできるが、しかしその呟きはないだろと目の前の光景を見て思ってしまう。
トレーネも実際そう思ったらしい。
少しだけ蔑んだ金の瞳をライゼに向ける。シスターのトレーネが蔑む表情を浮かべるなど滅多な事である。
そしてその滅多な事である理由が目の前の光景だ。
『ラビンテと輪廻の灯……だよな』
「ええ、そうです」
神殿の天井には極彩色の星々の大河が描かれていて、その下に掲げた右手の先に光の球を灯した美しい女性の石像があった。
しかしそれだけでなく、女性の周りには、その女性にへ向かう小さな小舟の石像や小鳥の石像、何よりそれらを彩っている貴金属の装飾品が目を引く。
ラビンテと輪廻の灯は、神話時代に女神の遣いであるラビンテというシスターが、疫病によって無くなった人々の魂を輪廻へと還す話である。
たぶん、このダンジョンは死者の魂が安寧に輪廻に還るために作られたのだろう。
ダンジョンは、地脈に滞った魔力によって作られる異空間ととある魔法が使える魔法使いによって作られる異空間のどちらかである。
そして後者の場合は人為的に作られるのだから意図があり、神話時代の話に則ったダンジョンも多い。
これもその一つである。
「……よし、〝視界を写す魔法〟で絵も撮ったし、回収しようかな」
と、俺とトレーネがそのダンジョンの意図などに想いを馳せている間に、神殿内をうろつき様々な画角で写真を撮ったライゼは、小舟や小鳥、果てにはラビンテの石像が身に付けている装飾品を毟り始めた。
あ、ラビンテの掌に浮いていた光の球がそれを訴えるようにピカピカと激しく点滅する。さっき俺達を導いた光の球である。
そして先程同様ライゼはそれを無視してラビンテが掲げていた右手の小指に嵌っている指輪をとる。
深緑のローブ服にゴーグル、しかもフードを被っているせいか、盗人にしか見えない。慣れた手つきでスルリと指輪を外し、何もしていないのではと思ってしまうほど自然な手つきで腰に吊るした魔法袋に装飾品をしまう。
俺もトレーネも唖然としてしまう。
そしてトレーネが批判する。
「ライゼ様、何をやっておられるのですか!? 盗むなど!」
「え、いや、だってダンジョンの宝ってそのためにあるんだよ」
スルリとラビンテの石像から降りてきたライゼが頬を掻きながら困ったようにいう。トレーネがずんずんと近づく。
ライゼは腰に吊るした魔法袋を慌てて手に持ち、庇うように抱きかかえる。
「それは悪魔のダンジョンだけです! 祈りのダンジョンの物を盗むなど!」
悪魔のダンジョンとは自然発生したダンジョンの事である。魔力溜まりは悪魔が引き起こしているとも言われているからだ。
そして祈りのダンジョンは人口ダンジョンの種類である。
「え、でも、こないだのガンドのダンジョンでは許してたよね?」
「あれは、古新時代にダンジョンそのものも意を作り変えられたためです。あれは残骸だったので許したんです!」
古新時代と古いのか新しいのか分からない時代は、簡単にいえば神話時代の次の時代の事である。神話時代の次の時代を新時代と言い、その中でも特に神話時代に近い方を古と付けるのだ。
そしてガンドという二週間前に攻略した未攻略だったダンジョンは、一度は神話時代に作られたものの、新時代という今より一万年前近くに一度攻略され、内装を大きく変更されていた。
元々のダンジョンはガンドという女神の大剣を讃えたダンジョンだったのだが、作り変えられた後のダンジョンは金銀財宝を守る殺意マシマシの防衛宝物庫となっていた。
作り変えられた後のガンドのダンジョンは未攻略で、ライゼたちが攻略したのである。今回のラビンテのダンジョンも未攻略だったのだが、今、ライゼたちが攻略した。
「ええ。でも、装飾品を取ったところで意は変わらないと思うんだけど……」
ライゼは詰め寄るトレーネに対してゴネる。光の球がトレーネに加勢する。
それから数時間後、ようやく物理も加えた話し合いの末、小金貨二十枚分の装飾品だけ貰うということで話が付いた。
というか、渋々ライゼが装飾品を元の位置に戻していたところ、しびれを切らした光の球がライゼとトレーネを転移関連の魔法でダンジョン外へ放り出したのだ。
冒険者ギルドに報告しにいったら、ライゼは怒られ、トレーネは評価されていた。
それから二日後。
換金や旅の準備をしていたライゼたちに冒険者ギルドから使者が来た。
ラビンテのダンジョンを攻略した報酬の件だろうか?
「……ええ、そうですね。ライゼ様が途中で正規ルートをワザと外れなければ数日は早く攻略完了していたのですが」
神殿の様な黒い石材で作られた建物の前に、顔ほどの大きさもある魔石にキラキラと目を輝かせているライゼとそんなライゼに対して呆れた視線を向けたトレーネがいた。
ライゼが興奮する魔石の周囲には黒い煙が立ち昇っていて、ついでに青白い光の球がその周りを回っていた。
「ライゼ様。早く魔石を回収してください」
「……分かったよ。その前に〝視界を写す魔法〟で記念の絵を撮っとかないと」
「……はぁ、早くしてください」
清楚で物静かな雰囲気から想像もしないほど、酷く呆れた、もしくは苛立った様子のトレーネは、しかしそれ以上に魔石の周りを回っている光の球がライゼを急かすようにピカピカと光る。
魔物が突然現れても困るので、安全が確認できるまでライゼたちの後で待機していた俺ですら、その光の球が放つ魔力に込められた苛立ちに気付くのだが、ライゼは全くもって気にしない。
ここ半年間レーラーと会ってもいないのに、何故かレーラーの駄目な部分がとても似てきたライゼに、俺は背負ってるライゼの荷物を置けば少しは自重するかなと思うが、流石に実行はしない。
しかし、〝思念を伝える魔法〟で一応急かしはする。
そして〝魔石を仕舞う魔法〟を組み込んだ魔石専用の魔道具“魔石袋”の中にダンジョンマスターの魔石を無造作に突っ込んだライゼは、何度か警戒の魔法を使った後、点滅が激しくなった光の球へ顔を向ける。
光の球は強い閃光を放った後、ふらふらと神殿へと移動する。
ライゼとトレーネは黙ったままそれについて行く。
俺もできる限りの感知能力を最大にして注意しながら、その後ろをついて行く。カルガモの親子みたいである。
そして光の球が神殿の扉の前に立つと、ダンジョンであるからか魔力すら感じずに大きな扉が自ら徐に開き、俺達を招く。
光の球を筆頭に順番に神殿内へと入っていく。
そこで目にする。
「……綺麗」
「……大金貨六枚……かな?」
大いなる自然に圧倒されたような呟きを漏らしたのはトレーネ。そして目の前の光景をお金に換算したのはライゼ。
回り込めばライゼの感動した表情を見る事はできるが、しかしその呟きはないだろと目の前の光景を見て思ってしまう。
トレーネも実際そう思ったらしい。
少しだけ蔑んだ金の瞳をライゼに向ける。シスターのトレーネが蔑む表情を浮かべるなど滅多な事である。
そしてその滅多な事である理由が目の前の光景だ。
『ラビンテと輪廻の灯……だよな』
「ええ、そうです」
神殿の天井には極彩色の星々の大河が描かれていて、その下に掲げた右手の先に光の球を灯した美しい女性の石像があった。
しかしそれだけでなく、女性の周りには、その女性にへ向かう小さな小舟の石像や小鳥の石像、何よりそれらを彩っている貴金属の装飾品が目を引く。
ラビンテと輪廻の灯は、神話時代に女神の遣いであるラビンテというシスターが、疫病によって無くなった人々の魂を輪廻へと還す話である。
たぶん、このダンジョンは死者の魂が安寧に輪廻に還るために作られたのだろう。
ダンジョンは、地脈に滞った魔力によって作られる異空間ととある魔法が使える魔法使いによって作られる異空間のどちらかである。
そして後者の場合は人為的に作られるのだから意図があり、神話時代の話に則ったダンジョンも多い。
これもその一つである。
「……よし、〝視界を写す魔法〟で絵も撮ったし、回収しようかな」
と、俺とトレーネがそのダンジョンの意図などに想いを馳せている間に、神殿内をうろつき様々な画角で写真を撮ったライゼは、小舟や小鳥、果てにはラビンテの石像が身に付けている装飾品を毟り始めた。
あ、ラビンテの掌に浮いていた光の球がそれを訴えるようにピカピカと激しく点滅する。さっき俺達を導いた光の球である。
そして先程同様ライゼはそれを無視してラビンテが掲げていた右手の小指に嵌っている指輪をとる。
深緑のローブ服にゴーグル、しかもフードを被っているせいか、盗人にしか見えない。慣れた手つきでスルリと指輪を外し、何もしていないのではと思ってしまうほど自然な手つきで腰に吊るした魔法袋に装飾品をしまう。
俺もトレーネも唖然としてしまう。
そしてトレーネが批判する。
「ライゼ様、何をやっておられるのですか!? 盗むなど!」
「え、いや、だってダンジョンの宝ってそのためにあるんだよ」
スルリとラビンテの石像から降りてきたライゼが頬を掻きながら困ったようにいう。トレーネがずんずんと近づく。
ライゼは腰に吊るした魔法袋を慌てて手に持ち、庇うように抱きかかえる。
「それは悪魔のダンジョンだけです! 祈りのダンジョンの物を盗むなど!」
悪魔のダンジョンとは自然発生したダンジョンの事である。魔力溜まりは悪魔が引き起こしているとも言われているからだ。
そして祈りのダンジョンは人口ダンジョンの種類である。
「え、でも、こないだのガンドのダンジョンでは許してたよね?」
「あれは、古新時代にダンジョンそのものも意を作り変えられたためです。あれは残骸だったので許したんです!」
古新時代と古いのか新しいのか分からない時代は、簡単にいえば神話時代の次の時代の事である。神話時代の次の時代を新時代と言い、その中でも特に神話時代に近い方を古と付けるのだ。
そしてガンドという二週間前に攻略した未攻略だったダンジョンは、一度は神話時代に作られたものの、新時代という今より一万年前近くに一度攻略され、内装を大きく変更されていた。
元々のダンジョンはガンドという女神の大剣を讃えたダンジョンだったのだが、作り変えられた後のダンジョンは金銀財宝を守る殺意マシマシの防衛宝物庫となっていた。
作り変えられた後のガンドのダンジョンは未攻略で、ライゼたちが攻略したのである。今回のラビンテのダンジョンも未攻略だったのだが、今、ライゼたちが攻略した。
「ええ。でも、装飾品を取ったところで意は変わらないと思うんだけど……」
ライゼは詰め寄るトレーネに対してゴネる。光の球がトレーネに加勢する。
それから数時間後、ようやく物理も加えた話し合いの末、小金貨二十枚分の装飾品だけ貰うということで話が付いた。
というか、渋々ライゼが装飾品を元の位置に戻していたところ、しびれを切らした光の球がライゼとトレーネを転移関連の魔法でダンジョン外へ放り出したのだ。
冒険者ギルドに報告しにいったら、ライゼは怒られ、トレーネは評価されていた。
それから二日後。
換金や旅の準備をしていたライゼたちに冒険者ギルドから使者が来た。
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